2008年07月

VOICE掲載の古森論文の紹介を続けます。

今回はとくにチベット問題に関する部分です。

チベット問題で中国政府を非難し、北京オリンピックでもなんらかの行動を起こそうと言明している諸団体のうちの筆頭は国際的に著名な映画スターのリチャード・ギアが理事長を務める組織です。

この団体はなにを計画しているのか。

 

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中国政府の異質性、より具体的にいうならばその弾圧体質を北京オリンピックと結びつけて世界的に期せずしてもっとも強烈に印象づけてしまったのは、チベットでの今年三月の出来事だった。

 チベット民族の独自の宗教や文化、言語などに対する中国政府の苛酷な抑圧に反発した僧侶や住民が抗議行動を起こし、それに対して中国当局は武装警察を動員して、武力鎮圧を断行した。

 その結果、チベット人側には僧侶も含め百数十人ともみられる犠牲者が出た。文字どおりの血なまぐさい大量殺戮だった。

このチベットの弾圧への反発を北京オリンピックに関連づけて中国当局への非難とするという方法はすでに世界各地での聖火リレーへの抗議として実行された。

 長野市で起きた騒ぎもその一部だった。

 このチベット弾圧を原因とする北京オリンピックへの反発はこんごも当然、続くとみるべきだろう。

 その反発の活動の中核になるとみられる組織がいくつかある。

第一は「チベット国際キャンペーン」(ICT)である。

 この国際組織は著名な映画スターのリチャード・ギア氏が理事長となり、熱心に運動を進めていることでも知られている。


 1988年にアメリカで創設されたICTは本部をワシントンにおき、ベルリン、アムステルダム、ブリュッセルなどにオフィスを開いている。

 活動の目的はチベット民族の人権と自由を守ることである。

 そのためにはチベット内部の社会や宗教、人権などの状況を把握し、中国当局から弾圧されて拘留されているチベット人たちの解放を求め、アメリカや欧州の諸国の政府や議会にアピールし、国際社会にも訴えることなどの行動を続けている。

ICTの運営スタッフにはチベット人も多数、加わっており、インドにあるチベット亡命政権やダライ・ラマとの連携も密だとされる。

 ICTは今年3月の中国当局によるチベット民族弾圧の後はとくに激しい中国への抗議の行動を起こした。

 そしてチベットの僧侶たちを殺すような残虐な行動をとる国家が「平和の祭典」であるオリンピックを開催することは不当だと、非難してきた。

 ただしICTはこの春の中国当局による弾圧の前から、北京オリンピックに焦点をしぼり、「北京2008年 チベット競走」と題するキャンペーンを国際的に展開していた。

 このキャンペーンではまず人権弾圧の独裁国家が「平和の祭典」の主催者になるのは不当だとして、各国の指導者に北京オリンピックの開会式をボイコットすることを訴えている。

 その一方、世界各国の幅広い層に、北京のオリンピック会場を訪れ、「チベット競走」を実行せよ、と呼びかける。その呼びかけは次のようである。

 「中国政府にとって北京オリンピックが変化への触媒となるよう叫び続けよう! オリンピックに集まるスポットライトが中国の人権とチベット占領を照らし出すよう活動しよう!」

 「北京に出かけ、オリンピックを契機に北京政府がチベット弾圧をやめるよう訴えよう! 抗議の行進でもよいし、集会でもよいし、自転車競走でもよいし、なにかイベントを催して、中国当局の人権抑圧に抗議しよう!」

 オリンピック開催時に北京にいって、抗議の活動を展開することを具体的に呼びかけているのだ。国際社会に向けて中国政府への大衆抗議行動の「檄」を飛ばしているわけだ。

 しかも北京オリンピックという特別な行事を利用して、ということである。ICTの声明文はただし、開会式へのVIPの出席には反対しても、もはや北京オリンピック自体をボイコットはせず、逆に利用して、中国の人権弾圧を大々的に非難する好機とする、と述べていた。

(つづく)

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 さてVOICE掲載の古森論文の紹介を続けます。
 
 今回は北京オリンピックを機会に中国政府への年来の人権弾圧を非難する「中国人権」という大きな団体の活動についてです。

 なおこの団体は中国当局に対して、天安門事件で弾圧され、なお拘留されたままの活動家たちの解放とか、弾圧で命を失った学生の遺族への謝罪などを求め、非難を続けるという執拗な活動を展開しています。


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この「中国人権」(HRIC)はトップの顔ぶれが示すように、明らかに米中両国だけでなく国際的にも影響力が強い。

 中国国内でも各地に協力者多数を得ていることは確実で、中国当局による具体的な人権弾圧の事例はすぐにHRICによって全世界のマスコミや政府関連機関に報じられる。

 私のところにもほぼ連日、HRICからのメールが入り、その内容はきわめてニュース性にも富んでいる。

 ちなみに六月十四日には、中国の成都でのインターネットを使って人権保護をアピールする中国人活動家の逮捕を詳しく伝えたメッセージが送信されてきた。

 ワシントンに駐在する外国報道陣の一員にすぎない私あてにも連日のように中国の人権情報を流すほどだから、HRICは当然、アメリカのマスコミはもちろんのこと、政府や議会の関係部門にも細かな報告を送っている。

