2013年12月

東アジア海域での米中海軍力比較についてです。

 

アメリカ側の空母がいま実戦配備には就いていないというのです。

 

日本ビジネスプレス「国際激流と日本」からです。

 

原文へのリンクは以下です。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39528

国際激流と日本

もはや目の前? 中国海軍が米海軍と肩を並べる日局地戦ではすでに優位な状況も

東アジア海域での米中海軍力の比較について

                                                                 ===========

 

・東アジア海域に配備された唯一の航空母艦「ジョージ・ワシントン」は現在、港に待機中で実際の任務には就いていない。米海軍太平洋艦隊全体では合 計4つの空母主体の機動部隊があるが、いずれも東アジア以外の海域に配備されていることが多い。しかも「ジョージ・ワシントン」はフィリピンでの台風災害 救援任務に就いてきたため、完全な臨戦態勢にはない。

 

・東アジア海域全体では以上のように米海軍の戦力は中国海軍に対して確実に優位にあるが、数の比較や限定された海域では劣勢となることもありうる。 中国海軍はこうした全体図の揺れを反映したかのように、米海軍に対して大胆に行動するようになった。「カウペンス」に対する妨害行動はその実例だ。

 

・しかしこの状況の変化に対して米海軍も危機感を覚え、南シナ海、東シナ海で潜水艦戦力を強化している。特に新鋭の攻撃型潜水艦や、パールハーバー、サンディエゴを母港とする戦略弾道ミサイル搭載の大型原潜を中国、台湾の近海に向かわせ、活動を強めている。

 

 以上が「リグネット」報告の枢要部分である。

 

 要約するならば、この報告は東アジア海域では米軍がなお全体としての優位を確保していることを強調しながらも、その優位を揺るがしかねない中国側の積極果敢な動きを特記していると言える。

 

 日本としてはその同盟相手の米国との連携を強め、増強する中国の海軍力への抑止措置を取ることが国家安全保障上の賢明な針路であろう。

(終わり)

安倍首相の靖国神社参拝へのオバマ政権の対応に関連して、以下のようなコラム記事を書きました。12月29日の産経新聞朝刊です。

 

【朝刊 1面】


【あめりかノート】ワシントン駐在客員特派員・古森義久


 

 ■靖国参拝 オバマ政権の偽善

 

 米国のオバマ政権は安倍晋三首相の靖国神社参拝に対し「失望」を表明した。その背後には靖国に祭られた霊の中に米国を敵として戦い、戦後に戦犯と断じられた人たちがいるからという理由づけもあることは明白である。

 

 だが米国の首都のワシントン国立大聖堂にもアメリカ合衆国を敵として戦い、戦後に戦犯扱いされた将軍たちが祭られている事実が新たな注視を集めたことは皮肉だといえる。オバマ政権の、自国と日本に適用する価値基準が明らかに背反しているからだ。

 

 首都中心部にそびえる大聖堂はキリスト教のあらゆる宗派の礼拝や追悼の国家的な場となってきた。多数の大統領の国葬や歴史上の人物の式典が催され、無数の米国民が参拝してきた。

 

 大聖堂のネーブ(身廊)と呼ばれる中央の礼拝堂の祭壇わきには南北戦争でアメリカ合衆国に反旗を翻し、奴隷制を守るために戦った南部連合軍の最高司令官 のロバート・E・リーとその右腕のストーンウォール・ジャクソンという2人の将軍の霊をたたえる碑文と生前の活動を描く多色のステンドグラスが存在する。 その慰霊表示は礼拝堂の壁面全体でも、よく目立つ巨大な一角を占めてきた。

 

 その事実が話題になることはこれまで少なかったが、12月11日、大聖堂で南アフリカの大統領だったネルソン・マンデラ氏の追悼式が催されたのを機に議論を生んだ。

 

 ワシントン・ポストの首都圏コラムニストのジョン・ケリー氏が「なぜリーとジャクソンが大聖堂で栄誉を受けるのか」と題する記事で疑問を提起したのだ。 「人種平等のために戦ったマンデラ氏を悼む場に人種平等阻止のため戦った2人が堂々と祭られていることに驚いた」との指摘だった。

