2012年06月

 オバマ政権が中国の反発に気をつかい、中国の軍拡を控えめに伝えるというのは、それなりに政策的な意図はあるのだといえましょう。

 

 しかしこれほど明白な軍拡をいかにも脅威ではないかのように描写するというのは、なかなか難しい作業です。

 

 ではオバマ政権内では誰がこんな対中宥和の策を主唱するのか。

 どんな人物が中国の反応を第一に考慮する媚中志行を示すのか。

 

 「日本ビジネスプレス」のレポート紹介の最終部分です。 

 

原文へのリンクは以下です。

 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35486

 

国際激流と日本

「中国の軍事力報告」の欠陥、
アメリカは脅しに屈したのか?

 

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  だがそれでもなお、中国の大規模な軍拡は米国のアジア戦略への挑戦と受け取らざるをえない。さらには米国の主導で築いてきた戦後の国際秩序全体への中国の根本からの改変の意図がその軍拡に反映されているとも解釈できる。

 

  だから米国にとって中国の軍拡の危険な要素を正面から提起する必要性は確実に存在すると言えよう。そのためか、同じオバマ政権とはいえ、国防総省も、ときには国務省も、中国の軍拡や軍事優先路線を率直に事実と認め、警告を発することがよくある。

 

 だがそれでも「中国の軍事拡張」とか「中国の軍事脅威」という表現で中国を公式に名指しするオバマ政権の高官は最近はまずいない。

 

 この点については興味深い指摘がある。安全保障専門の記者として長年、ワシントンで活躍する「ワシントン・タイムズ」のビル・ガーツ氏が6月6日の報道で述べていた。

 

 「オバマ政権内部には、軍事問題に関して中国を直接名指しで軍事脅威と認定する発言を、公開の場では差し控えるという秘密の指針が流されている。 政権内の一部の親中派高官の意向であり、中国を正面から非難すると反発され、かえって中国側のさらなる軍事的攻勢を招きかねない、という思考からだ」

 

 そしてガーツ記者や前述のフィッシャー研究員らは、オバマ政権の対中配慮政策の中心は、国家安全保障会議(NSC)のエバン・メデイロス中国部長だと指摘するのである。

 

 メディロス氏は政治任命のリベラル派中国研究学者で、中国の社会科学院などで長期に研修や研究をした経歴があり、中国軍部とも密接な接触を重ねて きた人物だ。米国の台湾への武器供与にも激しく反対してきた。なるほど、中国の北朝鮮への長距離ミサイル発射車両の供与なども、オバマ政権は問題視しない はずだ。

 

 オバマ政権はそれでもなおアジア重視の新戦略を打ち出した。そのための米軍再配備の重要性をも説いている。その動機は、明らかに中国の軍拡への対抗である。

 

 だがその軍拡に対し、中国の意向を気にして明確な批判や非難を差し控えるという態度を取ろうとするのが、現在のオバマ政権の姿勢なのである。ある意味での自己規制だとも言えよう。それは一面、弱さにつながり、矛盾や足並みの乱れにもつながっていく。

 

 日本にとっても、至近距離にある中国の軍事拡張は、米国にとってよりも切迫した懸念の対象である。そんな状況下で同盟相手の米国が中国の軍事脅威を正面から認定することをためらうとなると、日本への負の影響もやがて重大となってくるだろう。

 やや古い情報かも知れませんが、最近、改めて読んでみて、非常に興味をひかれた論文です。
 
 「中国のメディア」という言葉自体、「老齢の幼児」とでもいいましょうか、そのあり方自体、名称自体が矛盾なのです。
 
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【正論】平和安全保障研究所理事長・西原正 幻になった中国紙へのわが寄稿
2011年10月27日 産経新聞 東京朝刊 オピニオン面

 中国のメディア統制の実態はチャイナウォッチャーならずとも関心事であるが、この度、図らずもそれを体験するはめになった。

実は、こ の8月23日に北京のチャイナ・デーリー(中国政府に近い、最も権威ある英字紙、公称50万部)の編集長から突然、メール(英文)が入り、「菅首相がまも なく辞任し、新政権ができるが、最近およびこれからの中日関係について論評欄に論文を書いてもらえないだろうか」と言ってきた。私は9月11日(日曜日) までに、原稿を送ると返答した。

≪中国の対日姿勢を率直に批判≫

その締め切りより半日遅れの9月12日(月曜日) 朝、「日中関係の改善は中国の出方次第」と題する論文(750字)をメールで送った。その際、中国の対日姿勢を率直に批判した私の論文が、そのままで掲載 されるのは無理だろうと思ったので、「内容に変更を加える場合には事前通知を頼む」と付け加えた。

これに対し、同日夕、編集長からメー ルが来て、「論文を期日通りに送ってくれたのはありがたいが、私が、貴殿の意味するところを侵さずに、貴論文を中国や日本の読者にとって受け入れ可能なも のにする方法を見いだそうとするにはいささかの時間が必要になると思う」という回りくどい表現で予想通りの牽制(けんせい)をかけてきた。

