2013年04月

 北朝鮮の軍事挑発の言動はなお続いています。

 

 アメリカのケリー国務長官はアジア訪問で、ややソフトな姿勢をみせました。

 北朝鮮の軍事攻撃の恫喝におびえたような気配も感じさせます。

 

 さてアメリカはこの情勢をどうみるのか。

 

 アメリカといっても当然ながら一枚岩ではありません。

 その一部の反応を報告します。

 

 日本ビジネスプレス「国際激流と日本」からです。

 

 原文へのリンクは以下です。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37603

国際激流と日本

北朝鮮が真っ先に日本を攻撃する理由

最悪事態を想定した危機管理を急げ

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   北朝鮮が今後、実際にどのような軍事行動を取るのか。米国ではいま官民挙げてこの予測を大展開している。

 

 北朝鮮がその警告通りに米国あるいは韓国、そして日本にまで、核弾頭搭載のミサイルを撃ち込むのか。それとも好戦性に満ちた攻撃の威嚇は単なる言 葉だけの脅しなのか。あるいは実際の軍事行動を伴うのか。第2次朝鮮戦争が果たして始まるのか。米国の政府や議会、そして軍の研究機関から民間の研究所、 マスコミまで、それぞれに分析や予測を進め、公表するようになった。

 

 米国の専門家たちのその種の予測の中で特に関心を引かれたのは「次の朝鮮戦争は北朝鮮による日本攻撃で始まる」という大胆な見通しだった。

 

 その理由は日本が北朝鮮からの攻撃に対してあまりに無力であり、反撃などという軍事行動がまず考えられないからなのだという。この点の指摘は、ま さに戦後の「平和・日本」が、自国への軍事攻撃はもちろんのこと軍事的な反撃など夢にも考えずに国づくりを進めてきたという特徴を突いていた。だからいま の北朝鮮危機は、日本にとって戦後最大の国家安全保障の曲がり角を画すことにもなるのだろう。

ミサイルを撃ち込まれた日本はどう対応するのか

 ワシントンの民間の国際安全保障研究機関「外交政策イニシアティブ」は4月10日付で「北朝鮮に関する米国と日本のウォーゲームからの教訓」と題する報告を公表した。作成の責任者は同研究機関の所長クリストファー・グリフィン氏だった。同氏は日本を含むアジアの安全保障問題の専門家で、ジョセフ・リーバーマン上院議員(無所属)の立法補佐官や大手研究所のAEIの安全保障専門の研究員などを歴任した。

 

 報告はこのグリフィン氏が最近行った「ウォーゲーム」(模擬戦争演習)から得た考察や教訓が主体だった。

 

 その前提となるシナリオは「北朝鮮が米国や韓国に戦いを挑むのだが、その有効な手段としてまず日本に攻撃をかける」という見通しだった。具体的に は、北朝鮮が日本国内の特定の無人地域を狙って弾道ミサイルを撃ち込む。死傷者は出さないものの、その標的の地域には命中し、次は人口密集の日本の都市に 同様のミサイルを撃ち込むと脅す、との想定だったという。

 

 北朝鮮はこの日本への本格攻撃の脅しにより米国や韓国に核兵器保持を認めさせ、経済制裁解除、外交承認、経済支援など一連の要求に基づく交渉を迫る、というのだ。

 

 ちなみにウォーゲームというのは、一定の危機を設定し、関係筋がそれにどう対応するかを探るシミュレーション(模擬演習)である。アメリカでは軍関係を主体に頻繁に実施される政策、戦略の演習なのだ。危機管理のシミュレーションだと考えれば、分かりやすい。

 

 私もマサチューセッツ工科大学(MIT)の日本研究所が主催したアジア危機管理のシミュレーションに数回、加わったことがある。例えば「北朝鮮の 金政権が崩壊した」というようなシナリオを設定し、その危機に対し、米国、韓国、日本、さらには中国などが具体的にどう対応するかを見るのである。

(つづく)

 

  こんな記事を書きました。

 

【朝刊 国際】


【緯度経度】ワシントン・古森義久 今こそ日本版NSC

 

 北朝鮮のミサイル発射威嚇や中国の尖閣領海侵入など日本国に矢継ぎ早の危機が襲ってきた。日本の国家や国民を守るための国家安全保障のきちんとした機能 が今ほど強く求められることもまずない。

 

 その機能のカナメとして期待されるのが国家安全保障会議の設置だろう。安倍政権はすでにその設置を決め、準備を進 めているが、このままでは危機管理の一元的な対応機構ができる前に大きな危機も起きかねない。

