2012年09月

 田久保忠衛氏が安倍晋三自民党新総裁への期待にからめて、日本のいまの国のあり方(あるいはあり方の欠如)に対して、鋭い指摘と提言を書いています。

 

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【正論】杏林大学名誉教授・田久保忠衛 安倍氏は「戦後脱却」の使命担え
2012年09月27日 産経新聞 東京朝刊 オピニオン面

 日本の最高指導者の地位に最も近いところに身を置いた安倍晋三自民党新総裁に、まず祝意を表したい。かねて、「戦後レジーム」からの脱却を唱えていた同 氏に、時代が「アンコール」を要求したといえる。が、鬱陶(うっとう)しい梅雨が続いた後の晴れ間を見る気持ちには私はまだどうしてもなれない。このとこ ろ続いた与野党党首選挙の候補者には、今の日本が歴史的、地政学的にいかなる国難に直面しているかという認識、それにどう立ち向かったらいいのかという迫 力に欠けるところがある。

≪ユーラシア発の危機は深刻≫

マスコミ側の意識にも、相当、問題があり、尖閣諸島をめぐる 討論会や記者会見で、この問題を、税制改正、エネルギー政策、社会保障制度の見直しなどと同列に扱って質問する。領土問題で、「相手の立場を考慮し、あく まで話し合いで」とか、「日中双方のナショナリズムは抑えなければいけない」などと答えていた民主党代表候補には、国家の浮沈にかかわる深刻な危機がユー ラシア大陸から押し寄せているとの感覚は微塵(みじん)もない。日本外交は悪魔たちの哄笑(こうしょう)の前で立ちすくんでいるのだ。

両党党首候補から、「毅然(きぜん)として」「不退転の決意で」「大局的、冷静な判断で」などの表現も一斉に飛び出した。が、中国の嫌がらせは続いている。それに、韓国も親日的だった台湾までもが悪乗りしている。口先だけの大言壮語は何もできない遁辞(とんじ)である。

外務省には、チャイナ・スクールと称される「親中派」が今も活躍しているのか分からないが、これら外交官にも気の毒な面はある。力の裏付けのない外交は、 非常時には機能しにくい。力とは、経済、政治、軍事、文化、技術、インテリジェンスを含めた情報など総合的国力プラス政治家のリーダーシップだ。日本の自 衛隊の士気は一流だが、地位や体制は、他国に比べて異常に不利なように、戦後の日本は仕向けてしまった。

≪日本は「愛国有罪」の体たらく≫

私は、中国と徒(いたずら)に対立を煽(あお)り立てる論調には与(くみ)さないが、日本大使館や大使、国旗などへの侮辱、日系企業の破壊、略奪を目にし て、日本の国家全体を立て直さないと危ういと痛感した。中国という国は国際秩序に責任を持つ国なのか。それに対応するには、彼我の相違を見極める必要があ る。

先方は一党独裁体制下、ナショナリズムを教育し、必要な時にそれを意のままに煽り立てる。中国には存在しない言葉「地球国家」を口 にする「市民運動」の指導者が責任ある座を占める日本には、そんな芸当などできもしない。中国では、法治は通用せず、反日であれば、何をしても「愛国無 罪」で大目に見られる。片や、国家不在の日本では愛国者は白い目で見られてきた。「愛国有罪」だ。

戦前の日本が標語にした「富国強兵」 は今、中国が仮借なく進めている国策である。日本は対照的に「軽武装・経済大国」を目指してきた。自衛隊発足後に「富国他兵」だと茶化(ちゃか)す向きも あったが、その通りで、日米同盟がなかったら、どうするつもりか。国内で大衆迎合にかまけているときか。

国際環境の変化は日本を変えてきた。隋・唐の対外圧力が大化改新を生み、元寇(蒙古襲来)は鎌倉幕府を衰退させ、建武中興を促した。ペリーの来航で、日本は覚醒して明治維新を成し遂げた。

朝鮮半島の内紛を契機に日清戦争は起こり、次いでロシアの半島への影響力を拒否するために日露戦争は発生した。日露戦争後の処理は中国との対立激化の要因 となり、旧満州の市場争いと人種問題が遠因で日本は米国を次第に敵に回していく。そして敗戦だ。現憲法下の日本はその結果であり、長い歴史の産物である。 ロシア、朝鮮半島、中国から加えられてきた圧力は熾烈(しれつ)の度を増している。

≪防衛費増大と新憲法論議を≫

国 際情勢の流れは中国に不利に展開していると思う。パネッタ米国防長官は9月19日、北京での記者会見で、米国は中国を狙った「封じ込め」あるいは「包囲」 を策しているのかとの質問に対し、そうではなく、太平洋への軍事力の「再均衡だ」と答えた。冷戦と異なり、経済の相互依存性を強めている今は、封じ込めな どはできないが、米軍事力は太平洋に集中させつつあるとの意味だろう。

