2010年10月

 

「悪名の棺 笹川良一伝」という新刊の書が出ました。

筆者は気鋭のノンフィクション作家の工藤美代子氏、刊行は幻冬舎です。

 

商品画像:悪名の棺  笹川良一伝

 

笹川良一氏についてはもう解説の要はないでしょう。

戦前、戦中、そして戦後と、日本の政界や財界、思想界の黒幕として大きな役割を果たした人物です。

本書の帯などの記述を以下に記します。

 

「並外れた才覚と精力で金を操り、人を動かし、昭和の激動を東奔西走。”政財界の黒幕”と呼ばれた男の『カネ』と『女』と国家観を描ききる」

 

「書き下ろしノンフィクション 最後の傑物日本人」

 

「情に厚く、利に通じ、『昭和の怪物』の正体」

 

「メザシを愛し、風呂の湯は桶の半分まで。贅沢を厭い、徹底した実利思考と天賦の才で財を成すも、福祉事業に邁進し、残した財産は借金ばかり。家庭を顧みず、天下国家、世のために奔走。腹心の裏切り行為は素知らぬ顔でやり過ごし、悪口は”有名税”と笑って済ませた。仏壇には、関係した女の名が記された短冊を70以上、並べ、終生、色恋に執心した。日本の首領の知られざる素顔」

 

と、こんなところです。

 

尖閣問題でもう一人、私がインタビューしたアメリカの中国軍事専門家のコメントを紹介します。すでにニュースとしてイザでも配信されています。

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尖閣問題 「日本が防衛意思示さねば、米国は何もしない」

 

メインフォト
ラリー・ウォーツェル氏 

[尖閣衝突事件 私はこう見る】

 中国漁船衝突事件は当初、日中両国が意外なほど強硬に、仕返しの応酬のような展開をみせた。

 

 中国側はとくに漁船の船長が日本側に逮捕され、拘束された時期が旧満州での日本軍の侵略の始まりだとする「九・一八事変(満州事変)」の記念日と重なったことで、政府に強硬な対応を求めるナショナリズムの声が高まったといえる。

 

 その結果、中国政府は国内からの圧力を受けることになった。この点への日本側の認識は十分だったのだろうか。

 

 一方、日本側も国民の大多数が厳然たる態度を政府に求めたことは圧力となったようだ。

 

 だが、あの時期に中国人船長を釈放したことは賢明だったと思う。

 

 中国側はその適否は別にして、4人の日本人会社員を拘束していたし、日本側があれ以上に強い態度を続ければ、対日措置をさらにエスカレートさせる事態に追い込まれただろう。

 

 米国政府は従来、他国の領有権紛争には介入せず、中立の立場を保つという方針があるから、尖閣の主権については論評しなかったが、日米安保条約が尖閣諸島に適用されるということは何度も明確にした。

 

 つまり尖閣有事の際は米国は日本の防衛にあたるという誓約を明らかにしたわけだ。

 

 オバマ政権はこれまで予測されていたよりもずっと強く、はっきりと日米安保の尖閣適用を言明した。

 

 この点は日米関係にとって大きな意味があるだろう。

 

 さらには中国にとっても今後の行動を制約する重要な要因とはなるだろう。

 

 しかし日本側が留意せねばならないのは、尖閣に第三国からの軍事攻撃がかけられた場合、米国が尖閣の防衛にあたるというのは、まず日本がその防衛のために戦うという行動を明確にとるとの大前提があってこそのことだ。

 

 尖閣への軍事攻撃があっても日本自身が戦闘にあたる構えをみせなければ、米国だけが防衛のためにせよ、戦闘行動をとるとは思えない。

 

 中国は1995年、フィリピンと領有権を争う南シナ海のミスチーフ環礁を軍事力で占拠した。

 

 このときフィリピン米国との同盟条約を結んでいたが、米国はそれに対する軍事行動はとらなかった。

 

 理由は多々あったが、フィリピン自体が軍事行動を取ろうとしなかった事実が大きかった。

 

 だから菅政権にとっても、それ以後の政権にとっても尖閣諸島を日本固有の領土として守る意思があるならば、これからの中国の具体的な行動を戦ってまではね返す覚悟があるのか、重大なテストとなるだろう。(談)

