アメリカ大統領選挙戦の公式の幕開けであるアイオワ州での党員大会が1月3日に催されました。アメリカ国民が実際に票を投じるという意味で、このアイオワ州の党員集会が第1の公式選挙行事です。

結果は周知のように、民主党側では第1位がバラク・オバマ上院議員で、得票率は38%、第2位はジョン・エドワーズ前上院議員で30%、そして全国レベルで本命中の本命扱いされてきたヒラリー・クリントン上院議員は第3位で29%となりました。
共和党側ではマイク・ハッカビー前アーカンソー州知事が1位で34%、ミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事が第2位で26%,フレッド・トンプソン前上院議員が第3位で13%という結果でした。
       オバマ氏                                      ハッカビー氏

このオバマ、ハッカビー両候補の首位獲得という結果については、私はいささかの満足を感じています。いまから3週間ほど前に、今回の勝者のオバマ、ハッカビー両候補の人気急上昇について詳しく報じていたからです。アメリカ有権者の動きをわりに正確に測定していたといえましょうか(少なくとも今回は)

その測定の報道は次のような見出しになっていました。
内容は下記のリンクえで全文、読めます。

<<民主党オバマ、共和党ハッカビーの人気が急上昇
          国際問題評論家 古森 義久氏
                     2007年12月18日>>
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/64/

アイオワでの最大のニュースはなんといっても「本命・ヒラリー」の敗退です。
民主党側ではどの候補をも圧倒的に上回る資金、要員をオハイオ州に投入して、ものすごい選挙運動を展開していたのに、オバマ候補に9ポイントも差をつけられて、負けました。

ヒラリーの敗因としては次のような要素があげられます。

(1)対抗馬のオバマ候補の有権者全体への魅力が予想以上に強力であり、一般へのアピールが広範であり、普遍性があることが判明した。

(2)クリントン候補自身の対決調の態度、過激な政策などへの有権者への反発が予想以上に強いことが判明した。

(3)アメリカの民主党傾斜の大手マスコミの報道がそもそもクリントン候補への支持をこめて、同候補の「人気」を過大に報道してきたことが判明した。

もちろんアイオワ州の結果だけで、こんごの選挙の展望が決まるわけではありません。しかしクリントン候補が第3位となって敗れるというのは、意外でした。これまでの「本命」「無敵」「圧倒優位」というイメージは一挙に崩れたといえましょう。

このクリントン候補の敗北の最大要因が対抗馬のオバマ候補が予想外の強みを発揮したわけですが、「なぜヒラリーは敗れたか」という問いへの答えとしては、まずオバマ候補の魅力を改めて認識することが正しいようです。

以下に私が上記の報告で書いた「オバマ人気の急上昇」のついて書いた解説の要旨を紹介します。

 <<クリントン退潮はオバマ人気伸張と表裏一体となっている。その象徴の一つは、テレビ界で絶大な人気と知名度を誇る黒人女性司会者のオプラ・ウィンフリーさんが12月上旬、オバマ支持を打ち出したことだろう。 

 オプラといえば全米で知らない人間がいないほどのこのカリスマ司会者は、53歳で、視聴者平均900万近くの定番のプログラムを持ち、長年、活躍を続けてきた。このオプラさんがオバマ候補の演説集会などに連続して顔をみせ、同候補への強い支持を表明したのだ。しかも各候補にとっての目前のテスト舞台であるアイオワ州やニューハンプシャー州にまで足を運んでのオバマ支援だった。 

 オプラさんの動きは最近、全米の黒人たちの間で表面に出てきた「ヒラリー離れ」の一端だともされる。これまで黒人は同じ黒人のオバマ候補への支持表明を差し控える傾向があった。この傾向はオバマ候補の electability(当選可能性)に対する悲観的な認識の結果だった。 

 オバマ上院議員がいかに優秀で、魅力的な政治家であっても、いまの米国社会はまだ黒人を大統領に選ぶほどは寛容ではない。だからオバマ候補には本番選挙で選ばれる可能性、つまり electability がない。こんな認識が黒人たちの間で強かったのである。その結果、黒人多数派の支持はクリントン候補に向けられてきた。 

 ところがここへきて、「いや、オバマ候補も本番選挙で勝つ可能性はある」とする認識が広がってきたようなのだ。 

 実際にオバマ候補の演説やキャンペーン活動をみていると、彼の政治家としての魅力が単に黒人や少数民族、あるいは貧困という層を超えて、一般米国人の心の琴線に響くという感じが分かってくる。特にクリントン候補とは対照的に、穏健で、柔和で、癒やしなのである。他の候補やブッシュ大統領に対しても、オバマ候補は他の民主党候補が使うような激烈な非難の言葉を使わない。あくまでソフトな語調で、温和な内容で、異見を述べていく、という感じなのである。 

 オバマ候補のそんな側面をみると、なるほど、この政治家には黒人や白人の壁を越えて、米国一般の広い対象にアピールする資質があるようだ、と思わされる。その一方で、クリントン候補の激しい対決調の口調や態度、切りつけるような他者の非難に反発する有権者が確実に増えた、ともされている。 

 こうしたオバマ候補の人気の急上昇と、クリントン候補の支持率の降下とが、大統領選挙の民主党側の構図を大きく変えつつある、といえるようなのである。 >>