2011年01月

 中国をどう認識し、どう対処すべきか。

 

 日本にとっては重大な課題です。

 

 その課題に対してはインドの実例がきわめて有益な指針になるようです。

 

 田久保忠衛氏の論文を紹介します。

 

【正論】年頭にあたり 杏林大学名誉教授・田久保忠衛


 

 

 

 ■中国にらみ日米印協力を緊密に

 1900年の義和団の乱が発生した際、「ロシアの脅威」に日本人がいかなる緊張感を抱いたか。それは、旧制第一高等学校の寮歌の一節、「アムール川の流 血や凍りて恨み結びけん 二十世紀の東洋は怪雲空にはびこりつ」に、はっきりと表れている。昨年12月に1週間、インドの戦略家らと意見交換して一致した 認識は「中国の脅威」だった。21世紀のアジアにはまさしく怪雲が重苦しく覆いかぶさっていると思う。尖閣諸島沖で中国漁船に海上保安庁の巡視船が衝突さ れた事件で惨めな敗北を喫しながら、まだ中国に媚態(びたい)を示そうとする日本の政治家たちには理解の外だろう。

 

 2005年に当時のロバート・ゼーリック米国務副長官は中国に「責任ある利害共有者」になってほしいと呼びかけ、中国の大物スポークスマン鄭必堅氏は 「平和的台頭」を心がけるとすぐ応じた。が、その後、中国はいかに行動したか。韓国、日本、ベトナムなどのASEAN(東南アジア諸国連合)諸国、インド にとり、中国は「無責任な利害共有者」であり、「危険な台頭」を試みていることが明白になってしまった。

 

 ≪国際秩序維持者はなお米国≫

 国際秩序維持に重要な役割を果たす国は依然、米国である。イラク、アフガニスタンからの撤兵を公約、NATO(北大西洋条約機構)からもなるべく手を引 きたいと考えている米国は、小規模ながら孤立主義に戻って当然だが、オバマ大統領をはじめ政府高官は、米国が太平洋国家であると繰り返し宣言してきた。米 国衰退論を説く向きもあるが、あくまでも「相対的衰退」であって、国際秩序維持者の地位は揺らいでいない。

 

 米リベラル系論客で国家間の緊張は外交を中心にソフト・パワーで解決すべしと主張してきたジョセフ・ナイ・ハーバード大教授も「米国は世界の人口の5% だが、世界のGDP(国内総生産)の25%を有し、世界の総軍事支出の50%近くの責任を持ち、文化、教育面では最も広範なソフトパワーの源泉だ」と胸を 張る。国際常識を裏切る中国に反省を求めるには、米国を主とした民主主議諸国の意思を明確に示すほかにない。

 

 日本の安全保障上の主たる関心事は歴史的に朝鮮半島であり、いま、北朝鮮には何かが起きる時期が迫っている。東シナ海と南シナ海もきな臭い。ここにイン ドが加わる。私は国家基本問題研究所(櫻井よしこ理事長)の一員としてニューデリーでシブシャカル・メノン首相補佐官(国家安全保障担当)ら政府高官やイ ンド世界問題評議会(ICWA)などシンクタンクの多くの研究者とじっくり話し合った。唯一、最大のテーマは「中国の脅威」だった。

 

 ≪G2論どころか最大の脅威に≫

 インドの対中スタンスは、経済面で関係をますます強める一方で、安全保障面上の警戒心は怠らない、に尽きる。インドが中国を危険視する背景には、(1) 潜在敵国のパキスタンと北朝鮮の核を操作しているのは中国だ(2)アルナチャルプラデシュ州をめぐり中国と領土紛争が続く(3)中国が同州を流れるブラー マプトラ川の上流にダムを造ろうとしている(4)カシミールの領有権問題で対立するパキスタンの肩を持つ(5)インド洋に面する諸国の港湾建設に名を借り て中国が形成しつつある、「真珠の首飾り」は中、長期的に大きな脅威になる-といった事情がある。

 

 日本、朝鮮半島、ASEAN諸国、インドの巨大な弧と中国との間に激震が走るかもしれない。戦略家として著名なインド政策研究センターのブラーマ・チェ ラニー教授は「日印米が緊密に協力すれば、中国の選択肢は限られる」と明言する。ブッシュ前政権以降の米政権は、インドと条約上の義務のない緩やかな同盟 関係を構築しようとしているようだ。