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 ラリー・ウォーツェル・米中経済安保調査委員会委員

 1970年代から米陸軍で中国の軍事分析にあたり、ハワイ大学で博士号取得。80年代後半から計7年間、北京の米国大使館の駐在武官、2000年からヘリテージ財団の副所長を務めた。01年から米国議会の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」の委員となり、委員長も務めた。

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 いま話題の仙谷由人官房長官がまた聞き捨てのならない発言をしたそうです。日本がもう中国の属国化しているというのです。

                    

 

 

この発言を論評した産経新聞の社説をみてください。

 

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【主張】仙谷官房長官 属国発言なら看過できぬ
2010年10月20日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面

 重大な疑惑が浮上している。

中国漁船衝突事件で逮捕した中国人船長の釈放判断の裏には、11月に横浜で開かれるアジア太平洋経済協力 会議(APEC)首脳会議を無事に行いたいとの判断があったという。18日の参院決算委員会で、自民党の丸山和也参院議員が仙谷由人官房長官と電話で話し た際に、そう聞いたと暴露した。

仙谷氏は「全く記憶にない」などと否定する一方で「最近、健忘症にかかっている」と曖昧(あいまい)な答弁をしている。国益や対中姿勢が根本から問われている。予算委員会での集中審議などを通じて、真相を徹底解明する必要がある。

丸山氏は9月24日の中国人船長の釈放決定後、同じ弁護士の間柄である仙谷氏と電話で話し、「船長の釈放には問題がある」として国内法に基づき起訴すべき だと主張した。仙谷氏は「どこに問題がある」「そんなことをしたらAPECが吹っ飛んでしまう」などと反論したとされる。

さらに丸山氏が起訴見送りなどで「近い将来、日本は中国の属国化する」との懸念を示すと、仙谷氏は「属国化は今に始まったことではない」と語ったという。

属国とは宗主国に対し従属関係に置かれ、主権の一部を取り上げられることなどを指す。「属国化」発言が事実なら、官房長官の責任は極めて重大だ。日本国の 主権・独立を守る意識が完全に欠落していることを意味するからだ。国民もそうした人を中枢に据える政府を信頼できまい。辞職や罷免に値する発言である。

中国との対立が続くさなかに「戦前の日本は侵略で中国に迷惑をかけた」との歴史認識を示すなど、仙谷氏の発言には首をかしげるものが少なくない。弱腰外交ではなく「柳腰」だと指摘し、したたかさが重要だと主張しているが、表面上の関係改善にとらわれすぎていないか。

政府は海上保安庁の巡視船が衝突の状況を撮影したビデオ映像について、衆院予算委の要求に応じて提出するとしている。だが、全面公開は避けたい考えだ。漁船の違法行為を決定づけるビデオの公開をためらうのは、中国側への配慮としか受けとれない。

仙谷氏は、ビデオの公開に国際社会における日本の法執行の正当性がかかっていることを、深く認識してほしい。

 日本にとって中国は超重要な国であることは自明です。

 しかしその割に中国の実態は日本では知られているようで、知られていません。

 

 私自身が初めて中国に行き、居住を始めた10年ほど前を思い出すと、びっくり仰天の連続でした。日本で報道され、報告されていた中国の実態とは異なることだらけだったからです。

 

 たとえば、中国人の大多数は日本のことをネガティブに思っているーーこれはきわめて控えめな私の表現ですーーことにびっくり、中国の教育では日本は「悪者」として扱われ、戦後の親中日本や平和日本はツユほども教えられていないことにびっくり、日本の巨額のODAを中国市民は誰も知らないことにびっくり、でした。以上の諸点は近年、いくらかは変わったといえるかもしれません。

 

 しかしまだまだ日本の中国専門の記者や学者は知っていても、普通の日本人は知らない「中国の素顔」は多々あります。

 

 今回の尖閣衝突事件の教訓の一つは、日本としては中国の真実、現実を知らねばならないということでしょう。中国の領土の拡張ぶりひとつをみても、その背後にある戦略を知ることが必要でしょう。

 

 そんな観点からみて、貴重な論考の一つを紹介します。

 

