2010年11月

 北朝鮮のウラン濃縮による核兵器開発の動きが新たに明るみに出て、日本にとっても核兵器の脅威は深刻となっています。

 

 そんな状況でも日本側には「非核三原則があるから核の脅威や攻撃は受けない」という説があります。古くからの信奉です。

 

 しかし現実には核兵器保有の超大国だったソ連が冷戦時代に日本に対し、核攻撃の恫喝をかけた実例があるのです。核兵器は保有さえしなければ、その危険や脅威の対象にはならないという信仰を破る歴史の例証です。

 

 その経緯を日米同盟についての連載の中で書きました。

 

【朝刊 国際】


【安保改定から半世紀 体験的日米同盟考】(33)日本への核攻撃威嚇

 

 ■レーガン大統領SDI、ソ連反発

 

 米国のレーガン大統領が1983年3月に戦略防衛構想(SDI)を初めて発表した翌日、私は東京の外務省内で岡崎久彦氏から話を聞いていた。当時は調査 企画部長で翌年に新設の情報調査局の初代局長となる岡崎氏は、省内で有数の国際的な戦略や情報の権威として知られていた。

 

 「アメリカと日本が共同してSDIを進め、ソ連が撃つミサイルをどんどん落とせるようになればいいですね」

 

 岡崎氏は持ち前の冗談とも本気ともつかない語調でこんなことを述べた。だがレーガン大統領が全世界を驚かせたこの構想を極めて重視している感じはよく伝 わってきた。そして現実に東西冷戦のその後の歴史はこのSDIを触媒として大きく変わっていった。日米同盟も当然、その変化の波をかぶっていく。

 

 対立する米国とソ連はそれまで核抑止を「相互確証破壊」(MAD)という概念に依存させてきた。もし核ミサイルを発射しあえば、確実に双方とも破壊され てしまうから攻撃はしないという仕組みだった。相互の攻撃能力による抑止である。だがSDIはその枠組みを壊し、敵側から飛んでくる核ミサイルを途中で撃 墜するというのだ。防衛能力による抑止である。ソ連は以後、SDIに猛反対するキャンペーンを始めることとなる。

 

 日米同盟も核をめぐる米ソのせめぎあいの波をまともに浴びていた。83年1月に訪米した中曽根康弘首相は米側に「日本を『不沈空母』にしたい」と告げた と大きく報道された。中曽根氏は実際には「不沈空母」という日本語は口にしてはおらず、通訳のフライング気味の意訳だと後に判明したが、否定はしなかっ た。同氏は現実にソ連の戦略核爆撃機バックファイアに備えての日本の防空体制強化を語っていたのだ。

 

 ソ連政府が国営タス通信を通じて敏速に反撃した。

 

 「日本が不沈空母の役割を果たそうとすれば、報復攻撃の標的となる。日本のように人口密度の高い島国には、それは37年前に受けた以上に深刻な国民的災厄を意味する。いまの核の時代に不沈空母はありえない」

 

 この声明は国際的に核保有国による非核国への核攻撃の威嚇として解釈され、非難を浴びた。日本の「37年前の国民的災厄」とは広島と長崎への原爆投下だと受けとめられた。ソ連がそれまで公言してきた「非核国への核の攻撃や威嚇をしない保証」を破る言辞だとされた。

 

 非核国への核攻撃の脅しの禁止は核拡散防止条約(NPT)の大前提だった。その禁をあえて破ったソ連の対日威嚇は核の歴史全体にも残る特異な事件だっ た。だがおもしろいことに、こうした国際的な解釈に対し朝日新聞だけは、「37年前の国民的災厄」を「ソ連の対日参戦」とするソ連に優しい読みを示して異 端さを発揮したものだった。その背後には明らかにソ連を脅威とみてはならないという基調があった。

 

 だがレーガン大統領は「ソ連が軍事力を手段として全世界を制覇しようとする意図は自ら表明している」と平然と述べ、ソ連を「悪の帝国」と断じていた。ソ 連が世界各地で共産主義勢力を支援して覇権を広げようとすれば、米国側も正面から対決するというレーガン・ドクトリンを実行に移していった。

 

