2009年05月

北朝鮮の無法で危険な軍事行動に対して、日本側では国政レベルでも、その危険な行動を抑止するための、敵基地攻撃能力を保有すべきではないか、という議論が高まってきました。

 

日本を守るためには当然の議論でしょう。日本に核ミサイルを撃ち込もうとしていることが明白な敵基地をそのミサイルが発射される前に攻撃して破壊するというのは日本の国家と国民の防衛の自明な範疇です。

 

しかし日本の幻想的非武装志向論者たちはこの国家としての当然の防衛への動きを「他国を危険に挑発する」「日本の軍国主義を復活させる」などとして反対しようとしているようです。いずれにせよ、この問題での議論が展開される際に重要な指針の一つとなるのは日本の同盟国であるアメリカがどう対応するかでしょう。

 

この点できわめて注視すべき報道が5月31日の朝日新聞に掲載されました。なんとアメリカは日本の敵基地攻撃能力の獲得を支持するというのです。

 

シンガポールでの「アジア安全保障会議」に出たオバマ政権のウォレス・グレッグソン国防次官補が朝日新聞の加藤洋一記者のインタビューで「日本が「敵基地攻撃能力の獲得を)決めれば、米国は当然できる限りの方法で支持する」との考えを明らかにした、というのです。

 

この記事はさらに以下のように報じています。

 

「グレッグソン氏は『日本にどのような防衛政策を取るべきか指図するつもりはない』と断ったうで、これまでの『日本は盾、米国は矛』という役割分担を変えることは理解する姿勢を示した」

 

以上の発言は文字どおりに解釈すれば、日米同盟の根幹の構造を変えることにつながる超重大な新スタンスを意味しています。日米同盟ではこれまでの長い年月、一貫して、日本は純粋な日本領土防衛のみに責任を持ち、日本の外の潜在敵の脅威や軍事行動に対してはあくまで米国が責任を有する、という仕組みでした。

 

日本の領土外の脅威や軍事行動が純粋に日本本土の攻撃を意図していても、日本はなにもしない、そのかわりに米軍が対処する――という枠組みでした。「日本は盾、米国は矛」という表現はその枠組みを描写してきたわけです。

 

ところがオバマ政権の国防政策を代弁する立場のグレッグソン国防次官補は「日米の役割分担を変えることは理解する」と言明したのです。だから日本が北朝鮮などの敵基地攻撃の能力を持つことも、アメリカは支持するというのです。あるいはアメリカは日本の敵基地攻撃能力の保持は支持するから、役割分担を変えてのよい、というわけです。

 

この発言は驚くべきです。重大ニュースといえましょう。

 

ただし朝日新聞は主張として日本の敵基地攻撃能力ということにはすべて反対するでしょうから、オバマ政権がそれを支持するというのは都合の悪い見解となります。だからこそこの大ニュースも二面の左下の片隅、しかも見出しはほんの二段という目立たない扱いなのでしょう。

 

しかしこのグレッグソン発言は繰り返しますが、大ニュースです。

 

 

「NHKは日本国民のための番組を作れ!」

 

「NHKは台湾人に謝れ!」

 

こうしたシュプレヒコールが新緑にこだまするように、遠くまで澄んで、響きわたりました。

 

同様のNHKへの抗議メッセージを大書したプラカードを掲げた男女が粛々と行進していきました。

 

秩序と品位を保ちながら、整然とデモ行進を続ける人の数は1000人にも達するのでしょうか。とにかく大規模といえる人数です。

 

5月30日の土曜日の午後、渋谷区のNHKの周囲での抗議の集会と行進を目撃しました。所用でほんの数日、東京にもどり、もうすぐのワシントンへの帰任に備えて、ちょっとした買い物を渋谷ですませ、代々木の自宅へもどろうとしたところ、このデモに遭遇しました。

 

抗議の対象はこのブログでもすでに取り上げたNHKの台湾に関する偏向番組です。台湾の人たちが日本の統治をすべて悪だったとして怒り、憎んでいるように現代の台湾を描いた偏向番組です。

 

しかしそのNHKへの抗議を初めて目前に見て、感ずるところ大でした。

 

まず参加者たちが文字通りの老若男女、ごく普通のきちんとした感じの人ばかりなのです。市民社会での規則に則った民主主義的な意思表示だと感じざるをえません。威圧的な暴力的な無秩序な要素をツユほども感じさせません。いくつもの集団がそれぞれリーダーに導かれ、静かに、しかし毅然として行進し、ときおりNHKへの抗議のメッセージを熱をこめて叫ぶのです。

