2011年12月

 野田首相の訪中で日本と中国が北朝鮮政策に関していかにも一致をみせたような印象がしきりとばらまかれています。

 

しかし野田首相がいかに美辞麗句を弄し、中国側首脳がいかに日本への丁重な言葉を述べても、真実は動きません。その真実とは北朝鮮に対する日本と中国との利害は基本的に異なるということです。

 

中国はたとえ北朝鮮が核兵器の開発を進めても、外国人拉致を放置しても、金政権の安定継続をまず最も強く望んでいます。「安定」や「継続」のためには核も人権もどうなってもよい、ということです。

 

しかし日本は金政権が崩壊しても実は構わない。いや崩壊したほうがよいとさえいえる。アメリカもこの点では本音はまったく同じです。金政権の継続の是非こそが、中国とアメリカ・日本のスタンスを分ける重大点なのです。

 

だからこそ野田首相は訪中では、そうした点での日本の立場を明確に述べるべきでした。しかし首相はそれをしなかった。このへんが媚中で出発したわが民主党政権の限界なのかもしれません。

 

産経新聞の本日の社説もそのような諸点を論じています。

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【主張】日中首脳会談 日米韓の結束崩さないか

 

 訪中した野田佳彦首相と温家宝首相、それに続く胡錦濤国家主席との首脳会談は、北朝鮮の金正日総書記の死去を受けた朝鮮半島情勢をめぐり「冷静かつ適切な対応」では一致した。

 

 しかし、後継の金正恩体制については日中の基本姿勢の違いが浮き彫りにされ、成果は乏しかったと評価せざるを得ない。

 

 胡主席との会談で、野田首相が「北朝鮮に影響力を持つ中国の役割は重要」と述べたのに対し、主席は6カ国協議の再開に言及し、「対話と協力で非核化を実現し朝鮮半島の長期安定を図りたい」と応じた。再開に向けて日中が共同歩調を取るとも受け取れる。

 

 6カ国協議について日米韓は、北朝鮮がウラン濃縮停止や核放棄の確約など5条件を受け入れない限り再開に応じないと足並みを揃(そろ)えている。一方 で、北朝鮮の円滑な体制移行が国益に合致するとする中国は協議再開も含め対北融和姿勢を取る。野田首相の発言は日米韓の結束を崩しかねない。

 

 日本にとっての最重要課題である拉致問題について、野田首相は胡主席に改めて「理解と協力」を求めた。半島有事を見据えて、温首相には拉致被害者を含む邦人の安全への協力を要請した。

 

 しかし、胡主席は「対話と協議を通じて適切に解決してほしい」と述べるにとどまり、温首相の返答もほとんど同じだった。拉致に関する認識の違いは大きい。

 

 3年半も中断されたままになっている東シナ海ガス田の共同開発交渉についても、温首相は「努力する」と答えただけだが、海洋危機管理のために日中「高級事務レベル海洋協議」の創設が決まったことは一歩前進といえる。

 

 だが、問題は海洋権益の拡大を図る中国が続けている調査船など公船による挑発的行動をやめさせることだ。「平和、協力、友好の海とする」との日中間の合意を中国が守るよう、日本は監視を強化する必要がある。

 

 日中国交正常化40周年を来年に控え、胡主席は民主党政権初の首相訪問を「両国の戦略的互恵関係を深化させる」と位置付けたが、言葉だけが躍っていないか。

 

 温首相は東日本大震災の被災地・仙台市へのパンダ貸与を表明した。子供たちへの思いやりは多とするにしても、懸案が解決しない状況では「日中友好」を取り繕っているとしか見えない。

 北朝鮮の政治がどうなるのか。

 

 全世界が注視していますが、なお予断を許さない部分は大です。

 

 金正恩氏への反乱がもし起きたら、どうなるか。

 

 金正恩新政権が内部からの抵抗でもし倒れたらどうなるか。

 

 アメリカでは以前から金正日政権が崩壊した場合のシミュレーションがなされています。

 

 金正恩政権はそのまま続くだろうという見方が大勢ではありますが、万が一の不測の事態への対応を想定しておくことも必要でしょう。

 

 そんなことを感じさせられるアメリカ側の動きについての記事です。

 

