2011年10月

 TPP賛成の谷内正太郎元外務次官の論文の紹介です。

 

 前回に引き続く分で、これが最後です。

 

                 ======= 

 

日本の平和と繁栄に必要なTPPの加盟

 日本は、第二次世界大戦での敗戦に際して、300万人の同胞の死という日本史上最大の悲劇を経験した。その日本が、わずか半世紀で今日の地位まで 復活したのは、独力による東アジアの覇権という幻想を捨てて、戦後、太平洋地域の二大先進民主主義国家であった日米両国を結び付けることによって、共産圏 にあったロシア中国という大陸国家との間に、安定的な均衡を実現したからである。そして、米国が主導した自由貿易体制への加盟を果たし、製造業を主力に して対米・対欧市場への輸出を通じて、奇跡の経済復興を果たしたからである。

 

また、日本は、特に中曽根康弘総理以来、「西側の一員」としての立ち位置を明確にした。戦後、自由世界を主導したのは、米国を始めとする西側諸国で あった。日本は、中曽根総理の勇断によって、「西側の一員」として相応の指導的責任を引き受け、それにより、ヒトラーの同盟国、敗戦国、旧敵国という汚名 を雪ぎ、政治的な復権を果たしたのである。

 

 にもかかわらず、日本では、依然として、時折、鬱屈した反米感情が噴き出すことがある。それは戦後に特徴的な現象ではない。かつて、日本は、日露 戦争の勝利に驕り、中国大陸への野心を剥き出しにし、1920年代の海軍軍縮時代の頃から、日本の台頭を抑えこもうとした米英両国に対して、悲憤慷慨とも いうべき強い感情的反発を見せるようになった。この驕りと反発が、真珠湾攻撃につながっていく。

 

 敗戦後、近代日本の鬱屈した反米ナショナリズムは、反米・反安保のイデオロギー闘争の中に形を変えて流れこんだように見える。しかし、朝鮮戦争が 火を噴き、厳しい冷戦が始まったばかりの頃、吉田茂や岸信介などの政治家は、冷徹な戦略眼をもって国益を洞察し、荒れる世論に抗って、日米同盟を選択し た。それが日本の経済的復興と政治的復権を決定的にしたのである。

 

 ところが、冷戦後期になると、日本人は、急速な高度経済成長に驕り始め、再び戦略眼を曇らせ始めたようである。日本人は、一方で、米国の庇護に依 存したまま自立への努力を忘れ、もう一方で、親分面をする米国の存在を「うっとうしい」と思い始めたのである。この米国への感情的な反発が、まるで戦前の 大東亜共栄圏を思わせるような、空虚なアジア主義への傾斜を生んでいる。だが、それは、幻想である。台頭する中国を前に、米国から切れた日本に付いてくる ような国など、どこにもいないのである。

 

 21世紀の日本の平和と繁栄は、アジア太平洋という戦略的枠組みの中で、大国間の戦略的均衡を確保し、開放的な貿易体制を維持することによっての み可能である。それが、戦後日本の選択であった。そもそも、環太平洋経済圏という大構想は、アジアの経済的躍進が始まる前の70年代に、日本の大平正芳総 理と大来佐武郎外相が打ち出したものである。それが、今日のアジア太平洋経済協力(APEC)につながっていったのである。東アジア首脳会議(EAS) も、「ASEAN+3」の枠組みを牛耳ろうとした中国に対抗して、日本が、インドや豪州を引き込んで作ったものである。米国は当初、EASに消極的だった が、日本の説得の甲斐があって、漸く10年から、ロシアと共に参加することになった。

 

 これまで、日本外交は、米国を引き込んで、環太平洋やアジア太平洋という枠組みで戦略を立てた時に成功し、東アジアの覇権や米国の排除を考えたと きに必ず失敗してきた。私たちは、この歴史の教訓を忘れるべきではない。環太平洋自由貿易構想を、戦略的観点から眺めれば、日本が飛び乗るべきバスである ことは自明であろう。徹底した自由貿易を標榜するTPPに加盟することは容易ではない。しかし、衰退した農業の問題などを克服するための国内政治の痛み は、新生日本を生み出すための痛みである。

