2007年07月

中国の軍事力の増強についての報告を続けます。

その前にワシントンの独立記念日の花火の写真を以下に貼り付けました。7月4日の夜の光景でした。



さて中国の軍拡についての報告の(3)は以下のとおりです。

以上(これまでの紹介)は報告書の「要約」の一部をほぼそのまま紹介した記述である。

だから「アジア太平洋を越えた意味合い」などという婉曲な表現もある。だがこれは直裁にいえば、アメリカ本土にまで脅威が及ぶ、という意味であろう。要するに中国は台湾だけでなく東アジア全域、ひいてはアメリカ本土までをにらんだ軍事戦略や軍事態勢を築き始めた、という認識なのである。

このアメリカの認識は日本にとってもきわめて深刻な意味を持つ中国の軍拡の現実を指し示しているのだ。

では次に報告書から中国の軍拡について具体的な兵器類の増強についてみていこう。

〔戦略核ミサイル〕

中国はアメリカにも届く戦略的な核攻撃戦力を質量ともに増強している。米側がもっとも脅威を感じているのは射程一万一千キロの新型DF31A型ICBMで、二〇〇七年中にも開発が終わるとみられている。射程七千二百キロのDF31型ICBMは昨年、開発が終わり、すでにアメリカに向けて配備されたという。

潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)も射程はICBMより短くてもアメリカ本土に直接、到達するという意味で戦略核兵器に含まれる場合が多いが、中国はこの分野でもすでに配備ずみのJL1型SLBM(射程千八百キロ、合計十数基保有)に加えて、新たにJL2型SLBM(射程八千キロ)を開発中で、二〇〇七年から二〇一〇年までに実戦配備になると予測される。

アメリカ本土を直撃できる核ミサイルとしては中国は液体燃料によるサイロ配備のCSS4型ICBM(射程一万三千キロ)合計二十基を近年、一貫して配備してきた。射程五千五百キロの固体燃料使用CSS3型ICBM二十数基も長年、配備され、アメリカへの抑止や攻撃を究極の目的としてきた。

このCSS3と同4とがこれまでアメリカへの直接の脅威だったのだが、こんご二〇一〇年ごろまでに前述のDF31やJL1、同2の新配備で中国の戦略核ミサイル群は従来よりずっと柔軟で生存性の高い核戦力となっていく。つまりアメリカにとっての核の脅威が高まるわけだ。

〔中距離・短距離弾道ミサイル〕

中国軍はこのカテゴリーのミサイルは台湾や日本を射程内においている。その範囲内の米軍部隊は有事にはもちろん最大の標的となるわけだ。この部類のミサイルでは後述するように、核弾頭と非核の通常弾頭との両方が装備されうるという中国独特の戦術が不安定要因を高めている。

この種のミサイルとしては液体燃料のCSS2型という射程二千八百キロの長・中距離弾道ミサイル(IRBM)が十基前後、CSS5型とされる射程千八百キロの中距離弾道ミサイル(MRBM)が約五十基、CSS6型という射程六百キロの短距離弾道ミサイル(SRBM)が三百基から三百五十基、CSS7型という短距離弾道ミサイルが五百七十五基から六百二十五基がそれぞれ、すでに配備されているという。

短距離弾道ミサイルの大多数は台湾を標的として福建省内外に配備され、その総数は二〇〇六年十月の時点で九百基に達し、中国軍はなお毎年百基の急ピッチで増強を進めている。

〔海軍戦力〕

 中国海軍は主要戦闘艦七十二隻、攻撃用潜水艦五十八隻、中型以上の上陸用舟艇五十隻などが主体だが、全体として増強を進めており、とくに潜水艦戦力の強化が顕著となっている。

中国は弾道核ミサイル搭載の原子力潜水艦五隻をすでに保有しているが、新たに第二世代の戦略ミサイル搭載原潜094級と攻撃用原潜093級を同時に開発中で、両級とも二〇〇五年にはすでに試験航行を終えた。

中国は最近、ロシア製のディーゼル潜水艦キロ級二隻を受け取り、二〇〇二年に調印した購入契約分八隻すべての取得を終えた。これで合計十二隻のキロ級潜水艦を配備したことになる。ディーゼル潜水艦では世界最高の性能を持つとされるキロ級艦には超音速のSSN27Bミサイルや有線誘導の特殊水雷などの新鋭兵器が搭載されている。


