2006年07月

靖国問題で日本経済新聞が報じた、いわゆる富田メモ、この資料の信憑性にはまだまだ疑点が消えませんが、それとは別に「メモ」の報道での言葉に気をつけるべきです。

日本経済新聞は「メモ」の内容を「昭和天皇 A級戦犯合祀に不快感」と評して報じました。他の新聞もテレビもみな「昭和天皇 A級戦犯合祀に不快感」として、後追い報道をしています。

しかし「メモ」には「不快感」という言葉はありません。「A級戦犯合祀に不快感」という言葉もありません。あくまで日本経済新聞の解釈なのです。

だから私は気軽に「富田メモが昭和天皇がA級戦犯合祀に不快感」というような表現は使わないようにしています。

いやはや、びっくり仰天でした。

朝日新聞が7月12日の社説で次のように主張したのです。

 

「日本の安全にとって、最大の頼りはやはり米国の抑止力だろう」

 

いいんですか。朝日新聞さん、そんなことを書いて。

「米国の抑止力」とは「米国の軍事力」のことですよ。現に同じ社説はそのすぐ前の部分で「北朝鮮が最も恐れるのは米国の強大な軍事力だ」と明記しています。そのうえで「日本の安全にとって、最大の頼りはやはり米国の抑止力だろう」とあっさり書いているのです。

「短兵急に反応するな」という見出しの社説で、「先制攻撃論」に反対しているなかで、日本の安全はアメリカの軍事力に頼れ、と主張するのです。

 

朝日新聞は長年、日本の安全は米国の軍事力、抑止力に頼るな、とさんざん主張してきたではないですか。抑止力の基盤となる日米安保、日米同盟への依存を減らせと、くどいほど説いてきたではないですか。

 

「日本は外交努力の比重を冷戦型の二国間(日米)軍事同盟から、地域の国々自身の手による安全保障の確保へ、と移さなければならない」(1995年5月9日社説提言)

「日米の軍事同盟の性格をできるだけ抑制し、政治同盟としての性格を一層。強める」(同)

 

上記の実例は「米国の軍事力に頼るな」というキャンペーンのほんの一端です。

朝日新聞は冷戦時代はアメリカの対ソ連抑止政策に「危険な軍拡競争を招く」として反対し、ソ連の核ミサイルSS20を抑止するための米側の中距離ミサイル欧州配備にも猛反対でした。アメリカが日米共同の抑止力を高めるためにF16戦闘機を三沢基地に配備しようとしたときも、朝日新聞は反対しました。

最近でも日米共同のミサイル防衛や自衛隊のインド洋、イラク派遣、有事立法など日米同盟を強め、日本の安全につながるアメリカの抑止力を高める措置には朝日新聞はすべて反対してきました。

 

「日本の安全は軍事よりは憲法第9条の精神で」

「日本の安全はソフトパワーや外交努力で」

「日米同盟の軍事要因を薄めて」

「米国の軍事戦略に従うと戦争に巻き込まれる」

 

以上のような趣旨が朝日新聞の年来の「日本の安全」論なのです。

なのに「日本の安全にとって、最大の頼りは米国の抑止力だ」

なんて、朝日路線支持者への裏切りではないのですか。

朝日新聞殿、ご乱心?

つい心配してしまいます。

でも乱心やミスでないのならば、朝日新聞の日本の安全保障論にとって歴史的な大転向が7月12日の社説の記述だといえましょう。

 

北朝鮮のミサイル発射により日本の安全を守るためには日米共同のミサイル防衛の整備を、という政策への国民の支持がまた一段と強くなったようです。しかしこのミサイル防衛に一貫して激しく反対してきた朝日新聞はいまはどんな意見なのでしょうか。

 

朝日新聞のミサイル防衛反対のキャンペーンは中国政府と語調や歩調を合わせるような形で長いこと続いてきました。ほんの一例をあげれば、2001年5月10日の社説「はっきりNOと言え ミサイル防衛」は、中国の反対などを理由に強い反対論を展開していました。もっとも当の中国が最近は日米ミサイル防衛への反対をあまり表明しなくなり、それと符号するかのように朝日新聞のミサイル防衛反対も勢いがなくなってきました。

 

