2011年02月

  
 産経新聞のモスクワ支局長やボン支局長、論説委員などを歴任した今井博記者が亡くなりました。今井記者はロシア語が堪能で、国際報道でもソ連、ロシアを専門として長く活躍しました。毎日新聞でもモスクワ特派員を長い年月、務めました。
 
 ご冥福を祈ります。
 
 私も毎日新聞の時代からいっしょに国際報道の仕事をしたことにある仲間でした。産経新聞では1988年にアメリカのレーガン大統領が初めてモスクワを訪問した際、私は勝手のわからないソ連におっかなびっくり出かけたのですが、そのとき東京からきた今井さんがいろいろ指導をしてくれて、とても助かった体験があります。
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【訃報】今井博氏(元産経新聞モスクワ、ボン支局長)
2011年02月27日 産経新聞 東京朝刊 社会面


今井博氏(いまい・ひろし=元産経新聞モスクワ、ボン支局長)26日、胃がんのため死去、71歳。葬儀・告別式は3月2日午後1時半、東京都杉並区上荻2の1の3、光明院で。喪主は妻、絢子(あやこ)さん。

 産経新聞退社後は学習院女子大学や東邦大学で非常勤講師を務めた。著書に「レールモントフ・彗星の軌跡」「モスクワ特派員報告」などがある。

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ロシアに詳しく、その文化を愛した今井さんはソ連の共産党独裁体制にはきわめて厳しい論調を貫きました。そのソ連・ロシア体験をつづった著書も多々あります。以下にいくつかのタイトルを書きます。
 
 

暮してみたソ連・二〇〇〇日 (1985年) 

今井 博 (著)

 

 

モスクワの市民生活 (講談社文庫) 今井 博 (文庫 - 1992/3)
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レールモントフ・彗星の軌跡 (ロシア作家案内シリーズ)

 

 

以下は今井記者が産経新聞に書いた多数の記事のひとつです。

 

【清算されない過去】いま、ロシアは…(上)権力の腐敗に市民諦観
1994年08月18日 産経新聞 東京朝刊 国際面

 九一年十二月のソ連崩壊から三年目に入っているが、新生ロシアの産みの苦しみはまだ終わりそうにない。七十四年間の共産党支配の過去を清算し、民主的な 国家としてロシアが再生するためには多くの障害が立ちふさがっている。かつての共産主義に代わって民族主義・大国主義がロシアの国家イデオロギーになる危 険もあり、「清算されない過去」を引きずっている。この二年間、モスクワで暮らした印象をまとめた。 (前モスクワ支局長 今井博)

 

 モスクワを去る数日前、友人たちがレストランで送別会を催してくれた。食事もそろそろ終わりかけたころ、かなり酔っ払ったロシア人が私たちのテーブルにやってきた。一見してマフィア風だ。

 

 「あんたらはいい日本人のようだが、成田では頭にきたぞ。警察官が空港でオレを逮捕した。クソくらえだ」

 

 聞くに堪えぬ粗暴な表現をたっぷり交えた悪口雑言がとめどもなく続く。しかもこの男はレストランの関係者らしく、ウエートレスは「やめなさいよ」とお座なりに言うだけだ。

 

 一緒にいた二人のロシア人女性は顔を真っ赤にしている。ロシア人男性は視線を伏せてしまった。

 

  仕方なく私が「私たちを放っといてくれないか。あんたの逮捕とは無関係なのだから…」と口をはさんだ。そのとたん、男のツバが私の左ほおに飛んだ。席を けった私を家内とロシア人女性が必死で押しとどめた。私は大声で「警察を呼べ」と怒鳴ったが、ウエートレスは取り合わない。ヘラヘラ笑っていたその男は、 調理場に姿を消した。

 

 ここはグルジア・マフィアとつながりのある店といわれる。

 

 外国人がいまモスクワでさまざまな被害に遭うのは日常茶飯事で、私の不愉快な体験は決して特殊なものではない。強盗、窃盗、空き巣と限りがなく、路上でハイエナのようなジプシーの子供の集団に外国人が襲われても、ロシア人は知らんぷりをして通り過ぎて行くだけだ。