 

 この種の機関が存在しないことがそもそも戦後の日本のゆがみの象徴だった。防衛、軍事、危機管理、諜報、守秘など普通の主権国家の安全を保つ支柱も日本だけにはあってはならないとする病んだ自縄自縛の結果だといえよう。

 

 米国の国家安全保障会議(NSC)でアジア上級部長を務め、日本の安全保障にも詳しいマイケル・グリーン・ジョージタウン大准教授は「日本では国家危機 への対応の機能が首相に集中されず、戦略の明確化や管理の敏速性に欠けるため、一刻も早い国家安全保障会議の創設が不可欠だ」と警告する。

 

 米国の国家安全保障会議は1947年に創設された。政府と軍の全組織が大統領の直轄の下、国家安全保障と外交政策の主要課題に取り組むNSCは東西冷戦中の1962年のキューバ・ミサイル危機でもジョン・F・ケネディ大統領がフルに活用したことで知られる。

 

 ブッシュ前政権のNSCに2001年から5年ほど勤務したグリーン氏は日本側に安全保障の切迫案件への対処権限を首相の下に集中する日本版NSCがもし存在したら、ずっと効率よく対応できただろうという実例を3つほどあげた。

 

 第1は野田政権下の昨年9月の「原発ゼロ声明」だという。国家安全保障の案件なのにそれに応じた討議なしに公表され、後に閣議決定見送りという奇妙な事態となったケースである。

 

 第2は菅政権下の10年9月の尖閣侵犯の中国漁船船長の処遇だという。日本の法律を破った同船長の身柄も混乱のうえ、逆転決定で唐突に釈放となった。NSCがあれば、もっと一貫した扱いになったというのだ。

 

 第3は同じ菅政権下の11年3月の東日本大震災への対応だという。福島の原発の事故をはじめ、国家安全保障という総合的な観点から対策をとれば、被害や混乱はずっと少なくなっただろうというのだ。

 

 グリーン氏は日本の国家安全保障政策が日本版NSCの創設により構造的、組織的に改善されるだろうとして次の点をも指摘した。

 

 「日本の戦後の国家安全保 障では伝統的に財務官僚と警察官僚とが適切な比率以上の役割を果たしてきた。防衛政策の形成や実行に財務、警察の両機構が防衛省や外務省を過度に抑えて対 外戦略をゆがめてきたといえる。この点がNSCの設置で是正されるべきだ」

 

 確かに従来のそうした傾向は否定できないだろう。

 

 グリーン氏はみずからの体験としてブラック・ジョークのような過去の考察をも語った。

 

 「01年4月以降の一定時期、日本にはNSCが事実上、存在したように感じた。当時の田中真紀子外相の言動があまりに奇妙なため米国側は安全保障案件は すべて外務省を外し、首相官邸に持ち込んだからだ。米側からすれば首相府に一元化されたNSC的機能があると感じたのだ」

 

いずれにせよ、日本版NSCの早い登場が求められるわけである。(ワシントン駐在客員特派員)

 

  尖閣諸島防衛についてのアメリカ側の専門家の意見の紹介です。

 

 いきつくところは日本の領土は日本が防衛する、ということでしょうか。

 

 それが円滑にできないのは憲法9条などの制約でしょう。

 

 自国の領土をきちんと守れないように当事国を縛ってしまう憲法とは一体なんなのでしょうか。

 

 日本ビジネスプレス「国際激流と日本」から、今回が最終部分です。

 

原文へのリンクは以下です。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37543

国際激流と日本

「米軍は尖閣を守るな」という本音

価値のない島のためになぜ中国軍と戦闘するのか?

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  だが一個人の提案とはいえ、米海軍の第一線で長年、活動し、国防総省の中枢でもアジア戦略に関わってきた専門家の言である。米国内部に潜在する一定の意見の反映だと言えよう。

日本の本土が攻撃された場合だけ中国軍と戦闘

 同氏の証言はさらに続いた。

 

 「米国が尖閣防衛で日本にその主導を求めることは、米国の同盟相手としての信頼性を傷つけ、中国へのその対応政策への信用をも落とすことになる か。それはあり得るでしょう。しかし現実には中国の影に生きる諸国にとって、中国の『朝貢国』になりたくない限りは米国に頼る以外に現実的な手段はないの です。だから米国は同盟諸国に対し、米国の人命と資産を中国との直接の戦闘で犠牲にすることは中国の露骨な侵略行為への反撃にのみ限られる、ということを 強調する必要があります。日本の場合、それは日本本土への侵略行動に対してです」

