2009年07月

 新聞というメディアのあり方を考えさせられる出来事がワシントンで起きました。

 

以下はその出来事について書いた7月25日の産経新聞の記事です。

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【緯度経度】ワシントン・古森義久 名門新聞の「サロン」とは


 

 ワシントン・ポストといえば、周知のように米国の名門新聞である。
 創刊以来130余年、独特の報道や言論で首都圏に君臨してきた。
 政治的には民主党エスタブリッシュメントの中核として強大な影響力をも行使してきた。

 1992年秋の大統領選でも民主党候補のビル・クリントン氏は当選するとすぐ、ワシントン・ポストの当時の社主キャサリーン・グラハム邸に参上していた。

 

 次期大統領が初めてホワイトハウスと議会を訪れた直後にグラハム女史主催の祝賀大パーティーに駆けつける光景を目前にみて、この新聞の民主党コネクションの威力を実感したものだった。

 

 だから同紙は同じ民主党オバマ政権との交流も親密のようである。

 

 ところがこの7月、同じワシントン・ポストの社主が各方面に対し文字どおり平身低頭の形で謝罪をするという騒ぎが起きた。

 

 皮肉にも民主党系の政治コネが鬼門となっていた。

 

 同紙は6月末、グラハム女史の孫で現社主のキャサリーン・ウェイマス女史の名で「私の自宅での夕食会『ワシントン・ポスト・サロン』でオバマ政権や議会の要人たちと静かなオフレコの懇談をしませんか」という宣伝パンフレットを多数の企業や読者に配布した。

 

 その懇談は同紙の編集長が司会し、記者たちも加わり、その場で現在の政府や議会のVIPたちと親しくなれるという触れ込みだった。

 

 ところが参加者は懇談の食事を主催する形をとり、スポンサーとして1回の夕食会に2万5千ドル、合計11回の夕食会シリーズ全体ならば計25万ドルの支払いを求められていた。

 

 第1回の懇談は7月21日に、いまホットな医療保険をテーマとし、ホワイトハウス高官らを招くと宣伝された。

 

 だがこの試みは、ネット政治情報紙のポリティコや競争紙のワシントン・タイムズにただちに「ワシントン・ポストは報道機関として得た政府や議会への特別のアクセスを商品として売ろうとしている」と批判的に報道された。

 

 ニューヨーク・タイムズも大々的な特集記事で「言論機関の誠実さを欠く商業行為」として激しく非難した。

 

 ウォールストリート・ジャーナルも「新聞が影響力を切り売りするとき」という題の正面からの大批判論文を載せた。

 

 その結果、ワシントン・ポストはあわてふためくようにウェイマス社主の名で「読者への書簡」を発表し、このサロン構想をやめることを宣言して、謝罪した。

 

 同社主は「この構想は新聞社の情報源へのアクセスを売ることになり、報道機関としての独立性や誠実さを売り渡すことにもなるので浅慮だった」との反省の弁を述べた。

 

 その謝罪はコラムや社告、投書の総括など形を変えて4回ほども同紙上で表明されたのだった。

 

 その背景に同紙の経営不振があったことも否定はできないだろう。

 

 今年の最初の3カ月間だけでも合計5400万ドルの赤字を出していたのだ。

 

 だから赤字補填(ほてん)に有料サロンの開催を考えても、ふしぎはない。

 

 しかも米国ではニューヨーク・タイムズを含む他の新聞もみな経営は苦しい。

 

 そんななかで今回はアクセスやコネの商業化、金銭化に各新聞がいっせいに、まったくためらうことなく反対した。憲法で保障された言論の責務にともなう倫理や自立を説く主張も多かった。

 

 肝心のワシントン・ポストも非難を浴びた後だとはいえ、「実は社主の許可は得ていない企画だった」という苦しい弁解をしてまで新聞の道義性を正面に出してきた。

 

 米国でも日本でもこのところ情報伝達の手段という次元での「新聞か、インターネットか」という二者択一ふうの論議が盛んである。

 

 だが今回のような商業性と独立性の境界をめぐる議論は新聞でしか起きえないだろう。

 

 新聞が本来、果たすべき役割、新聞でしか果たせない役割を奇妙な形で強調することになった騒ぎだった。

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ワシントン・ポスト現社主のウェイマス女史の写真です。 

  すでに報じられている「世界ウイグル会議」のラビア・カーディル議長の訪日が近づいています。

 

 果たして予定どおりにこの訪日が実現するのか。懸念もあります。

 

 それは唯一に中国政府がカーディルさんの日本訪問に激しく反対し、関係方面への圧力をかけ始めたからです。

 

 日本で予定されている彼女の活動では、まず下記の7月30日の講演が中心となるようです。

 

