2008年06月

 ドイツでの中国についての講演の内容紹介を続けます。
 今回の部分は中国側の日本や日本人に対するネガティブな態度について、です。
 
 文中に私の著書のカバーを載せたのは、その部分で言及する諸課題について、それぞれの拙著で詳述しているからです。さらに深い関心のある方は本をご覧ください。

なお中国関連では北京オリンピックについて別のサイトに報告を書きました。
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/78/
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「中国人は日本が好きではない」というような、短絡で総括的な表現にはもちろん気をつけねばなりません。

 私の2年間の中国在住体験でも、中国の人たちとの友好的な交流は多々ありました。人間としてすばらしいと思える中国の人たちとも多く知り合いました。

 個人のレベル、私的な次元での日中間の人間同士のなごやかなつきあいは無数にあるでしょう。
日本に挑む中国 「いまそこにある危機」とは何か

しかしそれでもなお中国全体、中国人全体となると、日本はやはりネガティブな心情の対象だといわざるをえません。

 民間のインターネット論壇では常に日本を非難するようなサイトが多々あります。

 インターネットでの意見の表明には鋭いチェックの目を向ける中国当局も日本非難にはきわめて寛容です。

 中国官営のメディアには日本を好意的に描く記事類はまず掲載されません。

 逆に「日本に軍国主義復活の兆し」というような記事がいまもごく普通です。

 国営テレビのドラマも日本の侵略や残虐を主題にした内容がなお主流です。

 商業広告で日章旗のデザインをあしらった服装をした中国人女優は、そのことだけで一般からの激しい糾弾を浴びました。

 中国国内で開かれるスポーツの国際大会では日本チームは常に中国人観衆の一方的な罵声を浴びます。

 サッカーのアジア大会の北京での試合では日本チームは観客のののしりで試合後もバス車内に長時間、閉じ込められました。その間、日本の国旗が焼かれました。

 

共産党への挑戦や批判を許さない中国の政治体制では、草の根から発生する政治的な集会やデモは一般に厳しく抑制されています。

 しかし日本非難のデモだけは例外的に当局が寛容さをみせます。
奨励する場合もあります。

 2005年4月末に日本の国連安保理理事国入りの試みへの反対を最大理由として起きた日本への抗議デモは、北京、上海、成都(
Chengdu,広州(Guangzhou)など合計10の主要都市でほぼ同時に起きました。

 いずれも数千から1万以上の参加者があり、日本の外交公館や商店、レストランを破壊しました。

 明らかに当局の認知を得ていたといえます。

 そもそも中国からみて日本側の言動にどうしても気に入らない、許せないということがあれば、すぐに半官製のこの種のデモや抗議集会が組織され、日章旗が焼かれ、日本商店が破壊されるのです。
中国「反日」の虚妄 (文春文庫 こ 37-2)

 

 こうした日本叩きの遠い原因はやはり日本の戦争行動でしょう。

 日本の政府も民間も「過去の間違い」は認めています。

 しかし中国側では戦後60年以上が過ぎたいまも、日本の侵略や残虐を強調する教育が小学校から大学まで集中的に実施され、教師向けの指導要領では「日本への怒りと憎しみを忘れさせないこと」を求めています。

 しかも戦後の日本の平和主義的志向や対中友好の姿勢はまったくなにも教えていません。

 

中国各地には日本軍の残虐を訴える博物館、展示館が無数にあります。

 日本政府からの30年にわたる中国への経済援助さえも一般中国国民にはほとんど知らされることはありませんでした。

 日本への世論や感情の背後には明らかに中国当局の政治的意図が浮かびあがっています。

 その結果、生まれる中国側の反日感情については、ニューヨーク・タイムズの著名な中国専門家のコラムニスト、ニコラス・クリストフ(
Nicholas Kristof)記者などが「危険であり、日中関係を不健全にする」と再三、警告し、中国側の政策の変更を訴えています。

(つづく)
「日中友好」のまぼろし

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ドイツでの中国についての講演の紹介を続けます。

今回は日中間での経済のきずなの広がりにもかかわらず、2006年ごろからは日本の中国への直接投資ががっくりと減ってきたことを指摘し、その理由は中国側の大規模な反日デモと関係があるのかどうか、疑問の提起と解明です。