 

 ロシア人の友人に「警察に訴えてほしい」と伝えたが、友人たちが相談して出した私の“事件”の結論はロシアの世相を如実に示していた。

 

  地元の警察はマフィアに買収されているから絶対に動かない。それどころか、マフィアにこの訴えを教えるだろうから、私が車で出かけるたびに尾行され、いろ いろな嫌がらせをされるだろう。警察本部に行っても、書類作りが果てしなく続くだけで、帰国を延期しなければならなくなる。

 

 つまり、い まのロシアではレストランで他人にツバを吐きかけても、法律によって罰せられることはない。それどころか、刃物で傷を負わされても、殺されても、警察が機 敏に乗り出すことを期待するロシア市民は少ない。警察の腐敗は、ロシアでだれひとり知らぬ者のいない周知の事実なのだ。

 

 交通警察(ガイ)の係官が通りで車を止めては、ささいな違反を口実に金を巻き上げることは有名だが、私がある日、モスクワ市内の白ロシア駅で目撃したオモン(内務省の特務部隊)の隊員の乱暴には驚いた。

 

 ベラルーシの首都ミンスクからモスクワに着いたばかりの列車に、一人の若いオモン隊員が乗り込んできた。乗客のほとんどは乳製品をモスクワ市内の街頭で売るために来た人たちだ。

 

  オモン隊員はその中の一人に近づくと、「オイ、販売許可証はあるか」と言う。もちろん、そんなものは持っていない。「許可証の代金をオレに払え」と言った オモン隊員の要求に首を振ったとたん、ベラルーシの若者が大きなリュックサックに入れてきた牛乳、ヨーグルトなどのビンの上に、警棒がめった打ちに振り下 ろされた。

 

 オモン隊員はわずか一人、出稼ぎの仲間は数十人。だれもこの無法な行為を非難しようとはしない。権力にあくまでも従順で、もの言わぬ民の姿がそこにあった。

 

 スターリン時代、一千万人近い同胞が死刑台あるいは収容所に送られるのを、見て見ぬふりをしてきた過去の悲しい習性はまだ消えてはいない。

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 結果としては私の著書の宣伝ですが、契機は慶應義塾大学の元塾長で著名な学者でもある鳥居泰彦氏が拙著を推薦してくださったことです。

http://www.keio.ac.jp/ja/about_keio/history/president/images/torii.jpg

 

 このほど鳥居氏から直接にお知らせをいただいたのですが、氏の母上の郷里の山梨県都留市の市立図書館が読書週間イベントとして催した「私がすすめる一冊――みつけよう! 感動の一冊」展に氏が拙著の『アメリカが日本を捨てるとき』(PHP新書)を推薦してくださいました。

 

 鳥居氏は推薦理由として以下のことを書かれています。

 

 「日本は、非常に複雑な国際間のバランスの上で生きている。それを支えているのは日米同盟である。私達は普段それをあまり意識しない。単純な『平和論』だけでは日本の存在は守りきれない。そのことを改めて教えてくれる一冊としてこの本を御推薦する」

 

 思えばこの書は鳩山由紀夫氏が首相となり、日米関係だけでなく日本の対外関係全体をガタガタにし始めた時期に、本当の危機感を覚えながら書きました。

 日米同盟はルーピーの支離滅裂と一部の黒子たちの媚中志向により、文字通り崩壊の危険性にさえ瀕していたころです。

 いまとなって改めて鳩山派の考えのゆがみと自分の側の考えの現実性とが証明されたというささやかな満足感を覚えます。

 鳥居先生はそんな流れまでを読まれて、推薦してくださったのかな、ともいぶかっています。

 

 

アメリカが日本を捨てるとき (PHP新書)
 
 
 

 中東の激変がアメリカの中国を視る目を変えています。

 

