2010年07月

 ワシントンでの米中関係にかかわる最新の動きです。

 

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〔ワシントン=古森義久〕

 米国上院軍事委員会の共和党有力メンバーのジョン・マケイン議員ら5人は国防総省が毎年春に議会に送って公表する「中国の軍事力」報告が今年はまだ未発表なことに抗議する書簡をこのほどロバート・ゲーツ国防長官に送った。

 

 オバマ政権では国家安全保障会議(NSC)の政治任命幹部らが同報告の公表は中国を刺激するとして遅らせているとみられる。

 上院軍事委員会の共和党筆頭メンバーのマケイン議員や同党のジョン・コーニン、ジェームズ・インホフら合計5議員は7月23日付でゲーツ国防長官に書簡を送ったことが30日までに明らかにされた。

 

 同書簡は2000年度以来、法律で国防総省に義務づけられている「中国の軍事力」報告の毎年の作成と議会への送付、公表が2010年はまだ未公表となっていることを批判的に指摘して、同報告の速やかな作成と公表を求めている。

 同書簡は「急速に拡張する中国の軍事力の真の特徴とその増強の度合いや、軍事の能力や戦略の実態を知ることは米国の軍事費審議でも必要だ」として、中国の軍拡については改めて前年度までの報告などを引用し、「中国は軍拡を近代化の名の下にもう20年も実行しており、全世界でも最も積極的な弾道弾ミサイル、巡航ミサイルの開発を進め、西太平洋でも航空母艦の配備を目指し、潜水艦では原子力推進の原潜の配備を進めている」と警告した。

 中国の軍事力報告の公表遅れには上院軍事委の民主党側議員も批判を表明しており、同委員会のメンバーで中立派のジョセフ・リーバーマン議員がすでに2011年度の防衛支出権限法案に「法律で決められた『中国の軍事力』が未提出であることへの不快感を上院軍事委員会として一律に表明したい」というⅠ項目を加えることを提唱し、同委員会多数派の同意を得た。

 同書簡は国防総省の同報告提出の遅れの理由については「ホワイトハウスの国家安全保障会議の政治任命者たちが中国を怒らせることを避けるために、同報告の公表を遅らせているという実態がないことを願う」と述べて、オバマ政権の対中政策の甘さを批判した。

 

 しかし国防総省の報道官も同報告の発表の遅れについては論評を拒んでいる。

 「中国の軍事力」報告は同書簡の指摘のように昨年までは毎年3月ごろに議会への送付と公表がなされてきた。だが今年は8月近くの現時点でもまだ公表されていないが、国防総省では3月ごろにすでに草案の作成を終えて、ホワイトハウスの了承を得ようとしたものもの、大統領段階でストップされたままになっているという。

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伊藤忠商事から中国駐在大使に起用された丹羽宇一郎氏が中国の軍拡に理解を示しました。
 
  
 
中国の代表なら中国の軍拡に理解を示すのは当然でしょう。
 
中国とのビジネスい生きてきた日本商社の代表としてならば、同じように中国に理解を示すことは、それほど不自然ではないのでしょう。
 
しかし丹羽氏は日本の国民や国家の代表に任じられたのです。
 
中国の行動は中国にとって有利になるなら、それはよいとする、というのでは中国の大使と変わりありません。
 
あくまで日本にとってどうか、という視点が欠かせないはずです。
 
そんな感想とともに、丹羽氏の問題発言についての産経新聞記事を紹介します。7月27日付です。
 
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丹羽大使 中国の軍事力増強 「大国として当然」
2010年07月27日 産経新聞 東京朝刊 1面


 

 今月末に赴任する丹羽宇一郎駐中国大使(元伊藤忠商事社長)は26日、都内で開かれた歓送迎会であいさつし、2009年まで21年連続で国防費が2けたの伸びを記録するなど中国の軍事力増強が続いていることについて「大国としては当然のことといえば当然のことかもしれない」と述べた。中国の突出した軍拡には日本や米国が警戒感を示しているだけに、菅直人政権の「目玉人事」である丹羽氏の発言は波紋を広げそうだ。
 