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 しかしそれでもなお、中国全体としては経済の高度成長を毎年、続けています。

nアメリカ側には中国の統計自体に疑問を呈する学者たちもいますが、年間9%以上という高い成長率は全世界から注視されています。

 賞賛さえされます。経済面ではいまの中国は全世界にとっての大きな魅力であり、プリマドンナだといえます。

 ダイナミックな中国経済へのかかわりは日本の企業にも必須とされ、現在では大小合わせて約1万の日本企業が中国になんらかの拠点をおいています。

 中国在住の日本人も約10万、アメリカ在住の34万には及ばないとはいえ、相当な数となっています。

 

 このように日中両国の経済関与は急速に高まり、中国で生産活動をするための日本からの直接投資も近年、着実に増えてきました。

 その業種は繊維、電機、機械、自動車、食品などの製造業の多彩な分野にわたります。

 この対中投資は日本全体の海外投資ではなお6%ほどとはいえ、その伸びは顕著でした。

 ところが2005年には実行額で65億ドルだった新規の年間対中投資は2006年には45億ドル、2007年には37億ドルへと大幅な減少を示しました。

 37億ドルというのは10年前の1998年ごろの日本からの年間の対中投資額の水準です。

 最近2年ほどのこの大幅な投資の減少が単に一時的な増減の結果なのか。それとも新しい傾向の始まりなのか。まだ即断はできません。

 しかしこの転換点となった2006年というのは、先にお話しした大規模な反日デモが中国各地で吹き荒れた年のすぐ翌年です。
中国反日デモ

このデモが果たして日本の対中投資の大幅減の原因なのかどうか、これまた即断はできません。

 しかしこの暴力的なデモが象徴した中国側の日本への態度が日本側の中国への経済関与の努力にこれまで影を投げてきたし、これからもそうであろうことは日中関係の悲しい現実として認めざるをえません。

 日本の企業も中国側の対日感情はいつも気にかけて、細心の注意を向けています。

 中国国民一般の日本への認識は明らかにネガティブだからです。中国社会では日本や日本人は好かれていない対象なのです。
(つづく)

 

日中関係では話題になりにくい中国の軍拡の近況です。

「中国が核戦力増強」 米サイバー攻撃も懸念
2008年06月27日 産経新聞 東京朝刊 国際面


 【ワシントン=古森義久】米国防総省のジェームズ・シン次官補(アジア太平洋安全保障問題担当)は25日の下院軍事委員会公聴会で中国の安全保障状況について証言し、中国が軍事態勢を不透明にしたまま、米国本土を攻撃できる核戦力の増強やサイバー攻撃の強化などを続けているとして懸念を表明した。

 シン次官補は米国政府が中国との安保関係でも建設的な関与を保ちながらも、中国の実際の軍事動向に懸念を抱いているとして、中国側は、

 (1)実際の軍事費の半分以下の額しか公表せず、不透明な軍事態勢を変えていない(2008年の公表額は580億ドルだが、外国からの新鋭兵器調達、核戦力の研究開発、軍事汎用技術の開発などの費用を含めておらず、実際の軍事費は年間1390億ドルにも達する)

 (2)核・非核両面での各種兵器を大幅に増強している(米国本土に届く大陸間弾道核ミサイルのDF31の性能をあげ、基数を増す一方、潜水艦の増強は空母の開発をも進めている)

 (3)軍のソフト、ハード両面での能力増強を進め、とくに人事の改善や訓練の強化を図っている(軍の指揮系統、兵站、通信などのシステムと要員の強化により事実上の臨戦態勢を固めている)

 (4)宇宙軍事化、サイバー攻撃の能力増強などにより通常の規範を逸脱する非対称作戦を構想している(米国の国防総省を含む政府機関や防衛関連の研究所のコンピューター・システムに中国内部からのサイバー攻撃がかけられ、すでに侵入されている)-

