2008年10月

ブッシュ政権が北朝鮮を「テロ支援国家」指定から外したことについては、これまでにもこの場で論じてきました。

 

アメリカ側の動きに関して重要な点の一つは、ブッシュ政権の今回の措置に対して、共和党が反対、民主党が賛成という倒錯の構図です。

 

民主党側ではバラク・オバマ大統領候補もこの指定解除を「適切な対応」と評して、歓迎しました。共和党のジョン・マケイン候補は反対を表明しました。

 

このへんのアメリカ側の複雑な反応については以下のサイトで詳しく報告しました。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/86/ 

 

 

しかし民主党側の北朝鮮問題に対する態度をさらによくみると、オバマ候補の言明が示唆するよりもずっと宥和的、ソフトであることがわかります。

 

その民主党側の政策を知る手がかりとしては、民主党系の二人の専門家がつい3日前に発表した政策論文が有益です。K・A・ナムクン、レオン・シガル両氏は連名で10月19日のワシントン・タイムズに「新しい進路を設定する」という題の論文を発表しました。両氏はいずれも民主党支持で、朝鮮半島や東アジア安保問題を専門とする学者として民主党議員の外交顧問などを務めてきました。

 

この論文は以下のような書き出しでした。

「プルトニウム計画の無能力化を再開し、プルトニウム生産の検証を認め、その代償にテロ支援国家の指定の解除を得るという北朝鮮の同意は、歓迎すべきニュースである」

 

そして同論文は驚くべきことに、アメリカが北朝鮮を正常な国にし、国際社会にも参加させるために、とにかく国交を樹立し、経済援助をも与える「包括的な新関係の確立」を試みるべきだと主張しています。米朝間の「相互の信頼」を築くことが大切だともいうのです。

 

同論文はそのプロセスには他の諸国との協力も必要だとして、中国、韓国、国連の名をあげますが、日本に関しては日本人拉致はもちろんのこと日本自体に対する言及もゼロでした。

 

同論文の要旨は次のようでした。

 

(1)北朝鮮はアメリカから敵対的な態度をとられているために核兵器を保有したいのであり、アメリカがその態度を捨てれば、北側も核兵器開発計画を放棄するだろう。

 

(2)アメリカは北朝鮮に核兵器を放棄させるために韓国や中国を含めて朝鮮半島の平和条約を結ぶ。

 

(3)アメリカは北朝鮮が核兵器施設の破棄や検証を受け入れ、拡散停止の検証や国連との人権問題協議を受け入れることを条件に北朝鮮との国交を樹立する。

 

(4)アメリカは北朝鮮の核放棄などを条件に経済、金融、外交などの面での援助を与え、国際社会の正常な一員になるよう奨励する。

 

(5)アメリカはその過程で北朝鮮が発電所や原子炉を新たに建設することへの支援を実施する。

 

要するに北朝鮮の善意を信じ、アメリカ側がまず国交樹立をも含む北朝鮮の望む友好措置を次々にとる、という骨子なのです。

 

さて、こうした宥和政策が日本にとって、とくに日本の拉致問題の解決にとって、どんな影響を及ぼすか、答えは明白のように思えます。

今回は話題をがらりとふだんから変えて、犬について私が書いた記事をいくつか紹介します。

 

みなワシントンで見た犬の話です。犬と人間の話といったほうが正確でしょうか。

 

最初の駐米日本大使一家の犬の話は本日の産経新聞のコラムに掲載されました。

 

他は過去の記事です。 

 

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            大使一家の愛犬物語    

 

藤崎一郎駐米大使一家の愛犬の物語がワシントン・ポスト紙で報じられた。

 藤崎氏の前回のワシントン勤務中の1996年、一家は生後数カ月の「スキッパー」というオス犬を盲導犬養成団体から1年間、預かった。

 

 米国では盲導犬候補を一定条件を備えた家族に一定期間、育ててもらうシステムがある。

 

