2010年10月

 中国当局による人権弾圧の報告の続きです。

 アメリカの「中国に関する議会・政府委員会」の報告に基づき、私が書いたレポートです。

 

 日本ビジネスプレスの私の連載コラム「国際激流と日本」からの転載です。

  その全文は以下のサイトで読めます

 

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/4735

             =======

ウイグル人とチベット人は「民族浄化」されてしまうのか

 同報告は中国当局の広範な人権弾圧の実態を詳述しているが、中でも特に弾圧されている対象として、ウイグル人とチベット人という少数民族の実例を挙げていた。

http://f.hatena.ne.jp/images/fotolife/m/mensch/20090711/20090711222314.jpg

 

 

 結論を先に述べるならば、ウイグル人もチベット人もこのままでは独自の文化や宗教、言語を抹殺され、中国の多数民族である漢民族に吸い込まれてしまう。かつて旧ユーゴスラビアで起きた「民族浄化」にも匹敵する、民族の独自性の抹殺が進んでいるという。

 

 ここで「中国に関する議会・政府委員会」の報告から、ウイグル人とチベット人への弾圧の状況の骨子を紹介しよう。

 

新疆ウイグル自治区での弾圧の状況】

 

◆2009年7月のウイグル人の騒乱事件以来、中国当局は住民に対する前例のない厳しい報道管制をさらに強化し、「民族団結」の標語の下に、特にウイグル人の統制や監視を強めた。

 

◆同騒乱で逮捕された千単位のウイグル人たちの消息は不明のままで、その司法手続きは不透明を極めている。

 

◆共産党が経済開発でもウイグル人の独自性やこの地域の自主性を無視して、中央政府主体の漢民族主導の形式を広げている。ウイグル人の地元での就職を難しくしている。

 

◆中国当局は、ウイグル人の子供たちが通う学校で中国語の教育を強制的に強化し、ウイグル語の使用を禁止する措置を次々に取っている。

 

◆中国当局は、ウイグル人が居住する古い都市カシュガルの文化遺産とも言える中心街を改造し、民族の独自の伝統を奪っている。

 

◆イスラム教への弾圧がますます強まった。当局は官製の「中国イスラム教教会」を通じてイスラム教の内容を共産主義の方向へ変え、ウイグル人本来の宗教を過激派扱いしている。

 

◆ウイグル人の若い男女多数が父祖の地から沿岸部の都市に半強制的に移住させられ、ウイグル地区の漢民族の比率が増大している。

 

◆中国政府はウイグル人の海外亡命をますます厳しく取り締まり、すでに海外に出たウイグル人については、外国政府に圧力をかけて中国へ送還させている(2009年12月には、カンボジア政府が自国領内にいた中国籍ウイグル人20人を中国政府の要請で強制送還した)。

 (つづく)

                     =======

  日本国民の大多数が望んでいることだと思います。

 

 以下に産経新聞の社説を紹介します。

                         =======

 

【主張】対中外交 首相はビデオ全面公開を
2010年10月28日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面

 菅直人首相は東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議に出席するため、28日にベトナムを訪問する。中国の温家宝首相との首脳会談を調整しているが、気がかりなのは対中姿勢だ。

これに続き、11月には横浜でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれる。首相には、これを成功させるため、過剰に対中配慮している姿勢がうかがえるからだ。

それを端的に表すのが、尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件で海上保安庁の巡視船が撮影したビデオをめぐる対応だ。ビデオは27日、政府から中井洽(ひろし)衆院予算委員長に提出されたが、全面公開を避けたい政府・民主党に対し、野党は全面公開を求めている。

日本の主張の正しさを国際社会にアピールするためにも、ビデオの全面公開が不可欠である。首相は首脳会談前に決断すべきだ。

ビデオは国会法に基づく正式な手続きで提出され、取り扱いは国会が独自に判断すべきものだ。那覇地検は横路孝弘衆院議長にビデオを提出した際に「配慮が必要なので、見る方の範囲を含めて慎重に扱ってほしい」と要望したという。中国に配慮し、政府が再び検察を利用して公開を制限しようとしているなら認められない。

主権侵害問題の棚上げは日本の国益を損なうことになる。船長釈放は、「強く押せば日本は折れる」印象を与えた点で致命的な誤りだった。

対中外交を立て直す上で、主権の問題や権益をめぐる対立を避けることなどあり得ない。事件をめぐる厳重抗議に加え、東シナ海ガス田での一方的な開発やレアアース(希土類)の輸出制限など、中国側のあらゆる問題点を厳しくただしていかなければならない。

