オバマ政権下のアメリカが世界のリーダーとして、もう頼れないという懸念が広がっています。日米同盟などの対外防衛誓約ももしかすると、もう依存はできないという心配も生まれています。
そんなアメリカに国の安全保障を全面的に頼るわが日本はどうすればよいのか。
田久保忠衛氏が鋭い一文を書いています。
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≪米国は頼れる世界の警察か≫
ハロラン氏は、米軍は今の第2列島線まで手を 引き、機動戦略戦力としては依然、にらみをきかせながら、その空白は、韓国から豪州までの中国を除く太平洋・アジア諸国が参加する「太平洋アジア条約機構 (PATO)」の結成で埋めよ、と説いた。撤兵の具体的スケジュールも挙げたから、米政府内部には、そのようなシナリオがあるのではないかとの臆測を関係 各国に生み、米国務省はわざわざ「米政府とは無関係」とのコメントを出したほどだ。
日本が一国平和主義の殻に閉じこもっていたことに対 して、ハロラン氏は苛立(いらだ)っていたのだろう。「四半世紀の間、米国が与えてきた安全保障のための盾を当然視することをやめ、アジアの主要国として ふさわしい負担を引き受けなければならない」と述べ、日本は「PATO」で指導的役割を果たすべきだ、と切言した。
論文が今も現実離れ しているのは言うまでもないが、シリア問題の不始末を弁解するために行ったとしか思えない9月10日のテレビ演説で、オバマ大統領が「米国は世界の警察官 になるべきではない」と2度も繰り返したのを見ると、米国は果たして頼りになるかとの懸念が脳裏をかすめ、ハロラン論文を思い出してしまう。
同盟国の米国は一体どうしたのか。シリア化学兵器全廃を主張したロシアが一躍、外交の主導権を握り、内戦で一般市民10万人余が犠牲になったシリアのアサ ド大統領は国連決議に従って誠実に化学兵器の処理に取り組んでいる政治家に一変し、主役だったオバマ大統領は端役に転落してしまった。
≪中国と渡り合った安倍首相≫
政争による政府の機能停止という特殊事情があったにせよ、オバマ氏が10月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議と東南アジア諸国連合 (ASEAN)関連首脳会議に顔を出さなかったのは、外交上の大失敗以外の何ものでもない。代わってこれ見よがしに存在感を誇示したのは中国の習近平国家 主席だった。
主席がインドネシアの国会演説でぶった「21世紀の海上シルクロード構想」は、9月に中央アジア・カザフスタンの首都アス タナで提唱した「シルクロード経済ベルト構想」と相まって、米国や日本に対抗し地域の経済、安保面の指導権を確立しようという野心がむき出しになってい る。
米国がアジアで影を薄める中で特筆すべきは安倍晋三外交だと思う。首相就任後、ASEAN諸国を積極的に訪問し、近くカンボジアと ラオスも訪れるようだが、ブルネイで開かれたASEAN加盟諸国と日米中など18カ国による東アジアサミットでは、中国と渡り合った。南シナ海の領有権問 題で中国が一貫して主張してきたのは2国間交渉であり、その魂胆が古ぼけた「分断統治」にあることは誰の目にも明らかだ。それに最も脅威を感じているのは ベトナムとフィリピンであろう。
安倍首相は「南シナ海をめぐる問題は地域国際社会全体の関心事であり、全ての関係国が国際法を順守し、 一方的な行動は慎むべきだ」との議論を展開した。全ての国々が中国と経済的に結びつつ、安全保障面では米国に依存する複雑な方程式の中で大胆な本音を口に 出せないASEAN諸国が、この日本の正論をどのように受け取ったかは明らかだろう。
≪日米豪印強化して対中改善≫
そうした中、にわかに脚光を浴びているのが、日米同様の太平洋国家、オーストラリアで9月に誕生したアボット政権だ。米国との同盟強化を唱え、日本との経 済、安全保障関係をとりわけ重視する。岸田文雄外相とビショップ外相ら、安倍首相とアボット首相との会談がインドネシアとブルネイで相次いで行われて、日 米豪3カ国の連携強化が話し合われた。ビショップ外相はその後、訪日して首相と会い、日本記者クラブでの会見では、日本の集団的自衛権に関する憲法解釈見 直しの作業に賛意を表した。安倍政権にとって、ありがたい助っ人が駆けつけてくれたことになる。
国際秩序は、冷戦の終焉(しゅうえん) を経て中国の台頭を迎え、米国を中心にこれにどう対応するかという難問を抱えている。2期目に入ったオバマ政権の外交的指導性に陰りが生じ始め、その米国 の弱点をアジア・太平洋地域で日本と豪州がいかに補っていくか、新しい局面がほの見えだしたと考えていいのではないか。中国との対立は決して好ましくはな いが、日本が米豪両国ならびにインドなどとの関係をさらに強化していく中で、中国との関係改善も考える時期が到来しているように思われる。(たくぼ ただ え)