 

 バージニア州のランドルフメーコン大学のエビー・テロノ歴史学教授も「首都の大聖堂にこの首都自体を破壊しようとした将軍たちの慰霊表示があることは矛盾」との見解を述べた。

 

 だが両将軍の大聖堂への祭祀(さいし)は1953年と歴史は古い。南部連合の子孫の女性団体が20年がかりで訴え、実現させた。その結果はリー将軍らの「高貴な信念の豪胆なキリスト教戦士」という碑文での聖人化であり、戦場での勇猛な活躍ぶりのガラス画化だった。

 

 こうした疑問に対し大聖堂の広報官は「南軍将軍の慰霊表示も米国の歴史のキリスト教の視点からの紹介であり、歴史にはよい部分も悪い部分もある」として公式の反対はないと言明した。死者の霊は生前の行動によって責められることはないとの見解だった。

 

 だからこそこの大聖堂にオバマ大統領も閣僚たちも頻繁に参拝するのだろう。だが、その政権は靖国に対しては問われる前に日本の首相の参拝への「失望」を 喧伝(けんでん)するのだ。ブッシュ前政権が当時の小泉純一郎首相の靖国参拝を認め、むしろ中国の圧力に屈するなという意向を示したのとは対照的である。

 

 日本の首相は頻繁に靖国を参拝すべきだというジョージタウン大学のケビン・ドーク教授は「オバマ政権の靖国への態度は大聖堂の現実からみると明らかに偽善的だ」と論評するのだった。

 

安倍首相の靖国参拝について産経新聞の本日の「主張」(社説)を紹介しておきましょう。

 

                               ========

 

【主張】首相靖国参拝 国民との約束果たした 平和の維持に必要な行為だ

 

 安倍晋三首相が靖国神社に参拝した。多くの国民がこの日を待ち望んでいた。首相が国民を代表し国のために戦死した人の霊に哀悼の意をささげることは、国家の指導者としての責務である。安倍氏がその責務を果たしたことは当然とはいえ、率直に評価したい。

 ≪慰霊は指導者の責務≫

 参拝後、首相は「政権が発足して1年の安倍政権の歩みを報告し、二度と戦争の惨禍によって人々が苦しむことのない時代をつくるとの誓い、決意をお伝えするためにこの日を選んだ」と述べた。時宜にかなった判断である。

 安倍氏は昨年の自民党総裁選や衆院選などで、第1次安倍政権で靖国神社に参拝できなかったことを「痛恨の極みだ」と繰り返し語っていた。遺族をはじめ国民との約束を果たしたといえる。

 靖国神社には、幕末以降の戦死者ら246万余柱の霊がまつられている。国や故郷、家族を守るために尊い命を犠牲にした人たちだ。首相がその靖国神社に参拝することは、国を守る観点からも必要不可欠な行為である。

 中国は軍事力を背景に、日本領土である尖閣諸島周辺での領海侵犯に加え、尖閣上空を含む空域に一方的な防空識別圏を設定した。北朝鮮の核、ミサイルの脅威も増している。

 今後、国土・国民の防衛や海外の国連平和維持活動(PKO)などを考えると、指導者の責務を果たす首相の参拝は自衛官にとっても強い心の支えになるはずだ。

 安倍首相が靖国神社の本殿以外に鎮霊社を参拝したことも意義深い行為だ。鎮霊社には、広島、長崎の原爆や東京大空襲などで死んだ軍人・軍属以外の一般国民の戦没者や、外国の戦没者らの霊もまつられている。

 これからの日本が一国だけの平和ではなく、世界の平和にも積極的に貢献していきたいという首相の思いがうかがえた。

 安倍首相の靖国参拝に対し、中国外務省は「強烈な抗議と厳しい非難」を表明した。韓国政府も「嘆かわしく怒りを禁じ得ない」との声明を発表した。

 いわれなき非難だ。中韓は内政干渉を慎み、首相の靖国参拝を外交カードに使うべきではない。

 在日米大使館も「近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに米国政府は失望している」と、日本と中韓両国との関係を懸念した。

