2008年02月

中国はアメリカに対してはふだんは友好的な姿勢をみせています。
アメリカ側も表面では中国との協力関係の重要性を強調します。
とくにブッシュ政権自体は中国を正面から糾弾することを避ける傾向があります。
そのへんの表面の政治景観から日本の一部などでは「アメリカは日本を捨てて、中国に接近している」という「観測」が語られたりします。

しかし現実には米中両国間には政治的な価値観の対立、軍事面での競合などからの基本的なミゾが存在します。その面では米中両国の間には衝突や摩擦はごく普通という領域があるのです。この現実を認識しておくことは欠かせません。

そうした米中両国間の厳しい現実をときおり映し出すのが中国のアメリカに対するスパイ行為の表面化です。この2月11日にも米国の司法当局は中国のスパイ事件2件を明らかにしました。

その2件を伝えた産経新聞2月13日朝刊の記事は以下のとおりです。

FBI、中国スパイ2件摘発 米で軍事情報盗む


  【ワシントン=山本秀也】米連邦捜査局(FBI)は11日、中国による米国の軍事機密スパイ事件を2件同時に摘発し、買収された国防総省の分析官1人を含む計4人を逮捕した。このうち、ボーイング社の中国系元技師が関与した事件では、同社が開発した超大型ロケット「デルタ4型」や、スペースシャトルなど米国の宇宙航空技術に関する情報も中国に引き渡されていた。

 米国の軍事機密を狙った中国のスパイ活動は、米側の監視強化のなかでも新たな事件が後を絶たない「モグラたたき」の状態となっている。

 司法省当局者は、「外国スパイの深刻な脅威は冷戦後も去っていない」として、懸念を強めている。

 宇宙航空技術を盗んでいたのは、カリフォルニア州ロサンゼルス在住のチュン・トンファン容疑者(72)。同容疑者は、勤務していた米国の技術会社がボーイング社に合併され、嘱託期間を含めて2006年まで同社の宇宙航空部門に勤めた。

 司法省によると、チュン容疑者は、B1爆撃機、C17輸送機など軍用機に関するマニュアルや技術情報のほか、デルタ4ロケットなど宇宙航空技術の情報を中国の宇宙航空部門などに渡していた疑い。中国側からの接触は、米中国交樹立直後の1979年ごろから始まっていた。

 デルタ4は米国が保有するロケットでは搭載能力が最大。スペースシャトルについては、香港の中国系紙「文匯報」が04年9月、中国が2020年をメドに中国版スペースシャトルを開発すると伝えていた。

 もう一つの事件は、国防総省の兵装システム分析官、グレッグ・バーガーセン容疑者(51)が、ルイジアナ州ニューオーリンズ在住の中国系ビジネスマン、クオ・タイシェン容疑者(58)に買収され、台湾に供与される米国製兵器の情報を渡していた疑い。

 この事件は、非中国系の米国人現職官僚が買収されて中国に情報を流しためずらしいケース。クオ容疑者と中国当局の連絡役を務めた中国国籍のカン・ユイシン容疑者(33)も逮捕された。FBIは、中国側で広東省方面を拠点とした情報機関員の存在を把握している。 


さてこうした具体的な事件の背景としては、中国の対米諜報活動一般に対して、アメリカ議会で1月末に開かれた公聴会でも、警告が発せられていました。産経新聞2月4日朝刊の記事からです。



「中国のスパイ活動、最も攻撃的」米下院司法委公聴会

 【ワシントン=古森義久】米国下院司法委員会の小委員会が開いた米国に対するスパイ活動に関する公聴会で、米中関係研究の議会諮問委員会代表が、中国による米国軍事関連技術を盗むスパイ活動が米国の安全保障技術への主要な脅威であり、その活動は各国中でも最も攻勢的だと証言した。

