2009年12月

 ワシントン・ポストが普天間基地問題をめぐるオバマ大統領と鳩山首相のやりとりなどについて、興味ある報道記事を載せています。

 

 この記事は12月29日付、見出しは「アメリカは日本の新首相の鳩山に懸念を抱く」、筆者はベテランのジョン・ポンフレット記者です。

 

 この記事はワシントンに大雪が降った12月下旬、連邦政府機関がみな閉鎖されたのに、国務省ではクリントン長官が藤崎一郎駐米大使をとくに招いて、アメリカ政府は普天間基地が日米両国間の長年の合意どおりに沖縄県内の辺野古に移ることを依然、強く望んでいることを率直に告げた、と報じていました。

 

 この記事で最も注目されるのは、鳩山首相が自らの言辞を再三、ひるがえし、訂正し、約束を破り、アメリカ側に強い不信感をこよなく植えつけた、という点でしょう。

                         

 

 筆者のポンフレット記者はオバマ政権の複数の当事者たちから取材したという情報に基づき、以下のような趣旨を記していました。

 

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 「鳩山政権の態度はオバマ政権の高官たちに日本との友好や同盟の関係に対しての深刻な懸念を抱かせている。その懸念はアメリカだけでなく、東南アジア諸国の首脳たちも同様に感じている。日本の離反はアジアでのアメリカの安全保障の役割を弱めることになるからだ」

 

 「アメリカ政府の複数の高官によると、鳩山首相はオバマ大統領に対し、二度も、普天間問題は今年末までに解決することを約束し、自分を信じてほしいと伝えた。一度は11月の東京での日米首脳会談で、だった。二度目は鳩山首相がオバマ大統領に送った書簡の中で、だった。この書簡はホワイトハウスが鳩山首相の意図への懸念を非公式に表明するようになった後に送られた」

 

「ところが鳩山首相はその後の12月17日に普天間基地の移転のついては2009年末までには自分が決定を下すことはない、と伝えたのだった。鳩山首相はコペンハーゲンでの気候変動に関する国際会議での夕食会で、この方針をクリントン国務長官に伝えた」

 

「しかし鳩山首相はこの夕食会の直後、日本人記者団に対し、

クリントン国務長官が日本側の決定先延ばしの方針に『完全な理解』を示した、と語った。実際にはそんなことはなかった。だからこそクリントン長官はオバマ政権の方針にまったく変更がないことを強調するため、大雪の中で、藤崎大使を招いて、その旨を告げたのだった」

 

「鳩山首相のこうした態度に対し、ワシントンではまだ鳩山政権も日本の民主党も、日米同盟保持自体ははっきり方針を固めており、ただ鳩山氏自身が未経験だとか、気がかわりやすい、だけなのだ、という見方が有力ではある。しかし一部には、小沢一郎氏らは日本を中国寄りにし、アメリカへの依存を減らし、日本の安保政策の根本を変えたいとしているようだ、という見方も生まれてきた」、

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 だからオバマ政権はいまや鳩山首相への信頼を失い、不信を深めている、というのです。

 

 事態はいよいよ深刻になってきた、という感じです。

 

 鳩山由紀夫氏に日本国の安全保障を任せることがいかに危険か、も日に日に明確となってきたわけです。

 

                            

民主党政権の幹部にも実はまともな考えの人物もいるようです。

 

おそらくは小沢一郎氏のヒトラーばり独裁がそういうまともな考えの表明を抑えこんでいるのでしょう。

 

前原誠司国土交通相が12月27日朝のフジテレビ「新報道2001」で自分から進んで外交政策について発言しました。

 

日米中三国の関係を正三角形と評する向きがあるが、それは「おかしい」と前原大臣は明言したのです。

 

前原氏の発言の趣旨は以下のようでした。

 

「日本にとってのアメリカは自国が攻撃を受けた場合に守ってくれる唯一の同盟国であり、特別な国だ。そのアメリカを中国と同等に扱うのはおかしい」

 

「日本の外交にとってアメリカとの同盟や関係が基軸である。日本がもし北朝鮮に軍事攻撃を受けた場合、アメリカは同盟国として日本の防衛にあたるという誓約がある。だが中国はそんな事態では北朝鮮を味方するのか、日本の味方をするのかさえ、わからない」

 

「そうした中国をアメリカと同様の地位におき、日本にとっては対米、対中の関係が正三角だなどというのは、ものすごくおかしい」

 

以上はごく普通の常識を語ったというのに過ぎません。

 

ところがいまの鳩山政権では、その常識も通用しないのです。

 

