2009年03月

  オバマ氏の雄弁ぶりはみな事前に書かれた原稿を読み上げることの産物だったとは、ショッキングな報道でした。
 
 しかも私がこの記事を転電の形で書いた後に、「オバマ大統領は記者会見の最中でも、質問に対する答えにプロンプターを使っていた」という報道が流れました。
 
 これこそ異例中の異例です。
 
 記者から質問が出て、オバマ氏が答える前に瞬時に答えの基礎となる資料や答えそのものが背後のスタッフから提供され、プロンプターに映るというのです。
 
 オバマ氏は自由自在の質疑応答であるはずのやりとりでも、他者によってすでに書かれたスクリプトを読み上げるだけだというのです。
 
 なにやらロボットを連想させます。
 
 共和党のブッシュ大統領らがこんなことをしていたら大手メディアに袋だたきになったでしょう。
 
 ではその記事を以下に紹介します。
 
米大統領、プロンプター依存 メディアが批判
2009年03月10日 産経新聞 東京朝刊 国際面


 

 【ワシントン=古森義久】オバマ米大統領は公的発言には短いあいさつでも必ず原稿表示装置のテレプロンプターを使い、事前に準備した文章を読み上げていると、米各メディアが報じた。
 
 米国歴代大統領もプロンプターを使ってきたが、オバマ大統領ほどその装置への依存度が高い前例はないという。

 弁舌の才で知られているオバマ大統領の意外なプロンプター依存は、ニューヨーク・タイムズやネット政治通信のポリティコが6日までに詳しく報じた。

 プロンプターは普通、演壇の前の左右両側に設置される透明なガラス板で、演説の文章が電子的に表示されていく。
 
 演説する側は左右の表示を順番に読むわけだが、テレビには板が映らないため、自然に発言しているようにもみえる。
 
 だが演壇の前の実際の聴衆にはプロンプター自体がみえる場合もあり、さらに演説者が流れる記述を読むことに集中するため聴衆の顔を直接にみないという不自然もおきる。

 同報道によると、オバマ氏は大統領選挙中から他の政治家にくらべてこのプロンプター依存度が圧倒的に高く、大統領就任後も主要演説はもちろん、ごく短いあいさつでも必ずプロンプターを使ってきた。
 
 ホワイトハウスでの2日のセベリウス厚生長官の指名でも同大統領は数分間の発表にプロンプターを使い、演壇に立とうとしたセベリウス女史が床の中へ収納されつつあるプロンプターにぶつかりそうになって戸惑うという場面もあった。

 2月25日のロック商務長官の指名発表でも、同大統領がごく短い声明にプロンプターを使ったのと、ポケットから取り出したノートだけで演説をするロック氏の姿が対照的だった。
 
 オバマ大統領は記者会見の冒頭でも、地方の工場の視察でも、プロンプターを使っているという。

 同報道によると、この依存度は歴代大統領でも異例なほど高い。
 
 大統領歴史研究家のマーサ・クマー氏は「他の大統領はだれもこれほど一貫してプロンプターを使ったことはない」と述べ、その理由の1つはプロンプターが演説者と聴き手の障壁になるためだと指摘した。
 
 ブッシュ前大統領は主要演説以外ではまず使わず、簡単な声明や地方遊説ではせいぜい小さなノートを使用する程度で、他の大統領も使用の頻度はずっと低かったという。

 オバマ大統領のプロンプター依存には「演説が不自然で人工的になりすぎる」という批判がある一方、ホワイトハウスでは「大統領が国民に訴えることはその内容が最重要であり、伝達の方法は問題ではない」と反論している。

 小沢一郎氏の不正献金受け取りの事件では、全世界に小沢氏が民主党代表を辞任することが確実のようなニュースがすでに流れていることに驚かされました。

 アメリカ東海岸の時間で3月9日の午後のことです。イギリスのBBC(英国放送協会)の全世界向け速報が「日本のオザワが辞任への圧力をかけられる」という記事を流したのです。

Japan's Ozawa pressured to resign

S BO S IBYL
By Roland Buerk
BBC News, Tokyo

 
E IBYL S IIMA
Ichiro Ozawa, news conference at Democratic Party of Japan HQ, Tokyo, 4 March 2009
Ichiro Ozawa is under new pressure ahead of elections
E IIMA S SF

The leader of Japan's opposition who had been widely tipped to become Prime Minister is facing more pressure to stand down.