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ラビア・カーディルさん緊急来日講演決定!
 2009年7月30日 午後6時半~
 市ヶ谷・私学会館(アルカディア市ヶ谷)3F富士の間
 アクセス:http://www.arcadia-jp.org/access.htm
    JR市ヶ谷駅徒歩2分、地下鉄市ヶ谷駅A1-1出口
 会場整理費として500円
 主催:「ラビア・カーディルさん講演会」実行委員会

 

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以下の記者会見も重要でしょう。

 

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日本記者クラブでの記者会見

 

来日する世界ウイグル会議議長のラビア・カーディルさんが記者会見を開く予定です。クラブ主催ではありませんが、出席を希望される会員はクラブ事務局に申し込んでいただいても結構です。

日 時 7月29日(水)14:00~15:30
場 所 10階ホール
使用言語 ウイグル語・日本語
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上記は日本記者クラブからの案内ですが、おもしろいのはカーディルさんの記者会見について「クラブ主催ではありません」とわざわざ断っている点です。

 

普通、この記者クラブで催される行事はみなクラブの主催のようです。それをあえて「クラブ主催ではない」と強調していることの背後には中国大使館の影が感じられます。

 

もしカーディル議長の日本訪問が実現しなかった場合、その理由は明白でしょう。

 

 

 

アメリカ上院外交委員会の大使任命承認の公聴会を聞いてきました。アジア諸国への一連の大使候補の任命承認でしたが、冒頭は中国大使と日本大使の被任命者が並んで証言をしました。

 

この公聴会での光景に衝撃を受けました。次期日本大使があまりにも軽くみえたからです。7月23日午前9時半からの公聴会の場に3分ほど遅れて着きましたが、会場はそれほど広くない部屋のせいもあって、満員でした。報道陣席の後ろに立って一時間半、傍聴しました。その結果、ショックを受けたので、こうしてすぐ報告することにしました。

 

やや大げさにいえば、この日はアメリカ議会で中国が大きく浮かびあがり、日本が深く沈んだ日として将来、回顧されるかもしれないと感じました。日本大使に任命されたジョン・ルース氏の存在がそれほど希薄であり、軽い印象を与えたのです。

 

大統領が指名した大使候補は上院の承認を得なければなりません。そのための外交上院委員会の公聴会が第一の関門です。

この日は二つのパネルに分かれ、第一が中国と日本の大使任命者、第二のパネルがモンゴリア、パプアニューギニア、マーシャル群島、タジキスタンの四カ国への大使任命者でした。

 

まずこの順番が象徴的です。

第一パネルの筆頭は中国なのです。同盟国であり、アメリカのアジアでの「リンチピン」であるはずの日本はその後におかれています。議長役となったジム・ウェブ議員が「アジアの専門家たちはこの順番をアメリカ上院が判断する重要性の順番を反映するなどとは読んでほしくない」と弁解していました。しかしなぜ同盟パートナーである日本を最初にしないのか、説明はありませんでした。

 

中国大使に任命されたユタ州の前知事のジョン・ハンツマン氏と

並ばされたことはルース氏にとって不運だったようです。二人のコントラストや差異があまりに鮮明となってしまったからです。二人の冒頭の声明や議員側からの質問への応答でも、天と地ほどの違いを感じさせられました。ハンツマン氏は言葉のはしはしから中国を知り、米中関係を知り、アメリカの国政を知っているという感じがあふれてきます。ルース氏は残念ながら、その反対なのです。

 

まだ実務についていない人物を最初から批判することは不公正でしょう。しかし大使としての適性や重みを客観的に判断する基準は存在します。

 

まずざっとあげれば、その基準とは外交の経験、派遣される国についての知識、その国とのかかわり、アメリカでの国政での経験や実績、政権内での比重、大統領への距離など、でしょう。

 

共和党のハンツマン氏はユタ州の現職知事でした。若い時代にモルモン教の宣教師として台湾で数年、活動したために、中国語は非常に流暢です。その後は通商代表部の次席で中国を含むアジアとの貿易問題を手がけました。シンガポール駐在の大使も務めています。

 

一方、ルース氏はシリコンバレーのハイテク分野の法律事務所・コンサルタント企業で実績をあげてきたとはいえ、最大の特徴は民主党の政治家への大口献金の能力です。日本とも日米関係とも、かかわりはほとんどなし、外交の経験もなし、アメリカの国政や公務の経験もほとんどなし、オバマ大統領との距離も近いとはいっても、側近というような範疇にはまったく入りません。

 

歴代のアメリカの駐日大使が元副大統領、元大統領首席補佐官、著名な日本研究学者、元オーストラリア大使、元下院議長、

ベテラン職業外交官などだったことを思えば、この基準ではルーズ氏は最も貧弱だといえます。残念ながら。

 