米中全面対決の可能性 北の政権崩壊時 米国防大研究所予測
2011年10月15日 産経新聞 東京朝刊 1面

 【ワシントン=古森義久】米国防長官のシンクタンクとされる国防大学国家戦略 研究所(INSS)は14日までに北朝鮮の政権が崩壊した場合の中国や米国、韓国の反応を予測する調査報告を作成した。同報告は中国の軍事介入による米中 全面対決の可能性を指摘しながらも、北朝鮮住民の動き次第では、中国の支配を排する新生国家誕生の展望も示した。

「朝鮮の将来=北朝鮮 の政権崩壊の米国外交への挑戦」と題された報告は「実際の証拠を得たわけではないが、最も現実的なシナリオ」として国家ではなく政権だけが崩壊する予測を 打ち出した。具体的には、「金正日政権を支配層内からの勢力が倒し、新政権を作るが弱体で、軍隊や核兵器、官営メディアなどの管理に努めるものの、住民の 国外大量脱出などを起こす」とまとめている。

同報告によると、中国は(1)北朝鮮の混乱の危機が国外へと広まる(2)北朝鮮の新政権が 核兵器やミサイルの管理能力を失う(3)米国あるいは韓国が国連での協議などを経ずに北に軍事介入する-などの場合には軍事介入に踏み切ることが確実だと される。しかし、中国はその前段階として経済、政治、外交などの手段で北朝鮮新政権を支援し、北の核兵器保有をも許容しながら、自陣営への組み込みを強め るという。

米国については、まず米国の多数派が、政権崩壊を機に年来の基本目標である北朝鮮の非核化と南北統一を、北への軍事介入の危 険を冒してでも実現させようとするだろうと予測。軍事介入すれば、中国と全面対決する危険があり、強い反対も起きるだろうとする一方、「北朝鮮住民の多く が中国による支配の強化を嫌い、米韓の介入を求めることが明らかになれば、米国は軍事介入を含めて行動の余地が広がる」とも述べた。

韓国については「独自では政策決定ができず、米国との協議や国連での協議などに力を入れる」としながらも、中国の北朝鮮支配が強まれば韓国軍部などには北への軍事介入の声も起きるだろうとの予測を明らかにした。

報告は最後に北朝鮮の政権崩壊は「ベトナム戦争以来のアジアでの最大の試練であり、この危機を現実主義や知略などでうまく乗り切らない限り、米国のアジアでの指導権は決定的に変わるだろう」と総括した。

 北朝鮮の情勢が揺れ動くいま、連日の洪水のような情報のなかで、ワシントンにいても毎日、依存し、楽しみにしているのは産経新聞の黒田勝博記者のソウルからの報道です。

 

1994年に金日成が死亡したときの韓国側の反応と、いま2011年の金正日死去での韓国民の反応と、二つを比較して、現状の分析をさりげなく試みるという基礎の知識や体験を有する日本人記者というのは、いまや黒田氏をおいて存在しません。

 

国際情勢の読み方というのは、やはり継続性が大切です。過去の流れをまったく知らない観察者はいまの情勢を読むうえで大きなミスを冒しがちです。でなくても、きわめて皮相な報道となります。

 

黒田記者の朝鮮半島報道、韓国報道はおそらくすでに30数年の蓄積、しかも一環した積み重ねの上に成り立っています。だからこそ黒田報道には貴重な価値があるわけです。

 

以下に紹介する彼の二つの記事からも、他の報道にはない、そんな価値を感じさせられます。

 

 

 

【朝刊 国際】


【緯度経度】ソウル・黒田勝弘 金正恩に“日本”は吉か凶か


 

 在日韓国人で以前から母国(韓国)でビジネスをしている人たちの間で、父母世代を含めた在日韓国人の母国の発展に対する“貢献”を、歴史に残そうという動きがある。

 

 在日韓国人たちは日韓国交正常化(1965年)前から韓国にドルをはじめ多くのものを持ち込み、母国の発展につくした。「故郷に錦を飾る」かたちで、工場や学校を建て、親戚・縁者を援助し、奨学金や寄付を届けた…。

 

 彼らは韓国にとって“金づる”だった。その総額は日本が国交正常化に際し韓国に提供した資金協力(請求権資金)より大きかったとの説もある。東京の一等地にある韓国大使館の敷地だって在日韓国人が寄贈したものだ。