 
 丹羽氏は経済面でも「この先、日本が2%、中国が8%の成長を続ければ10年後には中国の国内総生産(GDP)は日本の2倍になる」と指摘した。

 また、政治力に関し「日本は中国に比べ世界的に落ちている」とし、「日本はあまりにもリーダーが代わりすぎる」と述べた。そのうえで菅政権に対し「現政権は少なくとも数年間、世界の信頼が得られるような長期政権を続けていただきたい」と要望した。中国側に対しては、「世界に大きな影響を与える大国であり、その自覚を持ってもらいたいと申し上げたい」と強調した。

 丹羽氏はこれに先立ち同日、都内の日本記者クラブで記者会見し、1ドル=6・78元台で推移する人民元相場について「1ドルは4、5元にならざるを得ないだろう」と語った。「大使が言うのは問題なので、個人的に言う」と前置きしたが、大使が駐在国の為替相場について具体的に発言するのも異例だ。人民元問題をめぐり中国は6月にドルとの相場連動を解除したものの変動幅はごくわずかにとどまっている。多額の貿易赤字を抱える米国は反発しながらも、今後の推移を監視するため、「為替操作国」の認定を見送るなど、「極めてデリケートな問題」(外交筋)となっている。

 一方、大使館員がホステスの接客するカラオケ店に出入りすることを禁止する方針を継続する考えも表明した。丹羽氏は「(中国では)スパイ行動や盗聴が起きている。国に多大な被害をもたらす可能性がある。『君子危うきに近寄らず』だ」と述べ、赴任後館員に注意を促す意向を示した。

 丹羽氏は「農家補償を出すなんていうのは本当に愚策だ」とも述べ、戸別所得補償制度を暗に批判した。
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  中国海軍がいよいよ自国独自の航空母艦を建造し、アジアの海に配備する、という話です。

 

【ワシントン=古森義久】

 

 

 米国議会調査局は上下両院議員の国防関連議案審議用の資料としての中国海軍近代化についての最新報告で中国が2015年から5年ほどの間に6万㌧から7万㌧の航空母艦最大限6隻を建造する見通しがある、と警告したことが明らかとなった。

 

 中国はすでに空母搭載用の戦闘機パイロットの訓練を開始したという。

 

 同調査局がこのほど作成した「中国の海軍近代化=米海軍の能力への意味」と題する報告は中国人民解放軍の海軍の戦力強化の主要領域として航空母艦をあげて、「長年の議論や推測を経て、いまや中国が空母建設の計画を開始することが確実となった」という結論を打ち出した。

 

 同報告はそのうえで米国の海軍や情報機関から得た情報を主体として中国海軍が

 

 ①ウクライナから購入した旧ソ連海軍の空母ワリャーグを近く訓練用の空母として配備する

 

 

 ②同時に2015年から5年間に中国独自の空母1隻から6隻を建造する計画に着手する

 

 ③当初は4万㌧程度の通常推進空母の建造を目指すが、やがて6万㌧から7万㌧の原子力空母の製造を目標とする

 

 ④4万㌧級だと艦載機は垂直上昇の小型機に限られるが、7万㌧級だと通常の艦載戦闘機40機以上の発着が可能となる

 

 ⑤ロシア製の空母発進の艦載戦闘機Su33を約50機総額25億㌦程度で購入する交渉をすでに始め、同機の中国人パイロットの養成を開始した

 

 ―ことなどを記している。

                 Su33

 

 同報告は中国の国産空母の実戦配備は早くとも2015年以降になるとしながらも、中国軍空母は台湾攻略にはとくに必要な戦闘能力とはみなされないと述べ、台湾有事を越えるパワー・プロジェクション(兵力の遠方への投入)への効用を強調した。

 

 同報告は中国の空母保有を純軍事的な大国化だけでなく、政治や外交の面での大国の威力の発揮を可能にする軍事手段として定義づけ、空母開発は中国の世界での比重の増大に直結するとも解説した。

 

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 産経新聞に連載している私の体験的日米同盟考のつづきを紹介します。 

 

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朝刊 国際
【安保改定から半世紀 体験的日米同盟考】(19)カーター政権の対外策

 
1977年1月20日、カーター大統領は就任パレードで自動車を降り、ロザリン夫人とともに歩いて沿道の市民に笑顔を振りまいた(AP)

 
エド・マスキー上院議員の首席補佐官などを務めたメイナード・トール氏

 