 中国は二〇〇六年後半にはロシアから新鋭の誘導ミサイル装備駆逐艦のソブレメンヌイⅡ級の二隻目を購入取得した。同型は中国海軍がすでにロシアから買って、配備しているソブレメンヌイ在来級よりずっと総合的戦力がすぐれている。中国は二〇〇六年にはさらに初の国産の誘導ミサイル搭載フリゲート艦054A級の生産を開始した。

人民解放軍装備部門の最高幹部らは二〇〇六年十月ごろから中国の珠海での航空ショーなどで「航空母艦の自国生産の方法を習得したい」とか「海洋での作戦では空母の存在が不可欠だろう」などと言明するようになった。中国は空母の取得には一九七〇年代から関心を示し、以後、オーストラリアから「メルボルン」、旧ソ連あるいはロシアから「ミンスク」「キエフ」などの老朽空母を購入して、研究を重ねてきた。一九九八年にはウクライナから空母「バリヤーグ」を輸入して、さらに調査や研究を続けてきたが、国産空母建設の意図が強くなり、二〇一五年ぐらいを目標とする建設計画が内定したとも伝えられる。



  〔航空戦力〕

中国の空軍と海軍航空部隊を合わせていま戦闘機は合計千五百五十機(うち台湾有事に出動できる態勢にあるのが四百二十五機)、爆撃機が合計七百七十五機(同二百七十五機)、輸送機が合計四百五十機(同七十五機)となっている。全体として中国の航空戦力は旧式の軍用機が大多数だったが、近年は大幅な近代化が進んできた。

中国軍当局は純粋な国産の主要戦闘機としてはF10多目的戦闘機の配備を始めた。旧式のFB7戦闘機の改良も進み、夜間海上での攻撃能力を持つ新型が開発されつつある。

一方、中国は旧ソ連さらにロシアからのSU27SK戦闘機の大量購入に続く、自国内での同機ライセンス生産、さらに最新鋭のSU27MK戦闘機のライセンス生産へとすでに進んでいる。最近では多目的のSU30MKK戦闘爆撃機、海軍用のSU30MK2戦闘爆撃機をも取得し、配備を始めた。

〔宇宙戦略〕

中国が二〇〇七年一月に実行した衛星破壊実験は宇宙を軍事目的に利用とする長期戦略の表れとしてアメリカ側に衝撃を与えた。

中国の衛星破壊兵器(ASAT)は台湾有事などの際にアメリカや台湾、日本などの軍事、経済、政治の人工衛星依存の機能を破壊することを目的とする。アメリカはとくに宇宙に打ち上げた人工衛星の通信など各種の機能を軍事作戦の遂行に利用する度合いを近年、急速に高めており、中国がその衛星を破壊する兵器の開発を進めているとなると、宇宙利用でも米中の激しい対立が生じることになる。

 中国自身も宇宙を単にアメリカの軍事関連活動を妨害するためだけでなく、自国の軍事行動のためにも使う戦略的利用への取り組みを急速に進めている。中国は現在までに通信衛星十四個、海上航行衛星三個、気象衛星三個、遠隔映像撮影衛星六個、科学衛星八個などを打ち上げた。この種の人工衛星を組み合わせ、宇宙配備の兵器体系を築こうとする動きもすでに明白となってきた。

 (つづく)

中国の軍事力増強の実態をどう解釈すべきなのか。
アメリカ政府の調査や国防総省の報告を基礎に論考を続けます。

アメリカ政府の国防総省がまた「中国の軍事力」という年次報告書を発表した。五月二十五日のことである。


中国の軍事力の動向はアメリカの国家安全保障や対外関係にとって重要であり、潜在的な脅威ともなっているため、政府は毎年、その実態を調査した結果を文字どおり「中国の軍事力」というタイトルの報告書にまとめ、議会に送ることになっている。実際には国防総省が報告書を作成して、一般に公表すると同時に連邦議会へと送付する。その作成と公表、送付は法律で義務づけられている。この行政府と立法府が一体となっての取り組みにも、アメリカ側が中国の軍事動向に対し懸念を抱きながら、真剣に眺めていることが表れている。


さて結論を先に書けば、この報告書は中国が依然、大規模な軍事力の増強と拡大を続け、新たなハイテクを駆使する兵器の分野でも軍拡を始めるようになったことを詳しく伝えている。しかもなんのための軍事力増強なのか、その目的はなんなのか、外部からはまったく不明であり、単に台湾攻略に限らず、アジアの制覇とかアメリカへの正面からの挑戦とも受け取れる。