 ごく簡単に言ってしまえば、エジプトのムバラク政権が民主的ではないのでその打倒の叫びに同調するとオバマ政権が宣言するならば、もっと非民主的な中国の共産党独裁政権の打倒を叫ばなくてよいのか、という疑問だといえます。リビアについても同様でしょう。

http://img.news.goo.ne.jp/picture/reuters/JAPAN-196651-reuters_view.jpg?640x0                        (リビアでのカダフィ政権打倒を叫ぶデモ)

 

 

    [ワシントン=古森義久〕

 

中東の民主化の激動が米国の中国への姿勢に微妙だが重要な変化を生み始めた。オバマ政権が中東で民主主義の拡大に支援を表明するたびに、では非民主主義の中国はどうかという疑問が政権内外から提起され、その疑問が同政権に中国の政治的抑圧への注視を改めて強める効果をもたらすようになったためだ。

 

中東での激動が米国の対中関係に与える意味を改めて明確に説いたのは大手研究機関AEIの中国専門のダン・ブルーメンソール研究員(元国防総省中国部長)で、23日に「中東情勢に対して中国が示した態度は中国が国際的な指導権を発揮できないことを証明した」という趣旨の論文を発表した。

 

同論文は中国当局が中東での民主化の拡大の自国への余波を恐れて、国内での情報統制やデモ抑圧を強め、中東情勢に対しては沈黙を保っている状態を「国際的リーダーシップの発揮どころか、万里の長城の陰に隠れてしまった」と評した。同論文は米側に対してG2論に代表されるような中国国際的リーダー論を撤回することを求める一方、共産党独裁の中国でも中東のような民主化の抗議が本格化する可能性をも想定することを提案した。

 

大手紙のウォールストリート・ジャーナルも22日の「北京とアラブの反乱」と題する社説で、経済成長が目覚しく、経済の自由は認められていたものの政治の自由がなかったバーレーンでの反政府運動の燃え上がり現象を中国にも適用し、「経済発展はやがては政治権力独占の失陥につながる」という中国系米人学者ミンシン・ペイ氏の言葉を紹介して、中国の現政治体制への危機を警告した。

 

オバマ政権を正面から批判することの多い共和党保守派ではさらに明確に「米国の盟友だったエジプトのムバラク大統領に民主主義的ではないという理由で即時辞任を求めるならば、なぜ中国の独裁政権の辞任を求めないのだ」(ラジオ政治評論で有名なラッシュ・リムボウ氏)というどぎつい意見も頻繁に表明されるようになった。

 

大手紙ニューヨーク・タイムズも最近の社説で「リビアのカダフィ政権はヘリコプターのガンシップで自国民を殺し始めたが、こういう自国民の大量殺害をいったん始めた政権は中国以外は必ずそう遠くない時期に倒れていった」と述べ、中国当局の天安門事件での自国民主活動家の殺害に言及した。

 

こうした論調はみな米国側がこのところやや視線をそらすようになっていた中国の非民主主義的な共産主義政権の本質を改めて正面から再認識することを求めているに等しく、こんごオバマ政権の対中策にもその再認識が反映される見通しを示すともいえる。

 

  台湾では大方の人たちが日本や日本人に好意を示してくれます。この点を否定する日本人はNHKの例の「反日台湾番組」の制作者たちぐらいでしょう。

 

 ではなぜ台湾の人たちがいまもなお日本に温かい思いを抱いていてくれるのか。その疑問への答えの一端をつかんだ気がしました。それは小田滋氏の著書「堀内・小田家三代百年の台湾」という書を読んだからです。

 

 著者の小田滋氏は周知のように国際司法裁判所の判事を長年、務めた日本法曹界の重鎮です。しかしこの小田氏が台湾と深いかかわりがあったことを私はこの書を拝読するまで知りませんでした。

  (小田滋氏)

 

 本書の内容は帯では以下のように表現されています。

「台湾の歴史の一側面。医学教育に生涯を捧げた祖父、大学医学部創設に尽力した父、そして青春の地として台湾のその後を見守り続ける著者、三代の軌跡を通して見る台湾」

 