■日本と安定した絆を

 

 民主党のジミー・カーター氏が米国の第39代大統領に就任した日のワシントンは厳寒だった。空は早くから青く晴れ上がったが、気温は氷点下7、8度と、身を切るようだった。

 

 1977年1月20日、初めて目の当たりにする大統領就任式とあって、私は清新な思いだった。議事堂東正面に設けられた式場の記者席は意外と宣誓の場に近かった。

 

 就任宣誓をすませたカーター氏はホワイトハウスまでの2キロ余の自動車行進を半分ほどで止め、街路にひょいと飛び降りた。ロザリン夫人と手をつなぎ、徒歩で行進する。既成の政治勢力への抗議を掲げて当選した草の根ポピュリズムの政治家らしいパフォーマンスだった。

 

 52歳の彼は南部ジョージア州の知事を1期務めただけで、国政の経験はゼロ、海軍士官として潜水艦勤務の軍歴こそあるが、職業はピーナツ栽培の農業、そしてキリスト教の牧師でもあった。外交も経験はなかったが、選挙戦中から一貫して「道義」を基にする「人権外交」を説いていた。

 

 大統領の最側近も32歳の政治担当補佐官ハミルトン・ジョーダン氏、33歳の報道官ジョディ・パウエル氏と、若いジョージア組で固められていた。ベトナム戦争での挫折直後の反ワシントン志向の反映でもあった。

 

 カーター新政権のホワイトハウスは日本人記者に驚くほど友好的だった。パウエル氏やジョーダン氏は私が話しかけてもごく気軽に応答してくれた。カーター大統領も日米同盟の重視をうたっていた。東西冷戦を背景にベトナムや朝鮮半島での激動や緊迫が続くなかでは、日本との安定したきずなを大切とみなしたのだろう。

 

  そのころ初めてインタビューしたエドウィン・ライシャワー元駐日大使も「日本国内で反発の激しかった米国のベトナム介入が終わったため日米関係も非常に良くなった」と述べていた。日米間では経済摩擦もまだほとんどなかった。

 

 やがてホワイトハウスのスタッフと日本人記者団とのソフトボール試合が休日の朝に催されたほどだった。試合はホワイトハウス側が圧倒的に強かった。日本側には東大野球部の選手として活躍した共同通信の金子敦郎記者もいたが、チームとしては20点ほどの大差での惨敗だった。だが試合にはパウエル夫妻も参加して、大にぎわいだった。近年では考えられない日米交流である。

 

 私は個人としてもカーター政権の各省の幹部たちに知己を得ることができた。慶応大学柔道部で激しく練習をした旧友のメイナード・トールがカーター政権に入り始めた友人たちを次々に紹介してくれたのだ。

 

 メイナードはスタンフォード大学から慶応大学に交換留学生としてきて、勉学のかたわら柔道部に入った。初心者だったが、一年まるまる休みなく練習に励み、私たちとすっかり親しくなった。

 

 帰国後は彼はジョンズホプキンス大学院を出て、議会に就職し、上院民主党の大物のエド・マスキー議員の首席補佐官にまでなっていた。その民主党の仲間たちがカーター政権の誕生で国務省や国防総省の中枢ポストに就き出したのだ。

 

 米国では政権が代われば、官僚機構の上層部に大統領と同じ政党の人材が3千人以上も政治任命として新たに入ってくるというシステムも実地に知らされた。

 

 政権発足直後、メイナードの友人のひとり、ジム・ウールジーという30代の弁護士を小さな事務所に訪れ、歓談していると、電話が鳴った。受話器を取り、しばらく話していた彼は「いま新政権の友人から海軍次官にならないかという話がありました」と告げるのだった。

 

 その数日後、ウールジー氏の海軍次官任命が正式に発表された。なるほど米国の行政府の政治任命制度はこんなふうに柔軟で自由に機能するのかと感嘆した。

 

 ウールジー氏はメイナードのスタンフォード大学時代の同級生で軍事問題の専門家として上院軍事委員会で働いた経験があることが後に分かった。ちなみに同氏はクリントン政権ではCIA(中央情報局)長官に任命された。

 

 こんな体験を経て、私はカーター政権には自然と親しみを感じるようになった。(ワシントン駐在編集特別委員)