レアアースの輸出制限は欧米でも重大視され、11月の主要20カ国・地域(G20)首脳会議で取り上げられる情勢だ。中国が貿易ルールを守らなければ、首相は首脳会談で世界貿易機関(WTO)に提訴すると通告すべきだ。

中国は24日、尖閣諸島周辺の接続水域内で漁業監視船2隻を航行させるなど、牽制(けんせい)行動をやめていない。仙谷由人官房長官は「わが国の領海内を 徘徊(はいかい)されるのは気持ちがよくない」とコメントしたが、「主権侵害は断じて認められない」と、明確に抗議の意思を示さなければ国益は守れない。

 最新の産経新聞での私の報道です。

 

 

【朝刊 国際】
オバマ政権変容 対中政策、対決も辞せず 2国間関与拡大→同盟諸国と連帯

 

 【ワシントン=古森義久】米国のオバマ政権の中国に対する政策が基本的な変容を示し始めた。中国との対立点を認めながらも米中2国間の関与拡大で中国を 既存の国際秩序に招き入れていくという従来の基本政策をほぼ放棄し、今後は日本などの同盟諸国と連帯し中国との対決も辞さない強固な姿勢へと移行するとみ られる。

 

 オバマ政権の対中政策の変更については国防総省の前中国部長で現在は大手研究機関AEIの中国専門研究員のダン・ブルーメンソール氏が27日、「オバマ政権登場以来の対中戦略的適応と呼べる融和的な政策は、中国側の最近の強硬姿勢により保持できなくなった」と評した。

 

 ホワイトハウスの26日の記者会見でもギブズ報道官は中国人記者から「オバマ政権の対中政策は強硬な姿勢へと変わったのか」と問われ、否定せず、「中国側は通貨問題などでとにかく行動をとらねばならないというのが米側の信念だ」と強い語調で答えた。

 

 ニューヨーク・タイムズも同日付で「オバマ政権は同盟諸国と連帯して、中国への姿勢を強固にすることになった」と報道した。それによると、オバマ政権 は発足当初以来、中国に対しては2国間だけの直接のアプローチで人民元通貨レート、貿易不均衡、安全保障など広範な問題について根気強く協力を求める政策 をとってきた。だが、中国側の最近の新たな強い自己主張に対米協力はほとんど得られないと判断し、政策変更を決めたという。

 

 ワシントン・タイムズも27日付で、アジア太平洋歴訪に出発したクリントン国務長官が中国の新たな強硬姿勢に対し、ベトナムやオーストラリアなどの友好、同盟国との連帯の強化に努め、オバマ政権の新対中政策が打ち出されつつあることを強調した。

 

 米国では最近、中国が南シナ海を自国領海扱いし、東シナ海では尖閣諸島をめぐり日本に威嚇的な態度をとったことや、レアアース(希土類)輸出の一方的規制、北朝鮮やイランの核開発阻止の非協力などに対し、超党派の広範な反発が強まってきた。

 

 オバマ政権の対中政策の変容はこうした内外の数多くの要因に押され、他に選択の余地がない結果ともいえる。しかしその背景の核心としては中国自体が対米、対外の戦略を根幹から変えたようだとの認識が影を広げている。

 

 その典型は外交評議会の中国専門家で民主党系の有力学者のエリザベス・エコノミー氏が最近、発表した「中国の外交政策革命」についての論文だといえる。 論文は中国がオバマ政権誕生当時は米国主導の既存の国際システムにその規則を守りながら参入していく意図だったが、一昨年の米国の金融危機以降、既存の国 際秩序をむしろ積極的に変えていくという「国際的革命パワー」へと変わることを決めたようだ、と論じた。

                        =======

 

 前原誠司外相がこのところ中国に対して、的を射た発言を重ねています。

 

 国家意識の薄い菅政権の面々のなかでは例外的です。

 

前原 誠司氏

 

 

 中国の鄧小平氏が尖閣諸島に関する領土紛争を「棚上げ」するとかつて言明し、現在の中国指導部もその見解を踏襲しようとすると、前原外相は「棚上げ合意の事実はない。そもそも尖閣は日本固有の領土であり、領有権問題は存在しない」と述べました。

 

 尖閣での衝突に対しての中国政府の強硬で理不尽な対応に対しては前原外相は「きわめてヒステリック」と評しました。当然の表現です。


 さらに前原外相は尖閣について「わが国固有の領土」とか「尖閣実効支配の外交原則、曲げない」「体張って尖閣の実効支配を守る」などとも発言しています。

 