 

Ichiro Ozawa has said he will stay as leader of the opposition Democratic Party of Japan but his reputation has been damaged.

Last week his chief secretary was arrested on suspicion of accepting money illegally from a construction firm.

.

But the scandal undermines Mr Ozawa's image as a reformer, reminding voters that his skills as a political fixer were honed in the backrooms of the LDP before he defected. E BO

 

以上がこの報道のエッセンスです。

 

内容は共同通信社が実施した最近の日本での世論調査について「61%もの日本国民が小沢氏が民主党代表を辞任することを求めているという結果が出た」という骨子だけが中心なのですが、今回のスキャンダルが「民主党の評判をぶちこわしにしてしまった」とか、「小沢氏の改革者というイメージを浸食していまった」と断じている点が示唆的です。

 

この英語ニュースを読めば、ふつうの人たちは小沢一郎氏がもう民主党の代表の座を離れることは確実だと思うでしょう。その意味ではこのBBCの短い報道は小沢氏の政治家としての弔鐘を国際的な場で打ち鳴らす不吉な音色のひびきとも受け取れるのです。

 

民主党代表の小沢一郎氏の秘書が不正献金を受け取った容疑で逮捕された事件は日本の政局を根本から変えうる事件としてアメリカのメディアも報道し始めました。

 

ニューヨーク・タイムズの3月5日付記事がその実例です。

東京発、筆者は同紙東京特派員のマーティン・ファックラー記者です。

見出しは「スキャンダルが日本の野党を脅かす」です。

 

書き出しは以下のとおりでした。

「選挙献金をめぐって拡大するスキャンダルが、日本の野党が長期与党の自民党を政権から追い出しそうになったいま、その野党の指導者の小沢一郎氏を脅かしている」

 

記事は西松建設が小沢氏の秘書に不正とみられる巨額の献金をしたことを説明し、小沢氏側や民主党の鳩山由紀夫氏らが検察の動きを「陰謀」「政治捜査」「国策捜査」などと非難していることも報じています。

 

その記事のなかで注目されるのは、以下の記述でした。

「今回のスキャンダルは民主党の最大の弱点の一つに触れているため、民主党にとってはとくに苦痛である。その弱点とは、有権者からみても、ベテランの党幹部の小沢氏が醜聞にまみれた自民党員たちよりも清潔ではない(より汚れている)ことを証するかも知れないという懸念のことだ。小沢氏はそもそも自民党員として熟練の資金集め係や政治戦略家になったからだ」

 

つまりニューヨーク・タイムズのこの記者も、小沢氏が自民党時代にいまの自民党幹部たちと同じ腐敗政治の真っ只中にいたのだから、今回の事件でその腐敗体質の一端が表に出てもふしぎはない、と示唆しているようです。

 

 アメリカはオバマ新政権の下で中国にどう対応していくのか。

 

 ところで、オバマ政権の社会主義志向」について別のサイトに詳しい報告を書きました。http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/i/95/

 

 

 

 アメリカの対中政策やその結果としての米中関係のうねりが日本にとっても重大な意味を持つことは言を俟たない。

 アメリカのそうした最新の中国への認識や態度を知るのにきわめて価値の高い報告がこのほど公表された。

 

 アメリカ議会の超党派政策諮問機関の「米中経済安保調査委員会」の二〇〇八年度の年次報告である。

 

 アメリカの中国研究は官民ともに日本よりはずっと幅広く、奥行き深く、しかも鋭い切り込みで活発に進められている。

 

 そうした中国研究に取り組む多数の組織のなかでも、この米中経済安保調査委員会は最も広範に、最も深層へと踏み込む機関だといえよう。

 

 二〇〇一年に発足した同委員会は「米中両国間の経済関係がアメリカの国家安全保障に及ぼす影響を調査する」ことを活動の主目的とする。

 

 そのためには中国側の経済だけでなく政治、外交、軍事、そして金融やエネルギー政策まで実に広い領域に光をあて、それぞれの動きがアメリカの安全保障にどんな意味を持つかを探究する。

 

 その結果を議会や政府に政策勧告として通告する

 同委員会は連邦議会の民主、共和両党の有力議員から推薦された中国に関する専門家計十二人の委員によって構成される。

 

 その委員たちが中国に出かけてみずから調査にあたるほか、政府の国防総省、財務省、中央情報局(CIA)、国務省などの諸関連機関からの情報を得る。

 