 日本も米国の同盟国として三沢基地に85年から米軍のF16戦闘機2個飛行隊約50機の配備を新たに受け入れる方針を発表していた。中曽根政権はさらに 83年には、従来の「防衛費は国民総生産(GNP)の1%以内とする」という閣議決定を事実上、排する形で1%の水準を超えることを認めてしまった。同時 に従来の武器輸出三原則を緩める形でそれまで禁じられていた武器技術の輸出を米国向けに限って認める方針をも打ち出した。

 

 いずれも野党や大方のマスコミは「軍国主義の復活につながる」などと主張して反対してきた措置だった。ソ連と対決する中国が「日本はGNPの2%を防衛費に回すべきだ」と要請していたのとは皮肉な対照だった。

 

 現実には防衛費がGNP1%枠を超えても、武器輸出三原則が緩んでも、日本が軍事大国になるという兆しはなかった。

 

 反防衛の神話の虚構が明らかになっていった。日米同盟は強化されていった。(ワシントン駐在編集特別委員)

 中国の尖閣侵略などに抗議する民間デモが大阪で開かれました。保守というレッテルを貼ることさえためらわれる、文字通り民間の自然発生的なデモのようです。しかも参加した民間人の数は3300人という大規模でした。

 

 この集まりはこれまでの政治規範を超えています。デモといえば左翼系の既成の政治組織が動員をかけての行事だったのが、今回、そして最近の一連の中国抗議デモは組織による動員ではないようなのです。

 

 日本でいまなにか新しい動きは起きているのでしょうか。なにかが変わりつつあるのでしょうか。そんなポジティブな疑問を感じさせられる動きなのです。

 

 産経新聞の報道からまず紹介します。

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「中国の侵略許さぬ」大阪で3300人抗議デモ

メインフォト

街宣車で演説をする田母神俊雄・頑張れ日本!全国行動委員会代表=20日午後4時28分、大阪市中央区(鳥越瑞絵撮影) 

サブフォト

街宣車で演説をする田母神俊雄・頑張れ日本!全国行動委員会代表=20日午後5時39分、大阪市中央区(鳥越瑞絵撮影)
街宣車で演説をする田母神俊雄・頑張れ日本!全国行動委員会代表=20日午後4時28分、大阪市中央区(鳥越瑞絵撮影)

沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件に関し、民間団体「頑張れ日本!全国行動委員会」(田母神俊雄会長)などは20日、大阪市内で中国政府への抗議デモを行った。尖閣問題をめぐる同団体のデモは関西で初めてで、約3300人(主催者発表)が参加した。

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 先導したのは、関西本部代表の西村真悟元衆院議員や大阪支部代表の三宅博元八尾市議ら。「中国の侵略を許さない」「日本の領土と主権を守り抜く」などと訴え、西区の新町北公園からミナミまで約3キロを歩いた。日本の国旗を手に参加した家族連れや学生の姿も目立ち、中国に配慮して衝突映像を一般公開しない日本政府の対応を批判する声が多く聞かれた。

 インターネットの呼びかけで参加した大阪市内の男性(41)は、予想を超える大規模なデモに「まだ日本に希望が残っていると感じた」と話していた。

 

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以下は「花うさぎ」さんのサイトからの拝借です。

 

  

大阪では戦後最大規模の保守系抗議行動に

 浪速根性見せた!デモ3300人

 支那侵略怒りシュプレヒコール

 

画像は参加されたakiraさんの「平凡な日常」さんからお借りしました。

 

 頑張れ日本!全国行動委員会が呼びかけた「11.20 中国の尖閣諸島侵略糾弾!全国統一国民行動in大阪」は主催者発表で3300人がデモ行進に参加、当地では戦後最大の保守系抗議行動となった。これで尖閣事件以降に行われた同会の統一行動は東京、横浜、名古屋、大阪と空前の規模となり、アジアと連体しながら支那の侵略への抗議、民主党政権打倒にむけての国民の怒りが沸点に達している事が明確になった。

 

 以下、産経新聞とMBS関西の速報、そして神戸デモに続いて参加されたkenzo1348 さんの詳しいレポートを収録した。既にyou tubeには様々な動画がアップされており、臨場感のある映像が見ることが出来る。(ニュース調ここまで)。

 

 デモに参加された皆さん、情報を寄せて下さったsakuraraさん、kenzo1348さん、tuwano さん、小野まさ さん、そして皆さん、ご苦労さま、本当にありがとうございました。皆さんの行動で本当に日本が変わりそうです