そうした中国の軍拡は当然ながら至近距離に位置する日本にとっても重大な脅威の影を投げかけるということにもなる。


ロバート・ゲーツ国防長官は同報告書の公表の前日の五月二十四日、記者会見して、この報告書が伝える中国の軍事力の現状について語った。

「この報告書は自国の資源の重要部分を軍事力に投入し、きわめて高性能の能力を開発している国の現状を描写している。その国、つまり中国の軍事脅威について決して誇張しているわけではない」


ちなみに昨年の「中国の軍事力」報告書は中国軍の戦略核ミサイルや中距離弾道ミサイルの増強、潜水艦や戦闘機の増強を指摘して、「アジア地域で行動する各国の近代的軍隊にとって実体のある脅威となる潜在性がある」と警告するとともに、「中国の指導者たちは自国の軍事拡張の目的を適切に説明していない」として透明性の欠落をも批判していた。


 この中国の軍拡はアメリカ側の今年の報告書でもさらに継続し、その内容は従来よりも高度となった、と指摘されるのである。

 

そもそも中国側でも今年三月の全国人民代表大会(全人代)の開催に合わせて二〇〇七年度の国防費を大幅に増額したことを公式発表した。中国は一九八九年以来、毎年、国防費を前年とのパーセント比で二ケタという増加を重ねてきたが、二〇〇七年は前年よりも一七・八パーセント増加と、ここ十年ほどでは最大比率の増額を公表したのだ。ちなみに昨年は一四・七パーセントの増加だった。今年の増額で中国の公式国防予算は三千五百九億元(約五兆二千六百億円)となり、日本の防衛費の約四兆八千億円を初めて上回ることとなったのである。

 

 しかも中国政府が公式に発表するこの国防費は他の国なら必ずそのなかに含む重要な軍事支出を含んでいないことは周知の事実である。

中国当局はロシアなどの外国から購入する兵器類への支出、宇宙の軍事がらみの開発の費用、大陸間弾道弾(ICBM)などの戦略兵器の研究、開発の経費などをいずれも公表分の「国防費」に含めていない。だが現実にはロシア製の戦闘機や潜水艦の継続的な購入、そして配備こそが中国の軍事能力を脅威と呼べる水準にまで高めているのである。
 

 そうした重要な軍事支出を「国防費」とはみなさない中国の特殊な政策に対し米欧の専門家たちは実際の中国の軍事予算は公表「国防費」の三倍から五倍、つまり日本円で年間二十五兆円を超える額だと推定している。その中国が公表分の国防費の大幅増額を発表したことは、全体のトレンドとして実際の軍事費を着実に増やすだけでなく、その増加分を急ペースの右肩上がりにしてきたことの表れだといえる。 

 

では二〇〇七年度「中国の軍事力」報告書の具体的な内容を紹介しよう。まず概略として次のような全体図の特徴づけが記されていた。


▽人民解放軍は自国領内で人海作戦による長期戦あるいは消耗戦を実行する超多数の大部隊からハイテク兵器を保有する敵との短期の集中した戦闘に勝てる近代軍隊への総合的な変革を図っている。


▽遠隔地に軍事力を投入して、戦闘を継続する中国軍の能力は当面のところ限られているが、アメリカと軍事的に競合する最大の潜在能力を有している。中国はアメリカの伝統的な軍事優位をやがては崩してしまう破壊的な軍事テクノロジーをも配備し始めた。


▽中国の短期の焦点としては台湾海峡での軍事有事への準備――米軍の介入という事態をも踏まえて――が軍事近代化計画の主要な動因のようにみえる。だが中国軍の最近の兵器調達や戦略思考を分析すると、中国が台湾制圧の目的を越えて、アジアでの領土や資源をめぐる他の地域紛争に対処できる能力を開発していることが明らかとなる。


▽中国の軍事変革の速度と規模はここ数年、国内軍事産業への資源の投入の拡大や、外国製の高性能兵器の取得の拡大、さらには戦闘部隊の根本的な改革などによって、とくに増大してきた。その中国の軍事能力の拡大は東アジアの軍事バランスを変える主要な要因となってきた。中国軍の戦略的攻撃能力の向上はアジア太平洋を越えた意味合いを持つ。
(つづく)

 

 