 拓殖大学学長の渡辺利夫氏が中国の「帝国主義国家」としての実像に光をあてているのです。

 

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【正論】拓殖大学学長・渡辺利夫 中国は遅れてきた帝国主義国家
2010年10月20日 産経新聞 東京朝刊 オピニオン面

 ≪相応の戦略と意思持たぬ日本≫

尖閣諸島漁船衝突事件に際して、中国政府の取った行動はまことに強硬であった。ナショナリズム鬱勃 (うつぼつ)たる国力増強期の大国であってみれば、そのような行動は至極当然のことだといわねばならない。中国の対応はあからさまではあったものの、それ を「理不尽」だとは私は思わない。興隆期の中国がそうした挙に出ることは十分にありうるシナリオとして、相応の戦略を練り上げ国の守りを固める意思を持た ない日本の政権中枢部の方が問題なのである。

勃興(ぼっこう)期の日本もドイツもアメリカも、植民地化であれ属領化であれ保護国化であ れ、他国の領土に侵入してこれを自国の支配下においたことはまぎれもない事実であった。帝国主義の時代、列強として登場したのはそのような行動を取った国 のみであり、そうではない国は弱者として安住の地を得られなかったのである。何と古い話を持ち出すのかと思われようが、そうではない。極東アジアの国々は なお国家形成の段階にあって、ナショナリズムは彼らの不可欠の構成要素なのである。中国とは、要するに「遅れてやってきた」帝国主義国家である。

資本蓄積を強化しつつ実現されたその高成長は、国富を増強する一方、国民の多くを低所得水準のままに置き去りにし、所得分配の不平等が正される見通しは 立っていない。チベット、新疆ウイグル、内モンゴルなどの自治区は、およそ自治区の名に値しない、漢族支配区の様相を呈している。

≪対外的膨張は歴史の必然≫

内に厖大(ぼうだい)な貧困層と広大な異民族地域を抱えながら、否(いな)、それゆえにこそ中国は国民的凝集力を求めて「愛国主義」の昂揚(こうよう)を 図り、対外的膨張をもってその昂揚に応えんとしている。帝国主義とは、われわれの過去をみても今日の中国においても、そういう内的衝動を抱え持つ時代局面 なのである。

現在の中国の対外的膨張は、もちろん中国固有の相貌(そうぼう)をみせながらも、われわれ自身の古い「自画像」のごときも のである。さればこそ、私は中国の東シナ海における行動がいかに強圧的ではあれ、決して理不尽だとは考えない。隣国の行動を理不尽だと捉(とら)えるので あれば、そもそも自国自身の戦略は生まれない。相応の理を想定しなければ、戦略は構想しようがないのである。中国の体内に宿る衝動を怜悧(れいり)に分析 し、その分析の上に立って断固たる守りの意思を固めなければ、この隣国とは共存することさえ難しい。

漁船衝突事件(9月7日)からもう 1カ月以上がたつ。この間の日本の政権中枢部の対応は、振り返るのも苦々しいほどに情けないものであった。緊迫の極東アジア地政学をみつめる視線が感じら れない。勃興する中国という大国にどう向き合うべきか、日本という国家の意思がまるでみえてこない。一体、日本は主権国家か、という絶望に近い感覚に襲わ れた国民は少なくないのではないか。

平成20年10月には中国の4隻の艦船が津軽海峡を通過し、太平洋を南下して日本列島を周回した。 同年11月には4隻、平成21年6月には5隻、今年3月には6隻、4月には10隻の中国艦船が、沖縄本島と宮古島との間(宮古海峡)を航行して太平洋に進 出した。4月に宮古海峡を通過した艦船は沖ノ鳥島に進出して訓練活動を繰り返し、その活動を監視する海自護衛艦に中国の艦載ヘリコプターを数回にわたり異 常接近させるという挙に出た。これに前後して、原子力潜水艦の日本領海内での潜没航行という国際法侵犯がしばしば展開されてきた。

