2007年03月


記事情報開始いわゆる「慰安婦」問題では米国の「識者」たちが日本をいよいよ悪者にして、侮辱の限りを尽くす言辞を吐いています。
彼らの日本糾弾の矛盾点について、書きました。
産経新聞の「緯度経度」コラムです。



 

「緯度経度」 ワシントン・古森義久

対米不信招く慰安婦問題

 「慰安婦」問題が日米両国間でなお波紋を広げている。現在の日本の政府や国民が60余年前の出来事を理由に突然、被告とされ、米国の議員やマスコミの一部が検事と裁判官とを兼ねて、断罪する。だがその罪状がはっきりしない。慰安婦という存在よりも、慰安婦について米側が求めるのとは異なる見地からいま語ることを悪とする言語裁判のようなのだ。その背後で日本側では日米同盟を最も強く支持してきた層の対米不信が広がりそうである。

 いま慰安婦問題が論議を招くことのそもそもの原因は日本側にはまったくない。慰安婦について日本側で最近、新たになにかがなされ、語られたということはない。ひとえに米国議会下院に1月末、慰安婦問題で日本を糾弾する決議案が民主党マイク・ホンダ議員らによって出され、2月15日にその決議案を審議する公聴会が開かれたことが発端だった。 

 同決議案は「若い女性を日本帝国軍隊が強制的に性的奴隷化した」と明記して、日本軍が組織的、政策的に女性を強制徴用していたと断じ、日本政府がその「歴史的な責任を公式に認め、謝罪すべき」だと求めていた。 

 この時点では米国のマスコミも識者、研究者もこの決議案も慰安婦問題も論じたり、報じたりすることはなかった。ところが3月1日、安倍晋三首相が東京で記者団に同決議案にどう対応するのかと質問され、一定の発言をしたことから米側での反響がどっと広がった。安倍首相は軍による組織的な女性の強制徴用の証拠はないことを強調し、その点で河野談話には欠陥があることを指摘しただけだった。 

 だがこの安倍発言は「安倍は戦争セックスに関する日本の記録を排除する」(ニューヨーク・タイムズ)として安倍首相が軍の関与をもすべて否定したかのように米側では報じられた。米側ではここから慰安婦問題はすっかり「安倍たたき」の形をとって、輪を広げた。このプロセスでは肝心の慰安婦決議案に対しての米側のマスコミや識者たちの態度は支離滅裂であることを印象づけた。 

 米国の安倍たたき勢力は慰安婦問題に関しては河野談話を絶対に撤回や修正してはならないと主張する。シーファー駐日米国大使にいたっては、「河野談話を修正すれば、破壊的な結果が起きる」とまで語った。河野談話の価値を認めたわけである。そうであれば論理的には河野談話が保持される限り、慰安婦問題はOK、慰安婦決議は不要ということになる。だが現実は異なる。 

 そもそも米側は日本に一体、どうせよというのだろうか。一方で河野談話を絶対に保持せよ、と求める。だが他方では決議案を読めば、河野談話が保たれても、安倍首相も同談話についてなにも述べなくても、日本の対応はなお不十分ということになる。 

 いまの米側からの日本糾弾はそもそも事実を究明しての批判なのか、それとも単に道義上の説教なのか、区別できない。日本側の最大唯一の主張は、日本の政府や軍隊が政策として組織的に各国女性を強制徴用して、これまた一貫とした方針として将兵へのセックス奉仕を無理やりさせていたという証拠はどこにもない、ということだろう。 

 この点の論争には事実の提示が欠かせない。だが米側は具体的論拠となると、「歴史家たちは女性20万人もが拘束され、日本軍将兵がその拘束に参加した、と述べている」(ワシントン・ポスト)という範囲の記述で終わってしまう。そしてそんな細かな点で争うよりも、全体の悪を認めよ、と、急に事実関係を論議の枠外に押し出して、道義の議論に転じてしまうのだ。自分たちは過去も現在も一点の非もないかのごとく、高い道義や倫理の頂上に仁王立ちとなり、はるか下方の日本を見下して、講釈をする、というふうになる。 