中国の動向で日本にとって気になるのは、毒性物質入り産品もともかく、その軍事力の状況です。
中国の軍事力について、最近、かなり長い報告を書きました。
月刊誌のWILL8月号に「米国防総省報告『中国の核』」というタイトルで掲載された論文です。
この論文の内容を紹介し、中国考察の一助にしたいと思います。


中国が総合的なパワーを拡張していることは、疑いの余地がない。中国をきわめて友好的にみる観察者にとっても、中国のパワーが着実かつ大幅に強大となっているという現実は否定のしようがないだろう。日本でもひしひしと実感させられる中国の膨張である。

 一つの国家のパワーといっても多様である。経済のパワー、政治や外交のパワー、文化のパワー、そして軍事パワー・・・・といったなかでも、膨張する国家の周辺諸国にとってまず気がかりなのは軍事パワーだろう。

軍事力は当然ながら多様なパワーのうちでも他の国を物理的に破壊できる。実際に使わなくても、使うぞという脅しの武器になる。しかも強大となる軍事力の実態が秘密のベールにおおわれて、さっぱりわからないとなると、それだけでも周囲に脅威を生む。なぜ軍事力を増強するのか、その意図や目的もわからない。そうなると周辺諸国の懸念はまたいちだんと深刻になる。

中国の軍事力の増強はまさにこうした状況にあるのだといえる。

中国が「軍事力近代化」というスローガンの下、実際にどのように軍拡を進めているのかは、普通の手段ではわからない。

中国の政治・軍事の体制には日本やアメリカという民主主義国家のような透明性がない。

国民が選んだ行政府や立法府の責任者たちが自国の安全保障や軍事についての政策を明らかにし、国民にその賛否を問う、という仕組みは存在しない。国民の意思を反映した基本的な国防策、対外戦略を決め、その概略を明らかにして、軍の規模や能力を決め、新兵器の開発や購入もだいたいは事前に公表していく、というメカニズムは中国には存在しない。民主主義国の透明な軍事態勢は中国にとってはおよそ無縁なのである。

 共産党が独裁の全権を握る中国では軍隊までが国家よりもまず共産党に忠誠を尽くす存在である。中央軍事委員会とか人民解放軍の総参謀部という軍を動かす組織の体系はかなり明確であっても、実際の政策の形成や戦略の履行は、だれが、いつ、どのように決めるか、外部からはまったくわからない。すべて秘密にされているのだ。

 だから隣国の日本の国民にとっては、文字どおり、ある朝、起きてみたら、中国の新型核ミサイルが首都の東京の心臓部にピタリと狙いをつけて、東北部の大連あたりに配備されていた、という事態もありうる。現に中国の中距離ミサイルの一部は明らかに日本の要衝を射程の範囲内におさめている。それでもそうした実態は外部からは普通の方法ではうかがい知るすべもない。

 このため中国のような秘密国家の軍事動向は特別な方法で情報を収集せざるをえなくなってくる。この種の情報収集をもっとも活発に、もっとも大きな規模で年来、実行しているのがアメリカである。そうした情報を集める能力というのも、じつは超大国の要件の一部だいえるだろう。

アメリカはふだんから中国の内部の軍事動向に対し、はるか上空の軌道を回る人工衛星で偵察している。そのほかに大型の偵察機を中国領空への至近距離で飛ばせ、中国内部の動きを衛星に限らない種々の偵察方法で捕捉する。国防総省の直属の防衛情報局(DIA)や陸海空三軍の情報収集機関、さらには中央情報局(CIA)がそのために活動している。

アメリカ政府はそのうえに国家安全保障局(NSA)によって中国のような秘密国家やその他の潜在敵性国家、脅威国家の内部での動向を追っている。NSAは諸外国の各種の通信傍受が主要な任務である。中国に対しての場合でも人民解放軍の総参謀部から各地の軍管区司令部に発せられた命令類を傍受し、解読する。無線でも、電話でも、ファックスでも、インターネットでも、アメリカの国家安全保障にとって意味があるとみなしたあらゆる通信をキャッチして、その内容をつかもうとしているのだ。
(つづく)

 

アメリカではこのところさまざまな中国産品に有害物質が含まれたり、重大な欠陥があることが判明し、発売禁止や輸入禁止の緊急措置があいついでとられています。

Made in China」という言葉はいまやアメリカ全体に少なくとも深刻な心配、多くの場合はパニックとか恐怖を引き起こし始めた、といっても誇張ではありません。この事態はアメリカの中国との貿易全体に影響を及ぼすとともに、グローバルゼーションという概念をも再考を余儀なくしています。