民主党では小沢一郎氏やその側近の山岡賢次氏らがあいついで、「日本とアメリカと中国の関係は正三角形だ」とか、「正三角形であるべきだ」という発言をしているのです。

 

前原氏はその小沢氏や山岡氏の発言を正面から否定する形で「日米中は正三角形ではない」と断言したのです。

鳩山首相の最側近だった元第一秘書が政治資金規正法違反罪で起訴されました。もう一人の元秘書も同じ罪で起訴されています。

 

それでも鳩山首相は実母からの毎月1500万円もの不正贈与をも含めて「なにも知らなかった」と主張し続けています。

 

鳩山首相のこのスキャンダルは全世界にすでに報道されました。

その報道はどんな内容だったのか。各国のメディアのなかでも、おそらく最も広範に流れるアメリカのAP通信社の東京発電をみてみました。その内容を抜粋してみます。

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「日本の鳩山由紀夫首相の元補佐官二人が選挙寄付金について虚偽の報告をした罪で起訴された。日本の政治に斬新で、清潔な時代を導入することを誓った指導者の約束が地にまみれた」

 

「鳩山氏は緊急の記者会見で深々と頭を下げ、補佐官たちの罪を謝った。鳩山氏は自民党の腐敗スキャンダルに終止符を打つという公約によって、権力の座に就いたのだ。鳩山氏は就任100日にして、すでに人気を落とし始めた。だが辞任は拒んでいる」

 

「日本の経済は苦しい状態にある。国民の多くは鳩山首相の景気回復策には信をおいていない。鳩山氏の温暖化ガスの大幅な削減の政策は経済界の多くを離反させてしまった。彼の減税や子ども手当、米軍基地移転などに関する公約の二転三転は有権者を失望させた」

 

「鳩山氏は野党の政治家だった時代、与党の議員の秘書が不正を糾弾された際、議員が知らないことなどありえないから、その議員は辞職すべきだ、と主張していた」

 

そしてこのAP報道は一般の日本国民の声として以下のような意見を報じています。それぞれ発言者の実名までを記しています。

 

『鳩山首相の弁解は信じられない。自分自身の財政を管理できない人間が国家の運営をどうしてできるのか。鳩山氏は首相としての必要な要件を備えていない』

 

『鳩山氏の言動は一般の勤勉な納税者たちをバカにしている。政治的な責任を速やかにとって、そぐ辞任すべきだ。これから民主党内部でも参議院選挙は鳩山首相の下では戦えないという考えから首相の辞任を求める声が起きるだろう』

 

『鳩山氏も自民党の腐敗政治家たちと同じであることがわかった。自分で不正を働き、秘書にすべての罪を押し付けているのだ』

 

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鳩山政権が子ども手当の支給に所得制限をつけないという方針を発表しました。

 

16歳未満の子どもがいる親にはその親がたとえ年間所得1億円でも、2000万円でも、子ども1人あたり年間31万円以上が贈られるというのです。

 

その財源はもちろん国民が払う税金などを主体とする公的資金です。子どものいない日本国民、子どもがすでに16歳以上になった日本国民が苦しい生活の中から払う税金が年間所得2000万円の子どものいる親たちにも回される所得の再配分には、肌寒いものを感じさせられます。

 

しかしもっと恐ろしいのは鳩山首相が子ども手当の所得制限なしの方針を発表しながら改めて述べた「子どもは社会が育てる」という言葉です。この耳ざわりのよい言葉には、子育ての主体は、母や父や家族よりも、国家であり、社会だという考えがにじんでいます。

 

子育てというのは、人間の最も私的な行為でしょう。カネさえあれば即、子育てが成り立つというものでは、ありません。子どもたちになにを教え、どう育てるか、それぞれの親が自分自身の信念を注ぎ込む精神的な側面がきわめて大きいはずです。

 

もちろん子育ての基盤となる社会の施設の整備は政府や国家の義務です。しかし子育てという行為自体はそれぞれの親が個人の価値観や道徳観、社会観を主体に、進める私的な活動のはずです。この子育ての「個」という核は、動物たちが自分の子に口移しに餌を与える光景にさえ、明白です。

 

北朝鮮のような全体主義国家では子どもを早い段階で親から引き離し、国家が集団で育てるという発想が実際の政策として実施されています。父や母が自分の子どもたちを自分たちの価値や精神の下で育てるという人間活動本来の姿を国家のイデオロギーを優先させて、抑えるという全体主義です。国家が画一性を子育てに押し付けるという構図です。

 

