2008年03月

朝日新聞がまた「日本」を忌避し、「日本の国家」や「日本の国益」を悪者扱いしています。
テーマはNHKの国際放送のあり方について、です。

要するに朝日新聞はNHKが海外向けの放送で、日本としての主張をしてはいけない、というのです。
日本の国益を守る主張もしてはダメだというのです。
日本を非難する側、日本を敵視する側の主張をまずきちんと伝えろ、というのです。
あるいは国連の主張が日本の主張よりも優先されるべきだ、というのです。

まさに朝日新聞は「日本」という概念が嫌いのようです。
日本という国家も、その政府も、日本国民の代表機関であるという民主主義の基本、さらには主権在民の原則、あるいは国民国家の主権を認めていないようです。
朝日新聞は日本に関しては、国家や政府は国民とは別の場に立ち、国民の意思を表さず、国民をむしろ抑圧する存在であるかのようにとらえているのです。

しかし現実の民主主義システムでは、国家とは国民の集合体であり、政府とは少なくとも国民多数派の公的代表なのです。「国家は人民を抑圧する機関」だというのは、マルクス主義者の主張でしたが、いまの朝日の主張もそれに似ています。

まず論を進める前に、朝日新聞のこうした年来の志向の背景を詳しく報告した書があるので、自己宣伝も兼ねて、紹介しておきます。
朝日新聞の大研究―国際報道から安全保障・歴史認識まで


では今回の朝日新聞の「日本の国益」忌避について述べましょう。
まず最初は3月25日付朝刊の記事でした。その見出しは以下のようでした。

「国際放送で国益主張を」 古森委員長、執行部に NHK経営委

この「古森委員長」とは、NHK経営委員会の古森重隆委員長(冨士フィルムホールディングス社長)のことです。
たまたま私と同姓ですが、まったくの偶然であり、なんの縁も関係もありません。

記事の要旨は以下のとおりです。

「古森委員長は3月11日の経営委員会で、NHKの海外向け国際放送では『利害が対立する問題については日本の国益を主張すべきだ』と話した」

「同国際番組基準では従来、『国際連合憲章の精神を尊重』とあったのを『日本国憲法および国際連合憲章の精神を尊重』と改定する提案があった」

「古森委員長は『国連憲章には日本などを対象とした敵国条項が入っている。国連憲章の部分については一般的な言葉に変えるべきだ』と発言し、さらに『不偏不党と放送法に書いてあるが、国際放送では各国とも国益を主張する中で国内放送のように満遍なく意見を伝えるという話ではすまない』と主張した」

「古森委員長は『利害が対立する問題については当然、日本の国益を主張すべきだ。日本の意見の発信は覚悟を決めてやらないといけない』とも語った」

さて、以上はいずれも、まともな、国際規範にも沿った常識論ですね。

ところが朝日新聞は以上の古森委員長の見解に対し、すべてけしからんという論陣をはるのです。
まず上記の記事のなかに上智大学の音好宏教授の談として「国営放送的なものに耳を傾ける人は少ない」とか「公正中立なニュース提供が報道への信頼と日本の民主主義の成熟を示すことになる」という意見を入れています。

朝日新聞はそして3月26日の社説で古森委員長をヒステリックに叩きました。

「NHK委員長 国の宣伝機関にするのか」という見出しです。

この表現の大前提には、日本の国家や政府の主張は単なる「宣伝」だという虚構の前提があります。民主主義の原則に従い、日本国民自身が選んだ日本の国家の枠組み、および政府の機構が日本国民の意思や感情を体現しているという現実を一切、否定しています。
もちろん国家や政府の主張がすべて国民多数の意思ではない。しかしそうあることを目ざす公的機構である基本は揺るぎません。

朝日新聞社説は以下のようにも述べます。

「公共放送であるNHKは、国民から集める受信料で運営される。国家権力からの独立を保障し、さまざまな情報を多角的に伝えるための仕組みである。ここが政府の宣伝機関とは決定的に異なる」