 民間のシンクタンクや人権擁護組織にも、同様に中国での人権侵害の最新情報を流している。

 その情報は政府や議会の政策や法案に反映され、民間人道団体の活動の指針にもなる。

 その意味でのHRICの影響力は巨大なのである。

HRICはとくに北京オリンピックを人権擁護の促進の好機として重視している。

 北京でのオリンピック開催が決まってすぐの2003年から「2008年責任統合」と題する特別運動を開始した。

 この運動の一環としては、「中国オリンピックの年」と題した特別のカレンダーを作成し、中国の人権問題について2008年中に実行していく個別の具体的な活動を明記した。

 またオリンピック開催の条件として中国当局が公約した「人権の改善」「自由の回復」などが具体的にどこまで履行されたか、それとも履行されていないか、そのカレンダーに数値で記入し、関係筋に幅広く配布する作業を展開している。

HRICがとくに力を入れるのは、19年前の天安門事件で逮捕され、現在もなお拘束されたままの少なくとも100人の民主主義活動家たちの解放要求である。

 北京オリンピックを機に中国当局にその解放を強く求めるというわけだ。

 同時にその他の「政治犯」の解放をも求め続けている。

 その要求は実際の人物の名前を、たとえば師涛、陳光城、毛恒風、というふうにあげ、きわめて具体的である。

HRICが北京オリンピックを機会に中国政府に要求するのはそのほかに

 ①一連の人権擁護の国際条約、国際規則に署名する

 ②中国当局から独立した機関が天安門事件の弾圧を調査することを認める

 ③天安門事件で死んだ若者の親の窮状に対応する

 ④天安門事件で海外に逃亡した元活動家たちの帰国を認める

 ――ことなどである。

HRICは大勢の人間を動員して集会を開き、気勢をあげるというタイプの人権擁護組織ではないが、オリンピックの舞台となる北京でも当然、なにかの行動を予定しているとみられる。
(つづく)

VOICE8月号に掲載された私の論文の紹介です。
今回は、ワシントンで中国当局の人権政策に対し抗議の声をあげる諸団体について報告しています。


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中国当局への国際的な抗議となると、私が新聞特派員として駐在するアメリカの首都ワシントンは全世界でも最大の発信拠点だといえる。

 アメリカの政府も議会も、中国との関与政策の重要性を説いて、それを実行する一方、中国の独裁政治体制から生じる国民の言論の自由や結社の自由の抑圧や人権一般の弾圧に対し、頻繁に抗議の声をあげる。

ワシントンには民間の大手研究機関も多数、存在し、中国の研究をも手がけている。

 その結果としての中国当局の人権抑圧に対する批判的な見解がたびたび表明される。

 さらに国際規模で活動する人権擁護団体がワシントンに本部をおくというケースも多い。

 それら人権団体もきわめて頻繁に中国の人権問題への批判的な報告や声明を発表している。

このようにワシントンでその存在を認知される官民の各種の組織がみないま二〇〇八年北京オリンピックを人権問題と関連づけて、さまざまな対応をとろうとしている。

 そうした動きのなかでどんな組織がどんな行動をとろうとしているのか。

 

中国の人権に関してワシントンでもっとも顕著にその活動を実感させられる民間組織は「中国人権」(HRIC)であろう。

 その名称どおり中国での人権問題を研究し、弾圧され、抑圧された側への救いの手を差し伸べようという活動を続けるHRICは、北京オリンピックにもとくに焦点を合わせた特別行動計画を発表している。

HRICは天安門事件の直前の一九八九年三月、中国人の民主主義活動家の学生たちを主体に創設され、すぐにアメリカの中国研究学者らも加わり、国際的な組織として発展した。

 いまでは北米、欧州、香港などに公然たる拠点を開設した。現在の会長は香港立法会議員だった著名な女性法律家のクリスティーン・ロー(陸恭
蕙)氏、副会長はコロンビア大学での中国研究で評価の高いアンドリュー・ネーセン教授である。

 ちなみにネーセン教授は天安門事件での中国当局の弾圧政策の内側を明かした機密文書「天安門ペーパー」が二〇〇一年に米側で公表された際に、その公表役を果たした人権擁護の本格派として知られる。

(つづく)

北京オリンピックについて月刊雑誌VOICEの最新号にかなり長い論文を書きました。

北京五輪は中国当局にとってプラスとマイナスの両面の結果をもたらす「諸刃の剣」ではないのか、という論旨です。

そして中国の人権抑圧に反対し、このオリンピックを機に抗議活動を強める各種組織の現状をレポートしました。

では以下はVOICE掲載の古森論文の紹介です。

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北京オリンピックは中国当局にとってまさに「諸刃の剣」となりそうである。