≪弱者には「生存空間」なし≫

これらはいずれも平成22年度の「防衛白書」に記載されている事例である。そして、今回の尖閣諸島沖での漁船衝突事件である。この事件の背後に中国政府の 一貫した戦略を直ちに察知できないのであれば、国防意識のまぎれもない麻痺(まひ)である。というより、中国が衝(つ)いてきたのは日本のこの麻痺状態に 違いない。衝突した漁船の拿捕(だほ)、船長の逮捕、身柄拘束期間延長をしたものの、中国政府による幾多の恫喝(どうかつ)を受けて、結局のところは船長 を処分保留のまま釈放し、あげくは中国から「謝罪と賠償」を突き付けられるという顛末(てんまつ)となった。

日本は明らかな主権侵犯を やすやすと許してしまい、法治主義をみずから放擲(ほうてき)してしまったのである。日本の主権はこれを侵犯しても何ごとも起こらない。そういう「学習」 を中国にさせてしまった以上、かかる事件の頻度は確実に高まるであろう。侵犯の度ごとに尖閣諸島の命運尽きる日が着々と近づく。尖閣諸島はもとよりだが、 宮古島以西、石垣島、西表(いりおもて)島、与那国島には日本の部隊はまったく配備されておらず、防衛上の「空白地帯」となっている。

防衛白書が平然と伝えている事実である。白書は惰弱(だじゃく)なる政権中枢部に向かって抗議しているようにも読める。弱者に「生存空間」はない、というのが帝国主義の構えであり、パワーポリティクスの時空を超えた真実である。(わたなべ としお)

 中国が尖閣諸島をめぐる日本との衝突を「棚上げ」しようと提案してきたそうです。

 

 日本側でもこの提案を消極的ながら歓迎する向きがあるようです。

 

 しかしこの中国の巧みな戦略には危険なワナがあります。

 

 産経新聞の社説(主張)がその点を指摘しています。

 

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【主張】中国の尖閣戦略 棚上げの「罠」にはまるな

 

 日本固有の領土である尖閣諸島近海に、中国が「国家主権の維持と漁民保護」を口実に漁業監視船を派遣した。
 一方、日中首脳会談に向け、領有権の棚上げを打診してきたという。
 力を見せつけながら懐柔するのは中国の常套(じょうとう)手段だ。
 菅直人内閣はこの手法に安易に飛びついてはなるまい。

 棚上げ論は、かつての中国の最高実力者、トウ小平副首相が提唱したものだ。

 

 昭和53年10月に来日したトウ氏は「この問題は10年棚上げしても構わない。我々の世代の人間は知恵が足りない。次の世代はもっと知恵があろう」と次世代に解決を委ねた。

 

 当時、日本政府はこのトウ発言にあえて異を唱えず、同調した閣僚もいたが、棚上げ論に正式に合意してはいない。

 

 前原誠司外相も衆院安全保障委員会で「トウ氏の一方的な言葉で、日本が合意した事実はない」と述べている。

 

 しかも、当時は中国の海軍力は弱く、尖閣諸島の領有権を主張するだけで、活発な示威活動を展開する力を持っていなかった。

 

 だが、現在は東シナ海が「中国の海」と化し、中国海軍の艦載ヘリは海上自衛隊の護衛艦に異常接近するなどの威嚇を繰り返している。

 

 尖閣諸島近海での中国漁船団の領海侵犯や違法操業、度重なる監視船の出動などは、こうした海軍力を背景にしたものだ。

 

 尖閣諸島が中国に奪われる危険性は、当時とは比べものにならないくらい増しているといえる。

 

 そのような時期に中国の棚上げ論に合意することは、領有権を放棄することにつながりかねない。

 

 国家の主権を取引材料にしてはならない。

 

 これまで日本政府は棚上げを容認し、実効統治を強化してこなかった。

 

 そこを中国につけ込まれていることを忘れてはならない。

 

 棚上げ論は中国が尖閣諸島を実効支配するための布石であり、時間稼ぎ策でしかない。

 

 日中首脳会談は、28日からハノイで始まる東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議の場で行う方向で調整中だ。

 

 中国漁船船長の釈放で、菅政権の対応は国際社会から「中国の圧力に屈した」と受け止められた。

 

 この上、関係修復を急ぐあまり、誘いに乗って棚上げ論をのめば、中国の「罠(わな)」に陥り、日本の将来に取り返しのつかない禍根を残す。

 

 菅首相は棚上げ論を断固、拒否すべきだ。

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