 

 韓国が“金持ち”になるにしたがい、そんなことは忘れられつつある。それが残念で何とか歴史に残したいというわけだ。

 

 北朝鮮も似ている。在日朝鮮人が日本から持ち込んだ資金やモノは膨大で、北が経済的に疲弊しながらも何とかもったのはそのおかげ、という説もある。金日成・正日父子が朝鮮総連幹部を国賓待遇で遇してきたのはそのせいだ。

 

 ただ韓国との違いは、その“貢献”が国民のための経済発展には使われず、父子崇拝の「記念碑的建造物」や軍備に“浪費”されたことだ。だから在日韓国人は報われたが、在日朝鮮人は報われなかった。

 

 韓国では政府もマスコミも企業も、日本からの支援や協力を表向きちゃんと評価しようとしない傾向がある。日本の学者はこれを「日本隠し」というが、北朝鮮でも金正恩・新体制のスタートに際し「日本隠し」をやるのかどうか関心を集めている。

 

 韓国のさるセミナーでも話題になった。金正恩の母、故高英姫が在日朝鮮人出身で、金正恩の成長過程には「日本」が影響を与えているはずだから、その日本観や今後の対日姿勢が興味深いというのだ。

 

 これに対しては「北では“日本”はかえって不利で指導者にとってはマイナスだから“日本隠し”の方になるだろう」という反論が出ていた。

 

 金正恩における幼少時の「日本の影」については、金正日の料理人だった藤本健二著『北の後継者キム・ジョンウン』(中公新書ラクレ)に詳しい。オモチャや食べ物から漫画、ゲーム、文房具にディズニーランド、東京タワー…。

 

 金正恩・後継者のための“日本隠し”で、もし母・高英姫が冷遇されたり歴史から消されたりすれば、これはこれでロイヤルファミリーの“火ダネ”になる。高英姫を母に持つ次男の金正哲や長女の金ヨジョンは不満を持つだろうし。

 

 生前、高英姫は賢夫人として金正日によく仕えたと伝えられ、一時は非公式ながら“国母”だった。金正恩が母のことを冷遇し排除した場合、権力内部で反発する向きもあるだろう。

 

 金正恩体制にとって「日本」は吉と出るか凶と出るか。北朝鮮は日本にとって意外に、遠くて近い?

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【朝刊 国際】


【外信コラム】ソウルからヨボセヨ 存在感薄かった2代目


 

 金正日総書記があっけなく亡くなった。同じ世代で、まだ無名だった1970年代初めから付き合ってきた(?)者としては感慨深い。「彼が生きている限りはこちらも死ねない!」などと粋がっていた筆者も潮時かな?

 

 それにしても寂しい。ソウルの街の反応のことだ。マスコミは自分たちの大統領が亡くなったように連日、大々的に報道しているが人々の関心はいまいちだ。とくに17年前、父・金日成主席が亡くなったときと比べると実に寂しい。

 

 あの時は「金日成が死んだぞ!」といって触れ回る人がいて、飲み屋では祝杯を挙げる風景もあった。“有事”ということでコメやラーメンを買い込んだり、 あるばあちゃんなどゆで卵を10個食べて「もう死んでもいい…」と言ったエピソードも聞いた。貧しい時代に育ったお年寄りにゆで卵はそれほど貴重だった。

 

 金日成は戦争を仕掛けたり韓国の大統領を暗殺しようとしたり、韓国人にとっては「ナップンノム(悪いやつ)」だったが、逆に一目置かれてはいたのだ。

 

 豊かになった韓国人の余裕もあるが2代目・金正日に存在感はなかった。祝杯など見かけない。さらに軽く見られている3代目が「バカにするな!」といって何かしでかしはしないか、心配する声はある。(黒田勝弘)

 

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 北朝鮮内部の激変をアジア全体への影響という視点から眺めることも欠かせません。

 

 その視点からはこの激変が日本にどんな影響を及ぼすのかという設問への答えも浮かびあがってきます。

 

 この政治の激変には核兵器という軍事面で最も思い要因がからんでいることをあくまで重視すべきでしょう。

 

 以下のような記事を産経新聞に書きました。

 

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〔ワシントン=古森義久〕

 