私が特に重視するのは、それを補うように、キャンベル米国務次官 補が9月20日の上院外交委員会での冒頭声明で、日本、韓国、豪州、タイ、フィリピン5カ国との同盟関係強化とシンガポール、インド、インドネシア、 ニュージーランド、マレーシア、ベトナムの6カ国との友好関係増大に加えて、「台湾との非公式関係強化措置を取りつつある」と明言したことだ。慎重発言に 努める米当局者が台湾重視を唱えたのである。

日本は何をすべきか。安倍新総裁に期待するのは、国際環境を無視して10年間、減らし続け た防衛費をとりあえず大幅に増やし、新しい憲法制定の議論を巻き起こす-の2点である。関係諸国に与える政治的含意を考えて、戦後蝉脱(せんだつ)の歴史 的使命を担ってほしい。(たくぼ ただえ)

 尖閣問題に対するアメリカ議会の反応の報告を続けます。

 

 日本ビジネスプレスの「国際激流と日本」からです。

 

 原文へのリンクは以下です。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36177 

国際激流と日本

米国は日本を支持する、
しかしまずは自力での反撃を望む

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  ジェラルド・コナリー議員(民主党)からもさらに明確に日本の防衛力増強への要請が表明された。

 

 「中国の軍事的膨張に対しては直接に影響を受ける諸国の責任を強調したいです。東シナ海での中国の軍事的な動きに対して、日本はきちんと対応する 構えがあるのか。日本の主権が侵されたと判断したときに、どこまで自主的に対応する意図があるのか。そういう点を問いたいです」

日本はまず自力で反撃しなければならない

 こうした発言はみな尖閣諸島への中国の軍事的な動きがあったときには日本がまず対応すべきだし、そのために日本はいままでよりも防衛力の強化、防衛費の増額に努めるべきだ、という米側の期待の表明だと言える。

 

 証人として発言したトシ・ヨシハラ米海軍大学教授も次のように述べていた。

 

 「尖閣防衛の主責任は当然、日本にあります。万が一の中国の尖閣攻撃には日本が最初に自力で対処して、反撃しなければ、日米共同防衛も機能しないでしょう」

 

 尖閣諸島を巡る日中両国の対立については米国側ではこのように議員も専門家も、軍事シナリオまで想定しているのである。

 

 最悪の事態の軍事衝突を想定して、その対処への能力の強化を語るのは、軍事の強固な備えがあれば、軍事攻撃が防げるという抑止の思考からだろう。しかし、肝心の日本側よりも尖閣情勢を深刻に、より切迫した危機として見ているのだと言えよう。

 

 その危機が現実となれば、米国は同盟国としての日本を軍事支援するが、同時に日本自身の防衛強化や防衛費増額も欠かせない、と見ているというのが総括だろう。

(終わり)

 アメリカ議会の尖閣問題への意見表明の紹介を続けます。

 

 中国が尖閣諸島を軍事攻撃すれば、アメリカは日本を支援する。

 しかし日本も独自に防衛措置をとってほしい。

 

 こんな総括です。

 

 しかし中国の覇権拡大的な行動への批判も強く述べられました。

 

 日本ビジネスプレスの「国際激流と日本」」からです。

 

 原文へのリンクは以下です。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36177 

国際激流と日本

米国は日本を支持する、
しかしまずは自力での反撃を望む

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 中国の反日の部分にも鋭い批判がぶつけられた。中国政府の人権弾圧を長年、糾弾してきた共和党のクリス・スミス議員の発言だった。

 

 「中国の独裁政権は反日をあおるために、インターネットの検索でも『拷問』というと、戦時の日本軍の残虐行動の事例だけが山のように出るように検 閲・操作をしています。古い出来事を昨日のことのように提示し、自分たちの現在の拷問はすべて隠す。日本はこうした動きに真剣な懸念を抱くべきです」

 

 スミス議員は中国共産党政権が日ごろから自国民に対し日本への憎しみや怒りを抱くことを扇動していると言うのだった。

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 (クリス・スミス議員)

日本に防衛力増強を要請

 この公聴会では米国側はこの種の領有権紛争には超党派で平和的な解決を求めながらも、尖閣を含む中国がらみの海洋紛争に対し、すでに軍事課題に近い位置づけをしていることが明白だった。

 

 ロスレイティネン委員長が冒頭発言で「軍事衝突の可能性」という表現を使っていたのがその一例だった。だから南シナ海、東シナ海での米軍の戦力強化の必要性もしきりに論じられた。その過程では日本の名もはっきりと挙げられた。

 

 ロバート・ターナー議員(共和党)は次のように述べた。

 

 「アジアのこうした情勢下では米海軍のプレゼンスが縮小するようなことがあってはなりません。海軍の予算は決して削減されるべきではない。そのためには日本や韓国の海軍力強化への協力が重要です。両国はいまよりももっと貢献ができるはずです」

 

 ブラッド・シャーマン議員(民主党)も続いて述べた。

 

 「ターナー議員の意見に賛成です。その海軍力強化のための同盟諸国との負担の分担が重要なのです。東西冷戦でソ連と対決したときはアジアの同盟諸 国はそれをこなしてくれました。いまや中国の膨張政策に懸念を抱く日本のような諸国はその中国の軍事パワーを抑止するために海軍力の増強が必要であり、そ の目的には防衛費のGDP比を増すことを求めたいです」