 ―ことなどを証言した。

 シン次官補は中国側のこうした活発で野心的な軍事強化策の結果、

 (1)台湾と中国の軍事力比較が中国側に有利に大きく傾き始めた

 (2)アジア地域の駐留米軍と米国の同盟諸国の軍隊が脅威と危険にさらされる

 (3)中国にとって軍事力強化により対外戦略のオプションが増した-―

 こと―などを指摘し、米側も対抗策が必要だと強調した。

 シン次官補は対抗策としては米国が

 (1)情報収集能力を高め、中国側の軍事面での能力や意図をより正確に知る

 (2)米軍も装備の改善などにより能力を高める

 (3)アジアの同盟諸国との補完や協力を強める

 (4)中国軍との関与の幅を広げる-―

 ―などという方針を明らかにした。


中国人民解放軍の大陸間弾道ミサイルDF31の写真です。

 ドイツでの中国についての講演の紹介を続けます。

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中国当局もこの偽造品、模倣品に対しては取り締まりを宣言しています。

 実際に新たな法律を作り、知的所有権違反への罰則を強化してきました。

 とくに中国が
WTO(世界貿易機関)に2001年に加盟してから、当時の朱鎔基(Zhu Rongji)首相の主導で中央政府は偽造品追放のキャンペーンを大々的に展開しました。

朱首相は状況の改善への真の決意に燃えているようにみえました。


                                         朱鎔基氏

                                                                          朱 鎔基


 しかしホンダが
HONGDAを提訴して勝っても模造品はなお横行し、中央政府がマキタの偽物製造工場を再三、摘発しても、なお偽マキタは減らないのが現実です。

 

その背景には先に申し上げた「法治」の欠陥、そして法律よりも人間同士の関係が効用を発揮する「人治」メカニズムの存在を指摘せざるをえません。

 共産党がすべてを支配する中国では、行政、立法、司法という三権分立のチェック・アンド・バランスの機能も不全です。

 中央政府が法律に基づく命令を出しても地方の共産党委員会や行政当局の幹部がそれを履行しないことも多いのです。

 朱鎔基という人は清廉の定評ある指導者で、官僚の腐敗の追放にも努力しました。乱収費の駆逐にも先頭に立ちました。

 乱収費(
Luan Shou Fei)とは,地方の党や自治体の幹部が外国企業などから不正規に取り立てる資金のことです。

 水利用とか貧困救済という名目で、税金とは別に、豊かと目される外国企業から恣意に徴収される不明朗な資金なのです。


 

偽造品の横行を含めて中国の体制のこうした特徴を正面から指摘する日本側リーダーは少ないですが、アメリカでは率直な発言が多く、たとえば、プリンストン大学の著名な中国研究学者のペリー・リンク(Perry Link)教授は中国社会の法治の不全を「価値観の真空」(Vacuum of Values

と表現しました。

 その原因には固有の文化や習慣とはまた別に、共産主義の規律や秩序が本来イデオロギー的に相反する市場経済や拝金主義の導入によって崩れて、道義や倫理の混乱を生んだこともあげられています。(つづく)

 ペリー・リンク氏
Perry Link
                リンク氏が編纂した話題の書
          The Tiananmen Papers

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日本から中国へのODAはもう終わりを迎えました。
30年にわたり総計3兆円のわれわれ日本国民の税金やその他の公的資金からの貴重な支出でした。

その総括はどうだったのか。
この検討はまた別の機会に試みます。
しか世界一の外貨保有国の中国、他の諸国に巨額の援助与える大国の中国、軍事大国の中国に、わが日本が資金を提供し続けることは、もう意味がない、という点では、日本の政府も国民もほぼコンセンサスに達したようです。

ところが日本の官僚たちが仕切るアジア開発銀行という機関はまるで日本政府の対中援助終了に交替するかのように、巨額の資金を中国に提供し続けています。しかも軍事的効用の高い内陸部の鉄道、道路、空港などの建設への援助が圧倒的に多いのです。その資金の多くの部分は日本国民から出ています。