 

 さあ、この証言部分の最後の個所こそがマクデビット提案の核心なのだ。つまり尖閣諸島の防衛に関して、米国がいかに日本の同盟相手であっても、米 軍がいかに中国の尖閣攻撃への反撃を望んでいても、実際の中国軍との戦闘は、日本の本土が攻撃された場合のみに留まるべきだ、というのである。

 

 しかしマクデビット氏は以下のこともつけ加えた。

 

 「米中両軍の衝突は尖閣周辺の海域でも起こり得ます。中国軍が米軍の艦艇や航空機を誤射も含めて、なんらかの理由で撃ったような場合です。尖閣諸 島付近の限定された海域や空域の特殊条件下では、中国軍や日本の自衛隊の将兵が共に戦闘経験がないために、つい興奮して攻撃を始めてしまうという危険も否 定できません。ですから米軍はこの地域でのきちんとした交戦規定を改めて設けるべきでしょう」

 

 こうしたマクデビット氏の証言で最も重要なのは、前述の通り、米軍は中国軍が尖閣諸島を攻撃してきても、自動的に日本を支援して対中国の戦闘に入るべきではないという提言である。この提言はオバマ政権の公式の政策とは異なることも、前述の通りである。

 

 しかしそうした慎重論が米国側の専門家の一部から出たことは、日本側として重大に受け止めざるをえない。やはり尖閣諸島防衛はまず日本が自主的 に、ということなのだと言えよう。その認識をさらに強めていくと、自国の防衛にはまず自国が責任を持つ、という基本の課題にまで進んでしまう。

 

 日本の防衛のあり方は戦後の日本みずからの憲法9条などでの自縄自縛で大きく制限されてきた。米国依存がまず大前提となってきた。その米国依存が実はそう簡単にはいかないとなったとき、どうすればよいのか。

 

 だからこそいまの尖閣問題は実は日本の国家のあり方にまで基本の命題を突きつけているとも言えるのである。

(終わり)

 尖閣防衛に対するアメリカの立場の紹介です。

 

 アメリカの一部には「尖閣防衛は日本に任せよ」という意見があるわけです。

 その意見の持ち主たちにとっては安倍晋三首相の訪米の際の「日本が尖閣を防衛する」という言明は、まさに大歓迎ということになります。

 

 日本ビジネスプレス「国際激流と日本」からです。 

 

原文へのリンクは以下です。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37543

国際激流と日本

「米軍は尖閣を守るな」という本音

価値のない島のためになぜ中国軍と戦闘するのか?

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「米国は中国軍との直接の戦闘を避けるべし」

 マクデビット氏はさらに尖閣についての証言を続けた。

 

 「米国政府が尖閣諸島の日本の主権を認めることはまずないでしょう。日本側はもちろんその承認を望むわけですが。尖閣諸島は沖縄返還協定によりそ の施政権が日本側に返還されました。ただし、米国上院でのその協定の批准審議の際に、同協定が『紛争地域』の最終の主権決定には影響を与えないことが明記 されました」

 

 「米国は最終の主権に関する立場を明確にしない一方、尖閣諸島が日本の施政権下にある限り、日本領土として米国は日米安保条約により防衛の責務を 負うとの結論を出しました。この点の米国政府の立場に関するすべての曖昧性は、2010年10月に当時のヒラリー・クリントン国務長官が『尖閣諸島が日米 安保条約第5条の適用を受ける』と公式に言明したことで取り除かれました。つまり米国は尖閣諸島の防衛を巡る中国との紛争では日本支援の責務があるという ことです」

 

 「この米国の尖閣防衛の言明は日本に確約を与え、中国の衝動を抑止する重要な一歩であり、さらにアジアの他の米国の同盟国に対して、中国の圧力に 直面する友邦を見捨てないことを間接に示す保証となるでしょう。しかし米国にとっては、米中衝突の発火点を台湾のほかにもう1つ作ってしまったことになり ます」

 

 このへんまでのマクデビット氏の証言はすでに明白となったことの総括である。米国政府は尖閣有事での日本への防衛支援を誓った、ということである。だがそのことが米国にとって果たして賢明なのかどうか。同氏は懐疑や対案を述べていく。

 