 

思わず私もこの整然たるデモ行進の列に従い、しばらく一緒に歩かせてもらいました。この体験だけでも一時帰国のかいがあったと感じたほどでした。NHKもこれほどまともな日本国民の抗議を無視するというのでは、こんごよほどの覚悟が必要でしょう。

 中国の軍事拡張はすでに広く知られていますが、インド洋に向けても軍事的、戦略的な膨張を始めたことはそれほど広範には知られていないかもしれません。

 

その中国の動きに対しオバマ政権の高官が公開の場で懸念や不安を表明しました。中国に対して批判的な言辞を述べることの少ないオバマ政権にしてはきわめて珍しいことです。

 

中国のこうした軍事的な膨張は日本でも当然、深刻な注意を向けるべきです。しかし最近のNHKの番組では「軍事膨張」などという言葉があったので、てっきり中国のことを指しているのかと思ったら、なんとインドの最近の国防措置をこう評しているのです。

 

インドの軍事的な動きといえば、ほぼすべて中国の軍拡に対応する守勢的な措置であることは明白です。NHKには「軍事膨張」というのならば、ぜひとも中国の軍事膨張を報じて欲しいですね。

 

なおその中国のアメリカに対する積極果敢なスパイ活動については以下のサイトで報告しました。

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090526/155380/

 

 

パキスタン南西部に港建設 中国のインド洋進出 米懸念


 

 【ワシントン=古森義久】米国オバマ政権の国防総省高官がこのほど行われた議会の公聴会で、中国がパキスタン南西部グワダルに大規模な港湾施設を建設していることについて証言し、インド洋西部への中国海軍進出の軍事的な意図がうかがわれるとして懸念を表明した。
 同高官はまた、中国がパキスタンに数々の軍事援助を投入して接近していることを懸念の対象として指摘した。

 米国議会の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」は20日、「アジア大陸での中国の経済や安保への利害が米国に与えるインパクト」と題する公聴会を開いた。

 

 証人として登場した国防総省のマイケル・シファー副次官補(東アジア担当)は「中国がパキスタン南西部グワダルに建設している大規模な港湾施設は中国からすればインド洋西部への自国海軍拡張の拠点と映ることだろう」と述べ、その動きは南西アジア全域に不安定化を招くとして警戒と懸念を表明した。

 

 同氏はまた、「自国の意思に関してオープンで、透明であるという意識が中国だけでなく、南西アジアにからむ関係諸国すべてになければならない」と主張して、オバマ政権が関係各国に透明性を求めたことを明らかにした。

 

 同氏はさらに、中国とパキスタンの長年の安保上の「きずな」を強調した。

 

 シファー副次官補は具体的には

 

 (1)中国がパキスタンに中距離、短距離の弾道ミサイル多数を売ってきた

 

 (2)両国は訓練用ジェット機「K8カラコルム」や戦闘機「JF17サンダー」を共同生産している

 

 (3)中国はパキスタンに自国製早期警戒機「Y8ロトドーム」を売った

 

 (4)中国はパキスタンに核技術を提供した

 

 (5)中国は2011年ごろまでにパキスタンの電気通信用の人工衛星打ち上げを支援する-

 

          ことなどを指摘した。

 

 シファー氏はこうした両国の軍事的な連携の積み重ねが南アジアの不安定要因だと強調した。

政治や外交ではいま日本とアメリカの間にはなにかと逆風も感じられます。
 
しかし人間レベルでは交流が深まるという側面もあります。
 
自分自身の生活体験から以下のささやかな報告を書きました。
 
 
【外信コラム】ポトマック通信 柔道に学んだ礼節
2009年05月25日 産経新聞 東京朝刊 国際面


 

