日本は戦後最大の「国難」に直面している

じわじわと日米同盟を突き崩そうとする中国

2016.1.6(水) 古森 義久
中国軍の兵力30万人削減を表明、習国家主席

中国はあの手この手で日米同盟を突き崩そうとしている。天安門広場で抗日戦勝利70周年を祝う式典に備える人民解放軍の兵士たち(2015年9月3日撮影、資料写真)。(c)AFP/JASON LEE〔AFPBB News



 2016年を迎えて日本の国際情勢での立ち位置を点検してみると、「国難」という言葉が浮かんでくる。日本は今、国難に直面するに至ったとどうしても実感してしまうのだ。国家の安全保障は戦後の70年の中で最も危機的な状況にあるといえる。決して誇張ではない。


 私は長年ジャーナリストとして米国の首都ワシントンを拠点に、日本や中国、朝鮮半島という北東アジアの安全保障のうねりを考察してきた。ここ1年ほどは東京で働く時間も増え、北東アジア情勢を米国と日本から立体的に観察する機会も増えた。


 そうした視点で特に日本をめぐる北東アジアの安全保障環境を眺めると、日本の命運を左右するような危機がひたひたと迫る構図が明確となる。

一触即発の危険性を秘める北東アジア情勢

 主権国家にとっての平和や戦争、そして安全保障全般は、その国と外部との関係のあり方で決まる。国内の要因が対外政策を動かすとはいえ、国家の安 全保障は外部との関係および世界情勢に左右されるのだ。この点で、2015年の日本の平和安全法制関連法案審議は異様だった。憲法解釈問題など日本の内側 の課題だけに議論が終始したからだ。


 一方、北東アジア情勢が不安定であり混迷していること、そして一触即発の危険性を秘めていることは明白である。


 北朝鮮は、若くて経験が乏しいカルト的な絶対的独裁者の下で核兵器や各種ミサイルを開発し、好戦的な言動を絶やさない。


 また韓国は中国に奇妙に傾斜し、情緒的な大衆迎合の反日キャンペーンを繰り広げ、日本と共有すべき安全保障の基盤を軽視している。慰安婦問題では日本との合意を成立させて日本叩きを自粛する姿勢を政府レベルで示したが、韓国全体となると年来の反日の態度は変わりない。


 そして中国は大規模な軍拡を加速させ、米国に挑み、日本を叩き、尖閣諸島の主権侵害を続けている。2015年は反日の政治意図をかつてなくあらわにした年だった。


 日本にとって唯一かつ最大の味方は米国である。しかしその米国は国防費を抑制し、中国との間に波風を立てないように努めている。オバマ政権はさらにアジアでの後退をちらつかせ、日本など同盟国への防衛誓約にも疑問符がつく。


 日米同盟の状況は、一見すると好転してきたかにも思える。2015年、安倍晋三首相は訪米して対米関係を重視する姿勢を表明した。また、平和安保 法制関連法の成立による集団的自衛権の一部解禁は、オバマ政権に少なくとも当面は対日同盟の再重視を促す結果となった。オバマ政権も、中国との関係が悪化 したことによって、日米同盟への依存を高めざるをえない状況となっている。


 しかし、力の行使をためらうオバマ政権の本質はなお変わらない。日本側にとっての不確定要因が消えたわけではない。北東アジアの安全保障状況が日本に投げかける重い暗雲が、日米同盟の当面の強化によって晴れてしまうわけではないのだ。

中国公艦が月に平均9回も尖閣周辺の日本領海に侵入

 こうした北東アジアの情勢のなかで、中国は明らかに日本の安全保障に最大の危険を突きつけているといっても過言ではない。過去25年間、中国が一 貫して軍事力を増強してきたことは周知の事実である。とくに米国や日本を明らかな標的とする海軍力、航空戦力、各種ミサイルの大規模な強化がますます顕著 となってきた。


 そうした軍事力を背景とする中国の南シナ海での海洋攻勢は国際的な懸念を生んだ。日本ではあまり正面から論じられないが、東シナ海でも尖閣諸島への軍事がらみの攻勢で日本の主権や施政権を侵害し、ますます優位に立ってきている。


 米国議会政策諮問機関の「米中経済安保調査委員会」はこの状況を問題視し、2015年11月中旬に日本に対して警鐘を鳴らした。同委員会は年次報 告で「中国はこの1年間に尖閣諸島周辺で、静かなうちにも軍事、非軍事両面で日本への態勢をより強化し、優位に立った」という認識を公表したのである。


 同報告では、2015年に中国の武装公艦が毎月平均9回も尖閣周辺の日本領海に侵入した事実や、中国空軍機が尖閣周辺上空で異常接近を繰り返し、自衛隊機が1日平均1回以上のスクランブル(緊急発進)を行っている事実が指摘されていた。

あの手この手で日米同盟の突き崩しを狙う中国

 中国は、目に見えにくい次元でも日米同盟の絆を弱めることに精力を傾けている。


 中国は慰安婦問題などの歴史案件に関して、米国で日本糾弾を続けている。これは米側の日本不信を広げるという点で日米同盟の浸食につながるといってよい。


 また、国連のような国際的舞台で、習近平国家主席が「第2次大戦で米中は日独など『ファシスト』と共同で戦った」などとあえて持ち出すことにも、米国民の対日感情を悪化させて日米同盟を突き崩す狙いが見て取れる。


 中国には、日本側に対米不信を植えつけようとする意図もある。例えば習近平主席が「アジアの安全保障はアジア人だけで」と公式の場で発言したのはその表れであろう。


 さらに低い次元では、日本のニュースメディアによく登場する中国側のコメンテーターたちが「中国、朝鮮半島、日本の各民族は、やはりアジアの兄弟 のようなものです」などと述べ、中国、韓国、日本が連携を強めるべきだと提唱することも、背後に日米を離反させようという意図がちらつく。


 私自身も、中国でアメリカを研究する専門家から「アジアではやはり中国人や日本人など箸(はし)を使って食事をする民族同士が団結すべきです」と 真顔で言われたことがある。冗談のようにも聞こえるその発言の裏には、「箸を使わない米国人と連帯する必要はないだろう」というメッセージが込められてい るのだ。

効果を発揮している「サラミ戦術」

 中国が、米国のネガティブな側面を日本に説き、米国で日本のネガティブな側面を宣伝するのは、明らかに日米離反策だといえよう。


 オバマ政権を見ていると、この戦術は実際に効果を発揮しているようにも思えてならない。中国の艦艇が尖閣周辺の日本領海に好き勝手に侵入し、オバ マ政権が反対する「尖閣問題の非平和的な解決」を図ろうとしているのに対し、当のオバマ政権からは中国非難の声がまったく発せられない。米国には尖閣防衛 の意思があるのかという疑念がどうしても沸き起こってくるからだ。


 米国の専門家たちはこうした中国の策略を「サラミ戦術」と呼ぶ。日米間の同盟関係やそれを支える相互信頼を、サラミを1枚1枚薄く切るように削い でいくという意味である。米国国務省やCIA(中央情報局)で長年、対中国政策を担当したロバート・サター氏(現ジョージワシントン大学教授)らが使い出 した表現だった。


 日本は今や自国の固有の領海に自由に侵入され、最大の頼りである日米同盟もじわじわと削られつつあるのである。こんな状況は、やはり日本にとっての国難と呼ぶしかないだろう。


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