 アジア第三の大国であるインドは中国の後を追って平和的な台頭をしている。日印両国は安全保障面でも協力できないはずがない。インド海軍は軍艦155隻 を保有し、15年までに空母2隻、原子力潜水艦3隻を持つ。20年前、時の鈴木善幸首相自ら、「シーレーン1000カイリの防衛力強化」を約束した。日本 の海上自衛隊とインド海軍は一層の協力ができるはずだ。

 

 ≪危機に強い指導者出でよ≫

 アジアにおける冷戦後の国際秩序は大きく動き始めた。ただ、主要なプレーヤーである米中両国の関係にだけは無関心ではいられない。わずか1年前まで、米 国内には国際秩序を両国で取り仕切ると言わんばかりのG2論がまかり通っていた。世界の意表を突いて訪中発表が行われた1971年のニクソン・ショックも 念頭に置いておかなければならない。

 

 世界の大勢に周到な目配りのできる日本の政治家は誰か。極度の政治不信に陥りながらも、私はリーダーシップを持った政治家の登場を期待する。日本が生存できるかどうか、戦後最大の危機が訪れたと考えるからだ。(たくぼ ただえ)

 以下のコラムを書きました。

 

 アメリカ政治でいま話題となったテーマです。

http://thinkprogress.org/wp-content/uploads/2007/02/boehner2.JPG

 

 

【朝刊 1面】


【あめりかノート】ワシントン駐在編集特別委員・古森義久


 

 ■ベイナー下院議長の涙

 政治家の涙がワシントンでの熱い論題となった。政治リーダーが公衆の前で泣くことが許容されるべきかどうか、という議論である。契機はひとえに連邦議会の新たな下院議長となったジョン・ベイナー氏だった。

 

 昨年11月の中間選挙では野党の共和党がとくに下院で大勝し、民主党を排して、枢要ポストを独占した。共和党院内総務として野党議員を率いてきたベイ ナー氏はこの5日、下院議長に就任した。下院本会議での議長選出が終わり、壇上に立った同氏はまず議場に並んだ自分の家族たちを見つめ、涙を流したのだっ た。

 

 こんな光景から私がつい思ったのは1972年、民主党の大統領候補だったエド・マスキー上院議員の涙だった。当時、大統領選の先頭走者とされたマスキー 氏はニューハンプシャー州の街頭での演説で自分の妻への非難に反論するうち、声をつまらせ、涙を流した。厳寒の雪の中での出来事だった。

 

 この涙がマスキー氏の人気を一気に落としてしまった。「一瞬の感情に押し流され、われを忘れるようでは大統領たる資格はない」という批判がどっと起きた のだ。私は当時、日本国内で駆け出し記者だったが、学生時代の柔道の稽古相手だった旧友、メイナード・トールがマスキー氏の補佐官として密着していたた め、特別の関心を向けていた。

 

 ベイナー氏はこのマスキー氏よりもずっと涙もろいのである。昨年11月の下院選挙で共和党が圧倒的な勝利を飾ったときも、記者団に感想を求められ、泣きじゃくるといえるほどの反応をみせた。

 

 「私の若いころはアメリカンドリームを追うことがすべてでした。貧しい家庭に育ち、清掃作業員、配達人とあらゆる仕事をこなして-」

 

 と語るうちに声をつまらせ、大粒の涙をこぼして、手でぬぐった。

 確かに現在61歳のベイナー氏の経歴はアメリカの夢の成功物語だといえる。中西部オハイオ州の小さな町の質素な家に生まれた彼は12人の子供の次男だっ た。寝室2つ、浴室1つという環境で育ち、少年のころから仕事に精を出し、7年をかけて大学を終えた。ベイナー家代々で初めての大学卒業者となった。その 後はプラスチック容器を扱う小さな会社に入り、全身全霊を投入して働き、成功を得たのだという。

 

 そんなベイナー氏は過去の苦労や家族の絆を語るとき、つい感無量になるのだと自ら認めた。だが政治家が人前で簡単に泣くことはマスキー氏の例のように情緒不安定とはみなされないのか。下院議長は大統領に万一の事態があった場合、副大統領に次ぐ継承者なのだ。