 最近の実例を以下に具体的に列記しましょう。

▽6月1日、アメリカ政府の食品医薬品局(FDA)は米国内3カ所で有毒化学物質ジエチレングリコールを含んだ中国製の歯みがきが発見された、と発表した。この有毒物質は甘いシロップ状で、子どもや、腎臓・肝臓に疾患のある成人に有害となりうるという。 そんな恐怖の歯みがきが発見されたのは、ロサンゼルス、プエルトリコ、マイアミの3市で、港の積荷だけでなく、小売店の店頭にも置かれていたという。ジエチレングリコールを含んだ歯みがきは中国製とはいえ、「ShiR Fresh Mint Fluoride Paste」などというアメリカ的な商品名がつけられていた。もちろん一挙に押収された。

(中国のジエチレングリコールはつい最近、別なケースで、さらにずっと強烈にアメリカ人の心胆を寒からしめていた。アメリカの至近距離に位置し、経済的、政治的にもきずなの深い中米のパナマで子どもたち100人もが中国製の風邪薬に入っていたジエチレングリコールのために死んだのである) 


▽ワシントン・ポスト4月25日付は「中国の食品への恐怖はいまやペットから人間に及ぶ」という見出しの記事を載せ、中国からの輸入食品への警鐘を打ち鳴らした。 「中国はいまや世界最大の果物と野菜の輸出国となり、アメリカへの農産物輸出だけでも2006年に23億ドルに達した。だが人体に危険な食品が多く、アメリカ食品医薬局は2007年2月だけでも、殺虫剤の付着した豆、禁止された人工調味料を使った白桃、サルモネラ菌のついたコショウ、汚染された冷凍ザリガニなど、中国からの入荷品合計200荷以上を輸入禁止とした」。 


▽アメリカ政府食品医薬品局(FDA)は六月下旬、中国産のウナギ、エビ、ナマズなど五種類の養殖水産物の輸入を即時、全面禁止とした。これら中国産水産物に発癌性をも有するニトロフランやマラカイトグリーンという有害な化学物質が入っていた。

 

▽FDAは六月下旬、有毒物質のジェチレングリコールを含有した中国製の歯みがきが当初の発表よりずっと多い九十万本(チューブ)以上もアメリカ国内に出回り、公立の病院や刑務所などに配布されていたことを発表し、緊急の回収措置をとった。

 

▽アメリカの大手オモチャ製造企業の「トイザラス」や「RC2コーポレーション」は六月上旬、自社ブランドで販売していた中国製のオモチャの汽車などに規制以上の鉛など有害物質が含まれていることを発見し、数種類の玩具を自主的に大量に回収したことを公表した。

 

▽アメリカ政府運輸省の道路交通安全局(NHTSA)は六月下旬、中国からアメリカ国内に輸入された中国製の自動車タイヤ四十五万本に欠陥があるとして回収命令を出した。小型トラックやSUV(スポーツ多目的車)用のこの中国製タイヤは一般に不可欠とされる粘着ゴム物質が含まれておらず、車の走行中にタイヤが裂ける事故をアメリカ国内でも起していた。

 

▽アメリカの大手菓子類メーカーの「ロバーツ・アメリカン・グルメ」社は七月はじめ、自社が販売するスナック菓子の調味料にサルモネラ菌が入っていることを発見し、自主回収を始めた、と発表した。この調味料の原材料は中国から輸入しており、そのなかにサルモネラ菌が含まれていて、すでにアメリカ国内十七州で五十数人が同菌に感染したという

 

こうした中国からの有害産品の流入に対しアメリカ連邦議会の上下両院で消費者を守るための厳しい対策の実行が叫ばれるようになりました。新しい政府機関を創設して、中国などからの輸入品の品質検査を徹底して実行するという提案も出ました。議員たちはそうした有害製品をアメリカ国内で売る米側企業をも非難しています。

 

中国産の危険な食品などがこうしてアメリカ国内で恐怖の輪を広げるにつれ、アメリカの大手企業自身も防衛対策を講じるようになりました。政府機関に頼る前にみずからの自衛措置をとるという姿勢だといえます。