 いま米国の大学は卒業式の季節である。
 
 私の通う「ジョージタウン大学・ワシントン柔道クラブ」でも大学や大学院を終えた若者たちが去っていく。
 
 その一人、フィオラ・マストリオネ君は1年から4年までジョージタウン大学での生活では一貫して柔道に励んできた。
 
 だが医学部進学課程を終えたいま、ボストンの医科大学に進むため、ワシントンを離れることになった。

 彼の最後の練習の夕、質問してみると、柔道を始めたのは学生寮の友人に勧められたのが契機だが、その友人はもうやめてしまった。
 
 4年間、毎週3回のペースで練習を続けて得たことは「心身両面で自分が強くなったという自信と、国や民族、文化の差を超えての礼儀礼節だと思う」という。
 
 初心者のフィオラ君を文字どおり手取り足取りして受け身から教えてきた私としてもなごりは惜しい。

 いまや有段者寸前の茶帯のフィオラ君と最後の乱取り練習をした。
 
 1年前ぐらいまでは容易に投げることができた彼もいまではそう簡単には倒れない。
 
 2人とも汗だくになってのけいことなった。
 
 練習終了時の正座では全員が彼の旅立ちを祝って拍手を送った。

 その後は有志10人ほどがフィオラ君と恋人のロラさんを送別のピザの食事会に招いて歓談した。
 
 典型的な明るい米国人青年の彼も「しばらくは会えませんね」と惜別の言葉をぽつりともらしたときは、表情を陰らせた。
 
(古森義久)

 北朝鮮の対外的な脅威、国内的な弾圧を抑え、弱めるには、
金正日総書記に直結する外貨依存の「宮廷経済」に圧力をかけることこそ、最も強力が効果があるーーー北朝鮮のその独裁体制内部の金融部門にいた人物が語りました。
 

なおこの北朝鮮問題で重要な役割を演じる中国の対米スパイ活動について別のサイトに報告を書きました。

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090526/155380/

 

 
北の経済「宮廷」と「人民」に分離 元外貨管理部幹部が証言 
2009年05月22日 産経新聞 東京朝刊 国際面


 

 ■外貨依存 圧力こそ効果

 【ワシントン=古森義久】北朝鮮中枢の外貨管理部門で長年、働いていた金光進氏はこのほど産経新聞と会見し、北朝鮮の特異な経済構造などについて語った。
 
 金氏は、北朝鮮経済が金正日総書記に直結する外貨依存の「宮廷経済」と国民一般の「人民経済」に分離され、日本の朝鮮総連が長年、この宮廷経済を支える主柱の1つだったことを明らかにした。
 
 そのうえで、宮廷経済への圧力こそが急速に進む金正日体制の弱体化を早める上で最も効果があると強調した。

 ≪朝鮮総連が主柱≫

 金光進氏は朝鮮労働党組織指導部の国家保険機構で主要諸国の大手保険会社から外貨で高額保険金を獲得して総書記に供する任務にあたっていたが、2003年に国外に亡命し、韓国などを経て今年春からワシントンの「北朝鮮人権委員会」の研究員となった。

 金氏はまず北朝鮮の近年の経済構造について「内閣が統括する一般の『人民経済』と、外貨を得る企業、産業のほぼすべてと兵器産業を統括する『宮廷経済』が存在し、外貨に依存する後者は労働党中央委員会から金総書記に直結し、その政治・軍事独裁体制を支えている」と解説した。

 金氏によると、日本の朝鮮総連による送金などの財政貢献はすべてこの宮廷経済を支える財源となっており、外貨全体の実に20~30%が日本からの送金、寄金でまかなわれてきた。

 同氏はさらに日本に関連して、
 
(1)北朝鮮の外貨送金受け入れの朝鮮合営銀行は事実上、朝鮮総連の財政支援で運営されてきた
 
(2)朝鮮総連系の保険会社「金剛保険」は北朝鮮の国家保険機構と連携し、不正手段をも含めて金正日体制への外貨稼ぎに協力してきた
 
(3)金総書記の拉致自認後、日本からの資金流入や貿易収入は減り、金総書記個人への大きな打撃ともなったが、韓国からの外貨流入の増加でなんとか危機を乗り越えてきた
 
(4)北朝鮮の兵器産業は核やミサイルを含めて関連の技術、部品、資金を1990年代末まで日本から広範に得ていたが、現在では中国からがほとんどとなった
 
                    ――などと述べた。

 ≪中国にシフト≫

 また、現在の北朝鮮については「金正日総書記の健康は昨年来、明らかに悪化しており、政権の終わりが近づいたという印象だ」と述べ、軍や党など最高指導部の最近の人事には、金総書記が不安に駆られ、ごく少数の古い仲間や親類に依存しようとしている様子がうかがえると指摘した。

 このため、「日本が金政権から拉致問題などで譲歩を得るには、宮廷経済の外貨獲得の領域で圧力をさらにかけ、できれば韓国や米国と金融制裁などで連携していくことが最も効果があるだろう」と強調した。

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