 

 しかしベイナー氏の涙には論議はいろいろ起きても非難は意外に少ない。世論調査でも彼への支持が泣くことで下がった気配はない。米国民一般の反応もマスキー時代からはずっと寛容になったのだろうか。

 

 政治的にはベイナー氏はオバマ大統領の「大きな政府」のリベラル政策に猛反対する保守主義者である。個人もビジネスも困難に直面しても公的支援には頼らず、あくまで自助努力を、と主張する。自分自身のアメリカンドリーム実現の成果こそがその論拠だというのだろう。

 

 となると、ベイナー氏が自らの辛苦と成功の回顧に流す涙も、期せずしてオバマ政策の否定という意外な政治効果を発揮するのかもしれない。

 


 中国についての注目すべき本が出ました。

 「超大国 中国の本質」(ベスト新書)という書です。

 編著者は中国研究の泰斗とでもいうべき中嶋嶺雄氏です。

 共著者の形で渡辺利夫、石平、宮崎正弘、黄文雄、河添恵子、潮匡人という方々が寄稿しています。

 

 

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/imgdata/large/4584123128.jpg

この書は次のように紹介されています。

 

内容紹介

尖閣諸島沖漁船衝突事件、尖閣ビデオ流失の真相、反日デモ、レアアース禁輸、北朝鮮の背後に存在する超大国・中国。中国問題の第一人者である国際教養大学 学長・中嶋嶺雄氏編著による、日中関係の深層を過去の歴史を踏まえ読み解く緊急提言企画!石平ら豪華執筆人の健筆が唸る!
 

内容(「BOOK」データベースより)

尖閣諸島沖中国漁船衝突事件に現れた赤い超大国・中国の本質。緊迫する日中関係と朝鮮半島有事に日本政府は、なぜ弱腰外交を続けるのか!?その歴史的背景 から中国問題の深層を第一人者が鋭く斬る。革命中国とは何だったのか。毛沢東による文化大革命、天安門事件の悲劇、〓(とう)小平の功罪、チベット、ウィ グル少数民族の弾圧、日中友好に始まる朝貢外交、歴史認識、靖国問題、資源争奪、レアアース禁輪、海軍力増強による世界覇権主義―。それらは、中国共産党 独裁政権の権力維持という一点に帰結する。グローバル化する国際社会に中で、日本はどう中国に対峙していけばいいのか。歴史の深層を見抜き、世界を知る賢 者の一冊。
 
 

 

気鋭の政治学者、遠藤浩一氏の面白い論文を紹介します。

 

 


【正論】年頭にあたり 拓殖大学大学院教授・遠藤浩一
2011年01月11日 産経新聞 東京朝刊 オピニオン面

 ■政治の「失われし20年」を越えて

≪自由民主主義は勝利したのか≫

国 防・安全保障上、何か積極的な発言をしたり、実際にそうした措置を採ろうとしたりすると「依然として冷戦思考に囚(とら)われている」と批判する向きが少 なくない。一部メディアは、自衛隊が新装備を導入しようとすると、決まってこんな表現で牽制(けんせい)する。民主党の支離滅裂な外交・安全保障政策を擁 護しようとする提灯(ちょうちん)持ちも、しばしばこれを口にする。

最近では中国の海洋進出に対応して南西諸島への沿岸監視隊配置など島嶼(とうしょ)防衛を打ち出した新防衛計画大綱に対して、当の中国が「冷戦思考を捨てていない」と噛み付いてみせた(昨年12月18日、国営新華社通信)。

笑止である。彼らにそれを言う資格はない。彼の国こそ東アジアの冷戦構造を固定化・深刻化させている張本人だからである。

1989年11月、ベルリンの壁が崩壊すると、これで冷戦は終わったと、皆、大喜びしたものである。「自由民主主義」の全面勝利を言祝(ことほ)いだフラ ンシス・フクヤマは、中国においても「全体主義は破綻した」と断じ、「経済近代化は、国家から力を奪い取り市民社会の勢力を伸ばした」と解説してみせた (『歴史の終わり』)。