 

 

画像は参加されたakiraさんの「平凡な日常」さんからお借りしました。

 

 こんな報告がアメリカ議会で出たので、紹介します。

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〔ワシントン=古森義久〕

 米国議会の諮問機関「米中経済安保調査委員会」は17日、中国の活動が米国の安全保障にどんな影響を与えるかを詳述した2010年の年次報告を公表した。同報告は中国当局が米国や他の諸国の政府や民間のコンピューター・システムに侵入して秘密情報などを盗むサイバー攻撃を組織的に実行していることを指摘した。

 

 同報告は「中国とインターネット」という章で中国当局による米国をはじめとする外国のコンピューター・システムへの対外的ハッカー活動について述べている。「中国の政府や共産党さらには民間の組織や個人がきわめて高度の方法で外国のシステムに侵入している」として、まず2010年はじめに明るみに出た米国大手ネット企業グーグル社に対するサイバー攻撃が報告された。

 

 ネット関係者の間で「オーロラ作戦」と呼ばれたこの攻撃は中国当局により米側の金融、化学、メディアなど合計33企業のグーグル系電子メールへの侵入で知的所有権を含む大量の秘密情報が盗まれる結果となった。

 

 同報告はまた2010年度に判明した他人の銀行口座の情報を悪用するフィッシング・メール全体のうち28%が中国発で、その多くが中国政府への確実なリンクが認定されたと伝えている。

 

 同報告はさらに中国による大規模なサイバー作戦として「中国に拠点をおく高度のコンピューター・スパイ網がインドの安全保障や防衛関連の政府機関、ダライラマの事務所、中国専門の学者やジャーナリストなどのコンピューター・システムに侵入して情報を収奪していたことが今年4月に明るみに出た」と指摘した。その同じスパイ網は米国を含む他の35カ国のコンピューター・システムに侵入を果たしたという。

 

さらに同報告は今年4月8日の18分間にわたって中国電信とみられる組織が全世界のインターネットの情報の流れのうち15%に相当する分量をハイジャックし、中国国内のサーバーを経由して流すことに成功した、という重大な出来事を伝えていた。この情報の中には米国の政府や軍部のインターネット情報も含まれ、米陸海空軍や国防長官オフィス、商務省などの情報も入っていた。という。

 

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菅内閣の幹部たちがこのところ「陳謝」を続けています。

 

不適切な言動をとったことを責められ、ひたすら「おわび」を繰り返すのです。

 

でも私の子供のころ、子供同士で「ごめんですむなら、交番要らない」という文句がやりとりされていました。なにか悪いことをして、ただ「ごめんなさい」といっても、それでは済まないのが現実だという意味です。

 

この文句を菅内閣に捧げたいですね。

 

「おわび」や「陳謝」を口にしただけで、もうお咎めはない、という意識は飛んでもない、ということです。

 

ひとまず、菅内閣のいまの「ごめんなさい」ぶりを産経新聞の11月19日付から紹介します。

 

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参院予算委「おわび委員会」の様相 「内閣持たない」党内悲鳴
2010年11月19日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面

 菅内閣の閣僚6人が9件の問題で陳謝-。18日の参院予算委員会は、さながら「おわび委員会」の様相を呈した。国会軽視発言を追及された柳田稔法相を皮 切りに、仙谷由人官房長官、蓮舫行政刷新担当相らが次々と陳謝した。野党が多数を占める参院で平成22年度補正予算案の審議は始まったばかりだが、問題発 言で度々審議は中断した。民主党内からも「もう菅内閣は持たない」との悲鳴まで聞こえ始めた。(小島優



「柳田氏は3つ目の新しいマジックワードを発明した。『真摯(しんし)に答弁する』と『誠実に対応する』だ」

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                          柳田稔氏

この日のトップバッター、自民党の世耕弘成参院議員は、国会答弁について「『個別の事案についてお答えを差し控えます』など2つの文句さえ覚えていればい い」と発言した柳田氏を追及した。すると、ここ数日野党の批判に平身低頭の柳田氏は、まさに世耕氏が指摘した通りに「再度おわび申し上げたい。これからも 真摯に、誠実に答弁したい」と述べた。