 

 閉塞感に鎖され、内向き、縮み志向に陥った日本はこの痛みを覚悟し、敢えて突破口を開いて局面を打開する強力なリーダーシップが必要である。菅直 人総理は、「歴史の分水嶺」という言葉をよく使う。分水嶺では、正しい方に滑っていかねばならない。反米感情に踊らされた戦略なきアジア主義は、逆に、日本を奈落の底に突き落とすことになるであろう。

◆WEDGE2011年1月号より

 TPP論議の核心ともいえる農業について、読売新聞が以下のような社説を載せています。

 

 農家一戸あたりの耕地面積がヨーロッパの10分の1,アメリカの100分の1といわれる日本の農業はTPPのいかんにかかわらず、瀕死状態にあるようです。

 

 ではどうすれば、よいのか。

                        ========

農業再生計画 TPP参加を前提に改革急げ(10月26日付・読売社説)

 政府の「食と農林漁業の再生推進本部」が、農業改革の基本方針と行動計画を決定した。

 

 環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加をにらみ、農家の耕作面積拡大や新規就農促進などを打ち出した。

 

 方向性は妥当だが、具体性に欠け、力不足だ。農業再生とTPP論議を切り離したい農業団体などへの配慮があったのだろう。

 

 しかし、日本農業の地盤沈下を考えれば、これ以上、改革を先送りすることは許されない。

 

 野田首相は指導力を発揮し、貿易自由化に負けない強い農業を実現する計画を示すべきだ。併せて、TPP参加への決断を急がなければならない。

 

 行動計画は、今後5年間に取り組む課題として、農地面積を20~30ヘクタールへ拡大する目標を示した。生産、加工、販売を一体的に手がける農業の「6次産業化」の実現や資金面から後押しする官民ファンド創設にも言及している。

 

 だが、掛け声だけで実現できるほど甘くはない。本格的な規模拡大には、農地法改正などが必要だ。民間の知恵と資金を生かすのであれば、企業の農業進出を容易にする方策が欠かせないだろう。

 

 現在の農政は、高関税や国内の生産調整によって農産物価格を高く維持し、消費者が高い商品を買うことで間接的に農業を支える仕組みとなっている。

 

 早急に取り組むべき重要課題の一つに「消費者負担」から「納税者負担」への移行を挙げたのは、農政転換策として理解できる。

 

 納税者負担は、関税引き下げや生産調整の廃止で農産物が値下がりした場合、下落分を補助金で農家に直接、補償する政策だ。欧州や韓国などで導入され、市場開放とセットになっている。

 

 国民の食を支える農業を税金で一定程度、支援することに異論はなかろう。ただ、財政難で予算を大盤振る舞いできる余裕はない。規模を抑えることが必要だ。

 

 民主党政権が導入した農家の戸別所得補償制度も納税者負担方式だが、関税引き下げとは切り離されている。零細農家も対象とするなど、ばらまき色も強い。現行制度は抜本的に見直し、意欲的な農家に支援を絞るべきである。

 

 コメ部分開放を決めたウルグアイ・ラウンド合意では、6兆円の対策費を投じながら、農業の活性化につながったとは言い難い。

 

 腰砕けに終わった過去の農業改革の二の舞いを避けるには、農業の既得権に切り込む構造改革を徹底することが重要だ。

(2011年10月26日01時23分  読売新聞)

 こんな記事を書きました。

 

【ソ連崩壊20年 解けない呪縛】第5部 共産主義は今(2)

 

 ■米経済病んでも「反共」不変

 ソ連共産党の崩壊から20年、米国ではいま共産主義をどのように受けとめているのか。

 共産主義とはよく対極に位置づけられる資本主義のシステムが、このところ米国では大きなひずみやきしみを示すようになった。資本主義とその発露である自 由市場経済の欠陥が指摘されることが多くなった。最近のウォール街でのデモに象徴される経済の現況への抗議活動もその延長だといえよう。不況、失業、貧富 の差など「資本主義の過剰症状」への抗議である。