「子どもは社会が育てる」――実は個人の人間としての尊厳や発意を抑えつける恐ろしい考え方です。もっとも鳩山政権のすることは中途半端が多く、子育てを社会にゆだねるといっても、徹底はせず、不透明、不一致なところも多いようです。国家社会主義的な発想もスローガンは勇ましくても、穴ぼこだらけ、という感じでもあります。だからこの子ども手当もデコボコの多い、まだらな国家社会主義の試みにみえてきます。

小沢媚中朝貢団の北京での言動が広範な批判の対象になっていますが、私はその中国についての新しい本を出しました。

 

これまで日本では詳しく伝えられることがほとんどなかった中国の実態について初めての情報が多々入った新刊書です。

 

アメリカの中国研究の報告書を日本語に訳し、注釈をいろいろつけ、日本にとっての意味を解説した、という形式の本です。

 

タイトルは『アメリカさえ恐れる中国の脅威!』です。

 

アメリカにとって、そして日本にとっての中国の実態に迫った書でもあります。

 

12月20日ごろには書店に出ると思います。

      

  この書の序文は以下のとおりです。

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はじめに

 

中国とは一体、なんなのか。

 

中国とはなにを築き、なにを目指す国家なのか。

 

アメリカにとって、さらに日本にとって、いまの中国はどんな意味を持つのか。

 

いや世界にとっての中国とはなんなのか。

 

世界の経済を揺るがし、政治や軍事の面でも、ますますパワーを発揮する中国は、全世界の注視の的である。

 

私の駐在するアメリカの首都ワシントンでも、ときには中国を語らずして、世界を語るなかれ、とさえ思わされるほどの中国論議のにぎわいとなる。

 

そのような存在感を劇的に強める中国の実態に奥深く光をあてたのがこの書である。

 

日本での中国情報には制限や偏向がある。

 

中国は日本のすぐ近くに位置し、経済をはじめとする交流がきわめて広くなってもなお、日本で公開される情報では、枢要部分がベールに包まれたままである。

 

たとえば新鋭のミサイルや潜水艦の登場が物語る中国の軍事力拡大の実態、東シナ海で国威を発揚する国家主権の拡大の思考、宇宙やサイバーという領域での攻撃準備、そしてハゲタカとも称される巨大な中国の国家ファンドの内幕・・・などについては、日本での情報はきわめて少ないようである。

 

この書は日本ではわかりにくい中国のそうした領域の実情を報告している。

 

アメリカ官民が総力をあげて実施した中国の研究と調査の結果である。

 

アメリカ議会の常設政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」が長い時間と膨大なエネルギーを投入して続けてきた中国についての調査の二〇〇八年度報告書の翻訳と解釈がこの書の内容である。

 

中国の実態はどうかということと同時に、その中国をいまのアメリカがどうみるかも、これまた重要である。

 

オバマ政権下のアメリカにとって中国とはなんなのか。

 

この命題は国際社会にも、日本にも、きわめて大きな意味を持つ。

 

中国の実像をどのようにつかみ、その中国にどう対処していこうとするのか。

 

この作業はアメリカにとって切迫した重大課題である。

 

そしてアメリカが中国にどう対応するのかは、日本をはじめとする諸国にとって、これまた重大な関心事となるのだ。

 

 アメリカの対中政策やその結果としての米中関係のうねりが日本にとっても重い意味を持つことは言を俟たない。

 

 アメリカのそうした最新の中国への認識や態度を知るのにきわめて価値の高い資料がこの「米中経済安保調査委員会」の二〇〇八年度年次報告なのだ。

 

 同年十一月末に公表された。

 

 アメリカの中国研究は官民ともに日本よりはずっと幅広く、奥行き深く、しかも鋭い切り込みで活発に進められている。

 

 そうした中国研究に取り組む多数の組織のなかでも、この米中経済安保調査委員会は中国に対して最も広範に、最も深層へと踏み込む機関だといえよう。

 

 二〇〇一年に発足した同委員会は「米中両国間の経済関係がアメリカの国家安全保障に及ぼす影響を調査する」ことを活動の主目的とする。

 

 そのためには中国側の経済だけでなく政治、外交、軍事、そして金融やエネルギー政策まで実に広い領域に光をあて、それぞれの動きがアメリカの安全保障にどんな意味を持つかを探究する。

 

 その結果を議会や政府に政策勧告として通告する。

 

 (中略)

 

 さて、では最初に年次報告の内容の概要を紹介しよう。

 

この報告は二〇〇八年の同委員会の調査や研究、分析、そして提言の総括である。

 