 

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 中国の国家ファンドの脅威についての報告を続けます。

 

 私の書『アメリカでさえ恐れる中国の脅威!』からの紹介です。

 

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『国家安全保障への影響』

 

 アメリカ側の中国国家ファンドの活動に関する懸念の真の対象は自国の安全保障への悪影響である。CICのような中国の国家ファンドの巨大な資金の操作によってアメリカの防衛や安全がいつのまにか弱体化されるようなことがあってはならないという心配だといえる。

 

 たとえばCICが軍事転用の可能な高度技術製品を製造する企業の株式を買い占める。CICがアメリカ側の特許や意匠など特別な知的所有権を中国側に移せるような形の対米投資をする。米側はこうした事態を最も警戒するわけだ。

 

報告は同調査委員会の公聴会でのカリフォルニア大学のピーター・ナバロ教授の証言を紹介している。

 

 「中国の国家ファンドは特定のアメリカ企業の資産を大量に購入することによって、その企業の生産関連の職や施設を海外に移すか否か、生産管理の慣行のあり方、研究と開発のあり方、技術移転のあり方などに関する決定に影響を及ぼすことが可能になる」

 

 「中国の国家ファンドはさらにアメリカ経済の港湾、電気通信、エネルギー、防衛、軍事汎用技術などの領域をコントロールすることも可能になる」

 

アメリカでは外国企業が国家安全保障にかかわるアメリカ企業を買収することへの強い警戒感は伝統的に存在する。外国企業の実際の資本取得を「アメリカの国家安全保障を損なうか否か」という基準から厳しく監視するための「外国投資・国家安全保障法(FINSA)」という法律もある。この法律に基づいて運営されるのがアメリカ政府の関連各省庁の代表で構成する「アメリカ外国投資委員会(CFIUS)」である。

 

CFIUSは外国機関がアメリカ企業に投資、あるいはアメリカ企業を取得する場合、米側企業の高度技術がアメリカの安全保障を損なう形で外国に流出しないことを確実にする。流出の危険があるとなれば、その投資や取得に禁止の命令を出す。CFIUSはその外国投資が安全保障にかかわるアメリカ産業の特定領域の「外国によるコントロール」を生むと判断した場合でも、その投資を停止する権限を持つ。とくに特定の外国資本が外国政府とつながりがある場合にはCFIUSは監督をとくに強める。

 

しかし報告はそれでもなおCICのような国家ファンドがアメリカの安全保障に悪影響を及ぼす危険性があることを以下のように指摘していた。

 

「CICが中国の他の国営機関と協力し、特定のアメリカ企業の株式一〇%以下を数ヶ月、あるいは数年の期間にわたって取得していく場合には、現行のCFIUSの監視や規制から逃れることができる可能性がある」

 

「CICなど中国の国家資本はアメリカの軍事面での安全保障を脅かそうとすれば、すぐにCFIUSなどの規定で監視の対象となるが、アメリカの経済や金融の安定にかかわる経済安全保障への影響力行使となると、現行の規制を逃がれやすい」

 

「とくにCICは米側のヘッジ・ファンドや一般投資ファンドへの投資を通じてアメリカの経済、金融の安定を乱すことが可能である。この方法での工作はアメリカの国家安全保障に悪影響を与えることになるが、いまの規制ではその阻止が難しい」

 

米側の現行の規制ではなお逃げ道がいくつもある、ということなのだ。中国の国家ファンドがアメリカの国家安全保障を害する危険はいつもある、ということだろう。

 

『中国の国家ファンドへの対抗策』

 

こうした現状を踏まえてアメリカ政府は中国などの国家ファンドへのもう一つの対策として国際通貨基金(IMF)や世界銀行という国際機関の枠組みによる規制を推進している。多国間の枠組みによる国家ファンド対策である。国家ファンドが国際金融システムのなかで責任を有し、建設的な役割を果たすことを目指す国際的対策だった。

 

この対策としてIMFは「国家ファンド国際作業グループ」を結成した。メンバーには中国やアブダビのような国家ファンドを持つ諸国とアメリカのような国家ファンドが流入してくる諸国の両方が加わっていた。その結果、二〇〇八年九月にチリの首都サンティアゴでの国際会議で合意をみたのが国家ファンドに関する「一般受容の原則と慣行(GAPP)」と題された指針だった。この合意指針は「サンティアゴ原則」とも呼ばれた。