 だからその反動で、かつては完全に否定された共産主義が墓場からよみがえる兆しがあるのかといえば、答えは疑問の余地なしのノーである。だが、共産主義の代役の意義を体するように社会主義という言葉がこのところ米国では頻繁に登場するようになった。

 ◆社会主義的な政策

 大手ニュース週刊誌のニューズウィークが「われわれはいまやみな社会主義者だ」という特集を巻頭記事で組んだのは、オバマ政権の誕生後間もない2009 年2月だった。この記事は、オバマ政権が景気対策として1兆ドル近くの政府資金を一般経済に投入する政策などの特徴を「社会主義」と評したわけである。

 オバマ大統領は以後、社会主義者のレッテルを貼られることも多くなった。破綻した民間大企業を政府資金で救済する。医療保険も政府運営の部分を多くす る。大企業の幹部の給料の上限を仕切る。高所得層への課税を強め、富の再配分を図る。いずれも国家が生産手段を所有し、管理し、マクロ経済も計画を適用す る-といった社会主義の特徴が目立つというわけだ。

 だが社会主義という言葉自体、米国民多数派にはきわめて負の響きが強い。オバマ政権も自分たちを社会主義者と決めつけることには断固、抗議し否定する。

 その背景には、自らを社会主義や共産主義とは正反対の立場に立つ保守主義者だと認める米国人たちが一連の世論調査で40%前後を占めるという実態が存在 する。ちなみに自らをリベラル派だとみなす人は20%前後であり、まして自分を公然と社会主義者だと認める人は統計上、ゼロに近い。

 米国民のこうした態度は、対象が社会主義の一種だともいえる共産主義となると、さらに反発が激しくなる。米国で社会主義といえば、まず複数政党や議会制 の政治形態をともなう西欧型の社会民主主義を指すが、共産主義は一党独裁、個人の抑圧、市場経済活動の禁止などマルクス主義としてまた別扱いである。

 だから現実の米国政治で最も左に位置する超リベラル派でも、「共産主義は現実の統治では経済的な失態だけでなく、人間の本質も否定する結果を示した」(政治評論家マイケル・キングズレー氏)と突き放す。

 ◆中国の「独裁」非難

 米国議会も中国に対し経済面や対テロ闘争などでの連帯の重要性を認めながらも、中国共産党の民主主義否定の独裁統治には超党派の非難を浴びせ続ける。米国が米国である限り共産主義支配は許容できないとする、冷戦時代にも一貫して保った姿勢だといえよう。

 しかし米国の一部にはソ連のような現実の共産主義体制があったからこそ、アンチテーゼたる資本主義も身を正すことができたという論調もある。

 保守派の政治評論コラムニストのアルノー・デボルグラフ氏は3月、「米国などの資本主義世界は共産主義や社会主義の挑戦に(冷戦中の)40年間も直面し ていたために、経済活動での倫理を保ち、自由奔放の過剰を自粛する効果があった。が、いまやその抑制が消えて、腐敗が広がった」という趣旨の論文を発表し た。かといって共産主義の長所を認めたわけでは決してない点が、反共国家の米国の素顔を改めて示したといえよう。(ワシントン 古森義久)

中国の国有企業についてのアメリカ側の見解の発表がありました。

 

中国は一見、普通の市場経済にみえても、実体は国家統制の強い社会主義的な経済メカニズムだというのです。その国家統制を具現しているのが巨大な国有企業の活動です。

 

そのなかで日本の新幹線技術が中国側に盗まれた実例の詳しい解説がありました。このケースも国有企業が中国共産党の意を受けて実行した作戦だというののです。

 

                            ======

 

   [endif][if gte mso 9] [endif][if gte mso 10] [endif][if gte mso 9] [endif][if gte mso 9] [endif]

〔ワシントン=古森義久〕

 