 そもそも一主権国家が他の主権国家がからむ60余年前の一行動をとりあげ、いま目前で展開される自国や他国の不祥事や悲劇をすべて無視して、その国家を責め続けるというのは異常である。ましてその2つの国家が同盟国同士であれば、ますます奇異となる。とくに日本側では対米同盟の堅固な支持層というのは、自国の国益や国家意識、さらには民主主義、人道主義という普遍的な価値観を強く信奉してきた国民層だといえよう。 

 米国が慰安婦問題で日本側をたたけばたたくほど、まさにこの層が最も屈辱や怒りを感じ、同盟相手の米国への不信を強くするのだ、ということは米側に向かっても強調したい。 

 

「慰安婦」問題について長い論文を月刊誌「WILL」の5月号に書きました。「マイク・ホンダの正体」というのは、編集部がつけたタイトルです。しかし論文の内容もホンダ氏の中国系勢力との密接なきずなを政治献金の面や過去の共同作業の面から報告しており、この刺激的なタイトルもそう的を外れた表現ではないようです。
この論文の冒頭部分を以下に紹介します。

かつて大ヒットしたアメリカ映画に「エイリアン」というのがあった。遠い星からの怪物が人間の体内に入り込み、その人間を乗っ取ってしまうのだが、外からみると内部にひそむエイリアンたちの存在はわからない。外見はまったく普通の人間にみえる。だが中身は実は恐ろしい別の生物がコントロールしているというのだ。

 非礼になるかと思いながらも、そんなホラー映画の主役をつい連想してしまった。いまアメリカ議会で「慰安婦」問題で日本を糾弾するマイク・ホンダ下院議員をみていてのことである。

 

ホンダ議員はこの一月末、下院に「慰安婦の人権擁護」と題する決議案を提出した。他の議員との共同提案という形こそとっているとはいえ、実態として主導はあくまでホンダ議員である。この慰安婦問題はいまやアメリカのリベラル系マスコミの扇情的報道や学者らの批判的コメントで議会の枠を越えた広がりをみせているが、そもそもの仕掛け人はホンダ氏であり、彼が出した決議案なのだ。

決議案の内容は「日本軍が第二次大戦中、若い女性たちを性的奴隷へと強制したことに対し日本政府は明白な形で公式にそれを認め、明確に謝罪し、歴史的な責任を受け入れることを求める」という骨子だった。要するに六十年以上前の日本軍の慰安婦について現在の日本の政府や国民、首相が謝れ、というのである。これだけでも、「いったいなぜ、いま?」という疑問に襲われるのがふつうである。

しかも決議案は「当時の日本政府が女性たちに兵隊たちへの性行為を強制した」と断言し、「現在の日本政府は日本軍による慰安婦たちの性的奴隷化や人身売買が実際にはなかったという主張をすべて排除せねばならない」とまで命令していた。当時の日本の軍や政府が組織的に、政策として、アジア各地で若い女性を無理やりに連行して、娼婦にさせていた、という「強制徴用」の大前提なのである。

実際に検証された当時の歴史的事実とは異なる「大前提」が大上段に押しつけられているのだ。



中国の軍事政策や人民解放軍の体質を近未来のフィクションで描いたアメリカの書の日本語訳が出版されました。
原書は「Showdown」というタイトルで、先代ブッシュ政権の国防総省副次官だったジェド・バビン氏とレーガン政権の国防総省動員計画部長だったエドワード・ティムパーレーク氏による共著です。

中国がなぜ軍事力を増強し続けるのか。その軍拡の最終目標はなんなのか。その目標の達成のために中国人民解放軍が一定条件下での戦争を考えていることは明白です。
ではその戦争はどう実行するのか。
この可能性をシミュレーションとフィクションの混合で描いたのがこの書です。
私はそのなかの日中戦争のシナリオ部分を産経新聞で紹介しました。

この書の日本語版が産経新聞出版からいま出版されました。
タイトルは「中国が牙をむく日」 SHOWDOWN 対決
翻訳は佐藤耕士氏です。
本のカバーには以下のような記述があります。

「中国の年間1千億ドルもの軍事予算は何のためか。中国は戦争への道を突き進んでいるのだ。開戦のきっかけは何か。その戦争とはどんな戦争か。米大統領の側近だった二人の著者が提起する、日本を巻き込んだ米中戦争を予想した驚愕の近未来小説」
「核ミサイルで大阪は壊滅。靖国神社は瓦礫の山。しかし米国はーー」
中国の「戦争シナリオ」はこれだ。
1.国家統一のための戦争
2.第2次朝鮮戦争
3.第1次石油戦争
4.中日戦争
5.世界石油戦争
6.「暗殺者の戦棍」戦争