≪次は仙谷氏≫

次のターゲットは仙谷氏だった。世耕氏は先月18日の参院決算 委員会で、自民党の丸山和也参院議員が仙谷氏と電話で話した内容を漏らしたことを「いいかげん」と批判したことを取り上げ、「いいかげんな発言とは何だ。 謝るつもりはあるのか」と非難した。仙谷氏は「言い過ぎたといわれれば、その点は謝りたい」としぶしぶ頭を下げた。

http://www.news.janjan.jp/government/0911/0911183324/img/photo186912.jpg

                         仙谷由人氏

 

仙谷氏は自衛隊を「暴力装置」とも表現し、この日は2回も陳謝することになった。仙谷発言については菅直人首相も陳謝した。

続いて、「仕分けの女王」こと蓮舫氏も、国会内でのファッション誌の写真撮影をめぐり謝罪した。

蓮舫氏は先月14日の参院予算委で、国会内でのファッション誌の写真撮影の許可願提出の際に、参院警備部から「国会活動と書くよう示唆を受けた」と答弁していた。

≪蓮舫氏も撤回≫

世耕氏の後に質問に立った丸川珠代参院議員から追及されると、蓮舫氏は「示唆はなかった」と撤回。それでもおさまらない丸川氏は「弱い立場の人に責任をなすりつけた虚偽答弁だ」と断言した。

http://pds.exblog.jp/pds/1/200806/14/34/f0162634_6563356.jpg

  蓮舫氏  
 

細川律夫厚生労働相と岡崎トミ子国家公安委員長も答弁の誤りを指摘され「申し訳ない」と頭を下げた。

陳謝こそしなかったが、北沢俊美防衛相は防衛省が関連行事の来賓に政権批判など政治的発言を控えるよう求める通達を出していた問題で矢面に立たされた。

自民党は、民主党の松崎哲久衆院議員が、7月の航空自衛隊入間基地(埼玉県狭山市)での納涼祭の際、隊員に恫喝(どうかつ)ともとれる発言をしていた問題 について、再三にわたり調査を求めた。最初は約束しなかった北沢氏だが、最後になって「わたしのほうで調査します」と答えた。

首相以下、陳謝連続の事態に民主党議員は頭を抱えるばかりだ。中堅議員は「一秒でも早く今国会を閉じたい」とこぼした。 

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 仙谷官房長官が日本の自衛隊を「暴力装置」と評しました。

 

 日本の自衛隊はいうまでもなく日本の国家や国民を守るために存在しています。だから日本に対する侵略や威嚇があれば、物理的な力でそれを防ぐこともあります。そういう物理的な力は国際的には軍事力と呼ばれますが、特殊な憲法に制約される日本では自国を守るための物理的な力でも軍事力とか戦力と呼んではいけないのでです。

 

 その日本を守る組織の力を「暴力」と呼ぶのは、まさに日本国の敵の立場にたっての表現です。外部の勢力が日本に軍事的攻撃をかければ、反撃を受けるでしょう。その反撃は反撃を受ける側にとっては当然の報いとはいえ、「暴力」という語の広い範疇に入るかもしれません。

 

 しかし日本国民からすれば、自衛隊の持つ力は自分たちの国や社会や生命を守るための「防衛力」です。その自分たちを守る力を「暴力」と呼ぶのは、明らかに日本とは相対する立場の側の表現です。

 

 でも仙谷さん、よく言ってくれました。

 

 この一言で、この人の拠って立つ思想や概念のすべてが明らかになったともいえます。この言葉ほど仙谷由人という人物の本質をわかりやすく示したものもないでしょう。彼には「日本」を自分の側とみなす日本人の大前提がないのだ、といえましょう。彼を日本国の内閣官房長官とみるならば、この発言はまさに亡国であり、売国です。

 

 

 でも仙谷さん、民主党政権、菅内閣の官房長官は辞めなくていいですよ。仙谷さんがいまの地位にいてくれれば、菅政権の支離滅裂、国家概念不在、反日侮日傾向はますますあらわとなるからです。そうすればより多くの日本国民がこの政権の危険性に気づくでしょう。

 