米国は北朝鮮の最高指導者交代の激変に対し表面は静観の構えをみせながらも、北朝鮮の核弾頭の完成の切迫と中国との戦略的対立の先鋭化という二つの危険な激流に直面させられる形となった。この流れは日本をも含む東アジアの安全保障情勢全体の基本構図を崩す起爆ともなりかねない。

http://www.falklands25.com/wp-content/uploads/2011/12/kimu3.jpg

 

  

北朝鮮の金正日総書記の死去から三男の金正恩氏への権力継承の不安や混迷に満ちたプロセスではオバマ政権は公式には北朝鮮情勢の「安定を求め、静観を保つ」という趣旨の言明を繰り返してきた。

 

 だが米国側では総書記の死の前から北朝鮮が高濃縮ウランの秘密利用による核兵器開発を前進させ、中距離、長距離の弾道ミサイルに装着する核弾頭を完成させる展望への懸念が深まっていた。

 

米議会調査局で朝鮮半島問題を30年も専門とし、歴代政権の政策に詳しいラリー・ニクシュ氏は米軍当局の判断として①北朝鮮がこんご1、2年で実戦用の小型核弾頭を完成させ、スカッドやノドンというミサイルへの装備を達成する見通しが強い②核弾頭のミサイルへの装着が完成すれば、北朝鮮は明白な核兵器保有国となり、後戻りはこれまでよりずっと困難となる③米国ネブラスカ州での今年の米韓陸軍の合同演習で北朝鮮が核兵器を保有し、その使用可能性を脅にするという想定を初めて立てた―ことなどを指摘した。

 

 同氏によれば、実務経験のない金正恩氏は軍部や労働党の首脳に依存し、事実上の集団指導制を許容するため、軍部の核武装を急ぐ意思への傾きを顕著にするというのが米側政権内外の見方だという。その結果、正恩新体制は核武装の推進など強硬な路線の追求を内外に誇示することで権力基盤を固めると予測される。

 

 米国にとっての第二の懸念は中国との戦略思考の衝突だとされる。中国が北朝鮮を経済や軍事で支える最大唯一の「同志国家」であることは周知の事実で、北朝鮮の公然たる核武装には難色を示すものの、金政権自体や北朝鮮国家の崩壊は絶対に防ごうとする姿勢をみせている。

 

この点について民主、共和両政権の国防、国務両省で東アジア安保政策を担当したジム・プリシュタップ国防大学国家戦略研究所(INSS)教授は「オバマ政権を含む米国歴代政権の本音は王朝的な金独裁政権の除去であり、この点で中国の基本戦略とは相反してきたが、金書記死去による情勢変化でその対立が先鋭となる」と述べた。

 

同教授によると、米中両国とも公式声明では北朝鮮の「安定」や「非核」で一致しているが、中国は非核を犠牲にしても金政権維持を望むことは明白で、あくまで非核を朝鮮政策の最上位におく米国との対立がこんごの激変でますます露骨になる見通しが強いという。

 

プリシュタップ教授はINSSで今年10月に北朝鮮の政権崩壊を想定した調査報告を作成し、中国は北の政権崩壊が切迫すれば、少なくとも、「危機が大量難民などで国外に及ぶ」「北当局が核兵器やミサイルの管理能力を失う」「米国や韓国が国連を経ずに北に軍事介入する」という場合には人民解放軍の投入に踏み切る、との予測を打ち出した。オバマ政権も中国のこれほど強い北朝鮮関与になんらかの対抗策を準備することを迫られるわけだ。

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気鋭の政治評論で知られる遠藤浩一氏がTPP論議と他者まかせの戦後の敗北主義とを結びつけて、おもしろい一文を書いています。

 

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【正論】拓殖大学大学院教授・遠藤浩一 「大阪」と「TPP」を結ぶ点と線
2011年12月14日 産経新聞 東京朝刊 オピニオン面

 選挙必勝の鉄則は、争点を設定することである。自分の土俵に相手をのせてしまえば、その時点で勝負はついたも同然だ。平成17年には小泉純一郎氏が「郵 政民営化」、同21年には民主党が「政権交代」という争点をそれぞれ先に設定して勝っている。今回の大阪ダブル選挙でも、橋下徹前府知事および「大阪維新 の会」が、いわゆる「大阪都構想」(二重行政の是正)をいち早く争点として打ち出して圧勝したように見える。