一方で、フランス人ジャーナリストのギ・ソルマンは「見せかけの自由化に隠れて、絶大なリヴァイアサン(怪物)国家を温存する欺瞞(ぎまん)」を指摘している(『新《自由の時代》』)。その後の東アジア情勢を見る限り、後者の見方が正しかったと言わざるを得ない。

≪絶大な怪物国家が出現した≫

中国における「経済近代化」は「市民社会」とやらの勢力伸長によって実現したものではなかった。現在の中国の経済成長は、(1)共産党政権による全体主義 的統制(2)臆面なき軍拡(3)貪欲な資本原理主義の追求-の3つを巧妙に組み合わせたものである。まさに「絶大な怪物国家」の出現である。

ベルリンの壁が崩れる5カ月前(89年6月4日)、中国政府は民主化を求める若者たちを共産党の軍隊たる人民解放軍の武力によって蹴散らした。軍隊が国家 ではなく、国家を支配する政党に所属するのは全体主義体制の特徴の一つだが、この時以来、中国は、徹底的な力の行使を背景とした貪欲な資本主義(「国家資 本主義」)の追求を始めたのである。

アダム・スミス以来、私どもは経済的自由と政治的自由を一体のものと考え、人は豊かになれば政治的 な自由を欲するようになると思い込んできた。中国で改革・開放が進めば、民主化機運が高まるだろうと期待する向きが少なくなかったと思う。しかし中国共産 党は二つを完全に分離させ、自由を犠牲にする格好で、ひたすら富を追求して今日に至っている。

ときどき、中国人留学生と話していて憮然 (ぶぜん)とさせられるのだが、彼らは口を揃(そろ)えて、「経済を発展させ、豊かになるためには政治的統制は必要だ」と言う。ヒトラーの第三帝国では、 国民は消費生活を楽しむ一方で全体主義的統制に順応していったが、現在の中国でもまったく同じ光景が繰り広げられているわけである。

さ て、平成に御代(みよ)代わりしたわが国は、バブルが弾け、経済の低迷期に突入する。「失われた10年」とか「20年」とかいわれるが、その含意は、いう までもなく経済社会の損失である。間欠泉のように噴き出る構造改革論の求めるところも、「経済社会の構造改革」だった。もちろん、強い経済をつくるための 改革に臆病であってはならないが、専ら経済社会の構造改革に特化し続けてきたところに、平成日本の過ちがあったと言わなければならない。

≪今こそ求められる冷戦思考≫

経済さえ、経済だけ、なんとかすればどうにかなるだろうと高をくくる日本を尻目に、すぐ隣では、政治、軍事、経済のすべてにわたる覇権路線を着々と歩む大 国が出現した。わが国は、これを拱手(きょうしゅ)傍観するばかりだった。いや、むしろ彼らの覇権戦略に手を貸してきたというべきだろう。

この間、中国側にとって絶大な効力を持ち続けたカードが歴史認識だった。今回の防衛大綱に対する批判でも「侵略の歴史をきちんと反省せず、やたらと対中批 判をしている」と付け加えるのを忘れない。力を誇示しつつ歴史認識カードをちらつかせ、貪欲に利潤を追求する国家資本主義大国とどう対峙(たいじ)してい くかという問題は、昨日今日突然、出来(しゅったい)したものではない。この二十余年間、突きつけられてきた深刻な問題である。

しかし 日本政治は、これと正面から向き合おうとしなかった。その場凌(しの)ぎの対応を続けてきた揚げ句、存在しないはずの尖閣をめぐる領土問題がいつのまにか できてしまい、今や東シナ海は世界でも最も緊迫した海域になっている。東アジアでの生き残りを図らねばならぬわが国こそ、「冷戦思考」が求められているの である。

「政治の失われし20年」の代償は決して小さくない。(えんどう こういち)

日本の政局を激しく揺さぶることとなる小沢一郎起訴という展望を眺めてみました。そのためにはまず現状の認識です。

 

産経新聞の以下の記事がその点では非常に有益です。

 

【核心】小沢氏 今月中にも強制起訴 “最強弁護団”同士の攻防


 

