2007年02月

中国が宇宙を飛ぶ人工衛星に向けて弾道ミサイルを発射して、その衛星を撃墜するという実験に成功しました。
この中国の行為がなにを意味するのか、日本ではなお大したことではないという感じの反応も多いようです。

この中国の衛星破壊について私が書いた記事の抜粋を以下に紹介します。


中国は先月、衛星破壊実験を断行した。ひそかに開発してきた衛星攻撃兵器(ASAT)を発射して、はるか上空を回る気象衛星を破壊したのだ。実験としては成功だった。だがこの実験はアメリカに大きな衝撃を与え、対中政策の見直しまでを迫ることとなった。日本にとっての影響も深刻である。だが日本ではこの衛星破壊という行為を重大に受け止める向きがそれほど多くないようだ。

 

 日本国内をみても現代の人間が人工衛星にどれほど依存しているかは明白である。

携帯電話や自動現金預入払出機(ATM)に始まり、自動車の運転案内のためのカーナビから株式のネット取引、金融市場の運営まで、いまの国民の生活の多くが人工衛星に密接にからみ、頼っている。その衛星システムが一気に破壊されてしまうとなれば、人間の生活も同様に一気に破壊されるという恐ろしい展望を今回の中国の衛星破壊という行為は突きつけたのだった。

 人工衛星はまして船舶の航行や鉱物資源の探査にも不可欠の役割を果たす。軍事面での衛星依存の度合いも測りしれない。とくに軍事超大国のアメリカは各種の衛星に頼る軍事態勢を構築してきた。

 

 中国の衛星破壊実験はアメリカ国当局により探知された。米側の情報ではその実態は次のようだった。

 二〇〇七年一月十二日午前七時二十八分(日本時間)、中国当局は四川省西昌付近の宇宙基地から発射した中距離弾道ミサイルの衛星破壊弾頭を地上約八百五十キロの宇宙空間を飛ぶ中国の気象衛星「風雲1号C」に命中させ、破壊した。弾頭を打ち上げたのは固体燃料ロケットの「開拓者1号」(KT1)だった。同ロケットは中国人民解放軍の移動式中距離弾道ミサイル「東風21号」(DF21)の商業転用とされ、二〇〇二年十一月の珠海航空ショーで開発が公表されていた。

 

 アメリカ側では以上のような動きを国家安全保障局(NSA)や中央情報局(CIA)、国防情報局(DIA)という情報収集機関がつかんでいたが、一般向けには民間の航空専門誌『エビエーション・ウィーク』によって一月十七日に初めて報道されていた。そのとたんに大ニュースとなって全世界に広まり、アメリカでは大統領報道官が、日本では内閣官房長官がともに懸念を表明するにいたった。だが日本の場合、中国のこの危険な行為をこれからの対中政策にインプットしていくという政策面での意義のある対応がみられないようだ。

 

 ではなぜ中国のこの衛星破壊実験が危険なのか。

 アメリカにとってはこの中国の動きは軍事的な対決を意味する。

 中国は独裁体制の閉鎖国家である。とくに軍事面での動向は厚い秘密のベールに包まれている。アメリカや日本と異なり、防衛態勢の実情や新兵器の開発は外部にはまったくわからない。そのため、さらには非民主主義国家としての中国の潜在敵性のため、アメリカは中国のミサイルや潜水艦、戦闘機などの軍事動向を常時、独自に偵察している。そのための最大手段が衛星を使っての偵察となる。それでなくても米軍は自軍の作戦行動を人工衛星の機能に大幅に依存させる。とくに最近、日本とも共同で進めるミサイル防衛では人工衛星への依存はきわめて高くなる。そうした軍事面での衛星依存システムをいざとなれば、即時、破壊できるぞ、と宣言したのが今回の中国の衛星破壊実験なのである。

 アメリカは軍事以外の領域、とくに経済や商業、金融などでも衛星の使用が全世界で最高である。このスーパーパワーは衛星依存超大国でもあるのだ。中国はその超大国のいわばアキレス腱をいつでも切れるという能力や意図を誇示したことにもなるのである。米国が激しく反発するのは当然だろう。