≪政治・行政秩序にダメ出し≫

敗れた反“ハシスト”派は橋下氏の独裁的な手法、あるいは同氏の指導者としての資質(危うさ)に争点を置き換えようとしたが、これは裏目に出た。大阪の有 権者は凡庸な現職より多少やんちゃでも何かやってくれそうな前府知事およびその一派を選んだ。“指導者の資質”という争点も、橋下氏一統はいつの間にか自 らの側に引き寄せてしまったわけである。

さらに、そこに、既成大政党に対する信任・不信任という争点も加わった。国政における与党の民主党も最大野党の自民党も、反維新にまわったが、大政党による包囲網の中で孤立奮闘する「大阪維新の会」という構図が出来上がったとき、橋下氏は、ほくそ笑んだことだろう。

今回の選挙では、“大阪都”や“ハシズム”の是非以上に、この争点が最も重い意味を持っていたように思われる。端的に言うならば、橋下氏の政策や指導者と しての資質が評価されたというより、決断できない相乗り首長、機能不全の政党、さらに既得権益擁護に汲々とする労組なども含め、既成の政治・行政の秩序が もはや評価に値しなくなったと判断されたのである。

≪国際規範作りでも不適格露呈≫

もっとも、これは今回突如、持ち 上がった問題ではない。今世紀に入って以降の選挙においては、既成政党および彼らが形成する秩序、あるいは彼らの統治能力に対する不信が、常に、最大の争 点であり続けた。6年前の小泉氏も2年前の民主党も、既成政党への不信と既成秩序の破壊という争点を打ち出して勝っている。

今回の選挙 で特徴的なのは、2年前に“旧体制”の打破を訴えた民主党が“旧体制”の側に位置することを自ら明らかにしてしまったことだろう。体制破壊を訴え、未知へ の期待を集めて政権を獲得した民主党は、統治者としての適格性の欠如を露呈し、有権者から拒否されるに至った。

さて、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉への参加の是非について、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が交わされているそのときに、大阪で首長選挙が行われ、大政党への不信という民意が示されたことは決して偶然ではないと思う。

経済連携に関する新たな国際ルールづくりの交渉に参加するかしないかで国論が二分されるような事態は、不毛である。国家たるもの、国際ルールをつくる側にまわることによって国益を確保しようとするのが当然だからである。

「戦後体制」とは勝者がつくったルールに敗者が組み込まれて出来上がったものにほかならない。他者がつくった土俵にのれば、当然不利な勝負を強いられることになるわけだが、戦後のわが国は、それでも歯を食いしばって高度成長を達成した。

そんな日本にとって、国際ルールづくりに自ら参加することは戦後体制から脱却する上でも本来好ましいことである筈(はず)なのだが、交渉の場に臨むことそれ自体が議論の対象となり、とりわけ日頃保守的な言動をしている人たちが口をきわめてこれを否定している。

≪「脱戦後」へハードル越える時≫

それは、(1)ルールづくりといっても米国がつくった土俵にのせられるだけではないか(2)そもそも野田佳彦民主党政権に熾烈(しれつ)な外交交渉を展開 する当事者としての能力と適格性があるのか-という疑念が拭えないからだろう。とはいえ、米国が想定しているとされる一方的なルール(案)を修正するに は、交渉に臨むしかないわけだから、結局、これは二番目、すなわち民主党政権の能力と適格性という問題に帰着する。

では、自民党なら大丈夫かといえば、これも首をかしげざるを得ない。「我が党の政権ならばこういう姿勢で交渉に臨む」という展望を示す以前の段階で議論を集約し得ていない。 自民党政権時代に京都議定書という国際ルールづくりに参加し、自ら不利なルールを策定してしまったという“前科”もある。

米国案を丸呑 (の)みするしかないというのも、土俵づくりに加わるなというのも、ともに敗北主義であり、戦後コンプレックスの変奏でしかない。わが国は、TPPのみな らず、今後もさまざまな国際規範づくりに直面することになるだろうが、それは脱戦後のために飛び越えねばならぬハードルである。そこでしたたかな交渉を展 開し果実をもぎ取っていく能力と資格を持った、本格的な政権を形成することこそが喫緊の課題であると、大阪の選挙結果は暗示しているのではないか。(えん どう こういち)

 

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