さあ、上記の記述でも、おなじみ「政府や国家は国民とは対立状態にある権力なのだ」という前提があります。
実際には国家とは国民の集まりなのです。国民の意思で動きます。民主主義ではそうなのです。しかし朝日はそれを認めません。
朝日流に従うと、政府の発言はすべて「宣伝」であり、政府の発言を伝えれば、それは「宣伝機関」になる。
ところが現実には民主主義国家の政府の発言は対外的には通常は国民(集合体)の発言です。日本の放送局が日本の国民の主張を外国に伝えても、それは「宣伝」だから、いけないというのでしょうか。
では朝日新聞は自分たちの偏った政治主張は宣伝ではないのでしょうね。

朝日社説は次のようにも述べます。
「(海外向けの放送が)日本の政府の主張だけを色濃く反映していたとしたら、だれがその報道を信じるだろうか。日本とは利害が反する国の主張も公正に伝えてこそ、その放送には権威あるものと認められる」

上記の主張も欠陥と偏向だらけです。

日本の海外放送が日本の主張を入れれば、信頼を失う、という暴論です。
現実はむしろ逆でしょう。どの国の海外放送もその国の実態を反映しています。官民を問わず、対外発信では自国の主張を述べています。とくに「報道」ではなく、「解説」とか「訴え」「分析」という方法もあります。

しかもどのメディアでも発する内容は客観性を目ざす「報道」と、主観が入る「論評」とに分けられています。朝日新聞でも、社説では自社の左傾斜の主張を毎日、述べているではないですか。だから左翼の宣伝機関だなんて、失礼な言葉は使いませんが。
NHKにしても国際番組で日本側の主張と、そうでない単なるニュース報道と分けることは簡単なはずです。というよりも、自然に区分されているでしょう。

メディアが外国へのメッセージで自国の主張や事情を伝えると、対外的に信頼を失うというのは、おかしな理屈です。北京放送が中国の主張を伝え、平壌放送が北朝鮮の主張を伝えても、両国が独裁国家であっても、その放送がその国の主張を正確に表明しているという点では放送メディア自体への信頼が失われることはないでしょう。

朝日新聞のこの主張に従えば、日本固有の領土である尖閣諸島も竹島も、NHKでは日本の領土として扱ってはならないことになります。「日本の尖閣諸島」という言葉自体が「日本政府の宣伝」となり、利害の反する中国や韓国がそれらの日本領土を中国領、韓国領と主張していることを、どちらが正しいとも決めずに「公正に伝える」ことになるわけですね。

朝日の理屈では、海外での日本国民の生命や財産を守るという日本国家としての最低限の責務も、NHKでそれを主張することは「宣伝機関」になるから、よくないということになります。
要するに朝日の同社説には、朝日新聞自体を含めて、NHKが日本国のメディア、しかも国民の資金で運営される公的機関だという認識がゼロなのです。「日本」という概念の否定とさえいえるでしょう。

朝日新聞の社説はNHKが日本の国益に沿った放送をすることにも難色をつけています。以下のように述べます。
「(古森委員長の国益に関しての発言について)何が日本の国民にとっての利益になるかは、幅広い論議と慎重な吟味が必要だ。政府と異なる考えが国益にかなうこともある。政府の見解を放送すれば国益にかなうと古森氏が考えているとしたら、あまりに短絡的だといわざるをえない」

国民にとっての利益が国益です。国民の代表である国家や政府はその代弁をしているわけです(何度も繰り返しますが)。日本人拉致被害者の安全確保や帰国を求めることはまちがなく「国益」でしょう。「幅広い論議と慎重な吟味」が必要でしょうか。尖閣諸島が日本領土だと主張することも、「政府と異なる考えが国益にかなう」のでしょうか。
政府が主張する国益は日本のように民主主義国家では国民多数の求める、最大公約数としての国益です。どんな課題でもどこかには異論はあるでしょう。その異論の存在のために国民多数派の意見は対外的に表明してはならない、というのが朝日新聞の社説でもあるのです。

まあ、あまり長いのも退屈でしょう。
あとは読者の方々の判断に任せましょう。

なお朝日新聞は従来の手法だと、この次は古森重隆委員長への個人的な非難を打ち上げてくるはずです。やがては辞任要求というシナリオですね。

中国当局によるチベット人の抗議運動への弾圧の波紋はさらに全世界に広がっているようです。国際社会ではその余波の第一として8月に予定された北京五輪への影響が語られています。