 藤崎家では2人の娘さんたちが強く望んだ結果だった。

 スキッパーは藤崎家の家族にすっかりなついたが、一年後に引き取られ、盲導犬としての本格訓練を受け始めた。

 

 ところが訓練途中で盲導犬としてはやや欠点があるとされ、爆薬や麻薬を嗅(か)ぎ出す捜索犬へと転向する。

 

 バージニア州内の米国政府施設でその訓練を受けた後はイタリア警察に送られた。

 

 当時、イタリアで多発する爆破テロ防止への米側からの協力の一環だった。

 

 その結果、スキッパーはミラノの空港や街路での危険で激しい任務に就いた。

 その後、何年も過ぎた2005年、スイス駐在となった藤崎氏が順子夫人とともにミラノで再会したスキッパーは夫妻をよく覚えていた。

 

 2年後、ついに任務を解かれたスキッパーは夫妻がイタリア警察に頼んで引き取った。

 

 そして今年、藤崎氏が再びワシントン勤務となって、スキッパーも故郷に戻ったという経緯である。

 

 いまはすっかり高齢となったスキッパーと日本大使一家のこんなかかわりを米紙が写真付きで報道したのだった。(古森義久

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◆ 夕暮れの“共同作業”

 ワシントンでの特派員生活でこのところ忘れ得ぬシーンといえば、なぜか大統領や議会の動きではなく、ふとみかけた人間と犬との共同作業の光景である。

 二年ほど前のまだ寒い春の夕方、ホワイトハウスに近い官庁街だった。

 

 かなり混雑した歩道を車イスに腰かけた男性がしなやかな弧線を描くように、往来の人をかわしながら、驚くほどの速度で前進していく。

 

 その速く滑らかな動きについ吸いこまれるようにみつめると、電動の車イスの主は一匹の犬に先導されていた。

 車イスの熟年の男性は白いつえを持ち、明らかに目が不自由だった。

 

 白い小柄の盲導犬がガイドとなり、前方の障害物をすべて流れるようにかわし、速歩で進んでいた。

 

 男性はみるという作業は完全に犬に頼り、犬の合図で車イスの電動ボタンを操作していることが明白だった。

 

 男性はブリーフケースを車イスの脇においていたから、官庁街で仕事をしてきたのだろう。

 人と犬が一体のスピーディーな動きに魅せられ、思わずこちらも速足で後に従ってみた。

 

 あれほど速く進むと、なにかにぶつかる危険もあるとも思ったからだ。

 だが盲導犬も車イスの主もあざやかだった。

 

 無駄な動きなしに、通行人とぶつかりそうになれば、ぴたりと止まり、歩道に広告板などがあれば、スキーの回転のようによけていく。

 

 交差点ではまず犬が赤信号にきちんと止まり、青になると、男性に合図して、さっと横断歩道を渡っていく。

 

 体に不自由のない人間よりもずっとスムーズなさばきだった。

 私はこの光景に胸がいっぱいになり、米国社会の特質についてまでつい考えた。

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議会に盲導犬

1998年09月23日 産経新聞 東京朝刊 国際面


 