オリンピックは世界の各国、各民族の融和を祝う「平和の祭典」と評される。

 現実に、その開催の目的は平和や友好、融和だとされる。

だから中華人民共和国がその祭典を主催することは、単に国威の発揚だけでなく、国際社会の主要な一員として、世界の平和や友好を真に推進しているのだというイメージの拡散となる。

 国際的な協力や協調を重視する優しい大国としての印象をアピールできる。

 これまで国内の人権弾圧や対外的な覇権志向で国際的な悪評をあびてきた中国としては、まさに待ちに待った汚名払拭の好機であろう。


 だからこそ中国政府は自国へのオリンピック誘致に必死となった。

 国際オリンピック委員会に対し「人権の改善」「環境の保護」「自由の回復」などを条件として誓約し、北京での二〇〇八年の開催の栄を勝ち取った。

しかしその一方、北京でのオリンピック開催は中国当局の「負」の実態を全世界にさらけ出す可能性もある。

 中国政府が対外的には必死で隠してきた国内での政治的弾圧、少数民族抑圧、自由や人権の侵害、そして貧富の格差の広がりや環境の悪化など、さまざまなマイナスの要因が北京オリンピックが開ける窓から外部へと大幅に露出されてしまう可能性があるからだ。

 だから「諸刃の剣」なのである。

 

オリンピックの際には当然ながら北京には全世界からのスポーツ選手や報道陣だけでなく、膨大な数の観客も訪れる。

 ふだんは閉ざされがちの場所がオリンピックのために開放され、外部の目や耳やそして声までが入り込んでくる。

中国当局がいくら北京オリンピックの成功のために努力をしても、自由の抑圧や人権の弾圧、少数民族への同化の強圧など共産党一党独裁の統治の基本をがらりと変えてしまうことはできない。

 都市と地方の格差を一気に減らすことも、環境保護を一気に進めることも、できはしない。

 政治体制の枠組みを短期間に変えることは不可能だからだ。

となると、北京オリンピックが中国本来のそうしたネガティブな特徴を改めて外部世界に提示してしまう見通しも強くなる。

 同時に外部から訪れる人たちの間には、中国政府のそうしたネガティブな特徴に対し現地で抗議を展開する活動家たちも存在することだろう。

 中国のあり方に不満を抱く側にとっては北京オリンピックが中国当局への絶好の抗議や非難の舞台となる可能性である。

国際的には北京オリンピックを機会に、この催しを利用して、中国の共産党や政府に年来の諸課題での抗議をぶつけようという動きはすでに表面に出てきた。

 改革を求める動きも活発となってきた。その場合の抗議の最大対象となるのは、やはり中国当局の人権弾圧であろう。
(つづく)




アメリカ人の中国研究学者ペリー・リンク、ピーター・グリース両教授による中国のナショナリズム考察の紹介を続けます。
今回は中国側の反日ナショナリズムについてです。

古森が雑誌SAPIO最新号に書いた論文の紹介です。
この論文の紹介は今回が完結となります。


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グリース所長も中国のナショナリズムの政治加工部分を認めながらも、一般国民から自然に発生する部分も重視すべきだと述べた。

「中国のナショナリズムを共産党による上からのトップダウンだけの現象とみるのは間違いだ。いまでは中国の一般国民のレベルでも諸外国に反発するナショナリズムが定着し、ボトムアップ、つまり下から上に動いて、政府当局を逆に動かし、抑えるケースが増えている。共産党はナショナリズムを煽ることはできても抑えることができないことがあるのだ。小泉純一郎首相のころ、中国側では政府が最初に反小泉キャンペーンを展開したが、その結果、一般の小泉嫌いが極端になってしまい、政府代表が小泉首相と会談してもよい、会談したいと考えるようになっても、一般の反小泉感情の激しさのために、会談ができなくなってしまったのだ」

 グリース所長はさらに中国ナショナリズムの日本にとっての特別の意味を語った。

 「不運なことに中国の対日政策形成ではナショナリズムが主要な要因のひとつとなってしまった。これは日中両国にとっても、北東アジアの平和や安定にとっても好ましいことではない。中国側では、日本はそもそも中国文化の長年の受益者なのに恩義を忘れ、中国への侵略を続けたという歴史解釈が宣伝された。日本側の残虐性や不公正ばかりが強調され、一般中国人の怒りを煽り、現代の反日感情の基礎となっていった。この感情は永続性が強い。同じナショナリズムの心情でも中国側の対日感情は他の外国への感情とはとても異なるのだ」

 

リンク、グリース両氏ともが総括として強調したのは、中国自体にとっても、政府がこの種の排外的なナショナリズムに動かされて外交政策を形成することは、きわめて危険だという点だった。(終わり)

 

 

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