私がこの論文で述べた論点は、およそ以下の通りであった。

一、3月の東日本大震災の際、温家宝首相が被災地を訪問したのは心温まる行為であったが、日本人の対中感情は、昨秋の尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件で昨年初めと比べれば悪くなっている。

一、尖閣事件で、多くの日本人は中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突された、と中国政府が虚偽の主張をしたことに仰天した。

一、多くの日本人は、中国が日本と「戦略的互恵関係」を築くと言いながら、尖閣事件で日本にとり戦略的に重要なレアアース(稀土類)の輸出を突然停止したことで裏切られた気持ちでいる。

一、中国の海軍増強や周辺諸国への威圧ぶりを見ると、中国は西太平洋を自国の意に従って、コントロールしようとしているように見える。

≪「靖国、教科書」問題は内政干渉≫

一、中国の東シナ海における軍事活動を牽制するため、日本は米国との同盟を一層強化しようとしており、大震災での自衛隊と米軍の共同作業は同盟を強化した。

一、野田佳彦首相はすでに靖国神社への参拝はしないと言明し、中国側との摩擦を避けている。

一、国交正常化を宣した1972年の日中共同声明では両国が内政不干渉の原則を尊重すると謳(うた)われているにもかかわらず、中国は日本の内政問題である、戦没者への追悼の仕方や学校教科書の歴史の扱い方などに干渉することで、この原則を常に犯してきた。

一、日中関係が「ウィンウィン」なものになるのは、両国が真に相互の立場を尊重するときにこそ可能なのである。

論文を出した後、「いささかの時間が必要」というので、しばらく待っていたが、4週間経っても何の音沙汰もない。このため、10月10日に「どうなったのか、連絡してくるべきではないか」との催促メールを送ったところ、同日中に、こんな回答が返ってきた。

≪書き直しか不掲載と迫られる≫

「返事が遅れて大変失礼した。その理由は2つある。1つは、先月は数日間にわたって他のテーマでページがいっぱいになってしまった。それに1週間の休日が 入った。しかし、より重要な理由は、貴論文を読んで編集するのが極めて困難であることが分かった。率直に言って、貴論文は悪化している中日関係を全面的に 中国のせいにしており、われわれの目にはそれが真実とはみえない。貴殿がよりバランスの取れたものに書き直すか、あるいは、不掲載とするかに関しての意見 を聞きたい」

私は、「自分の見解は偏ったものでなく、日本人の過半数が思っていることだ」「日本人の対中批判の根拠を中国人に知らせることは重要ではないか」「自分の論文に反対する論文をもう1つ載せてバランスを取ればいいではないか」とメールで反論した。

チャイナ・デーリー側はこれに対し、「貴論文をそのまま載せると、中国人の反日根拠に疑念を生じさせ、対日誤解を深める」と不可解な理由を述べ、最後に「依頼論文であれ、当方には不掲載とする権利あり」と主張してきた。

今回、体験的に分かったのは、中国の新聞が自己検閲して、中国政府の方針に批判的な論評を封じる編集方針をとっていることだ。それが中国の現実なのである。

拙稿はその後、そのままの形でハワイのパシフィック・フォーラムの10月21日付オンライン「パクネット」で世界の登録読者に配信された。「この論文は チャイナ・デーリーの依頼で書かれたが、『よりバランスのとれたものに書き直すように』といわれてボツとなったものである」との注記が付けられて。直ちに 内外の友人から私の元に賛意のメールが入った。(にしはら まさし)

 

 オバマ政権の中国軍事力報告ですが、ではどのへんが隠されたのか。具体的なその部分についての報告をします。

 

 日本ビジネスプレスからの転載です。

 

原文へのリンクは以下です。

 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35486

 

国際激流と日本

「中国の軍事力報告」の欠陥、
アメリカは脅しに屈したのか?

 

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中国の軍事力を明らかに「過少評価」

 さて、これらの批判を総合すると、オバマ政権の中国軍事力報告の欠陥として、以下のような諸点が挙げられることとなる。

 

・中国軍の軍事能力の向上と戦略的意図の拡大という基本的な潮流を明確に描いていない。

 

・南シナ海や東シナ海での軍事力を背景とする中国の領土拡張の海洋戦略に、ほとんど触れていない。

 

・中国の宇宙軍事利用を報告していない。特に、米国への脅威となる衛星攻撃兵器の開発に触れていない。

 

・米国に向けられたサイバー攻撃に中国の人民解放軍が直接関わっていることは明白なのに、その指摘がない。

 

・中国の弾道ミサイルの基数は昨年より明らかに増したのに、変化がないように書き、特に威力の大きい移動可能な多弾頭ミサイルの開発に触れていない。

 

・中国が新配備した空母の非軍事目的のみを強調して、南シナ海などでの兵力遠隔地投入の軍事的効用を軽視している。

 

 フィッシャー氏は総括として「米国議会が、この報告を基に中国の軍事の能力や意図を測定して対応を決めるとなると、明らかな過少評価となり、国防予算の過剰な削減を導きかねない」と警告した。

 