 連邦議会の公聴会室に入り、報道席に座ると、ぎょっとした。
 
 すぐわきの一般傍聴席の床に大きなイヌが横たわっていたからだった。

 体全体を横にして目を閉じ、静かに眠っているようなのだ。
 
 イヌの首や胴に巻かれた引き綱から盲導犬であることがすぐにわかった。

 引き綱を握ってイスに座るのは目の不自由なことが明白な青年だった。
 
 下院国際関係委員会の中東情勢に関する公聴会である。

 青年は議員と証人の質疑応答に熱心に耳を傾ける。
 
 青年のイスの下に横たわった白茶色の盲導犬は公聴会が円滑に進む間は声もあげず、音もたてず、マスターの傍聴に全面協力するように、目を閉じている。
 
 だが周囲で人が動いたり、ドアの開閉が音をたてたりすると、即座に目を開き、頭をあげて身構える。
 
 そして青年を見上げ、注意を払う。
 
 異常がないことを確認すると、また頭を床にもどし、目を閉じる。

 二時間以上の公聴会の間、そんな守護の動作を繰り返す盲導犬の忠誠ぶりに感動に近い思いさえ覚えた。

 公聴会後、青年に声をかけると、バージニア大学の学生マッツェン・バーンクインと名乗り、盲導犬はレーガンという名のラブラドルレトリーバーだと教えてくれた。

 「議会にはよくきます。盲導犬を連れての出入りは身体障害者法で保証されていて自由です」。
 
 青年は知りたい点を明るく答えるのだった。(古森義久
 

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 アメリカ政府が北朝鮮の「テロ支援国家」から指定解除したことに日本はどう対応すべきか。

 

 麻生太郎首相はすでに不快感を表明しています。しかし日本政府としてはその後に具体的にはどんな態度をとるのか。

 

 六カ国協議を中心に北朝鮮の核兵器開発問題が進展するとき、日本は財政貢献をすることを求められる見通しは確実です。

 

 その際に日本人拉致事件はどうなるのか。

 

 そのへんの日本にとっての選択肢などをアメリカ側の朝鮮情勢専門家に尋ねてみました。

 

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[ワシントン=古森義久]

 米国議会調査局の朝鮮問題専門官ラリー・ニクシュ氏は13日、産経新聞のインタビューに応じ、米国政府の今回の北朝鮮核問題への対応について、いまの合意では北朝鮮の核兵器開発計画への査察はまったく不十分だと指摘した。

 

 ニクシュ氏は米国政府が北朝鮮をテロ支援国家指定から解除することにも批判を表明し、日本としてはこんご米朝主体の合意に財政貢献をするかどうか基本的な選択を迫られる、と述べた。

 

 朝鮮半島情勢を長年にわたって専門に研究しているニクシュ氏との一問一答の要旨は以下のとおり。

 

 ―北朝鮮の核開発に関する今回の米朝間の合意をどうみるか。

 

 「査察の対象を北側の申告する核施設に限るという点にまず重大な欠陥がある。北がこれまで申告したのは寧辺にある施設だけだ。寧辺でさえ米側が探知した秘密の処理済み核燃料貯蔵庫は申告せず、査察官のアクセスを拒んでいる。寧辺以外の地域にあるウラン濃縮施設やその他の核物質貯蔵施設は未申告であり、査察の対象にはなりにくい。北朝鮮は最近は軍事目的のウラン濃縮をイランと共同でイラン国内で進めており、これまた今回の合意では査察の方法がない」

 

 ―ヒル国務次官補の今回の北朝鮮との交渉についてとくに懸念する点は。

 

 「北の核兵器開発計画を阻止することを最初から放棄しているような態度に加え、米朝軍事協議という北側の提案をワシントンに持ち返ったことが気になる。平壌での会談では北側は人民軍の中将が同席し、ヒル次官補に米国と北朝鮮が直接に二者間で軍事協議を始めることを強く提案したという。北側はこの協議では在韓米軍や在日米軍のあり方にまで要求をぶつけ、核問題での譲歩と交換条件にする構えをみせると予測される。日韓両国にとって深刻な懸念の対象となる」

 

 ―ブッシュ政権はなぜこんな欠陥の多い合意を進めるのか。

 

 「ブッシュ政権のいまの対北朝鮮政策は不安定で無定見、そして一貫性がない。こうしたブレの外交は2006年11月ごろから国務省主導で始まった。ブッシュ大統領自身は北朝鮮の核問題に関して『実績』となる合意を作りたいのだろうが、同時に北に対し軟弱だとみられたくないという願望が強い。だから北に一定の要求を突きつけ、それが得られないと、こんどはこちらがさっと譲歩する。それでもうまくいかず、また要求をする。こんな悪循環なのだ。この軌跡は本当に揺れが激しい」

 

 ―日本にはこんごどんな選択肢があるのか。

 