 この正論に対し、中国当局は前原外相一人に照準を絞る形での攻撃を浴びせてきています。日本側にはなんと、その中国の攻撃に同調して、前原氏を批判する向きさえあるようです。とんでもない話です。味方の陣営の先頭に立つ勇敢な兵士に背後から銃弾を浴びせるような卑劣な行為です。

 

 こうして点について外交評論家の伊藤憲一氏が迫力ある一文を書いています。

 ぜひとも多くの人たちに読んでいただきたい論文です。

 

                       =======


 

【正論】日本国際フォーラム理事長・伊藤憲一 許してならぬ中国の「前原外し」 
2010年10月27日 産経新聞 東京朝刊 オピニオン面

 
 ◆まっとうな外相尖閣発言

尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件をめぐる前原誠司外相の発言を問題視する向きがある。「中国の求める賠償や謝 罪は全く受け入れられない」「国会議員は体を張って(尖閣諸島を)実効支配していく腹づもりを持って」「(尖閣諸島の領有権を)1ミリとも譲る気持ちはな い」「(領有権棚上げについて)中国側と合意した事実はない」などの外相発言は、日本の国益と立場を踏まえれば当然であり、筋道の通ったものである。

しかるに、中国外務省の局長級(外務次官補)の一官僚が「(前原外相は)毎日、中国を攻撃する発言をしている」と、発言の内容に立ち入って名指し批判をした。無礼と言わざるを得ないが、そこには、それ以上の深刻に憂慮すべき事態も生まれている。

この事態は逆の状況を想定してみれば、その異常さが分かる。どこかの国の外相が日本にとって不本意な発言をしたからといって、その発言自体を「けしから ん」ということはできない。北方領土問題に関する歴代ロシア外相の発言などは、ほとんど暴言の連続である。日ソ中立条約に違反した対日攻撃を「解放戦争」 と呼び、北方領土を「第二次大戦の戦利品」だと言い張る。とても受け入れることのできる発言ではない。

しかし、相手国がそう思い、そう言うことは、相手国が独立主権国家であるかぎり、相手国の自由である。当方としては、それをそれなりの外交的な意思表示として受け止めて、その心づもりで以後、その国との外交交渉に臨めばよいだけのことである。

中国も同じ立場にいるはずである。しかるに、中国は問題を前原外相に対する個人攻撃にすりかえて、前原外相をつぶすことによって、日本の対中外交にたがを はめようとしている。そこには日本を中国と対等な独立主権国家として認めるのではなく、歴代の中華帝国が四夷の朝貢諸国を見下ろしたような上下関係の中で 対日外交を進めようとするかのごとき、われわれから見て許し難い危険な対日外交観の萌芽(ほうが)さえ見られる。

◆国益を害する朝日報道

だから、問題は、日本の国内の受け止め方なのであって、そこに隙(すき)があるから、こういう内政干渉めいた中国側の動きを誘うのである。10月23日付の朝日新聞の本件に関する報道ぶりには、その意味で首を傾(かし)げざるを得ないものがあった。

記事として客観的に事実を報道する姿勢よりも、中国側の狙いに呼応して「前原外し」に加担しようとするかのような記事の仕立て方になっていた。国内の土俵 の中で前原外交を批判するのは構わないが、前原外相が国益を担って中国とわたりあっているときに、後ろからその背中を刺すのは、明らかに国益を害する行為 である。

「前原発言 中国イライラ」「関係修復進まぬ一因に」という見出し自体が、朝日記事の報道の客観性を疑わせるものであるが、 「中国政府内ではそもそも、前原氏への不信感は根強い」「『中国当局はこれを機に、一気に前原氏外しを進める』(日中関係筋)との見方も出ている」という 思わせぶりな言葉で記事を締めくくっているのはもはや看過できない。

◆言うべきこと言える外交を

これによって、今 後、日本の外相が中国に対して言いたいことが言えず、言うべきことが言えなくなってよいのであろうか。外相がそうなれば、大使、局長など、日本外交の担い 手たちはみな、右へならえするようになるであろう。中国側のご機嫌を伺うようになるであろう。日本外務省の中国サービスには、もともと残念ながらそのよう な気配が久しく見られたことは、否定できまい。中国側ににらまれたら、日本外務省のなかで中国専門家としての栄達を制約されるというのである。