 同司法委員会の「犯罪・テロ・国土安全保障に関する小委員会」は1月29日、「連邦スパイ法の施行」という題の公聴会を開き、ブッシュ政権の高官や民間専門家の証言を聞いた。米国に対するスパイ活動一般とそれに対する防止策についての各証言の中で議会政策諮問機関の「米中経済安保調査委員会」のラリー・ウォーツェル委員長は、中国の対米スパイ活動を米国に対する各国の同活動でも「最も攻勢的で米国軍事関連技術への主要な脅威」として位置づけ、その実態に関して証言した。

 同委員長は自らが米陸軍の中国専門家として長年、中国の諜報(ちょうほう)・スパイ活動を専門に研究してきた経歴を基に、(1)中国は1986年3月に「863計画」と呼ぶ高度技術の総合的開発計画を決め、バイオ宇宙、レーザー、情報、オートメーションなどの技術の外部からの取得を国家政策として決めた(2)その一環として制限された外国の技術は産業スパイなど秘密や違法の手段でも取得する方針が決められ、実行されている(3)米側は中国のその種のスパイ活動にかかわる国家機関として国家安全部、人民解放軍諜報部など少なくとも7組織を認定している-などと証言した。

 ウォーツェル委員長は中国がこうして取得した高度技術が中国軍の「近代化」を推進していると強調し、最近の具体例として2006年にカリフォルニア州で有罪判決を受けた中国系一家5人のケースをあげ、高度技術の訓練を受けた同5人が米側の官民の軍事関連技術を違法に取得して中国の広州の中山大学研究所を経由して中国当局に送っていた実態を明らかにした。

 同委員長はこの一家が中国当局からとくに優先して取得することを指令されていた項目として(1)海上電磁傍受システム(2)宇宙発射磁気浮揚台(3)電磁砲システム(4)潜水艦魚雷(5)空母電子システム(6)水上ジェット推進(7)潜水艦推進(8)核攻撃防衛技術(9)米海軍次世代駆逐艦-などを指摘した。

 同委員長は中国のこうしたスパイ活動への対策として司法、立法の両面で取り締まりを強化することを訴えた。

 
 
South Sea Fleet Frigate No. 567, Xiangfan: This Jiangwei II class frigate is the second PLA Navy ship to participate in Singapore痴 bi-annual IMDEX naval technology show. Source: RD Fisher

上記は中国海軍の新鋭のフリゲート艦の写真です。
中国の軍拡のほんの一端ですが、この種の兵器の性能向上のためにも、中国当局はアメリカから軍事関連の情報を違法、合法を問わず、必死に収集している、というわけです。 

さて中国のこうしたスパイ活動はわが日本に対してはどうなのでしょうか。

 

アメリカ大統領選挙でジョン・マケイン上院議員が共和党側の指名候補となることが事実上、決まってしまいました。
スーパーチューズデー共和党の指名争いで二番手についていたミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事が撤退を言明したことがその直接の原因です。


マケイン議員の人となりや政策、思考については、日本でこれまであまり知られてこなかったようです。たまたま私は「ベトナム」という共通項などから、マケイン氏に早くから接する機会を得て、マケイン氏の外交一般に関する考えや、日本、日米同盟に対する政策についても、聞くことがありました。

マケイン氏の日本に関する知識や友好姿勢は想像以上だといえます。
そのへんのこれまでのマケイン氏の軌跡について産経新聞2月9日朝刊に書きました。
マケイン氏は日米同盟の強化を提唱するとともに、日本が自国の防衛をも強化し、国際的な安全保障面でも積極的に活動することを奨めていました。日本が安全保障面での自縄自縛を捨てて、他の国家並みに防衛努力をすることを訴えていました。いわば「普通の国」への薦め、ということでしょう。

マケイン氏の日本や日米同盟についての発言は他のところでもレポートとして発表しました。以下のサイトです。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/68/

また産経新聞で報じた内容は以下のとおりです。

緯度経度】ワシントン・古森義久 マケイン氏 日本観の軌跡 

           米国大統領選の共和党指名候補には事実上、ジョン・マケイン上院議員が確        定してしまったようだ。 

 マケイン議員といえば、ベトナムについて熱をこめて話してくれたことをまず思いだす。私がワシントン特派員として二度目の赴任をしてまもなくの1989年秋ごろからのことだった。マケイン氏もその2年前に上院議員になったばかりだったが、ベトナム戦争中に5年半も捕虜となり、北ベトナム側のあの手この手のむごい尋問にも屈しなかったことで「戦争ヒーロー」として知られていた。