 本書は共通の知人を通じて著者の小田滋氏から寄贈されました。小田氏は現在は東京に在住され、なおお元気です。 

 

 この書は著者の小田氏の祖父、堀内次雄氏と父の小田俊郎氏がともに台湾の医事と衛生に文字どおり一生を捧げた記録を主体に、著者自身の台湾での生活の回顧を書いています。

著者が述べるように、それぞれ「台湾を愛し、台湾人を尊敬した」記録でもあります。

 

 李登輝元総統自身がよく述べるように、当時の日本は台湾の統治に当時の日本の持つよい部分を全力で投入したことが、この書を読んで、実感として伝わってきました。今日の台湾を理解するうでも必読の書だと思いました。

 

 

内容(「BOOK」データベースより)

医学教育に生涯を捧げた祖父・大学医学部創設に尽力した父、そして、青春の地としての台湾のその後を見守り続ける著者、三代の軌跡を通して見る台湾。
 

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

小田 滋
1924年札幌生まれ。1947年東京帝大法学部卒業。1959年東北大学法学部教授(1976年まで)。1976年国際司法裁判所裁判官(2003年まで)。1985年東北大学名誉教授。1994年日本学士院会員。2003年オランダより帰国。2003年瑞宝大綬章。2004年仙台市名誉市民。2005年弁護士登録。2007年文化功労者(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
 

 菅政権は日本固有の領土の竹島が韓国に不法占拠されていることへの意識もきわめて低いようです。

 

 

 

 その実態は以下の産経新聞社説での前原誠司外務大臣の態度にも示されたようです。

 

https://image.blog.livedoor.jp/timeandspace2/imgs/1/e/1e667c84.jpg

 

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【主張】「竹島の日」 なぜ政府が主導せぬのか

 

 「竹島の日」の22日、今年も松江市で返還を求める行事が行われる。島根県が条例で定めてから6年たつが、今年も政府関係者の出席予定はない。残念である。

 この日は明治38(1905)年に閣議決定を経て竹島を島根県の所管とする同県告示が出された日だ。戦後独立した韓国の李承晩政権が昭和27年、竹島を韓国に組み込む「李ライン」を一方的に設定した。以来、竹島は日本固有の領土であるにもかかわらず、韓国政府が不法占拠を続けている。

 

 領土問題は本来、国が主導すべき問題だ。島根県は今年、前原誠司外相、高木義明文部科学相らに招待状を出したというが、いずれも「日程上の都合」で欠席するという。代理も出せないのか。

 

 沖縄県石垣市が条例で制定した「尖閣諸島開拓の日」の1月14日、同市が初めて行った記念式典にも、政府からは誰も出席しなかった。「北方領土の日」の2月7日、政府・自治体関係者ら約1500人が参加した返還要求全国大会に比べ、冷淡に過ぎる。

 尖閣諸島を守り、竹島を取り戻す運動を地方自治体に任せるのでなく、外務省などが率先して取り組むべきである。

 

 竹島問題は昨年の尖閣事件やロシア大統領の北方領土訪問などのニュースにかき消されがちだ。しかし、ロシアは中国と韓国に北方領土で合弁事業を呼びかけ、韓国をも領土問題に巻き込もうとしており、要注意だ。

 

 中国の軍拡や北朝鮮の核の脅威が深刻化する状況下で、日米韓3カ国は安全保障面で連携を強めなければならない時期でもある。

 

 だが、そのことと竹島問題は次元が違う。主権を守ることは国家の原則である。菅直人政権は譲歩してはならない。

 

 今回、竹島の日のフォーラムに渡辺周・民主党国民運動委員長が同党国会議員として初参加する。同氏は超党派「日本の領土を守るため行動する議員連盟」にも所属し、その活動に期待したい。

 

 今春、竹島を明記した学習指導要領解説書に基づく中学教科書の検定結果が発表される。この結果にも注目したい。教科書の記述の有無にかかわらず、学校の先生は事前に竹島や北方領土、尖閣諸島が日本固有の領土であることの由来などを十分に調べ、それを子供たちにきちんと教えるべきだ。

 

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