この際、日本外交の問題点として、ついでに指摘しておけば、中国以外の国との関係でも、日本の大使たちは、相手国の心証を気にして、その国の首脳にすり寄 る気風がある。もとより外交官たるもの、いずれの国の外交官であれ、任国の首脳の信頼を得ることは重要である。しかし、最重要な任務は、それではないはず である。

問題は、わが国における大使たちの勤務評定の基準が、ことなかれ主義に流れていることにある。たとえ言わなければならないこと であっても、それを言って、相手国との関係をギクシャクさせると、減点となり、無難に徹して、いわゆる「友好関係」に貢献すると、名大使と称される。それ が、戦後日本外交の日常的な原風景であった。

中国が「前原外相外し」ともいえる大胆不敵な動きに出てきた背景には、このような戦後の日 本外交の抱える構造的な弱さがあると言わざるを得ない。前原外相には、中国側の牽制(けんせい)にひるむことなく正論を言い続けてほしい。と同時に、日本 外交を担う現役の外交官諸君には、腹を据えて、日本の国益のために、言うべきときに、言うべき相手に、言うべきことを言う勇気を持ってもらいたい。(いと う けんいち)

 
 

 ワシントンでの中国に関する動きは最近、目をみはるものがあります。

 

 アメリカの政府、議会、軍、民間の研究機関などが中国についての研究報告を出し、中国についての討論のセミナー類を連日のように開いているのです。

 

 そうしたアメリカでの中国に関する動きはほとんどが批判的な見地からだといえます。

 

 そうした動きの一端を紹介します。

 

 私が日本ビジネスプレスの連載コラム「国際激流と日本」に書いた記事の転載です。

 

                         ======  

10月中旬、米国の「中国に関する議会・政府委員会」という組織が、中国の人権弾圧の詳細を指摘する報告を発表した。

 

 この組織は米国の立法府と行政府が合同で中国の社会や国民の状況を調べ、米国の対中政策の指針とすることを目的に、2001年に結成された。日本にとっても参考となる対中組織であり、今回の報告も日本の政府や国会には有益な指針となるべき内容である。

 

 この委員会は、現在、バイロン・ドーガン上院議員とサンダー・レビン下院議員とが共同委員長を務める。共に民主党の有力なベテラン議員である。オバマ政権の国務省もこの委員会に代表を送りこんでおり、調査機関、政策勧告機関としての同委員会に大きな影響力を与えている。

中国当局による人権弾圧が昨年よりも悪化

 この委員会が今回、発表したのは2010年度の年次報告だった。同報告は、まず中国当局による人権弾圧が昨年度よりも悪化したことを強調し、特に民主活動家や法律家への迫害が増したと述べている。

 

 そして同報告は合計5600人以上の政治犯の詳しい情報をデータベースで公表し、その即時釈放を訴えていた。

 

 迫害や弾圧の内容について同報告は、「政治的投獄の新傾向」として、共産党の一党独裁に批判的な言動を取るノーベル平和賞受賞の劉暁波氏のような作家や、民主活動家、弁護士などの法律家の拘束が大幅に増加したことを強調している。

 

           (ノーベル平和賞を受ける劉暁波氏。いまも獄中にある)

 

 その上で同報告は、劉氏の他にエイズ対策活動家の胡佳氏、人権弁護士の高智晟氏、ウイグル人の言論人ガイラット・ニヤズ氏、チベット人の環境保護活動家カルマ・サムドゥップ氏らの名前を政治犯の代表として挙げ、全政治犯の解放を求めていた。

 

 米国の議会と政府は、足並みを揃えてこの報告書で中国への非難と要求を表明した。中国内部の人権状況を他国があれこれ述べることに対し、中国側からは「内政干渉」だとする反発が当然起きるだろう。

 

 だが、「人権」は国際的に重みを持つ普遍的な価値観なのである。世界のどの国でも、政府当局が人間の基本的な権利を守ることは鉄則だ。国連の人権宣言はその象徴でもある。

 

 だから、日本でも当然、中国の人権弾圧に関心を向け、批判を述べるという姿勢があってしかるべきだろう。

 

 ところが日本では行政、立法、いずれを見ても、中国の人権弾圧の状況を調べ、論じるというメカニズムは存在しない。日本が世界に向かって人間の基本的な権利や自由の重要性を説くのならば、米国のこの委員会の活動を学ぶべきだと言えよう。

(つづく) 
                     =======

↑このページのトップヘ