 

報告はアメリカ政府の代表のロバート・キミット財務副長官(当時)がこのGAPPを「グローバルな金融システムの開放性と透明性とを強化する礎石」として歓迎したことを強調しながらも、二十四項の「原則」から成るGAPPには拘束力はなく、あくまで各国が自国の法律や実情に沿って任意で守る指針である点への注意を喚起している。IMFが指針の履行の状況を調べることもないというのだ。

報告はそのうえでこの指針の具体的な内容を紹介していた。

 

「二十四のうちの『原則2』は国家ファンドの活動が政治的ではなく経済的、財政的な目的に発していることを明確に定義することをうたっている」

 

「原則6は国家ファンドがその資金の保持者と運営者の区分を明確にすることを求めている」

 

「原則9は国家ファンドの個別の純商業的投資に対し同ファンドの国家当局が後から政治的、戦略的な影響力の行使をしてはならないと規定している」

 

「原則19は国家ファンドの投資の目的は経済、財政の域外に及ぶ場合、その内容を具体的に明記して発表することを求めている」

 

「原則20は国家ファンドがその帰属する国家当局からの特別な情報や特別な支援を求めてならないと決めている」

 

しかし報告はこのGAPPには非拘束性のほかにも欠陥があることを指摘する。

 

「国家ファンドの実態に詳しいエドウィン・トルーマン元財務次官補がGAPPの弱点として透明性と責任性をあげている。原則のほとんどは国家ファンドの一般への情報開示についてはなにも求めていない、というのだ」

 

報告はさらに他の国際機関や特定の国家がそれぞれこの国家ファンドという現代のモンスターにどう対処するか、どう共存するか、を模索していることを伝える。その一例としてあげられるのは先進工業諸国から成る経済協力開発機構(OECD)の動きである。

 

OECDは国家ファンドを受け入れる側の諸国の対策について研究し、二〇〇八年四月にはその投資委員会が「国家ファンドとその受け入れ諸国の対策」という報告書をまとめた。この報告書は国家ファンドの活動に対して透明性、自由化、無差別、予測性、責任性などを求めていた。

 

ではアメリカ政府は中国などの外国の国家ファンドにどう対応しているのか。報告はその対応には重大な欠陥や深刻な問題があることを提起している。

 

そうしたアメリカ政府の姿勢を総括すると、次のようになる。

 

二〇〇八年前半には財務省は外国の国家ファンドに関する対策を協議する作業班を結成した。同時期に「大統領金融市場作業グループ」がヘンリー・ポールソン財務長官の主宰で国家ファンドの調査を開始した。

 

二〇〇八年九月にはアメリカと中国の両政府が二国間投資条約の交渉を始めた。この交渉では当然、中国の国家ファンドへの規制が主要課題として浮上した。

 

しかし現段階では国家ファンドに対するアメリカ側の対応策は全体としてきわめて限定されている。なぜならアメリカの銀行や税金に関する現行の法律はみな国家ファンドが登場する前に制定されており、国家ファンドに効果的に対処する法的基盤がきわめて薄弱だからである。

 

アメリカ議会の税制合同委員会が二〇〇八年六月に出した報告書は外国政府のアメリカでの商業活動に関する米側の現行税法が外国の国家ファンドにも適用されることの是非を論じていた。現行のアメリカ税法では外国政府による米国内でのパッシブ証券投資(資産運用投資)は商業的とみなされず、課税を免除されている。その延長として外国の国家投資機関がアメリカ国内への投資で得た利子は源泉徴収を免除される。

 

だが国家ファンドの活発な動きによって、いまやその種の課税免除をなくすようにする方法が検討されるようになった。とはいえアメリカ政府の外国の国家ファンドに対する規制にはまだまだ不備がある。これから新しいアプローチが求められるわけである。

 

報告はこうした米側の曖昧な規制の状態がCICにからんで中国の国有銀行のアメリカ国内での活動にも影響していることを記していた。

 

要旨は次のとおりである。

 