 □「4億円の不記載」扱いにも注目

 民主党の小沢一郎元代表(68)の資金管理団体「陸山会」をめぐる政治資金規正法違反事件で、検察官役の指定弁護士による補充捜査が大詰めを迎えている。小沢氏は1月中にも強制起訴される見通しだ。立件する側、弁護する側の動きを探った。

 ■国民主役の刑事司法

 「国民の責任で黒白をつけようとする制度である」

 起訴を求めた検察審査会の議決書(昨年10月公表)には、国民主役となった新しい刑事司法の姿勢が色濃く反映されていた。

 起訴議決を受け東京地裁は、検察官役となり起訴の手続きを行う「指定弁護士」に、第二東京弁護士会所属の大室俊三(61)▽村本道夫(56)▽山本健一(46)-の3氏を選んだ。

 中心的役割を担う大室氏は、リクルート事件、旧日本債券信用銀行の粉飾決算事件を担当するなど刑事事件に精通。村本氏は、シンクタンクで政治資金規正法の抜本改正を提言するなど、政治資金規正法に造詣が深い。山本氏も刑事弁護の経験が豊富だ。

 3人は連日のように東京地検内の執務室に通って捜査資料を読み込んできた。現在は、公判に向けた捜査報告書の作成などに取りかかっているという。

 ■聴取要請の方針

 補充捜査が大詰めを迎える中、小沢氏への事情聴取がどうなるかが関心を呼んでいる。指定弁護士は今月7日、小沢氏に聴取を要請する方針を明らかにした。ただ、小沢氏の弁護団は「協力できる範囲は限られている」と拒否の構えだ。

 それでも指定弁護士側は聴取にこだわる。検察審査会の議決が、特捜部の捜査について「十分とは言い難い」と指摘しており、議決を尊重したいとの思いがあるとみられる。

 大室氏は強制起訴の時期について「(通常国会など)政治的状況には配慮しない」とも話しており、聴取の有無や国政の状況にかかわらず、1月中にも起訴する公算が大きい。

 こうした指定弁護士の動きを牽制(けんせい)するように、小沢氏側は“徹底抗戦”の構えを示してきた。

 小沢氏は元秘書らと共謀して、陸山会が平成16年に購入した土地代金を17年分の政治資金収支報告書に記載したなどとして、同法違反(虚偽記載)の罪で告発された。

 昨年4月の検察審査会の1回目の議決では告発内容をそのまま「犯罪事実」と認定。だが、昨年10月に公表された起訴議決では土地購入の原資となった小沢氏からの借入金4億円の不記載についても「犯罪事実」と認定した。

 このため、小沢氏側は「告発事実を超えた議決は違法」と主張。議決仮差し止めなどを申し立て、最高裁で「刑事裁判で争われるべきだ」と退けられた経緯がある。指定弁護士が起訴内容にこの4億円の不記載を盛り込めば大きな争点になるのは確実だ。

 ■「カミソリ」が弁護

 現在のところ指定弁護士側は、「基本的には検察審査会の議決に沿って起訴するのがわれわれの立場」と、4億円を起訴内容に含む方針を示している。

 小沢氏側は昨年12月、刑事裁判に向け新たに弁護団を発足させた。筆頭が東京弁護士会所属の弘中惇一郎弁護士(65)。法曹界では「カミソリ弘中」「無罪請負人」と呼ばれる。

 郵便制度不正事件で無罪が確定した厚生労働省元局長の村木厚子さんの弁護人を務めたほか、「ロス疑惑」事件、薬害エイズ事件で被告らを無罪に導いた。

 ほかにも、弘中氏とともにロス疑惑事件や薬害エイズ事件などを担当し、名誉毀損(きそん)訴訟を多く手掛ける喜田村洋一弁護士(60)らが脇を固める。

 ■公判前も長期化?

21年5月の改正検察審査会法の施行以降、起訴議決を受けて強制起訴されたケースは3件。いずれもまだ、公判が開かれておらず、争点整理などを行う公判前整理手続きが難航している様子がうかがえる。

 小沢氏の場合も、公判前整理手続きが開かれる可能性は高い。その場合「4億円の不記載」の扱いや、4億円の原資に触れるか否かといった点などが激しい争点となる可能性がある。攻めも、守りも「やり手弁護士」の対決だけに、激しい攻防となることが予想される。

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