アメリカ側は安倍首相のワシントン訪問とアメリカ議会での演説で本当に「戦争への謝罪」や「侵略や植民地支配へのお詫び」を求めているのでしょうか。日本のメディアの報道をみていると、そんな印象が伝わってきます。

 ところが現実はそうでもない。そのへんの実態の一端について書きました。

【朝刊 1面】
【あめりかノート】古森義久 安倍首相、米議会演説への期待

 「安倍晋三首相は米国議会での演説についてとくに米側からの助言は必要としないでしょう。なにを述べるべきか、首相自身に適切に判断する能力が十二分にあるからです」

 ジム・タレント前上院議員は強い口調で答えた。つい4日前、連邦議会の議員会館での会話だった。米中軍事関係についての公聴会で彼は現職の議員とともに 中国の尖閣諸島への攻勢に警告を発し、日米同盟の重要性や安倍政権の防衛重視策への前向きな評価を語った。日本への言及が頻繁だった。


 だから私は会合後の一対一の会話でつい「安倍首相が4月末に議会で演説をするが、なにを語るべきか、助言がありますか」と問うたのだった。


 するとタレント前議員は冒頭の言葉を述べ、少し考えてからまた語った。


 「僭越(せんえつ)ながら期待としては安倍首相には日本が長年、米国と歩調を合わせてアジアや世界の平和と安定に寄与し、今後もそうした道を進むという方針を強く伝えてほしいです」


 タレント氏は上院5年、下院8年、共和党の連邦議員だった。2007年に現役でなくなった後も上下両院軍事委員会での実績を買われて議会の諮問委員格で 活動する。いま両院で圧倒的多数を占める共和党のジョン・マケイン上院議員らとの絆が強い。米国議会を多数派の視点から俯瞰(ふかん)するには適切な人物 なのだ。日米関係にも近からず、遠からず、一定距離をおいての全体図を知る前議員だともいえる。


 そのタレント前議員に安倍首相は米議会での演説で過去にどう触れるべきかと、あえて質問してみた。

 「過去というならば、日本が戦後の早い時期から東西冷戦中も日米同盟を世界でも最も成功を博した2国間同盟にしてきた実績を語るべきでしょう」


 意外だった。彼の「日本の過去」とは第二次大戦ではなく、戦後70年間の前半を指したからだ。会話を続けたが、タレント氏は「首相が中国の軍事脅威に備 えて日本の防衛を強化する意向を表明してくれれば、もっとよいですね」などと述べる一方、日本の過去の戦争には触れないままだった。


 他方、オバマ政権周辺からは安倍首相が「過去」に関して「植民地支配」「侵略」「謝罪」というような言葉を述べるべきだ、との要求の情報が流れてくる。この要求に従うと、首相は戦後70年談話と合わせ3カ月余に2度も対外的な謝罪を繰り返すことになる。


 だが議会の絶対多数派の共和党議員の認識を熟知するタレント氏はまったく異なる期待を示すのだ。もっとも上院共和党ではマケイン議員や若手のマルコ・ル ビオ議員が安倍首相の靖国参拝へのオバマ政権の「失望」表明に対しても同盟国の最高指導者には不適切な叱責だと非難していた。歴史認識への姿勢がオバマ陣 営とは違うのだ。


 最近の米国では日本のこれ以上の謝罪に民主党寄りの日本研究学者の間でも「日本がどれほど謝罪しても中韓両国は絶対に満足せず、日本国内の分裂を深める だけだ」(ダートマス大学のジェニファー・リンド准教授)という反対意見も出てきた。安倍首相にはあくまで米国全体を幅広くみて議会演説の内容を決めてほ しいところである。 (ワシントン駐在客員特派員)