そしてこの日の公聴会でのルース氏の発言も、この私の評価を裏付ける内容でした。その具体的な紹介はまた場を改めましょう。 

 

な日米両国間の核兵器の問題について以下のサイトにレポートを書きました。

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090721/168635/

 

 

            ルース氏

 

 

 

              ハンツマン氏

こんなニュースがありました。

 

世界ウイグル会議 カーディル議長来日へ 都内で講演、中国反発も


 

 

 

 

 【ワシントン=古森義久】中国の新疆ウイグル自治区で起きた暴動で中国当局から「扇動役」と非難されている在外ウイグル人組織「世界ウイグル会議」のラビア・カーディル議長(写真、米国在住)が来日する予定であることが分かった。

 同会議が明らかにした。

 

 カーディル議長は「暴動」の真相は中国当局によるウイグル人弾圧と主張しており、訪日には中国政府の反発も予測される。

 

 カーディル議長は日本国内の人権活動家らの招待を受け、28日ごろに来日、29日に日本記者クラブで会見が予定されているほか、30日には東京都内で支援者団体らが主催する講演会にのぞむ。

 

 講演では中国領内のウイグル人に対する弾圧の実情、とくに7月5日に起きた「暴動」の実態について語るとみられる。

 

 ウイグル族の窮状を国際社会に訴えるため、日本での講演を議長自身が強く希望していたという。

 

 カーディル議長は2007年11月に国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」日本支部などの招請で初めて来日、全国計8都市でウイグルの実情について講演したことがある。 

 

 しかし今回はウイグル暴動をめぐり、中国政府から「暴動扇動の黒幕」と名指しされたなかでの訪日となり、中国側が不快感を示すのは確実。日本政府に抗議してくることも考えられる。

 

 外務省の担当者はカーディル議長の来日について「ビザ(発給の)申請があったとは聞いていない」としている。

 

 カーディル議長に対しては、中国への配慮から入国を拒否してきたトルコも最近、査証発給を決めていた。

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なお日本の核問題について以下のサイトにレポートを書きました。

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090721/168635/

 

ワシントンでは最新のワシントン・ポスト=ABCニュース合同の世論調査でオバマ大統領の政策への国民の支持が急に下がり始めたことが話題になっています。この調査は7月20日に報道されました。ワシントン・ポストの大見出しは「世論調査が枢要政策でのオバマ低落を示す」でした。

 

それに合わせたかのように翌21日のニューヨーク・タイムズに載った同紙コラムニストのデービッド・ブルックス氏の「リベラル派の自殺行進」という記事が保守、リベラル両方の注目を集めています。

 

上記の世論調査ではオバマ大統領は全体の支持率が59%と、なお高い水準を示しました。しかしこの数字も先月は65%と、6ポイントの低下です。しかも総合的な支持率が60%の大台を割ったのはこれが初めてだそうです。逆に不支持は6月の31%から37%へと上がりました。

 

ブッシュ前大統領も就任後半年ごろの支持率は56%ほどでした。先代のブッシュ大統領にいたっては、同じ時期の支持率は64%です。だからオバマ大統領の支持率59%というのは、とくに高いというわけではないようです。しかも下降のカーブがどうも激しくなってきた気配があるのです。

 

この世論調査結果でオバマ支持派にとってもっと気になるのは、以下の諸点のようです。

 

▽オバマ氏の経済運営への支持が6月の56%から52%へと下がり、不支持が41%から46%へと増えた。

 

▽医療保険政策への支持が4月の57%から49%に減り、不支持が29%から44%に増えた。

 

▽連邦政府予算の赤字についても支持が6月の48%から43%に減り、不支持が48%から49%に増えた。

 

▽無党派層や年収5万㌦以上の層でのオバマ氏の経済運営への反対が急速に増えてきた。

 

以上の数字が示す傾向ももちろん一つの世論調査の結果ですから、こんごも変わるのでしょうが、上記のブルックス氏のコラム記事はオバマ大統領の「大きな政府」政策への一般アメリカ国民の反発が強まり、このままだと同大統領をかつぐリベラル派は国民大多数の支持を失う政治的な自殺へ追い込まれる、と警告しているのです。

 

超リベラル、オバマ支持のニューヨーク・タイムズのコラムニストのなかでもブルックス氏は穏健保守とされていますが、このコラムではオバマ氏側のリベラル派が天文学的な金額の政府資金を景気刺激や大企業国営化、さらには国民医療保険に投入しようとすることは明らかにイデオロギー過剰の暴走に等しいと論じています。

 

  

オバマ大統領と日本沈没

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