アメリカのマスコミはそうした大手企業の実例として、食品企業の「ケロッグ」と「ゼネラル・ミルズ」、玩具製造企業の「トイザラス」の三社の最新の動きを報じています。

これら報道によると、「ケロッグ」は最近になって消費者から同社製造の食品に中国製材料を使っているかという問いあわせが急増したこともあって、中国から輸入するビタミン剤、ハチミツ、シナモンなどの質の検査を強化するとともに、外部の調査機関を新たに雇って、中国側の納入企業の実態を調査する措置をとりました。

「ゼネラズ・ミルズ」も自社製品に中国産材料が含まれている場合、従来の安全性検査を大幅に強化するとともに、中国内の納入企業、取引企業を予告なしに視察する新メカニズムを確立することを決めたそうです。

「トイザラス」は製品の安全性確保に使う予算を従来の二五%増加するとともに、外国から調達する原料や材料の質を点検する特別部門を社内に新設して、その道の専門家を社員として採用しました。同時に鉛含有率が過剰で構造的にも鋭角すぎる玩具部品を納入していた中国の企業との取引を即時、解消し、こんごの対応の先例とした、とのことです。


さらにアメリカ側で懸念するのは、中国製の食品添加剤、人工甘味料、防腐剤などです。いずれも最近、輸入量が急増してきました。さらにこれらの添加剤類は多様な食品に使われるので、そのなかに有害物質が含まれていても発見が難しいのです。食品の完成品はアメリカ国内で製造しても、その原料や成分や添加剤が中国で作られ、しかも有害物質がすでに入っているとなれば、アメリカ側で手を打つことはきわめて難しくなるわけです。

アメリカよりももっと大量の中国産品にさらされている日本としても、こうした新しい動向は対岸の火事ではないでしょう。      

 

なお私はこの中国産品の有害性や危険性について日経ビジネスのインターネット・コラムでも詳述しています。 
関心のある方は以下の2つのリンクでみてください。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/52/

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/50/

最近、亡くなった元女優の竹久千恵子さんへの弔意として、一度、彼女の一生の軌跡をここで紹介したいと思っていました。日米関係の激しい揺れ動きのなかで、実に毅然と、悠然と生きた日本女性だと思われるからです。彼女の追悼式がこの6月にワシントン地区で催され、私も出席したことも、千恵子さんの思い出をよみがえらせました。

竹久千恵子という名を聞いても、もう知る人は少ないでしょう。実際のところ私が20年ほど前に聞いても、知らなかったのです。
ところが調べてみると、戦前の日本では竹久千恵子という女優はソ連に逃げた岡田嘉子と並び称されるほど有名だったことがすぐわかりました。戦後も舞台劇やNHKクイズ番組に定期出演していました。しかし戦後の早い時期にアメリカ人の夫と3人の息子とともに日本を離れてしまったため、その後、日本側で話題になることが少なかった元スターです。

竹久千恵子が出演した映画には下記があります。
「恋愛都市・東京」 
「只野凡児・人生勉強」
「アルプス大将」
「坊ちゃん」
「絹の泥靴」
「旧恋」
「魔術の女王」
「兄いもうと」                
「花火の街」 
なお追記ですが、竹久千恵子さんの生涯を書いた本があります。
香取俊介著の『モダンガールーー竹久千恵子という女優がいた』(筑摩書房、1996年刊)
その書のカバーが以下の写真です。
竹久千恵子の出演した映画のリストを続けます。

「地熱」
「日本女性読本」
「禍福」
「山茶花街道」
「月下の若武者」
「浪人吹雪」
「女の教室」
「愛の設計」
「光と影」
「多甚古村」
「遥かなる弟」
「愛の素顔」
「太陽の都」
「馬」
「伊那の勘太郎」
「歌へ! 太陽」
「明日を創る人々」
「花嫁さんは世界一」

1930年代から50年代、つまり戦争をはさんで、昭和10年代から昭和30年代までの長い時期の活躍でした。

竹久千恵子さんは日米開戦の直前、人気絶頂だったころに最初に日本を離れ、日系アメリカ人のクラーク・カワカミ氏とワシントンで新婚生活を始めました。しかし日本軍の真珠湾の攻撃で、苦慮の末、夫と別れ、日米交換船に乗って、日本へ帰り、女優生活にもどります。
クラーク氏は米陸軍将校としてビルマ戦線で日本軍と戦い、マッカーサー元帥のスタッフにまでなって、占領軍の一員として東京にきます。そして必死で千恵子さんを探して、改めて結婚生活を始めました。