 さらに個別の具体的テーマにしぼって公聴会を開き、そのテーマの専門家たちを証人として呼び、報告を聞く。

 

 資料の提出を求める。

 

 二〇〇八年度報告の基礎となる調査活動としては委員会は中国本土だけでなく香港、台湾、そして韓国や日本までも訪れて相手側の官民の関係者たちと面談した。

 

 公聴会はこの一年近くに合計九回を開き、そのうち一回は中国からの海産物輸入の現場となるルイジアナ州での開催だった。

 

 残り八回はワシントンの連邦議会が舞台である。

 

 これら公聴会に出席した証人は合計九十二人にのぼった。

 

 もともと中国や米中関係の専門家である委員たちがさらに個別の分野の専門家を証人として招いて報告を聞くという仕組みなのだ。

 

 この調査委員会の最大の特徴の一つは、その取り組みに民主、共和両党の思考や見解が含まれる超党派性だといえる。

 

 十二人の委員は六人が民主党、残り六人が共和党の各議員による任命なのだ。

 

 現在の委員長を務める中国軍事問題の専門家ラリー・ウォーツェル氏は共和党デニス・ハスタード前下院議長の推薦、副委員長のキャロライン・バーソロミュー氏は中国の人権や通商の専門家で民主党の現下院議長のナンシー・ペロシ議員によって任命された。

 

この二委員だけをみても、推薦側の議員はそれぞれ保守とリベラルの本流というコントラストであり、委員会全体としての幅広さを明示している。

 

だから政権がブッシュからオバマへと変わっても、議会の民主党側が議席を増しても、この委員会自体の強力な役割は変わらないといえる。

 

 さて年次報告の内容を紹介しよう。

 

この報告は二〇〇八年の同委員会の調査や研究、分析、そして提言の総括である。

 

同委員会はこの公表分の報告書とは別に政府諸機関や上下両院議員向けに秘密の報告書を提出した。

 

 同年次報告は内容全体のなかでの主要な調査結果として以下の諸点をあげていた。

 

 ▽中国の人民元の対ドル交換レートは中国当局の操作により不当に低く抑えられている。

 

▽中国当局は政治や経済の利益を追求する手段として主権国家資産ファンド(SWF)を使うようになった。

 

 ▽中国は高度技術製品の取引や開発を従来の規範に違反する形で進めている。

 

 ▽中国の海産食品の対米輸出にはアメリカ国民の健康への脅威が存在する。

 

▽中国の活発な動きが世界のエネルギー供給を激変させ始めた。中国の炭酸ガス排出も急増してきた。

 

 ▽中国はなお問題のある大量破壊兵器の拡散に関与している。

 

 ▽中国は種々の新たな手段で外交的影響力を強化している。

 

 ▽中国の韓国、日本、台湾との関係のうねりはアメリカにも大きな意味を持つ。

 

 ▽中国のアメリカのコンピューター・システム侵入や宇宙への動きは脅威となってきた。

 

 ▽中国の国内でのニュース・メディアやインターネットの規制は国際的な懸念を生んでいる。

 

 ▽中国の刑務所労働による製品のアメリカへの輸出がなお問題となっている。

 

 以上が柱である。

 

 報告はその全体の「序」では二〇〇八年が鄧小平氏による改革開放の開始から三十年にあたることを指摘していた。

 

 鄧氏が求めたシステムは「中国的特徴の資本主義」とか「市場社会主義」と評されてきたことを強調する。

 

その上で基本認識として次のように述べていた。

 

 「中国の経済自由化への道がやがては自由市場経済の資本主義、さらには民主主義にまで通じるだろうという西側の期待はまったく打ち砕かれてしまった。この報告が詳述するように、中国当局はまったく異なる道を選んだのだ。その長期の経済成長の疾走は政治改革への足がかりではなく、むしろ逆に中国共産党の永続統治の正当化に利用されてしまった」

 

 「二〇〇八年夏の北京五輪は中国の金メダルの大量獲得こそ実現させたが、その一方、世界の視線を中国の急速な経済成長の環境問題への悪影響や自由な言論、自由な思考、自由な報道への政府当局による無慈悲な抑圧へと向けさせることとなった」

 

 この報告全体が特徴づける中国のいまのあり方は、このへんの記述によって浮き彫りにされるといえるだろう。

 

 きわめて批判的、警戒的な対中認識なのである。

 

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