なぜこんなことが起きるのか。
その実態を産経新聞のコラムに書いたので、紹介しましょう。



【朝刊 国際】
記事情報開始【緯度経度】ワシントン・古森義久 対中援助、アジア開銀の怪

 

 アジアの開発途上国の貧困削減や経済発展を目的とする国際経済援助機関のアジア開発銀行(黒田東彦総裁、本部・マニラ)の運営方針をめぐり、最大の資金供給源である日米両国が正面から衝突する形となった。

 そもそもアジア開発銀行というのは日本の現在の基準からみると、なんとも奇妙な国際機関である。

 日本からの出資金が加盟国でも最大額であることを踏み台に日本の財務省高官たちが枢要ポストに継続的に天下りする。

 だが同じ財務省高官の日銀総裁への天下りにあれだけ反対する野党はなにもいわない。

 その財務省元高官の主導でアジア開銀は中国への援助を続け、内陸部の鉄道、道路、空港という大型インフラの建設に巨額の資金を供する。

 だがその種のインフラ建設援助は日本の外務省が軍事的寄与への懸念などからすでに終結しているのに、なにもいわない。

 世界最大の外貨を保有し、自らも多数の国に援助を与えている中国に日本国民の税金から巨額の経済援助を与えることは不適切だという結論を出した自民党も、この対中援助には無言である。

 かくて財務省元高官たちはアジア開銀を通じ、せっせと対中援助を供し続けるのだ。

 日本はアジア開銀の1966年の設立以来、米国と並んで総資本の16%を出すという枢要な役割を果たしてきた。

 現在の加盟国は67(うちアジア地域が48カ国)だが、総裁は現在の黒田氏が財務省財務官だったように、一貫して引退した日本の財務(旧大蔵)官僚の天下りポストとなり、他の理事とか局長にも財務官僚が数多く就任してきた。

 その結果、「アジア開銀は日本の財務省の物」(世銀の日本人専門職員)と皮肉られるほどの統治度となった。

 この財務官僚主導のアジア開銀が近年、中国への資金援助を急速に増してきた。

  同開銀は1986年に加盟した中国に対し2004年までに借款、贈与、技術援助を合わせて合計185億ドル、この期間の各国への援助全体の15%ほどを供してきた。

 その結果、中国はアジア開銀でも最大の援助受け入れ国となった。

 アジア開銀はさらに中国に2005年から07年まで約50億ドルを供与し、今年からの3年間にまた50億ドルの援助を決めている。  

 これらを合わせると、アジア開銀から中国へのこれまでの援助総額は日本円で2兆8000億円と、日本の30年にわたる対中ODA(政府開発援助)総額の3兆円に近くなる。

 2007年こそ中国への援助額はパキスタン、インドに次ぎ第3位となったが、それでも単年で13億ドルと、全体の13%ほどを占めた。

 アジア開銀のこうした中国傾斜の理由について同開銀の対中援助の実態に詳しいジャーナリストの青木直人氏は語る。

 「従来、財務省高官には米国とは距離をおき、中国と手を組むアジア通貨基金とか東アジア共同体という構想を支持する向きが多かったうえに、中国政府が自国の財務次官をアジア開銀の副総裁に送り込むなどして強力なロビー工作をかけたことが大きい」

 そして青木氏はアジア開銀の援助が日本政府がすでにODAの対象から外すことを決めた中西部のインフラ建設に集中し、しかもチベット人、ウイグル人、モンゴル人ら少数民族の中国側への経済手段での強制同化を推進するプロジェクトが多いとして非難した。

 アジア開銀のこうしたあり方に対し米国代表はこの4月、同開銀の長期援助計画「戦略2020」の承認を拒んだ。

 同開銀は本来の目的である貧困削減に重点を戻すべきで、中国のように市場で資金を十二分に調達できる諸国には援助すべきでない、という考えからの反対だという。

 日本側としてもこのアジア開発銀行のあり方をいまやオール日本で論じるべき時機だろう。

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なおアジア開発銀行の中国密着の実情や、日本の対中援助の歴史に詳しいジャーナリストの青木直人氏の著書の一つが以下です。


中国に喰い潰される日本 チャイナリスクの現場から

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