 仙谷さんは、日本国民にとっての「目覚まし時計」だといえます。最近の日本にとっての目覚まし時計は中国か、仙谷か、ですね。当然ながら、目覚まし時計はベルを鳴らしてこそ、その効用があります。だから仙石氏にもいまの地位でベルを鳴らし続けてほしいのです。もっとも目覚ましのベルがいつのまにか爆弾になって、寝ている日本人や日本国を負傷させる可能性には注意すべきです。そうなったら、あるいはそうなりそうだったら、時計自体を破壊するか、ゴミ棄て馬に投げ出すか、せねばなりません。

 

 本日の産経新聞にこの暴言についておもしろい評論記事が出ています。阿比留記者の記事です。以下に紹介します。

 

ヘッダー情報終了【朝刊 1面】
記事情報開始仙谷氏の本質あらわ 「自衛隊は暴力装置」 「社会主義夢見た」過去

自衛隊を「暴力装置」と表現し、抗議されると撤回した仙谷由人官房長官(右)。左は菅直人首相=18日、参院第1委員会室(酒巻俊介撮影)

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 仙谷由人官房長官は18日の参院予算委員会で、自衛隊を「暴力装置」と表現した。直後に撤回し「実力組織」と言い換えた上で「法律上の用語としては不適当だった。自衛隊の皆さんには謝罪する」と陳謝した。菅直人首相も午後の参院予算委で「自衛隊の皆さんのプライドを傷つけることになり、おわびする」と述べた。首相は18日夜、仙谷氏を執務室に呼び「今後、気を付けるように」と強く注意した。特異な言葉がとっさに飛び出す背景には、かつて学生運動に身を投じた仙谷氏独特の思想・信条があり、民主党政権の自衛隊観を反映したともいえそうだ。(阿比留瑠比)

                   ◇

 「昔の左翼時代のDNAが、図らずも明らかになっちゃった」

 みんなの党の渡辺喜美代表は18日、仙谷氏の発言について端的に指摘した。

 「暴力装置」はもともとドイツの社会学者のマックス・ウェーバーが警察や軍隊を指して用い「政治は暴力装置を独占する権力」などと表現した言葉だ。それをロシアの革命家、レーニンが「国家権力の本質は暴力装置」などと、暴力革命の理論付けに使用したため、全共闘運動華やかなりしころには、主に左翼用語として流通した。

 現在では自衛隊を「暴力装置」といわれると違和感がある。だが、旧社会党出身で、東大時代は日韓基本条約反対デモに参加し「フロント」と呼ばれる社会主義学生運動組織で活動していた仙谷氏にとっては、なじみ深い言葉なのだろう。

 国会議事録でも、「青春をかけて闘った学生を、自らの手で国家権力の暴力装置に委ね…」(昭和44年の衆院法務委員会、社会党の猪俣浩三氏)、「権力の暴力装置ともいうべき警察」(48年の衆院法務委、共産党の正森成二氏)-などと主に革新勢力が使用していた。

 18日の国会での反応をみても、自民党の丸川珠代参院議員は「自衛隊の方々に失礼極まりない」と批判したが、共産党の穀田恵二国対委員長は「いわば学術用語として、そういうこと(暴力装置との表現)は当然あったんでしょう」と理解を示した。

 民主党の岡田克也幹事長は「人間誰でも言い間違いはある。本来、実力組織というべきだったかもしれない」と言葉少なに語った。

 仙谷氏は著書の中で、「若かりし頃(ころ)、社会主義を夢見た」と明かし、その理由としてこう書いている。

 「社会主義社会には個人の完全な自由がもたらされ、その能力は全面的に開花し、正義が完全に貫徹しているというア・プリオリな思いからであった」

 仙谷氏は後に現実主義に「転向」し、今では「全共闘のときの麗しい『連帯を求めて孤立を恐れず』を政治の場でやるとすってんてんの少数派になる。政治をやる以上は多数派形成をやる」(7月7日の講演)と述べている。とはいえ、なかなか若いころの思考形態から抜け出せないようだ。

 「ちょっと言葉が走った。ウェーバーを読み直し、改めて勉強したい」

 18日午後の記者会見で、仙谷氏はいつになく謙虚にこう語った。

 (注)「ア・プリオリ」は「先験的」の意味

 

[etoki]自衛隊を「暴力装置」と表現し、抗議されると撤回した仙谷由人官房長官(右)。左は菅直人首相=18日、参院第1委員会室(酒巻俊介撮影)[etoki]

 
 

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