原書の日中戦争の章は昨年10月に私が抄訳して、産経新聞に10回、連載しました。その第1回を以下に紹介します。
その10回分は産経新聞ウェブに載っています。


近未来小説「SHOWDOWN(対決)」
(1)「日本を叩けばよい」 

 【ホワイトハウス 2009年1月20日】

 「どこの島ですって?」

 新しい米軍最高司令官の大統領はいらだちを隠さなかった。前年11月の選挙に勝って米国初の女性大統領となった民主党リベラル派のドロシー・クラターバックは就任のパレードを終え、日本の首相からの祝いの電話に出ていたが、会話はぎこちなかった。

 首相の声は珍しく感情をあらわにしていた。

 「尖閣諸島ですよ、大統領。沖縄の近くにあり、周辺に豊かな油田やガス田があります。日本領土ですが、中国が領有権を主張しています」

 「その島のなにが緊急なのですか」

 「はい、尖閣諸島の至近海域で中国海軍がロシア軍の支援を得て、大演習を始めました。中国は武力で尖閣を占拠しそうなのです」

 「わかりました。こちらも検討しましょう。数日後にまた話しあいましょう」

 女性大統領は電話を切ると、そばにいたCIA(中央情報局)長官らに顔を向けた。長官らは前共和党政権のメンバーで、数日後にはもう職を離れることになっていた。

 「中国側が今夜の私の就任祝いパーティーの前に軍事攻撃をかけることはないでしょう。私の新政権は中国とことを荒立てる方針はない。中国は必ず責任ある道を選ぶでしょう。もうこの件ではなにも報告しないでください」

 CIA長官が反論した。

 「大統領、いや中国はあなたの出方をテストしているのです。前大統領が就任後、まもなく米軍の偵察機が海南島で強制着陸させられたことを覚えていますか」

 「中国がなにを求めているのか、私はよくわかっています。前政権はそれがわからなかった。私は選挙戦を勝ち抜いたのと同じ方法でうまくジャップと中国人とを扱いますよ。まあ、みていなさい」

 【北京・中央軍事委員会 同年6月1日】

 軍事委主席の胡金涛は人民解放軍の幹部の将軍連に問いかけた。

 「人民を団結させ、党や国家への忠誠を高める最善の方法はなにか」

 将軍の一人が答えた。

 「中国人は誇りの高い民族です。人民が国内の失業や貧困から目をそらし、自国への帰属意識を高めるには周辺諸国を従属させ、中国の覇権を誇示することです」

 他の将軍が反論する。

 「しかし周辺諸国と戦争をするわけにもいかないでしょう」

 「いや、戦争ではない方法で一国を屈服させれば、他の国にもドミノ効果がある」

 胡が口をはさむ。

 「そうか、一国を服従させれば、他の国もその例に従うわけか。だがその一国をどこにするか。実質的なパワーと象徴的な重要性を持つ国でなければならないが」

 人民解放軍の総参謀長がおもむろに答えた。

 「日本です」

 胡がすぐに同意した。

 「そうだ。日本だ。日本を叩けばよい。日本を軍隊で侵略する必要はない。歴史問題で叩いて、天皇に中国への侵略について公式謝罪をさせる。そうすれば中国人民の誇りや民族意識は急速に高まるだろう。日本に屈辱を与え、服従させるための具体的な計画を3日以内に提出するように」(つづく)

 ジェド・バビン/エドワード・ティムパーレーク共著

 抄訳=ワシントン駐在編集特別委員、古森義久

(2006/10/16 10:00)

 【メモ】中国人民解放軍の実態を近未来小説として描いた「ショーダウン(対決)」という書が米国で刊行された。著者は先代ブッシュ政権の国防副次官ジェド・バビン氏とレーガン政権の国防総省動員計画部長エドワード・ティムパーレーク氏で、レグネリー社刊。中国が戦争を始める展望がフィクションとして書かれるなかで「2009年に中国のミサイル攻撃で新たな日中戦争が始まる」という章がある。その章を中心に同書を抄訳で紹介する。