 しかも実際に宇宙の軌道を飛んでいる人工衛星をいくら老朽化した気象衛星とはいえ、地上からミサイルを発射して、撃破するという破壊行動は人類の宇宙開発の歴史でも初めてである。

東西冷戦でのアメリカとソ連の軍事対立が険しかった一九七〇年代から八〇年代にかけて、米ソ両国とも衛星破壊の能力を開発することへの努力には着手していた。だが実験とはいえ、現実に機能している衛星を撃ち落すことはなかった。しかもアメリカはその後、衛星破壊の能力開発そのものも放棄してしまった。

 ただし中国の今回の行動は抜き打ちの物騒な冒険主義の色彩こそ明白だが、まったくの違法というわけではない。衛星攻撃兵器の実験を禁止する国際規約はとくにない。中国政府はさらに二〇〇二年には衛星攻撃兵器を国際的に制限する条約を提案した経緯もある。その最大の動機は明らかに衛星利用や衛星破壊のテクノロジーなど宇宙の軍事関連利用では他の諸国をはるかに引き離す超大国のアメリカへの牽制だろう。

しかし中国は現実にはここ数年、アメリカの人工衛星に対しレーザー光線を照射するという実験を数回にわたり実施してきた。最近では昨年九月にそうした照射がなされた。明らかに衛星破壊を意図した作戦の試みである。さらに今回の実験は中国が衛星攻撃兵器の禁止を唱える一方で、ひそかにその兵器の本格的な開発を着々と進めてきたことを実証してしまった。この点もアメリカ側を憤慨させ、警戒させる要因だろう。

 

アメリカ政府のスノー大統領報道官は今回の中国の衛星破壊実験に対し「アメリカ政府が事態を懸念していることを中国政府に伝達した」と言明した。国家安全保障会議(NSC)の報道官は「中国のこの種の兵器開発は民生用宇宙航空分野での米中両国の協力の精神に反する」という抗議の談話を発表した。

しかしブッシュ政権周辺の反応はこうした公式声明よりはずっと強固であり、深刻である。議会の超党派政策諮問機関の「米中経済安保調査委員会」は十九日にこの案件での緊急報告を発表した。同報告は米国でも有数の中国軍事研究者とされるマイケル・ピルズベリー氏(国防総省顧問)の見解を詳述していた。同氏は中国軍の衛星破壊実験の真の意図として次のように述べていた。

「中国軍では大佐級の専門家集団がかねてから衛星破壊作戦の研究を秘密裏に進めており、有事にはアメリカの軍事関連衛星合計五十基をも同時に攻撃して破壊する能力の保有を目指している。米軍が偵察、通信、航行、さらにはミサイル防衛機能のために使う多数の衛星を一気に破壊して、米軍の能力を麻痺させる意図であり。米側も早急に対抗措置をとることが不可欠である」

こうした危機感のにじむ認識を受け、共和党の有力政治家ジョン・カイル上院議員も一月二十九日の演説で「中国はひたすらアメリカを主標的に衛星攻撃兵器の開発を急いでいる」として、アメリカの政府と議会に対し以下のような政策を提案した。

(1)来年度の国防予算では衛星破壊への対抗措置を大幅に増額する。

(2)議会は中国の衛星攻撃兵器がアメリカ製の技術を含まないことを確実にするための公聴会を開く。

(3)米軍が軍事的に有用な衛星を敏速に打ち上げられる能力を保持することを確実にする。

(4)アメリカのミサイル防衛庁は宇宙の衛星に依存しなくても実効を発揮できる大気圏でのミサイル防衛の能力を高める。

(5)アメリカの政治指導者たちは国民に対し宇宙の安全保障を国家安全保障の優先項目として位置づけ、ミサイル防衛の重要性を改めて説く。

 