なおチベットでの出来事が米中関係全体に与える影響については、別なところに詳しいレポートを書きました。関心のある方は読んでください。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/71/

さて、チベット弾圧と北京五輪について述べるならば、これほどの人権蹂躙をする国家が主催するオリンピックに他国のスポーツ選手や一般国民は喜々として参加してよいのかどうか、というのがまず最大の疑問でしょう。ボイコットすべきか否か、という議論です。

しかしその一方、ボイコット論とは別に、今回のチベット民族に加えられた弾圧、その結果としてのチベット側の悲劇や惨劇は、北京五輪の性格をいやでも変えてしまう、という指摘があります。いまの「チベットと北京五輪」という課題をユニークな視点から考える思考だといえます。

その典型がワシントン・ポスト3月26日付の社説で表明されました。
「恥のオリンピック」という見出しです。
「中国は五輪を弾圧の飾り窓に変えてしまう危機を冒しつつある」という副見出しが内容を総括しています。

その社説の要点を以下に紹介します。

「中国共産党の指導者たちは北京五輪を自国のグローバルパワーとしてのデビューに使おうとしているが、いまやこの五輪は警察国家以上にはなれない政権による暴力的な弾圧、言論検閲、政治迫害などのショーケースになってしましそうになった」

「胡錦濤主席らの指導部は自分たちを改革主義者として誇示したいようだが、自分たちが実際に追求する政策が五輪主催の栄誉をいかに侵し、中国の国際イメージをいかに壊しているかを理解できないようだ」

「中国当局はチベット弾圧の以前から『北京五輪前の調和』の名の下に、自国内の法律家や反政府活動家を拘束し、出版物を差し押さえていた。中国当局は北京五輪開催の条件としてマスコミ規制の緩和を国際的に公約したのに、外国メディアのチベット関連取材を禁じ、天安門広場からの中継放送さえも禁止した」

「チベット弾圧は別にしても、中国政府は全世界でも最も犯罪的な政権への支援をやめていない。大量虐殺を支持するスーダンやビルマの残酷な軍事政権を助け、スターリン主義的な独裁の北朝鮮政権を支援し、国連の決議を無視して核武装に走るイランの政権への国際制裁を阻止する。とくに北朝鮮の政権は核兵器の申告や破棄という誓約を守っていないのに、中国はそれを支えているのだ」

「不運にも、中国指導部はブッシュ大統領を含む西側諸国の指導者たちにより、こうした政策を保ちながら、なお北京五輪を成功裏に主催できる、と思わされているようだ。フランスのサルコジ大統領は北京五輪開会式のボイコットの可能性を排さないという。だがブッシュ大統領は『スポーツ・フアン』として北京五輪に出席するという間違った言明を変えていない。ブッシュ大統領の開会式出席の計画は胡主席らに対し、反政府活動家を勝手に逮捕しても、チベット人僧侶を虐待しても、五輪の政治的イベントにはなんの影響もない、というメッセージを送ることになるのだ」

「ブッシュ大統領が出席してもしなくても、北京五輪は全世界に対して、中国の大国ぶりだけでなく、自国民の自由の否定の継続、少数民族の弾圧、無法国家との異様な連帯などを改めて明示することになるだろう。ブッシュ大統領は胡主席に対し、主席の政策がオリンピックを政治的に毒性のある行事に変えてしまうことを告げるべきだ」


さてそのチベット人への弾圧に関して、チベット側から迫真の写真が公開されました。
四川省のアバ県というところのチベット人居住区で3月16日に起きた弾圧事件の写真だそうです。
以下はそのうちの「残酷性の少ない」写真です。

 










なおこの事件の写真は以下のサイトに多数、掲載されています。
その多くは目をおおうような残酷な映像です。
その旨の事前の警告がそのサイトに明記されています。
ごらんになる方はそのことを事前にご承知ください。
http://www.freetibet.org/press/kirtiphotos.html

日本人であれば、日本の言語や文化を自分の子孫に受け継いでいかせようと考えるのは自然でしょう。日本国内で暮らしていれば、そんな自明なことには考えをいたらせもしないでしょう。