私が千恵子さんの存在を知ったのはクラーク氏の父親、河上清氏の一生を「嵐に書く」というノンフィクションで書いたからです。
河上清氏は日本の社会主義運動の草分けとされる人物の一人です。萬朝報の記者として、幸徳秋水らとともに言論活動を展開し、やがて日本初の社会主義政党を旗揚げします。しかし当局に弾圧され、逃げるようにアメリカに渡りました。ちょうど日露戦争の直前でした。
河上清氏は驚くべきことに、わずか数年後からアメリカの論壇でK.K. Kawakami として著作を発表するようになったのです。それ以後の何十年もの間、日米開戦まで河上氏はアメリカの言論やマスコミの主舞台で活動を続けました。

その河上清氏の数奇な一生をたどるうちに千恵子さんの華麗な一生がクロスオーバーされてきたわけです。千恵子さんからは何度も何度も直接に話しを聞きました。千恵子さんの一生も日米関係そのものを反映したような激動の軌跡だと感じさせられたものでした。しかしその激動を強く、たくましく、美しく生きた日本女性のすばらしい魅力を体現した人だとも感じたものでした。

その千恵子さんが昨年9月に亡くなり、この6月にワシントン郊外の墓地で追悼の集いが開かれたのです。
改めてご冥福をお祈りします。

以下に関連の記事2本を紹介します。
  

【外信コラム】ポトマック通信 日米の激動に生きて

2006年09月21日 産経新聞 東京朝刊 国際面

 未明の電話はハワイからだった。

 「デービッド・カワカミです。母の千恵子が亡くなりました」

 河上千恵子さんの10数年前の元気な様子がすぐに思い浮かんだ。

 彼女は芸名を竹久千恵子という1930年代に有名な女優だった。映画に舞台に大活躍し、私生活も自由奔放だった。だが日米混血のジャーナリスト、クラーク・カワカミ氏と恋におち、戦雲急を告げる太平洋を渡って同氏の実家があるワシントンにひとまず居を定めた。

 ところがすぐに日米開戦となる。千恵子さんは「本当に日本人の血がさわぎ」、新婚4カ月の夫を残して、交換船で日本にもどってしまう。そして戦後に占領軍将校として来日した夫と再会した。

 彼女のそんな数奇な人生を知ったのはクラーク氏の父の河上清氏の一生を「嵐に書く」というノンフィクションとして書いたからだった。河上氏は日本の社会主義運動の草分けで、明治時代に米国にわたり、米国の論壇で言論人として堂々と活躍した。

 千恵子さんに初めて会ったのは20数年前だった。以来、ワシントンや東京で何度も顔を合わせた。最後は10年ほど前、ワシントンで夕食をともにし、彼女があまりに元気にあまりに明るく話すので、こちらが圧倒されたほどだった。日米両国間の激動に一時は翻弄されたような彼女も94歳の最後はハワイで米国人の子や孫たちに囲まれての静かな旅立ちだったという。(古森義久) 


ポトマック通信】女優・千恵子の別れ 

 緑の芝生が広がる純粋なアメリカふうの墓地に仏教の読経と焼香の香が流れるのは、奇妙に新鮮だった。ワシントン郊外の墓地で9日に催されたチエコ・カワカミさんの追悼式だった。昨年9月、94歳で亡くなった彼女は戦前から戦後の早い時期にかけて日本で女優の竹久千恵子として活躍した。

 芝生に埋め込まれたカワカミ家の墓碑の脇にテントがはられ、長男クリス、2男クラーク、3男デービッドと、その妻や子供たちが並び、故人の思い出を語りあった。ハワイの長男の家で最期を迎えた千恵子さんはワシントンの在住が長く、夫の墓のあるこの墓地での追悼となったという。

 夫クラーク・カワカミ氏の父、河上清氏の生涯を「嵐に書く」というノンフィクションとして書いたことで私は千恵子さんを知った。日米両国で何度も顔を合わせ、話を聞いた。

 追悼式ではデービッド氏がこんな母の思い出を語った。

 「母は1959年ごろ私たち息子3人を連れて東京に滞在したとき、買い物をしすぎておカネがなくなったのです。すると、『ちょっと待っててね』と私たちを親類にあずけ、数日間、留守にしました。急に映画に出て、資金を稼いできたのだと後でわかりました。それが母の最後の映画となりました」

 この映画は新藤兼人監督の「花嫁さんは世界一」だったという。(古森義久)

(2007/06/19 07:53)

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