▲記事本文▲▼近未来小説「SHOWDOWN(対決)」一覧▼

近未来小説「SHOWDOWN(対決)」

1)「日本を叩けばよい」 
    





アメリカ議会で「慰安婦」決議案を推進して、日本叩きを続けるマイク・ホンダ議員が中国系反日団体の「世界抗日戦争史実維護連合会」の幹部連から集中的に政治献金を受けとり、しかも同決議案の作成や提出でも共闘していたことを伝えてきました。
この「世界抗日戦争史実維護連合会」はいろいろなところに顔を出し、手を伸ばします。「南京大虐殺」での日本糾弾、「米軍捕虜虐待」での日本糾弾など、次々に矛先を繰り出してきます。
同連合会は最近のアメリカでの「南京」映画でも陰の主役でした。そのへんの実情を以下のレポートで紹介しましょう。文藝春秋最新の4月号に私が書いた「『ザ・レイプ・オブ・南京』映画の罠」という論文からの抜粋です。
慰安婦から南京へと「日本叩き」の糸をたぐっていったら、またまた抗日連合会にたどりついた、という報告です。



南京事件についての映画がアメリカ側で作られる、という話を昨年秋に聞いたとき、「あっ、またか」と感じた。同時に、まさか、再度のデマでもないだろうとも思った。

 なぜなら、そのつい数ヶ月前に「南京事件を描いたハリウッド映画がクリント・イーストウッド監督、メリル・ストリープ主演で制作される」というデマが広範囲に流されたばかりだったからだ。二〇〇六年一月、このデマは読売新聞が上海発で転電したためて、日本国内に最初に伝わり、ざわめきを起した。

中国側が「南京大虐殺」をテーマとするプロパガンダ映画を作ることはとくに驚きにはあたいしないものの、主体がハリウッドとなり、しかも全世界で人気を博すアメリカ映画界の巨匠と名女優の登場となれば、話は別だからだ。

 しかし私自身がイーストウッド監督のマネージャーに電話して直接、問いただしてみると、「まったくのウソですよ」という答えが返ってきた。そしてその虚報の流れをさかのぼっていくと、デマのそもそもの出所はアメリカに組織をはりめぐらせる中国系の政治活動組織「世界抗日戦争史実維護連合会」(以下、抗日連合会と略)だったことが判明した。この組織は後述するように、中国政府とも密接なきずなを保つ反日団体である。

 ところが今回は映画を制作するアメリカ人の当事者が公開の場に出て、その意図を明確に語っていた。大手インターネット企業のAOLの副会長テッド・レオンシス氏である。彼が制作に私財二百万ドルを投入したという。アメリカがからんで南京映画が作られることはまちがいなかった。ところがこの映画にからむその後の展開をみていくと、まるでブーメランのように、また前述の抗日連合会など中国系の反日団体に結びついていくのだった。この点は日本側の感覚としては、なんとも薄気味悪い実態なのである。

 そもそも南京映画がいまの時点でこれほど話題になる最大の理由は、二〇〇七年が日本軍による南京攻略からちょうど七十年になることだといえる。

 

さてレオンシス氏は今回の映画について以下のようなことを語っていた。

 「二年ほど前、自分のヨットでカリブ海を航海中、『レイプ・オブ・南京』の著者アイリス・チャン女史の死亡記事をやや古い新聞で読み、その本に興味を抱いて読了した。その書の内容に引き込まれ、映画を作ることを思いついた。同書によると、一九三七年末の南京では日本軍により非武装の中国人三十万以上が殺された。だがその物語はまだ一般には伝えられていないと思った」

 この映画の監督にはアカデミー賞短編ドキュメンタリー作品賞を得たビル・グッテンターグ氏、撮影にはバディ・スクアイア氏、音楽にはグラミー賞受賞のルー・リード氏の起用がすでに決まっているとのことだった。

 いま五十歳のレオンシス氏自身はAOLを発展させた実績のほかにも、娯楽やスポーツの経営で知られる。リベラル志向のビジネスマンとしてこの種の政治メッセージのにじむ芸能、芸術の活動にも何度もかかわってきた軌跡がある。