米国議会の超党派諮問機関「米中経済安保調査委員会」は26日、中国の国有企業の分析報告を発表し、中国が国内総生産(GDP)の50%が国有企業の活動によるという見解を明らかにした。

 

 同報告は中国の国有企業群が商業判断よりも共産党や政府の意思を優先させるとみなし、日本の新幹線技術の盗用も中国側の国家意思だとの判断を示した。

http://img4.blogs.yahoo.co.jp/ybi/1/f3/0f/w18kogomiiwana/folder/174147/img_174147_5232871_0?1311510729

             (こちらは中国版です)

 

 同報告は中国がなお国有企業とその子会社に基幹産業や戦略的産業を独占させ、最近の民間分野の成長にもかかわらずGDPの約50%は国有企業の活動によると総括した。

 

 同報告によると、国有企業は共産党や国務院の命令で動き、人事も共産党中央組織部で決められ、企業活動でも融資や税制、政府調達などの面で優遇されている。

 

 その結果、中国経済全体は市場経済ではなく国家資本主義経済、あるいは中国的な社会主義経済であり、中国が世界貿易機関(WTO)加盟の際の「企業は商業判断だけで機能し、国家の意思を入れない」という自国の誓約にも違反しているという。

 

 同報告は国有企業が政府の意思で外国の高度技術を入手するために利用されるとも指摘し、その実例として日本の新幹線技術が中国側に渡った経緯を詳述した。

 

 同報告は日本の新幹線技術の中国側の取得について「中国企業が外国技術を盗用した最もひどい実例」と明記し、2004年の中国の鉄道部の入札に日本の川崎重工業などが応募して中国側の国有企業の「中国南車集団四方機車車両」と提携し、日本から新幹線車両を直接に輸出する一方、中国側のライセンス生産が進められたプロセスを述べている。

 

 同報告はそのうえで中国側が昨年までに新幹線の「はやて」に酷似した高速列車を製造して、「中国の独自の技術による」と宣言したことを技術の盗用とみなし、「中国政府が求める外国の技術を取得する過程では中国の国有企業が決定的な役割を果たす」として、日本の新幹線技術の取得も中国側の国家や政府の意思だったという見解を明示した。

  中国での偽造品、模造品の横行と、政府の放任は長年の問題です。

 

 アメリカではこのところ、中国に対し、経済、安保、外交その他、、広範な領域での批判がまた一段と高まっていますが、昨日も以下のyような動きがありました。

 

 日本の企業も中国の特許や商標の盗用による被害は甚大なはずです。                  =======

   

〔ワシントン=古森義久〕

 米国下院歳入委員会が25日に開いた「米中経済関係」についての公聴会でオバマ政権代表から中国の人民元レート操作や知的所有権侵害への激しい非難が表明された。

 

 同公聴会では政権側からレール・ブレイナード財務次官が証言し、米中貿易は不公正な状態にあるとして

 

(1)人民元の対ドル・レートが実勢より40%ほども低く設定されており、中国側の対米輸出を増している

 

(2)中国政府による国内産業の保護策が米国企業の活動を不当に制限している

 

(3)中国側の知的所有権盗用が米側企業に重大な被害を生んでいる

 

  ―と述べた。

http://jp.reuters.com/resources/r/?m=02&d=20111012&t=2&i=514794751&w=&fh=&fw=&ll=192&pl=155&r=img-2011-10-13T061541Z_01_NOOTR_RTRMDNC_0_JAPAN-235983-1

 

 知的所有権については米国通商代表部のデメントリオ・マランティス次席代表が「中国側の官民の米側に帰属する知的所有権の盗用や侵害により米国企業は毎年、約480億㌦の損害を受けている。著作権、版権だけでも毎年、230億ドルの損害となる」と証言し、中国当局がWTO(世界貿易機関)でも義務づけられた知的所有権違反の取締りを十分にしていないと批判した。

 

 同代表はまた中国の政府機関や国営企業が米国企業が開発して、知的所有権を持つコンピューターのソフトウェア類も海賊版を大量に調達して、米側に被害を与えている、と指摘した。

 

↑このページのトップヘ