 私自身もベトナムで4年近くを過ごしていたのでマケイン議員にベトナムについての見解を聞く会見を申し込んだ。すぐ応じてくれて、こちらが驚くほど時間をたっぷりかけ、ベトナム戦争の「大義」などを語った。以後、何度も会見には応じてくれた。その過程でマケイン議員は日本や日米同盟にも強い関心を抱いていることがわかった。

 当時のマケイン氏が述べた日本観や日米同盟観からすれば、今回の大統領選で発表した外交政策での日本に関する見解もごく自然にみえる。安倍晋三前首相の推進した「価値観外交」や「自由と繁栄の弧」への賛同、そして日米同盟の強化も、マケイン氏のそのころ主張と同じ範疇(はんちゅう)といえそうなのだ。

 当時、上院軍事委員会のメンバーとして活動していたマケイン氏は、日米貿易摩擦が激化するなかで米国議会にあいついで出された日本を標的とする一連の貿易関連法案にはすべて反対していた。自衛隊のFSX(次期支援戦闘機)の問題でも、議会の対日強硬派による「日本たたき」の動きを厳しく非難していた。その理由は明らかに安全保障面での米国にとっての日本の効用を重視するからだった。

 ソ連共産党体制の崩壊が明白となった1990年6月、日本側の一部に「ソ連の軍事脅威がなくなれば、米国は日米安保条約を必要としなくなる」という観測が生まれたことを提起すると、マケイン議員は次のように答えものだった。

 「ソ連の脅威が減っても、なくなっても、米国の政権は共和党、民主党の別なく日米安全保障の利害合致の基本的枠組みは絶対に保持すべきだと考えるだろう。議会の貿易問題での対日強硬派でさえ『日米安保は要らない』という意見はまったく持っていない」

 「アジアにはソ連の脅威以外にも日米防衛協力を必要とする不安定や変動の要因が多い。中東やペルシャ湾での異変、朝鮮半島の危機、そして中国の動向などがそれだ」

 だからマケイン議員は日本に対し日米同盟の強化策としての防衛の増強や負担の増加を強く求めた。このころ日本に在日米軍経費の全額を負担することを要求する法案を提出していた。イラクのフセイン政権のクウェート軍事占領への対抗策としての米国主導の湾岸戦争が起きると、マケイン議員は日本の具体的な貢献を求め、なんの行動もとらない日本を激しく批判した。

 「フセインの侵略を阻止する必要は欧州の同盟国も、ソ連も、アラブ諸国も認識し、米国の行動への支援を明確にしているのに、日本だけがその決意が不明だ。日本政府の形だけの支援表明は世界中の軽蔑(けいべつ)と、米国の敵愾(てきがい)心の対象以外のなにものでもない」

 「日本が米国の友邦であること、世界各国との経済的相互依存を続けることを欲するならば、国際国家にふさわしい姿勢をとらねばならない。世界でも最も柔軟な憲法の陰に逃げこんだり、少数の海運労働者の抗議を口実にしたりして、なんの行動をとらないままでいることはもうできない」

 このへんの日本への期待表明となると、「穏健派」という描写が当てはまるとは思えない。

 しかし、当時も日本が防衛力強化の措置をとることや、自衛隊を海外に送り出すことには、「軍国主義の復活」という類の反対論が日米両国の一部にあった。

この点にはマケイン氏は次のように答えていた。

 「日本の軍事大国化説や軍国主義復活説には根拠がない。むしろ逆に私は日本の消極的平和主義の方が問題だと思っている」

 この言葉は当時もいまも、ニューヨーク・タイムズの日本論評社説に象徴されるような日本不信や日本警戒の路線とはコントラストを描く。日本は日米同盟の強化にも、自国の「普通の安全保障」の整備にも、国際社会への安保貢献にも、もっと具体的な行動をとってほしい、という思考だろう。