 しかし彼が『レイプ・オブ・南京』という書に触発され、その書を土台に映画制作にとりかかったという点は気になった。

 日本でも悪名の高いこの書は「南京大虐殺」を昭和天皇あるいはその側近から事前に出た命令による計画的な行動だと示唆し、その結果として中国の民間人合計三十万以上、あるいは三十五万が日本軍によって殺されたとし、その後も日本側はそのことに対しなんの処罰も受けず、反省も謝罪も、歴史教育もしていない――と断じていた。南京での日本軍による殺戮を「太平洋のホロコースト」と呼び、もっぱらナチスのユダヤ民族絶滅の行為と同等に扱っていた。

この『レイプ・オブ・南京』は全米で話題となり、すぐに十万部、二十万部という売れ行きを記録し、ベストセラーの一角に食い込んだ。このときにこの書の宣伝や販売に全面的に協力したのが前述の中国系の抗日連合会だったのである。

 しかし、まもなく『レイプ・オブ・南京』には事実のまちがいやゆがめが多数あることがアメリカ側の学者やジャーナリストによっても指摘されるようになった。チャン氏は実際に日本を訪れることもないまま、日本全体を有罪だとして告発する形で、この書を書き上げていたのだった。

ちなみに日本国内でも『レイプ・オブ・南京』の事実のまちがいや偏向、写真の誤用などが指摘されたが、アメリカという舞台でそのことをきちんと表明する日本側の声はなかった。

 

さてこのドキュメンタリー映画は『南京』というタイトルで二〇〇六年十一月末ごろまでには完成し、独立系の中小プロダクション制作の映画作品を審査する「サンダンス映画祭」のドキュメンタリー部門に出品された。そしてこの一月中旬の最終審査でドキュメンタリー部門応募の八百点以上のなかから、最優秀賞や監督賞などこそ取らなかったが、編集賞という賞に選ばれたのだった。

長さ九十一分だというこの映画『南京』はサンダンス映画祭での紹介では以下のように描写されていた。

「この映画は歴史上でももっとも悲惨な出来事の一つ、南京虐殺の物語を伝えている。一九三七年、侵略を続ける日本軍は南京で二十万人以上の罪のない中国人を殺し、数万人を強姦した。この恐怖のなかで少人数の欧米人たちが団結して異例のヒロイズムを発揮し、二十五万人以上の命を救った。これまでほとんど知られていないこの物語を全世界の観衆に示すのがこの映画だといえる(以下略)」

犠牲者の数が二十万人とされてはいるが、これだけでも基本的には『レイプ・オブ・南京』の記述や中国側の主張が映画の土台であることがわかる。

この映画はさらに完成前からアメリカ国内で活動する中国系団体の抗日連合会などによって、日本糾弾の手段としてさんざんに宣伝されてきた。同連合会のウェブサイトをみると、同じ映画『南京』の紹介もサンダンス映画祭での前述の描写よりもずっとどきつい記述でなされていた。しかもことあるごとにその種の記述がサイトに載るのである。

「この映画では日本軍の残虐行為の被害者のうちの生き残りが紹介され、とても信じられないような恐怖の体験を語る。中国人の男の体にガソリンが浴びせられ、火をつけられる。他の中国人男性は日本軍将兵が見物するなかですでに死んだ女性とのセックスをすることを強いられた」

「この映画では中国人の年老いた男性が自分の母が目の前で日本軍兵士の銃剣で刺殺された様子を語るうち、泣き伏してしまう光景が出る。彼の母親は彼の弟に乳を与えようとしたところをいきなり刺し殺されたというのだ。別の中国人女性は自分の幼い娘が日本軍に連行され、強姦されて殺されたことを泣きながら語った」

こんな調子なのである。

抗日連合会という団体はその活動目的について以下のように記している。

「わが組織は第二次大戦中に日本軍が働いた非人道的で過酷な残虐行為について一般アメリカ国民を教育することに献身する。日本政府は七十五年前に始めた戦争犯罪に対し、被害者への賠償をなにもせず、公式の謝罪もしないままでいる」

この宣言は戦後の日本が果たした賠償や謝罪や軍事裁判での幾多の死をもってしての償いをも一切、無視して、いつまでも日本軍の残虐行為を糾弾していく、というのである。この態度は反日と評する以外にないだろう。

現に抗日連合会の最近の「ニュース」ではアメリカ連邦議会下院に提出された日本軍の「慰安婦」非難決議案や同案を審議する二月十五日の公聴会の模様などを「日本の非」を露骨に非難しながら報じている。同連合会のウェブサイトでは同決議案の提案者のマイク・ホンダ議員をヒーロー扱いする書きこみの数々が踊っていた。