(つづく)

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 こんな話を記事にしました。

 

【外信コラム】ポトマック通信 大外刈りの猛者
2012年09月26日 産経新聞 東京朝刊 国際面

 私の通う「ジョージタウン大学・ワシントン柔道クラブ」では数少ない日本人メンバーだった高橋晋也氏が、米国人たちの仲間に惜しまれて去っていった。三 菱重工の社員でワシントン地区の系列企業に出向していた高橋氏は2年ほど前に外交官の前田雄大氏に連れられて入門してきた。

ただし高橋氏はすでに当クラブの常連だった前田氏が黒帯だったのに、まったくの初心者だった。成人の日本人が外国で柔道を初めて習うのは珍しく、当クラブでは10年ほど前にその後に仙台市長となる梅原克彦氏がいたくらいだった。

高橋氏はこの2年、毎週1、2回、練習に通い、実に熱心に柔道に励み、そしてめきめき強くなった。まだ20代の後半で身長185センチ、東大野球部の投手 だったという体力も大きかった。技の方は当クラブの師範の宮崎剛八段が熱心に教えた大外刈りが専門という豪快な柔道だった。

午後9時半の練習終了後に「会社にもどって仕事だ」などと、よく語っていた高橋氏は日本への転勤で去る。送別会は米国人の男女に囲まれ、ピザと飲み物だけとはいえ、盛大だった。

「ここの柔道は明るく楽しく、本当にいつもさわやかでした。普通なら会えない外国の種々の職業人との交流も有益でした」

高橋氏はそんな別れの言葉を述べるのだった。(古森義久)

 自国の領土を外国が奪おうとすれば、それに反対することは、どの国家にとっても、国民にとっても、ごく普通のことですね(日本の場合、朝日新聞の若宮啓文主筆がその「普通」の範囲に入るかどうかは別として)

 

 しかしいまの日本の状況は自国領土の保全を正面から説く安倍晋三氏が自民党総裁に選ばれたことも、「普通」の反応が広範であることを物語るように思われます。

 

 一方、いまの日本の状況はこれまでの他国との衝突はとにかく避け、自己主張もしないという無気力日本とは異なるようです。この変化は正常化です。

 

 でも右傾だなんて、呼ぶ向きもあります。この基準だと、世界のすべての国はすべて右傾化してしまったことになります。

 

 このへんの日本に対するアメリカのメディアの報道ぶりを記事にまとめました。

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【ワシントン=古森義久】 

米国の各メディアが日中両国の尖閣諸島をめぐる対立での日本側の対応の分析を頻繁に報じるようになった。

 

 中国への強固な態度を集団的自衛権の解禁や憲法改正への動きと結びつけ、「右傾化」と単純に決めつける向きが一部にある一方、日本がついに他の国家並みになってきたとする見方が多い点で今回の日本の変化の米側の解釈は客観的になったともいえそうだ。

 

 尖閣問題を機とする日本の変化についてはまずワシントン・ポスト21日付の「日本が右寄りのシフト」という見出しの東京発の長文の記事が目立った。同記事は「(日本が)中国のために外交、軍事のスタンスが強硬にも」という副見出しのとおり、野田首相をタカ派と呼び、中国への強い態度を「右寄り」と評しながらも、「日本はこれまで世界一の消極平和主義の国だったのがやっと(他国並みの)中道の地点へと向かうようになったのだ」との見解を強調していた。

 

 同記事は日本の憲法や集団的自衛権の禁止が世界でも異端であることを説明し、「これまではとにかく中国との対決や摩擦を避ける一方だったが、日本国民はその方法ではうまくいかないことがわかったのだ」とも述べていた。

 

 ワシントン・ポストは22日付にも「アジアの好戦的愛国主義者たち=中国と日本の政治家はナショナリズムに迎合する」という見出しの一見、日本の動きにも批判的にみえる論文を載せた。だが内容はほとんどが中国政治指導層への非難で、「日本の政治家も中国の暴徒扇動には温和な対応をみせたが、なお政治的な計算は忘れなかった」と述べる程度だった。

 

 AP通信は24日の東京発の「日本の次期政権ではナショナリズムが高まり、中国との緊迫が強まる」という見出しの記事で自民党の総裁候補の安倍晋三氏や石破茂氏が対中姿勢を強くしていることをやや批判的に伝え、日中関係がさらに悪化する見通しを強調した。

しかしこの記事は同時に「日本国民全体がとくに民族主義的になっているわけではない」と付記していた。

 

 ニューヨーク・タイムズは23日付で「中日両国のナショナリストたちがこの領土紛争を利用している」という見出しで尖閣問題を報じた。しかし内容では中国側が官民で民族主義を高め、日本糾弾を強めているのに対し、日本側は「第二次大戦以来の平和主義傾向のためなお対決を避ける様子だったが、中国側の激しい野望がそれを変えてしまった」と伝え、日本の対中姿勢も自衛上、やむをえないという基調をにじませた。

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