 もし日本がこうした期待に応じられないという場合のマケイン議員の批判はきっとまた鋭く、険しい言辞となるだろう。「穏健」というイメージとはおよそ異なる姿勢が予測されるのである。

 




2月5日にアメリカ合計24州で実施された大統領選挙の予備選では、まず共和党側でジョン・マケイン上院議員が同党の指名獲得を確実としました。この時点まで激しく競いあってきたミット・ロムニー、マイク・ハッカビー両候補を各州の代議員獲得数では大きく上回り、共和党全国大会での実際の投票を待たずに、同党の指名候補になるという展望を確実にしてしまったわけです。



5日深夜の指名への「勝利演説」でマケイン議員は自分自身を「つい最近までの負け犬(アンダードッグ)」と評し、「やっと後ろから他の候補たちに追いついた」と語りました。自分自身への支持も「thick and thin」(濃かったり、薄かったり)と表現し、聴衆の爆笑を誘っていました。
Cindy McCain

マケイン氏の大統領選への出馬は、それほど波乱に満ちていたのです。数ヶ月前には共和党内でも、一般有権者の間でも、支持率がどんどん落ちて、もう選挙戦から脱落するとまで観測されていました。
その同じマケイン氏がなぜいま事実上の共和党の最終候補となってしまったのでしょうか。

第一にはマケイン人気を低くしていたイラクでのテロ攻撃がすっかり減ってしまったことでしょう。
マケイン氏はイラクのサダム・フセイン政権を軍事手段で打倒することを強く主張してきました。米軍がフセイン政権を打倒し、アルカーイダのテロ攻撃や各宗派間の軍事衝突が激しくなってからは、米軍の増派をこれまたきわめて強く、明確に、主張しました。
この主張は皮肉ではなく、ブッシュ大統領より強いくらいでした。
この米軍増派の結果、イラクでのテロ勢力は大きな打撃を受け、テロ攻撃が大幅に減ったことは周知の事実です。宗派間の争いもスンニ派の米軍への協力で、すっかり少なくなりました。少なくとも当面はマケイン氏の主張が正しかったという状況が生まれているのです。

第二には、共和党の他候補たちが一般選挙での知名度や魅力に欠けるということでしょう。
多数の候補がひしめいた共和党の指名争いで、最後まで残ってきたロムニー、ハッカビー両候補とも、保守正統派とはいえ、一般へのアピールに欠けるところがあります。
ロムニー氏はモルモン教徒、ハッカビー氏はバプティストの宣教師と、宗教色が強く、
共和党内の保守主流派には受けても、同じ党内の中道派、穏健派にはアピールが弱くなります。まして共和党以外の無所属層、中立層への魅力はさらに少ないでしょう。
しかしマケイン候補はこの点、知名度が高く、無所属層やリベラル派の一部にさえ、かなりアピールできる魅力を有しているといえます。だから単にロムニー、ハッカビー両候補よりはずっとまし、という要因があったということなのです。

第三には、民主党側の最終候補がヒラリー・クリントン上院議員になる可能性ということでしょう。
クリントン候補はオバマ候補に支持率で肉薄されているとはいえ、なお民主党側の最有力候補です。クリントン候補が最終的に民主党の指名を獲得した場合、共和党側としては、やはり全米的に広く知られたマケイン氏のような候補が必要になるでしょう。
ロムニー、ハッカビー両氏というような、保守主義のお墨付きこそあるけれども、一般からは過激すぎる保守とみなされがちな候補では、クリントン候補には歯が立ちません。
その点、マケイン氏は保守色が濃くない一般層にもアピールする魅力を持っています。
能力はきわめて高いとはいえ、アクが強く、反発する人の多いクリントン候補に対しては、マケイン氏のような大ベテランの政治家をぶつけることが効果的だ、というわけです。