しかし朝日新聞の過去の反対論には、いまの現実からみての明らかなミスをどう処理するのか、と問いたくなるケースもあります。2001年9月14日の「前のめりはよくない」という見出しの社説です。ミサイル防衛を推進する防衛庁長官の姿勢は「前のめり」だからよくないというのですが、これまた朝日独特の意味不明で情緒的な「前のめり」などという言葉で安全保障論議をねじ曲げています。私としては朝日新聞に対し「後のめりはよくない」という言葉をお返ししたいと思ったほどでした。

 

しかしこの社説で最もひどいのは「ミサイルごっこの『仮想現実』から一刻も早く目覚めるべきだ」と述べている点です。日本にとって脅威を与えうるミサイルという概念を「ミサイルごっこ」と揶揄するのです。日本にとってのミサイルの悪影響というのは「仮想現実」だと断じるのです。いまの北朝鮮のミサイル7発発射も「ミサイルごっこ」なのでしょうか。「仮想現実」なのでしょうか。

 

私は冗談ではなく、わが日本は国家安全保障とか国の根幹のあり方に関しては、朝日新聞の主張と反対のことをすれば、だいたいはうまくいく、と信じています。講和条約しかり、

日米安保条約しかり、ソ連へのアメリカと結んでの抑止政策しかり、です。このミサイル防衛も朝日は反対、日本国は賛成という選択で、全体としてはうまくいく、ということでしょうか。

TBSの筑紫哲也氏の番組でアメリカ下院国際関係委員長のヘンリー・ハイド議員が「私は(小泉)首相の(靖国)神社参拝に強く反対しているわけではない(つまり反対ではない)」と明言しているのを聞きました。ワシントンでネットを使ってです。

 

この番組は6月29日の放映、ところが驚くべきことに、その英語の発言は正反対の意味に「誤訳」されていました。「なんと参拝jに強く反対だ」というふうに訳されていたのです。TBSはその後7月5日に「訂正」を流しました。

以上の経緯は産経新聞7月8日朝刊で「米下院議員の靖国発言 TBSが『誤訳』」という見出しで報じました。

 

しかし私が重視するのはハイド議員が「首相が靖国に行くべきではないと強く感じているわけではない」と明言し、小泉首相の参拝にあえて反対するわけではないと述べている事実です。朝日新聞など靖国攻撃派がアメリカの反応として金科玉条のように掲げてきた「ハイド議員の反対」が虚構だったことが判明したわけです。

 

「捏造」とも{ディスインフォーメーション」と非難されても仕方がないTBSの「誤訳」はこれまた重大ではあります。石原慎太郎都知事の韓国併合に関する発言を180度、ひっくり返して伝えた手口とそっくりの「政治的歪曲」をも思わせます。英語で I don’t feel--と語っている発言をだれが I feelーーという意味に間違って訳すでしょうか。

 

しかし繰り返すように、靖国論議に関しては、それ以上に重みがあるのはハイド議員の「反対」が事実ではなかったということです。

アメリカ、とくにワシントンでの靖国論議を取材し、報道してきた記者として、このTBSの報道は見過ごせないと感じ、以上を記す次第です。

「2009年に中国のミサイル攻撃で新たな日中戦争が始まる」という近未来シナリオを描いた『ショーダウン』(対決)という本を産経新聞6月27日付朝刊で紹介しました。アメリカの国防総省の元高官二人が書いたシミュレーション(模擬演習)のようなフィクションです。

そのシナリオでは中国が巡航ミサイルを靖国神社に撃ちこみ、尖閣諸島への侵攻を始めても同盟国のアメリカは援軍にはこないという悲劇的な想定でした。ところがその想定にはさらに「中国の命を受けて北朝鮮が核ミサイルを大阪に撃ちこみ、大阪市は人間も建物も蒸発する」という究極のフィクションが記されていたのです。

でも私はあまりに荒唐無稽、あまりに日本にとって痛ましいと感じ、その部分は報道しませんでした。ところがその直後に北朝鮮が日本の方向に対して各種のミサイルを発射してきました。なにか不吉な感じがしてなりません。フィクションとはいえ、現実の展開をなにやら微妙に示唆する想定なのです。

やはりこの世界には脅威とか、攻撃性の強い政権とか、ミサイル発射といういやな現実が厳存する、ということですね。

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