 「この米側の誓約は米中間の軍事衝突につながるのか。そうなるかもしれません。しかし日本の安倍晋三首相が2月の訪米の際、質疑応答で日本が尖閣 を防衛すると言明しました。『私たちの意図は、米国にあれをしてほしい、これをしてほしいと頼むことはせず、まず自分たちで自国の領土を現在も将来も守る つもりだ』という意味の答えを述べたのです。

 

 私はこれこそホワイトハウスが明確にすべきメッセージだと思います。日本が尖閣防衛の主導を果たす。米国は有事には偵察、兵站、技術助言など基本 的に必要な後方支援を提供すればよい。米国はこの無人の島を巡って中国人民解放軍との直接の戦闘に入ることを避けるべきなのです。尖閣諸島はもともと住ん でいる住民もいない。戦略的な価値も少ない。本来、それほど価値のある島ではないのです」

 

 マクデビット氏の提案の核心は上記の部分である。尖閣諸島の防衛だけのために米国は中国と戦うな、と提言しているのだ。尖閣にはそれほどの価値がないというのである。この提案は明らかにクリントン国務長官の言明に背反する新政策案ということになる。

(つづく)                

尖閣諸島に対し中国はどう攻めてくるのか。

 

アメリカはどう対応するか。

 

アメリカ側でも、尖閣諸島の防衛はすべて日本に任せ、この問題で中国との全面戦争になるような道は避けようという意見があることを紹介します。

 

日本ビジネスプレス「国際激流と日本」からです。

 

原文へのリンクは以下です。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37543

国際激流と日本

「米軍は尖閣を守るな」という本音

価値のない島のためになぜ中国軍と戦闘するのか?

 

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  中国の海洋戦略への米国の関心はますます高くなった。中でも尖閣諸島の日本の領有に対する中国の挑戦に、米側の警戒が集中するようになった。日中両国の本格的な軍事衝突をもたらし得る危険な発火点として、米側の専門家たちの懸念の視線が尖閣諸島に絞られるのだ。

 

 だがそんな中で、元米国海軍のアジア戦略の権威が、中国が尖閣に軍事攻撃をかけてきても、米国は中国との戦闘に踏み切るべきではないという意見を 公式な場で述べて、注視を集めた。尖閣諸島は日米安保条約の対象範囲になると明言するオバマ政権の立場を大きく後退させる政策提言だった。尖閣の防衛はあ くまで日本が責任を持て、と言うのである。

いま東アジアで最も危険なのは尖閣諸島問題

 米国議会の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」は4月4日、「東シナ海と南シナ海での中国の海洋紛争」と題する公聴会を開いた。中国が東シナ海や南シナ海で領有権をいかに拡大し、主張の衝突する他国にいかに戦いを挑むか、というのが主題である。

 

 その中国の動向や戦略に対し、米国はどう対処すべきかが、当然、同時に論題となる。そのためには米国の官民の専門家たちが証人として登場し、見解を述べていた。

 

 その証人の1人がマイケル・マクデビット氏だった。同氏はワシントンの戦略研究シンクタンクの「海軍分析センター」の上級研究員という立場であ る。ワシントンのアジアや中国の戦略研究の分野では広く知られた専門家であり、米国海軍出身で海軍少将まで務めた。三十余年の現役軍人としてはほとんどの 年月をアジア関連で過ごし、駆逐艦や航空母艦の艦長から太平洋統合軍の戦略部長、国防長官直属の東アジア政策部長などをも歴任した。

 

 そのマクデビット氏に対し、委員会側から次のような質問が提起されていた。

 「東シナ海と南シナ海の安全保障情勢のうち、軍事の紛争や有事へと発展しかねない最も爆発しやすい要素はなんでしょうか。その種のシナリオに対し米国はどんな役割を果たすべきでしょうか」

 

 この質問に対しマクデビット氏は次のように証言した。

 

 「爆発性という点では、台湾が明らかに中国人民解放軍と米軍との有事シナリオの中心でしょう。台湾有事への米軍の介入への中国側の懸念が、『不干 渉』能力の増強をもたらしました。米軍はそれを『接近拒否』と呼び、対抗策として『空海戦闘』という軍事戦略を作り始めたわけです。しかし台湾海峡の安全 保障情勢はいま静かであり、台湾の馬英九総統の任期が終わる2016年まではそのままの状況が続くでしょう。となると、現状では尖閣諸島を巡る情勢が最も 大きな懸念の原因となります」

 

 証言のこの部分は注目すべきである。東アジア全域で最も危険なのは台湾情勢だったのだが、いまでは尖閣諸島がそれに取って代わったと言うからだ。

(つづく)

 

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