しかし日本人が海外に長く住んだ場合は事情は複雑です。
アメリカにも日本人の長期在住者は永住、定住を含めて40万近くいるそうです。
そういう人たちは自分の子供に「日本」をどう教えるのか。どう継がせるのか。難題です。いくら個人の問題、私的な課題だといっても、なお日本人全体にとっての真剣な関心事である「日本のアイデンティティー」がからんできます。

そんなテーマを考えさせられる機会がありました。
ことは柔道の山下泰裕氏のワシントン来訪が契機でした。
山下氏は日本国外務省の公式招待でアメリカを訪れました。

まず私が書いた記事を紹介します。

【あめりかノート】ワシントン駐在編集特別委員・古森義久
2008年03月24日 産経新聞 東京朝刊 1面

 ■「日本の継承」にも希望

 柔道の山下泰裕さんが2月下旬、ワシントンを訪れた際、「ワシントン日本語継承センター」に招かれた。小講堂のマットでまず同行した東海大学柔道部出身の一流選手3人が実技を披露した。鋭い投げ技に受け手の体が宙に舞う。ぎっしりと床に座った50人ほどの子供たちがそのたびに、「おっ!」とどよめく。

 この日本語学校は日本に必ず帰る駐在員たちの子弟用とは異なり、米国定住の日本人や両親の一方が日本人の子供たちが主対象である。

 山下さんはそんな生徒たちに「柔道の心」にからめて「日本の礼節や思いやり」を平易な日本語で語った。「オリンピックで優勝し、君が代を聞き、日の丸をみたときが一番うれしかった」という結びの講演だった。そして質問を求めると、いかにも米国らしく数本の手がすぐ上がった。

 「柔道は合気道や剣道とはどう違うんですか」

 指さされた少女がよどみのない日本語で問うた。ポニーテールの金髪、外見に「日本」の形跡はいささかもない子だった。山下さんもびっくりしたらしく、「ウーン、いい質問ですね」と数瞬、詰まってから答え始めた。

 日本とはまったく無縁にみえる平均ふう米国人少女がなぜ完璧な日本語を話すのか。あとで本人に尋ねてみた。

 「あたしは東京の杉並区立馬橋小学校に4年まで通っていました」

 ミケラ・ブリンスリーさん、10歳だという。8歳の妹サラさんがそばにいて、同様に自然な日本語を話した。

 機会を改め、姉妹の一家から話を聞くと、このユニークな現象の由来が判明した。

 姉妹の父ジョンさんは昨年秋まで約5年、経済メディアのブルームバーグ社東京支局の次長兼記者だった。以前にも合計6年、英語教師や特派員として滞日し、日本語を学び、合気道に励んだ体験から子供たちには日本の教育を望んだ。妻のカタランさんも「子供たちが日本に何年も住みながら日本の教育を受けないのはもったいないと考えた」という。その結果、娘たちは阿佐ヶ谷幼稚園から馬橋小学校に通い、アメリカンスクールとは無縁に終わった。

 ジョンさんは「私が好きになった日本の文化や社会のすぐれた面を子供たちにも学んでほしかった」という。日本はこの米人一家にはそれほどの魅力を発揮し、しかも失望させなかったということだろう。ジョンさんにすれば、「わが内なる日本」のまさに継承だともいえる。

 「継承センター」も自らの日本へのアイデンティティーを日本語の教育で子供に受け継がせようという日本人が主体で開設された。椿谷茂校長とともに5年前に発起人となった越谷直弘、恵子夫妻は「将来、日本国民にはならないだろう子供たちにも日本語を継承させるために、まず楽しい教育に努めることが方針」と語る。とはいえ、「日本の継承」は「日本の国際化」にくらべ、まずハイライトを浴びない。

 だが山下さんらが「継承センター」を去るとき、生徒たちがさっと起立して、代表が「ではわたしたちからのプレゼントです」と述べた。そしてみんなが君が代を斉唱した。ミケラさん姉妹も山下さんもいっしょに歌っていた。日本の継承にも希望があるな、とふっと感じた。 