アメリカ金融当局は中国の国有銀行である中国工商銀行と中国建設銀行がアメリカ国内に支店を開くことを認めるか否かをなかなか決められず、その決定は予定よりもずっと遅れてしまった。その理由はCICをどう扱うかを決められないためでもあった。

        (中国工商銀行)

CICは中国の国有銀行持株会社である中央匯金投資有限責任公司のコントロール権限を与えられたため、国有銀行の運営の責任もあるとみなされた。その結果、アメリカの連邦準備制度委員会は中国の国有銀行のアメリカ国内での活動の認可を考える際に、CICをその国有銀行を動かす持株会社として扱うかどうかを決めなければならなくなった。

              (中国建設銀行)

連邦準備制度委員会はけっきょく二〇〇八年八月に中国工商銀行のアメリカ国内支店開店の申請に許可を出した。ただし「CICは中国工商銀行のニューヨーク支店を通じて自己傘下の他の企業に資金を投入してはならない」という警告がついていた。同時に連邦準備制度委員会は中国工商銀行ニューヨーク支店に対しCIAのコントロール下にある企業との取引は同支店の融資全体の二〇%以下に留めなければならないという制約をも通告していた。同委員会はCICを中国政府に完全に所有され、国有銀行を動かす存在とみなしたわけだ。

以上のようにアメリカ側の各機関はいまや試行錯誤も含めながら、全力で中国の国家ファンドへの対抗策を築こうとしているのである。

 

『総括』

 

第二章の「結論」部分はこの中国国家ファンドの実態とそれをめぐる種々の問題を以下のように総括していた。

 

(1)中国政府は国際経済での中国の役割の拡大、とくに保有外貨の膨張により、その資金を各国への金融、投資の活動を通じて自国の戦略や安全保障上の目的を推進するようになった。中国共産党の最高指導部が国家ファンドを動かすようになった。

 

(2)国家ファンドの代表的な機関は二〇〇七年九月に中国政府が発足させた中国投資有限責任公司(CIC)である。CICは中国共産党と一体の国家最高権力機構の国務院に直結する。しかもその全体のシステムが一党独裁の秘密のベールに包まれ、一般の投資ファンドが当然とする透明性や情報開示とはまったく無縁だといえる。

 

(3)中国のもう一つの陰の国家ファンドとして国家外貨管理局(SAFE)の存在がある。国家外貨管理局というのは、文字どおり中国の外貨を管理する国家機関そのものである。このSAFEがCICを動かす場合が多い。同時にSAFEがこんどは独自にCICと競合し、競争する形で巨額の対外投資を実行することもある、SAFEの特徴はその自由にできる資金の額が異様に巨大なことだ。中国が国家として保有する外貨二兆㌦以上を投資に回せるという。

  

『ではなにをすべきか』

 

報告はこの第二章で取り上げた諸問題について、アメリカとしてはではどう対応すべきかを具体的な勧告としてまとめている。米中経済安保調査委員会としての議会や政府への政策の勧告である。

 

その勧告の要旨は以下のようだった。

 

(1)当委員会としてはアメリカ議会がアメリカ国内でのすべての外国の国家ファンドと外国の国家にコントロールされた投資関連企業の投資に関する拘束力を持つ情報開示要求規制を作成することを勧告する。その種の情報開示義務は法律、あるいは条例の形をとり、株式の公開、非公開を問わないすべての企業、ヘッジ・ファンド、民間証券ファンド、投資パートナーシップなどに適用される。

 

(2)当委員会としては中国の国家ファンドと国営企業の透明性欠如と政治的特徴によって生じるユニークな国家安全保障と経済上のチャレンジを確定し、対策を講じるために、アメリカ議会が大統領に財務省、証券取引委員会(SEC)、その他の適切な省庁の代表から成る特別の省間作業班を創設するよう求めることを勧告する。

 

(3)当委員会としてはアメリカ議会に対し、中国の国家ファンドが中国の他の国営企業や投資機関と協力してアメリカ側の「外国投資・国家安全保障法」に基づく審査や調査を妨害することを防ぐために、同法の履行と適用を監視することを勧告する。

 

以上のような勧告はアメリカの行政府、立法府の両方が中国の国家ファンドのアメリカ国内での活動を多角的に厳しく監視し、取り締まることを求めているわけである。

(以上、第二章終わり)

 

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