まあ、ざっと、こんな理由でしょうか。
なおマケイン氏がずっと長い年月、同じ共和党内でも保守本流、超保守とされる勢力からは蛇蝎のごとくに嫌われてきた原因や、その最近の変化などを説明した私の産経新聞記事を以下に紹介しておきます。


米大統領選 共和党保守主流派→軟化 マケイン氏に追い風
2008年02月03日 産経新聞 東京朝刊 国際面

 【ワシントン=古森義久】米大統領選の共和党側の指名争いでジョン・マケイン上院議員が先頭に立つにつれ、同議員に反対してきた共和党内の保守主流派の動きが改めて複雑な様相を呈してきた。マケイン氏は防衛や外交で強固な保守の姿勢を保つ一方、内政、社会の諸課題ではリベラルに近い立場をとってきたことが共和党内に屈折した反発を生んできたからだ。

 マケイン氏は共和党の有力上院議員として外交や安全保障では防衛力の増強や同盟関係の重視、民主主義の拡大など保守主義的政策を一貫して主張してきた。イラク問題ではブッシュ大統領よりも強くフセイン政権への軍事攻撃を唱え、米軍の増派を求めた。

 しかしその一方、内政や社会の諸問題への立場表明では共和党内の保守派から「保守主義に反する」として激しく非難されてきた。

 マケイン氏はブッシュ大統領の減税案に2001年と03年の2度も反対し、同性結婚を禁止する憲法修正案にも反対した。02年には選挙資金規制で民主党のファインゴールド上院議員とともに共和党支持の大企業の献金を制約する新法を成立させ、05年には移民問題でも違法入国者の永住を認める法案を民主党リベラル派のテッド・ケネディ上院議員と共同で提案して、保守主流の怒りをかった。

 マケイン氏はブッシュ大統領が任命した最高裁判事に「保守的すぎる」として反対したこともある。こうした反保守、リベラル傾斜のスタンスは00年の大統領選キャンペーンで同氏が現大統領のブッシュ氏を激しく非難したことと相乗して、保守陣営に強い反感を生んできた。

 例えば保守の女性政治評論家として全米で知名度の高いアン・コールター氏は「マケイン氏は政策的には(民主党の)ヒラリー・クリントン(上院議員)と変わらない。私はマケイン対ヒラリーならヒラリーに投票する」とまで言明した。

 しかしここ数日、マケイン氏がカリフォルニア州のシュワルツェネッガー知事やフロリダ州選出のマルティネス上院議員ら共和党の中道派やリベラル傾斜派からの幅広い支持を得るにいたり、保守本流でもマケイン氏について「基本政策は保守だといえる」(政治評論家ショーン・ハナディ氏)とか「税制について正しい路線を歩み出した」(保守運動指導者グローバー・ノーキスト氏)という声も出るようになった。その背後には共和党側が団結しないと本選挙で民主党候補に負けるという意識があるといえる。

 マケイン氏本人も「保守」の過去の実績を強調し、リベラルとみなされる主張を再度釈明して、後退させるようになるとともに、昨年は参加を拒否した「保守政治行動会議」の2月7日からの年次総会に出席する意向も表明した。


中国製のギョーザに農薬のような毒が混入していたという事件は日本国内にパニックを引き起こすだけでなく、国際的にも波紋を広げています。

朝日新聞は2月1日の社説でこの事件に対し「食の安全に国境はない」と論じています。日本という国家の外部から内部へ毒性物質が入ってくるのを防ぐために国境で阻止するという常識的な対策に水をかけるような見出しの主張です。
さすが「国家」とか「日本」という概念が嫌いな朝日新聞、と皮肉りたくなります。

中国製の産品の害毒や欠陥はもうすでに日本でもアメリカでも、さんざんに恐怖や懸念を生んでいます。アメリカではそうした危険な中国産品がいかに国内市場に入らないようにするか、国をあげての厳しい対策を講じています。他の先進諸国も同様です。