不鮮明ですが、上は山下泰裕氏が「ワシントン日本語継承センター」で2月23日に生徒たちに講演をしている風景です。

下の写真はこの「継承センター」の教室の情景です。
中央の大人の男性が校長の椿谷茂さんです。そのすぐ右が日本語を完璧に話すミケラさんです。



この下の写真は今回、全米の児童の「日本語年賀状」コンクールで優勝したエミリーさん(左)とミケラさんの妹のサラさんです。サラさんも馬橋小学校に通い、きれいな日本語を日本人少女たちと同じような流暢さで話します。



下はエミリーさんが日本語年賀状コンクール優勝の表彰状を掲げた写真です。
後ろにいるのは山下泰裕氏の助手として来訪した東海大学柔道部の稲葉将太(左)、紫牟田武徳両選手です。


アメリカ政府の国務省がこのところ多方面から激しい非難を浴びています。
国務省の言動には奇妙、奇異、堕落と呼べるようなケースが多いからです。

最も顕著なのはチベット民族を弾圧している中国政府に対し「人権状況は改善された」という判定を下したことです。国務省はチベットでの流血の大弾圧が始まる直前に、中国を「人権侵害国」の年次リストから外してしまいました。中国政府の最近の人権政策を前向きに評価したということです。年次リストから外すことは賞賛と皮肉られても仕方ないでしょう。
その直後にまさに大規模な「人権侵害」事件が起きて、全世界が中国当局を激しく糾弾されるようになった経緯は周知のとおりです。

ワシントンでも、このため国務省は多方面から激しい批判を浴びるようになりました。
コンドリーザ・ライス長官(下の写真)も非難の的となっています。
これほどの人権弾圧を断行する中国政府をなぜ「人権状況改善」とみなすことができるのか、という批判です。大手新聞の論説もこぞって、この国務省の判断ミスを非難しました。議会でも共和、民主の党派の別なく、議員たちからの国務省非難が次々に表明されています。ライス長官ら国務省幹部はこのミスを認めて、謝罪しています。

Secretary of State Condoleezza Rice

アメリカ議会の国務省批判の代表例は以下に紹介する下院外交委員会の有力メンバーの声明です。

[ワシントン=古森義久]

米国議会下院外交委員会の共和党筆頭メンバーのイリーナ・ロスレイティネン議員は18日、中国のチベットでの住民や僧侶の弾圧を非難するとともに、米国務省が2008年度の世界人権報告書の「人権侵害国」の指定リストから中国を外したことを批判した。

 同議員は中国政府がチベット住民の基本的人権弾圧していると抗議する声明を出し、「中国当局がこの種の弾圧を続ければ、北京オリンピックの開催に悪影響が出る」と警告した。

 同議員はさらに米国務省が世界人権状況の年次報告書2008年版を11日に発表した際、「世界でも最も組織的な人権侵害国」としてこれまで北朝鮮やミャンマー、中国など合計10カ国を指定したのに対し、今年は中国を排したことを指摘し、

「この排除は間違いだった」と非難した。国務省は中国の最近の労働者への待遇改善などを理由に指定を外す措置をとっていた。しかしその直後に中国政府によるチベットでの大規模な弾圧が起きており、国務省は期せずして、判断のミスを証する形となっていた。

 ロスレイティネン議員はこの声明で「米国民は中国当局の法輪功への弾圧やチベット民族、ウイグル民族への人権の抑圧などに対し深刻な懸念を抱いている」とも述べた。

  
以上が記事の引用です。

この3月21日にもライス長官はまたまた謝罪の意を表明していました。
国務省の一部職員がいま大統領選挙に名乗りをあげるヒラリー・クリントン、バラク・オバマ、ジョン・マケインの3候補のパスポート申請書類を違法に読んでいた、というのです。
国務省当局はすぐにこの「ミス」を認めて、その職員たちを処分しました。各候補の申請書類に記された個人情報はプライベートの情報として内密にされねばなりません。ところがそれをその書類を管理する国務省の職員たちがこっそりみていたことは、動機は不明にせよ、犯罪行為に近い行動です。 
考えられる動機としては、もちろん選挙戦での争いの材料になるネガティブな事実が旅券申請書に書かれているかどうかを探そうとしたことでしょう。

