オバマ政権が中国の反発に気をつかい、中国の軍拡を控えめに伝えるというのは、それなりに政策的な意図はあるのだといえましょう。
しかしこれほど明白な軍拡をいかにも脅威ではないかのように描写するというのは、なかなか難しい作業です。
ではオバマ政権内では誰がこんな対中宥和の策を主唱するのか。
どんな人物が中国の反応を第一に考慮する媚中志行を示すのか。
「日本ビジネスプレス」のレポート紹介の最終部分です。
原文へのリンクは以下です。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35486
国際激流と日本
「中国の軍事力報告」の欠陥、
アメリカは脅しに屈したのか?
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だがそれでもなお、中国の大規模な軍拡は米国のアジア戦略への挑戦と受け取らざるをえない。さらには米国の主導で築いてきた戦後の国際秩序全体への中国の根本からの改変の意図がその軍拡に反映されているとも解釈できる。
だから米国にとって中国の軍拡の危険な要素を正面から提起する必要性は確実に存在すると言えよう。そのためか、同じオバマ政権とはいえ、国防総省も、ときには国務省も、中国の軍拡や軍事優先路線を率直に事実と認め、警告を発することがよくある。
だがそれでも「中国の軍事拡張」とか「中国の軍事脅威」という表現で中国を公式に名指しするオバマ政権の高官は最近はまずいない。
この点については興味深い指摘がある。安全保障専門の記者として長年、ワシントンで活躍する「ワシントン・タイムズ」のビル・ガーツ氏が6月6日の報道で述べていた。
「オバマ政権内部には、軍事問題に関して中国を直接名指しで軍事脅威と認定する発言を、公開の場では差し控えるという秘密の指針が流されている。 政権内の一部の親中派高官の意向であり、中国を正面から非難すると反発され、かえって中国側のさらなる軍事的攻勢を招きかねない、という思考からだ」
そしてガーツ記者や前述のフィッシャー研究員らは、オバマ政権の対中配慮政策の中心は、国家安全保障会議(NSC)のエバン・メデイロス中国部長だと指摘するのである。
メディロス氏は政治任命のリベラル派中国研究学者で、中国の社会科学院などで長期に研修や研究をした経歴があり、中国軍部とも密接な接触を重ねて きた人物だ。米国の台湾への武器供与にも激しく反対してきた。なるほど、中国の北朝鮮への長距離ミサイル発射車両の供与なども、オバマ政権は問題視しない はずだ。
オバマ政権はそれでもなおアジア重視の新戦略を打ち出した。そのための米軍再配備の重要性をも説いている。その動機は、明らかに中国の軍拡への対抗である。
だがその軍拡に対し、中国の意向を気にして明確な批判や非難を差し控えるという態度を取ろうとするのが、現在のオバマ政権の姿勢なのである。ある意味での自己規制だとも言えよう。それは一面、弱さにつながり、矛盾や足並みの乱れにもつながっていく。
日本にとっても、至近距離にある中国の軍事拡張は、米国にとってよりも切迫した懸念の対象である。そんな状況下で同盟相手の米国が中国の軍事脅威を正面から認定することをためらうとなると、日本への負の影響もやがて重大となってくるだろう。