 オバマ政権のこうした対中宥和姿勢についてフォーブス議員は、「中国がこの報告の内容を気にして、いつも抑制した表現や描写を求めてきた。中国 は、米国がそれに応じない場合、米中関係の他の部分に悪影響を与えると半ば脅しをかけている。オバマ政権はその脅しに屈したと言える」と語った。

中国に関する発言を控えるオバマ政権内部の秘密の指針

 米中関係は確かに軍事だけではない。経済や金融などで両国が密接に絡み合っていることは周知の事実である。安全保障にしても、対テロ闘争などでは米国は中国の協力を必要とする。

(つづく)

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 中国の軍事力の実態へのオバマ政権の屈折した態度の紹介を続けます。

 

 日本ビジネスプレスからの転載です。

 原文へのリンクは以下です。

 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35486

 

国際激流と日本

「中国の軍事力報告」の欠陥、
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オバマ政権の弱腰ぶりに非難が殺到

 私自身、そんな疑問を感じていたら、半ば予想通り、米国の専門家や議員たちからこの報告への強烈な批判が飛び出した。

 

 まずは米海軍大学校「中国海洋研究所」のゲイブ・カリンズ研究員が、「中国軍事力報告に書かれていない12の事柄」という題の論文を外交雑誌に発表したのである。

 

 同論文は、今年の報告が、中国のミサイル増強や南シナ海での軍事攻勢、宇宙戦略の強化などにほとんど触れていないと指摘していた。報告が米中軍事交流をことさらに強調しすぎているとも批判していた。

 

 そしてカリンズ研究員は「オバマ政権のこのソフトな姿勢は中国側の期待には沿うが、結果として中国のさらに果敢な軍事関連行動を誘発することになる」とも警告していたのだった。

 

 議会でも「中国議員連盟」共同議長のランディ・フォーブス下院議員(共和党)が、「今回の報告で、オバマ政権は中国の軍事的チャレンジに光を当て ることに難色を示している。その度合いは恐ろしいほどに明白だ」という批判を表明した。同議員は「国際戦略研究センター(CSIS)」の研究発表サイトに 掲げた論文で、オバマ政権が中国の軍事脅威にあまりに弱腰だと述べていた。  

 

 フォーブス議員は次のような注視すべき指摘も強調していた。

 

 「オバマ政権はこの報告の作成と発表にあたり、中国当局からの圧力に押されて内容を希薄にした形跡が濃い。中国との協力を重視することも確かに重要だが、中国側の軍事の現実を直視することは、米国の安全保障にとってさらに重要だ」

 

 中国の軍事動向を一貫して調べている民間研究機関「国際評価戦略センター」のリチャード・フィッシャー主任研究員は、今回の報告を「これまでで最 悪の報告書だ」と断じた。その理由としてフィッシャー氏は、「米国の安全保障に重大な意味を持つ中国の軍拡の脅威部分を大幅に省略したことは、今後の議会 などでの対中防衛政策論議を誤った方向へ進めていく危険がある」と解説した。

(つづく)

 アメリカ政府の発表する「中国の軍事力の報告」はなぜこんなに薄っぺらになってしまったのか。

 

 オバマ政権は中国の軍拡という現実を隠そうとする様子さえうかがわれるのです。

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 これはなぜでしょうか。

 

 日本ビジネスプレスからの転載です。

 

 原文へのリンクは以下です。

 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35486

 

国際激流と日本

「中国の軍事力報告」の欠陥、
アメリカは脅しに屈したのか?

                            

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 米国では2000年から国防総省が中国の軍事力報告を毎年1度、作成し、議会に送ることが法律で義務づけられるようになった。中国の軍事力が顕著に増強され、米国の国家安全保障を脅かすという認識からの措置だと言える。

 

 2012年度の報告は、5月18日に発表された。ただし、そのタイトルは「中国の軍事と安全保障に関する展開年次報告」と変えられていた。従来は ずばり「中国の軍事力年次報告」と題されていたのだが、オバマ政権になって2010年度からは、今回のようにまずタイトル自体が薄められたのだった。

71ページあった本文がたったの19ページに

 私はこの報告を2001年から毎年、読んできた。報道もしてきた。だから米国の中国軍事パワーへの認識は流れとして知っているつもりだった。そん な認識を踏まえて、今年の報告を読んで、びっくりした。中国の軍拡の現実をあまりに控えめに、あまりに抑制された調子で伝えていたからだ。

 

 まず報告の分量が激減していた。昨年でさえ、付表を除いての本文が71ページだったのが、今年はなんと19ページになっていた。ブッシュ前政権の時代はもっとずっと多かった。

 

 構成を見ても、昨年は6章だったのが、今年はわずか4章である。しかも米中の軍事協力や中国軍の非軍事目的の活動を特に強調していた。

 ブッシュ時代にはあくまで中国軍の攻撃的な兵器や戦略の紹介が最大の重点だった。オバマ政権のこのアプローチも、もし中国軍の実態が変わったのな らば大いに歓迎されるべきだろうが、中国軍が野心的な軍拡のペースをさらに速めていることは、オバマ政権の国防総省などもはっきり認めているのだ。

 

 ではなぜ、その現実を薄め、弱めるような提示をするのか。ミステリーのようである。

(つづく)

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