 カイル議員はそして結論として次の点を強調するのだった。

「中国の衛星攻撃実験はアメリカにとって覚醒の警告となった。アメリカはもはや宇宙での自国の優位や安全を当然視はできなくなった。ただし宇宙での中国の脅威を交渉や軍備管理によって除去できるとみなすことは、現実的ではない。実効のある対応措置をとることによってのみアメリカにとっての宇宙の安全は得られるのだ」

カイル議員のこうした言葉が反映するのはアメリカ側の危機感であり、その背後に浮かぶのは米中両国の宇宙を舞台とする新たな対立の展望である。この展望は日本にも重大な影響を及ぼすことはいうまでもない。日本としても中国政府に対し、ことあるごとに抗議や懸念の意向を粘り強く伝え、中国がこんごも衛星攻撃能力を高める場合には、日本側としてもなんらかの対応策をとる姿勢ぐらいは示すべきであろう。   

朝日新聞の若宮啓文論説主幹の一連のコラムを批判した私の論文が文藝春秋刊の月刊雑誌『諸君!』3月号に掲載されました。いま発売中の最新号です。

若宮コラムの批判はこのブログでも数回にわたり展開してきましたが、その集大成がこの『諸君!』論文だともいえます。

論文のタイトルは以下のようです。

「若宮啓文朝日論説主幹の毀れた『風向計』」

このタイトルは私ではなく、『諸君!』編集部がつけたのですが、若宮氏のコラムの「風考計」という題をもじったのでしょう。私のこの論文は同誌では「言論人の品格を問う」という特集の一部になっています。

この論文の冒頭は以下のとおりです。

日本も小泉政権から安倍政権にかけてのこの数年、やっと戦後のハンディキャップ国家を脱却して、普通の民主主義国家へと着実に歩み始めた。「普通の国家」とは世界の他の諸国並みの国家という意味である。他の主権国家と同じ要件を満たすようになる、ということだ。とくに安全保障の面で国際社会での特異や異端の存在から他と同じ普通の存在になるということである。自国にとっての脅威があれば、それに備える安全保障上の措置をとる、とれなくても、少なくとも、とることに努める、ということでもある。そのための法律や制度を備えることが当然の前提となる。

北朝鮮が核兵器を開発し、爆発させ、ミサイルを乱射し、中国が大規模な軍拡を続け、日本領海に潜水艦を侵入させてくれば、日本という国の安全を保つために、なんらかの対応策を考える、というのが「普通の国」の安全保障政策の最少要件だといえる。国際的にみて、ごく普通で自然なことである。

しかし日本をそもそも潜在的、顕在的に敵視する中国のような存在の視点からは、日本の「普通の国」志向も「危険な軍国主義復活」となる。日本側の一部勢力も同様にみる。日本は普通の国になってはならず、いつまでも他者依存、しかも自国の存亡に関して幻のような「他国の善意」に頼るという例外的な存在に留まらねばならない、と主張する。

この一部勢力にかかると、「普通の民主主義国家」になる道の前進も、戦前の危険な軍国主義や侵略への復帰と断じられてしまう。日本を普通の国にしようと唱える人間さえも、危険なテロリスト扱いされてしまう。普通の国への前進を提案する言論も、他の言論への弾圧というレッテルを貼られてしまう。こんな非民主的な思想警察の役割を演じる勢力の代表が朝日新聞である。

この朝日新聞の詐術的なレトリックの虚構や虚偽をあばいてみよう。朝日新聞ではその言論を代表する若宮啓文論説主幹の種々の主張が検証の対象としてはもっともふさわしいだろう。その種の「虚」のレトリックの象徴例に満ちたコラム類を一貫して書いているからだ。

(中略)

論文の最後は以下のように結んでいます。

以上、朝日新聞の主張を若宮啓文論説主幹の言論を例にとって考察してきた。その特徴を「論敵の悪魔化」「現実の無視」「論理の欠落」「日本という概念の忌避」という四つにわけて、指摘してきた。

 これらの特徴のなかでもとくに第四の「日本という概念の忌避」は重要に思われる。なあんだ、朝日新聞はけっきょくは日本という概念が嫌いなのだとわかれば、あとの特徴はすべて簡単明快に説明がつくからである。

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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