産経新聞に以下のような記事を書きました。

 

【朝刊 国際】


【緯度経度】ワシントン・古森義久 北の増長招くオバマ外交


 

 米国オバマ大統領シリアに対する二転三転の対応で最も勇気づけられたのは北朝鮮だろう。

 

 そんな認識がワシントンで広まった。北朝鮮はその結果、オバ マ政権の消極性を見越して軍事面での冒険や挑発をさらに強めるというのだ。そうなるとわが日本への脅威も大きくなるだろう。

 

 大手研究機関ヘリテージ財団のアジア専門上級研究員、ブルース・クリングナー氏は「今回のシリアへの米国の対応は、北朝鮮大量破壊兵器開発へのオバマ 政権の言辞がいかに強硬でも実際に軍事力行使を伴うことはないという認識を北側に与えた」とする報告書を9月下旬、発表した。だから「北朝鮮は今後の米国 や韓国との対決ではオバマ政権の消極性を必ず計算に入れる」というのだ。

 

 北朝鮮のそんな反応は実はオバマ政権の高官自身が予告していた。

 

 「北朝鮮シリア軍事攻撃を審議する米国議会の動きをじっとみつめ、議会が曖昧な審判を下すことを切望している」(ジョン・ケリー国務長官)

 

 「北朝鮮は化学兵器の使用を禁じる国際規範が弱くなり、米国が消極的になると、より高圧的な対外姿勢をとるだろう」(チャック・ヘーゲル国防長官)

 

 いずれもオバマ大統領シリアへの武力攻撃を宣言した9月上旬の言明だった。シリアの化学兵器使用に対し制裁を加えねば、北朝鮮のように大量破壊兵器を 開発する他の諸国は軍事力での阻止や報復を恐れなくなる、という主張だった。

 

 オバマ政権は北朝鮮を増長させないためにも、シリアを攻撃すると宣言していた のである。攻撃しなければ、北朝鮮が増長するというのは自然な理屈だろう。

 

 オバマ大統領シリア内戦について、越えてはならない一線の「レッドライン」として化学兵器など大量破壊兵器の使用を断言していた。その禁を犯せば、軍事力での懲罰や制裁を実行するという明言だった。

 

 米政府は8月末、シリアのアサド政権が化学兵器を使用したことに「強い確信がある」とし、少なくとも1429人が死亡したとする報告書を発表した。しかし、いったんは軍事攻撃の構えをみせた後、一歩後退、二歩横ばいと、腰が引けていった。

 

 結局、ロシアを巻き込んでのシリアの化学兵器国際管理というのは、機関銃で大量殺害を犯した犯人から銃だけを奪い、殺害は不問に付すような措置である。 化学兵器の放棄さえも実行される保証はない。しかもこの外交交渉で米国はこれまで「テロ支援国家」とか「無法国家」と断じていたシリアに交渉当事国として のまともな国際認知を与える結果となった。

 

 シリアはそもそも大量破壊兵器の開発や国際テロの支援でも北朝鮮と緊密に協力してきた。北朝鮮の支援で自国内に核兵器製造用とみられる原子炉の建設を始め、2007年9月にはイスラエル空軍の奇襲で破壊された。シリア北朝鮮は化学兵器の開発でも交流がある。

 

 この点、ロシア外交官として北朝鮮駐在の経験のあるゲオルギ・トロラヤ氏が米国の外交雑誌に9月中旬に発表した論文で興味ある指摘を述べていた。

 

 「シリアが化学兵器を外交取引の材料として使い、大きな報償を得られそうな状況をみた北朝鮮は自国の化学兵器を米国との交渉に利用してくる確率が高い」

 

 いずれにせよ、今回のオバマ外交は核開発を含めて北朝鮮をこれまでよりもずっと強気にさせるようなのだ。(ワシントン駐在客員特派員)