 抗日連合会の各組織はみなアイリス・チャン著の『レイプ・オブ・南京』を積極的に宣伝してきた。そして今回も南京関連映画の宣伝に努めているのである。

 

このように南京事件のドキュメンタリー映画一つを追ってみても、すぐにこうした中国系の反日団体にぶつかるのである。この種の団体が日本非難のキャンペーンをアメリカで展開する理由はそれが国際的にも、また日本にとってももっとも効果が高いから、ということだろう。ハリウッド映画ひとつを例にとっても、アメリカのソフトパワーは全世界にアピールする力がある。アメリカ議会での採択決議も国際的な重みを持つ。

とくにアメリカへの安全保障面などでの依存度の高い日本にとっては、アメリカからの反日や侮日のメッセージは苦痛や打撃の度合いが高いことになる。日本をいつまでも弱く、道義的に国際劣等国の立場に抑えつけておこうとする勢力にとっては、アメリカからのその趣旨に沿った対日発信がもっとも強い効果を発揮するということである。

 

慰安婦問題について書いてきた私の記事を読んで、ということで投書をいただきました。関東軍の軍人だったという方からです。産経新聞東京本社気付けで、ワシントンの私あてに転送されてきました。
書簡は便箋5枚にペンでの手書き、きちんと明確な記述でした。内容はご自分の満洲時代の体験と観察から述べる限り、日本軍が現地の女性を強制的にさらって、売春をさせることなど、まったくなかった、という趣旨です。
東京都下にお住まいの上野力さんという方です。
上野さんのお手紙の記述のいくつかの部分を以下に紹介します。上野さんにワシントンからお電話をして、お手紙の一部を公表することの許可をいただいたうえです。紹介部分は原文のままです。現在の規準では避けるべきという表現や用語もあるかも知れません。明らかに公開が不適切な言葉は伏字にしました。


「私は大正7年生まれ、昭和14年兵、乙幹の下士官、5年兵、東京外大卒行、関東軍軍人でした」

「日本軍人が無知な○○女性をだまして、慰安婦にしたのではない。帝国軍人が工場、学校へ行き、○○人女性を強制拉致したら、必ず大暴動になっただろう。(そんな強制徴用をしたら)聖戦完遂不可能になった」

「慰安所は牡丹江にありました。経営者○○人、客は下士官兵、ときに開拓団少年。私服憲兵の巡視あり。旧市街の満洲人××屋は下士官兵の立ち入り禁止」

「私の経験したこと。昭和18年某月某日に登楼。慰安婦ではない自称16歳女性、軍曹の私に対して、まじめな顔をして『兵隊さん、司令部へ行って、慰安婦の許可をもらってきて下さい。そうしたら、あなたはわたしの最初の処女客、タダでサービスするわよ』と言うので、私は『キミは女中であって、慰安婦でない。慰安所の女中だが、処女のまま結婚すべきだ』と言うと、『わたしはおカネがほしい、慰安婦になりたいです。16歳だから18歳だと言って、許可をもらってください』と言いました」
「私は『ぼくは軍曹だから司令部へ行き、頼んでもダメだ。処女のまま結婚するべきだ』といさめると、『処女であるより、慰安婦になって、おカネがほしい。お父さんに農地を買ってあげるための孝行です』と言う。『ダメだ。その考えはまちがっている。18になっても慰安婦になってはならない』と訓戒しました。そしたら『兵隊さん、わたしの気持ち知らない、もういいです』と言って、去ってしまった」

「昭和19年、満洲某地で登楼したとき、敵娼(あいかた)の慰安婦はこう言った。『兵隊さん、わたし○○人にだまされた。軍隊の工場で被服を作る仕事をすると言われて来たら、慰安所だった。客を取れと言うので、断ると、<お前には莫大な前渡金をお前の父に渡してある、それを返せばすぐ帰宅させる>と言う』 これが実情だ」

「韓国人、日本人、北朝鮮人、みんな悲しいことだった」

引用は以上です。
慰安婦や慰安所を実際に体験したことを率直に述べられたうえでの述懐のお手紙なので、私にとっては重みがありました。
いまの案件を考える一つの材料という意味です。

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