同委員会はこの公表分の報告書とは別に政府諸機関や上下両院議員向けに秘密の報告書を提出した。

 

 同年次報告は内容全体のなかでの主要な調査結果として以下の諸点をあげていた。

 

 ▽中国の人民元の対ドル交換レートは中国当局の操作により不当に低く抑えられている。

 

▽中国当局は政治や経済の利益を追求する手段として主権国家資産ファンド(SWF)を使うようになった。

 

 ▽中国は高度技術製品の取引や開発を従来の規範に違反する形で進めている。

 

 ▽中国はなお問題のある大量破壊兵器の拡散に関与している。

 

 ▽中国は国家の主権という概念に特異な見解を示し、国際合意を無視する形で主権の拡大を図る。

 

▽中国のアメリカのコンピューター・システム侵入や宇宙での動きはますます脅威となってきた。

 

本書は以上の大別六つの領域についての報告である。

 

しかし元の報告にはさらに以下の諸点についての記述もあった。

 

▽中国の海産食品の対米輸出にはアメリカ国民の健康への脅威が存在する。

 

▽中国の活発な動きが世界のエネルギー供給を激変させ始めた。中国の炭酸ガス排出も急増してきた。

 

 ▽中国は種々の新たな手段で外交的影響力を強化している。

 

 ▽中国の韓国、日本、台湾との関係のうねりはアメリカにも大きな意味を持つ。

 

 ▽中国の国内でのニュース・メディアやインターネットの規制は国際的な懸念を生んでいる。

 

 ▽中国の刑務所労働による製品のアメリカへの輸出がなお問題となっている。

 

  以上の項目については本書では紹介はしていない。

 

 日本にとってそれほど重要な部分ではないということではなく、あくまで一冊の書として紹介するには量的に多すぎたことからの省略となった。

 

 報告はその全体の「序」では二〇〇八年が鄧小平氏による改革開放の開始から三十年にあたることを指摘していた。

 

 鄧氏が求めたシステムは「中国的特徴の資本主義」とか「市場社会主義」と評されてきたことを強調する。

 

その上で基本認識として次のように述べていた。

 

 「中国の経済自由化への道がやがては自由市場経済の資本主義、さらには民主主義にまで通じるだろうという西側の期待はまったく打ち砕かれてしまった。この報告が詳述するように、中国当局はまったく異なる道を選んだのだ。その長期の経済成長の疾走は政治改革への足がかりではなく、むしろ逆に中国共産党の永続統治の正当化に利用されてしまった」

 

 「二〇〇八年夏の北京五輪は中国の金メダルの大量獲得こそ実現させたが、その一方、世界の視線を中国の急速な経済成長の環境問題への悪影響や自由な言論、自由な思考、自由な報道への政府当局による無慈悲な抑圧へと向けさせることとなった」

 

 この報告全体が特徴づける中国のいまのあり方は、このへんの記述によって浮き彫りにされるといえるだろう。

 

 きわめて批判的、警戒的な対中認識なのである。

 

 このへんはオバマ政権自体の中国への姿勢よりはずっと強固だといえる。

 

 オバマ政権はこのところ中国への批判や非難はできるだけ抑えるという方向へ傾いているのだ。

 

しかしこの報告も「序」の部分で中国の前向きな動きにも光をあてていた。

 

 「二〇〇八年中に中国はより多くの国際的な責任を負担することにもなった。六カ国協議への中国の関与は北朝鮮の核兵器を破棄させるための交渉に寄与する結果となった。中国は核兵器の拡散防止自体に対し協力を増してきたのだ。中国はインドとロシアとのそれぞれの国境紛争を平和的に解決した。世界貿易機関(WTO)でもさらに積極的な役割を果たすようになった。二〇〇七年は衛星攻撃兵器の実験を突然、断行して、宇宙に危険な破片をばらまく結果となったが、二〇〇八年九月には初の有人宇宙飛行を平和裏に実現させた」

 

 つまりは中国の動向はアメリカからみれば、光と影、明と暗と、安全と危険と、多様なコントラストを描くこととなる。

 

 だがそのなかでもアメリカにとってはまだまだ脅威や懸念の元となる中国の動きが多いというのがこの年次調査報告が描き出す全体像だといえそうである。

 

 さて、では報告の主な内容を分野ごとに区分して伝えることにしよう。

 

 原文のそのままの引用と要約と解説を組み合わせながら各部各章ごとに紹介していくことにする。

 

二〇〇九年十一月

                   古森義久  

 

 

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