ライス国務長官は3月11日付のワシントン・ポスト社説でも正面から非難されました。
見出しは「ライス女史の後退」、そして副見出しには「かつてエジプトの改革を主唱した国務長官がいまやアメリカの援助につけた人権保護上の制約を放棄した」と書かれていました。
エジプトにも人権侵害があり、アメリカ政府は2003年にエジプトに与える軍事援助のうち1億3000万ドル分をエジプト政府が反政府系のジャーナリストを不当に逮捕したとして凍結させました。
抗議の意図です。
ところがエジプト政府がこの種の言論弾圧をやめていないのに、アメリカ国務省は従来の「凍結」部分を解除してしまったというのです。
ワシントン・ポストはその解除の措置をライス長官への公開質問状のような形で非難しました。

さらに日本にとって重要なのは国務省がライス長官、クリス・ヒル次官補(下の写真)の主導で北朝鮮に対する宥和政策を進めていることです。
国務省首脳は北朝鮮が核兵器放棄の問題で「申告」をすれば、すぐにでも北朝鮮を「テロ支援国家」のリストから外すと言明しています。かつてのブッシュ政権の首脳は「北朝鮮の日本国民拉致事件が解決されない限り、テロ支援国家の指定を解除しない」と何度も言明していたのです。それが豹変してしまったのです。
このことも前述のロスレイティネン議員やジョン・ボルトン前国連大使が非難を続けています。

こうしたアメリカ国務省のこのところの言動や判断はアメリカ国内でも愚弄の的に近くなっています。つい、「国務省、ご乱心?」と、問いたくなるような現状です。

Picture of Christopher R. Hill









アメリカ大統領選挙のバラク・オバマ候補は黒人でありながら、これまで黒人であることを正面から問われませんでした。人種問題について正面からの議論を求められたり、問われたりすることも、ありませんでした。
自分の演説で再三、述べてきたように、「黒人とか白人という区別を越え」という次元で支持を集めてきた、という感じだったのです。

それがここにきて、突然、奇妙な形で、黒人であることや人種問題への自分の見解を述べざるをえなくなりました。
オバマ氏がこれまで拠点としてきたシカゴの黒人キリスト教会のジャレマイア・ライト牧師が過激な反米、反白人の演説を定期的にしていることが判明したのです。オバマ候補はライト牧師を子供のころからよく知っていて、もう20年もその説教を聞いてきた、というのです。

しかし、それにしてもライト牧師の発言は過激です。

「アメリカに呪いあれ!」

「アメリカは人種差別の国だ!」

「アメリカはウソをつく!」

「ルーズベルト大統領は日本のパールハーバー攻撃を知っていた」

ライト牧師はこんな言葉を連発してきました。
オバマ氏は同牧師を師と仰ぎ、毎週の日曜日の礼拝と説教のために同牧師の教会に出かけていました。
当然、このライト牧師とのつながりを説明しなくてはならないようになりました。

18日、人種問題で演説をするオバマ氏。

さあオバマ氏のこの過激派牧師とのきずなが全米に広く知られると、同氏への支持はかなり激しく落ちました。
ライト牧師の一連の過激なアメリカ弾劾演説がいっせいに報道されたのが3月14日の金曜日、その後の24時間でオバマ氏への全米50%の支持率が一気に44%にまで下がりました。逆にヒラリー・クリントン候補は42%から45%近くにまであがったそうです。

                                ライト牧師(右)と並ぶオバマ候補
Obamaembraceswright










Obama Race Speech: Read The Full Text                      

遊説中のオバマ氏。

さてオバマ氏は3月18日夕方、選挙運動先のフィラデルフィアで、ついに人種を主題に演説をしました。ライト牧師については長年、教えをうけたことに感謝する一方、同牧師がときおり口にするアメリカ糾弾の言葉には同調しない旨を明確に示しました。

以上の演説はなかなか立派でした。
しかしオバマ氏はここにきて、メディアからも批判的な扱いを受けるようになりました。
さあ、この変化がオバマ氏にとっての危機なのか。
行方が注視されるところです。

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