兵庫の毒ギョーザのパッケージに小さな穴

段ボール肉まん騒ぎ終息も…中華街や旅行社に暗雲

そもそも自分の国に外部の他の国から危険な品物が侵入してくれば、その侵入を防ぐための策を講じるというのが普通の反応です。
外国での伝染病を考えれば、その論理は簡明です。
危険な伝染病が日本に入らないようにする。このことに全力を挙げるのが日本政府の責務でしょう。日本国民の生命や安全、健康を守ることは、日本政府の基本的な義務です。そもそも政府というのは、そういう目的や責任のためにこそ存在するのです。

外国からの伝染病が入りそうな場合に、その伝染病が日本国内、つまり自国内に入りこまないようにすることが、とくに日本に限らず、どこの主権国家の政府にとっても、自明の最優先措置でしょう。
もしも政府が「まず第一には、その伝染病が起きた外国に注意や努力を向け、その外国での伝染病を撲滅するように努めるべきだ」と主張したら、どうでしょうか。その政府の態度は少なくとも自国民の安全という観点からは、まったく奇異であり、無責任でしょう。

しかし朝日新聞は上記の社説でそんな奇異な主張をしていました。

「中国製ギョーザ 食の安全に国境はない」

この「食の安全に国境はない」という言葉に注目してください。
文字どおりに読めば、日本が日本の国境を重視して、国外からの危険な物品の流入を防ぐという当然の措置をないがしろにする意味あいがすぐに伝わってきます。
国境にこだわるな。国と国の垣根や違いには意味がない。
こんな意図の主張だといえます。

この奇妙な社説の内容の主要部分を紹介します。

「中国製の食品や製品は安全面で問題が多いと、これまでにもたびたび指摘されてきた。日本では冷凍野菜から残留農薬が見つかったり、ウナギ加工品から抗菌剤が検出されたりした。おもちゃや練り歯磨き、ペットフードなどをめぐる問題も各国で相次いでいる」

以上は客観的な記述として、まあ問題はないでしょう。中国の危険な産品が世界各国でぞっとするような災禍をもたらしていることは周知の事実です。毒性「咳止め」薬では死者100数十人まで出しているのです。

ではその被害を受けうる各国はどうすれば、よいのか。
まず第一には、そうした危険な産品を自国内に入れないようにすることでしょう。ところが朝日新聞のこの社説は対策部分の冒頭で以下のように書きます。

「グローバル化した時代には、食べ物や製品は世界を駆けめぐる。安全問題の影響は生産国だけに留まらない」
「(日本)政府は中国政府と協力して原因を究明する方針だ。農薬がどこでなぜ混入したのか。できるだけ早く突き止め、徹底した再発防止策をとってほしい」

つまり日本政府が中国内部で起きていることに対し、中国政府に協力して、『再発防止策』をとれ、と主張しているのです。
この順序はおかしいですね。
中国の食べ物や製品が世界を駆けめぐるから、日本の政府は毒性産品の日本国内への侵入を阻止するよりも、まず中国内部での生産活動に介入して、『徹底した再発防止策』をとるべきだ、と主張するのです。

中国での毒性産品の出現は一工場や一地方の特異現象ではありません。中国の政治体制や経済体制、そして社会の価値観までがからんだ国がらみの現象なのです。
それに対し、朝日新聞は日本政府が中国政府と協力して、再発防止策をとれ、と求めるのです。日本の国民を外部からの危険から守ることよりも、外国に存在するその危険をなくすよう外国の政府に協力せよ、と主張するのです。

朝日新聞はアメリカのBSE(牛海線状脳症)問題が起きたときは、アメリカの牛肉の全面輸入禁止を強硬に主張しました。日本政府に対して、アメリカ政府と協力し、アメリカ国内で『徹底した再発防止策』をとれ、などとは、ツユほども主張しませんでした。それが相手が中国となると、とたんに日本という国家の枠の保持、国境の厳守を薄める形で、「食の安全に国境はない」と断言するのです。
この主張を文字どおりに受け取れば、中国産品は自由に日本国内に入ってくるので、日本側としてはその締め出しなど図ってはならない、という意味にもなりかねません。

食の安全に国境はある――のです。

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