 「今回の米朝合意が履行されれば、六カ国協議を通じて日本は北朝鮮への重油提供の経費や軽水炉建設の経費の負担、食糧援助など物質的な寄与を求められる。だが日本が最も気にする北朝鮮による日本人拉致事件解決にはなんの前進もない。日本としては拉致事件解決の実質的な進展がない限り、その種の物質的な寄与は一切、できないと宣言する選択肢がある。今回の合意自体はとくに称賛もせず、拒否もせず、ただし、こんごの北朝鮮のための財政支出はまったくしないというわけだ。あるいは米国などの求めに応じて、支出をするのか。いまや日本は基本的な岐路に立たされたといえよう」

 

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講道館発行の雑誌『柔道』9月号に私が書いた記事の紹介をさらに続けます。

 

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ワシントン柔道クラブのもう一つの大きな特徴はアメリカ以外の諸国出身の輝ける戦歴を持つ選手たちが会員となっていることである。

 

なにしろ政治の中心だから政治がらみでアメリカに移住してきた人たちがこの地区には多い。

 

移民、難民あるいは亡命者としてこの国にやってきて、アメリカの国籍や永住権を取得した人が首都周辺には多数いる。

 

ワシントン柔道クラブでも会員全体の三分の一ほどはそうした外国出身の選手たちである。

 

 ペルーで全国選手権を取ったことのある三兄弟、ルーマニア代表として欧州選手権三位となった選手、アルジェリアの全国選手権保持者、ギリシャ出身の欧州選手権準優勝者、モンゴルのオリンピック代表選手、アゼルバイジャンの全国級選手、ウクライナでつい最近、全国選手権に出たという青年、そしてイタリアの女子の中量級チャンピオンなど、みなそれぞれの国の柔道で傑出していた人たちがアメリカに居ついて、このクラブで柔道を続けているのだ。

 

 この種類の選手たちはいまもなかなか強く、ときにはアメリカでの大会で上位に入賞する。

 

 外国出身でアメリカにきて初めてこのクラブで柔道を学んだという人たちもいる。

 

 韓国系の青年たち五、六人がまとまって通ってくるし、ベトナム系の若者たちもいる。

 

永住ではない外国人たちも参加してくる。

 

フランスやコンゴの外交官たちはいずれも在ワシントンの自国大使館勤務である。

 

首都郊外には国立衛生研究所(NIH)という医学の基礎研究では世界最大の規模を誇る施設があり、各国からの若手の医師や医学研究者が集まっているが、そのなかにも元柔道選手がいて、ワシントン柔道クラブに通ってくる。

 

 代表的なのは全フランスでも上位にランクされたセディッキ・ナジールという選手で、本職は胃に宿るピロリ菌の専門研究者だという。

 

 このようにワシントン柔道クラブではアメリカ人に関しては社会の広範な職業分野からの参加がきわだつ一方、諸外国出身の選手だった男女も実に多数が顔をそろえるのである。

 

 これほど多様多彩な人間が集まってくるのも超大国の首都だからかもしれない。

 

 と同時に後述するように、このクラブの声価が最近、アメリカ柔道界でとみにあがっていることも理由だろう。

 

(つづく)

 

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 財務相の中川昭一氏が最近、出した『飛翔する日本』という書を読みました。

 そのなかで印象に残ったいくつかの点からまず一つ紹介しましょう。

 

 飛翔する日本

 

 

 

「真の改革は、保守にしかできない」という一項です。

 以下の記述がありました

 

「では、保守とは何か。『不易』と『流行』という言葉があるけれども、世の中は『守るべきもの』と『変えていくべきもの』の両方が存在する。真の保守主義は『守るべきもの』と『変えるべきもの』をしっかり認識し、バランスを取りながら『守るべきもの』はしっかり守り、『変えていくもの』は変える」

 

「さらに言えば、『守るべきもの』にしても単に『いい部分』を残すのではなく、さらに生き生きとしたものに進化させていく。18世紀イギリスの政治家エドマンド・バークの言葉にある『保守するための改革』だ。したがって、常に改革と改善に取り組むことこそが『保守』の姿勢である」

 
 
 

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