 繰り返すまでもないが、戦死者の霊が靖国神社や地方の護国神社にまつられ、その霊に祈りをささげるのは、日本の伝統文化であり、心のあり方である。

 安倍首相は過去に靖国参拝した吉田茂、大平正芳、中曽根康弘、小泉純一郎ら各首相の名前を挙げ、「すべての靖国に参拝した首相は中国、韓国との友好関係を築いていきたいと願っていた。そのことも含めて説明する機会があればありがたい」と話した。

 両国は、これを機に首脳同士の対話へ窓を開くべきだ。

 以前は、靖国神社の春秋の例大祭や8月15日の終戦の日に、首相が閣僚を率いて靖国参拝することは普通の光景だった。

 ≪日本文化に干渉するな≫

 中国が干渉するようになったのは、中曽根首相が公式参拝した昭和60年8月15日以降だ。中曽根氏は翌年から参拝をとりやめ、その後の多くの首相が中韓への過度の配慮から靖国参拝を見送る中、小泉首相は平成13年から18年まで、年1回の靖国参拝を続けた。

 安倍首相は来年以降も参拝を続け、「普通の光景」を、一日も早く取り戻してほしい。

 また、安全保障や教育再生、歴史認識などの問題でも、自信をもって着実に安倍カラーを打ち出していくことを求めたい。

 第2次安倍政権は発足後1年間で、国家安全保障会議(日本版NSC)創設関連法や特定秘密保護法など、国の安全保障のための重要な法律を成立させた。

 しかし、集団的自衛権の行使容認などの懸案は先送りされた。憲法改正の発議要件を緩和する96条改正についても、反対論により「慎重にやっていかないといけない」と後退してしまった。

 これらは首相が掲げる「戦後レジーム」見直しの核心であり、日本が「自立した強い国家」となるための基本である。首相自身が正面から、懸案解決の重要性を国民に説明し、決断することが宿題を片付けることにつながる。

 

 

安倍首相がついに靖国神社を参拝しました。

 

快挙として歓迎したいと思います。

 

当然ながら多様な反響が起きています。

 

なかでも気になるのはアメリカの反応でしょう。

 

オバマ政権は「失望」という対応が表明されています。

 

共和党側でも日米関係へのかかわりの深いリチャード・アーミテージ氏らも今回は安倍首相の参拝には否定的な反応をみせていました。

しかしその同じアーミテージ氏が7年前には以下のようなことを述べていたのです。

 

アメリカ側にも日本の立場に同調する向きは少なくないということです。

 

      ==========

 

【靖国参拝の考察】リチャード・アーミテージ氏
2006年07月20日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面

 ■対中外交 日米で防御戦略を

リチャード・アーミテージ前米国務副長官が産経新聞に語った日中関係や靖国問題に関する見解の詳細は次のとおり。

一、靖国問題は日中間の他の諸問題の症候だと思う。小泉首相の靖国参拝は日中関係を難しくした理由や原因ではない。ブッシュ大統領の「日中関係は単なる神 社への参拝よりずっと複雑だ」という言明のとおりだ。中国は靖国を日本への圧力に使っているため、日本がもしこれまでに靖国で譲歩をしたとしても、必ずま た別の難題を持ち出し、非難の口実にしただろう。現に小泉首相は前回の参拝は平服にして、公人ではなく私人であることを強調したが、中国側はその譲歩を全 く認めなかった。

一、歴史上、初めて北東アジアでは日本と中国の両国がほぼ同じパワーを有し、同じスペースを同時に占めるようになっ た。このため安保や領土など多くの問題が起きてきた。そのことが日中関係を難しい状態にするようになったのだ。それ以前の歴史では両国のいずれかが総合国 力で他方よりずっと優位にあったのだが、最近は対等な位置で競合するようになり、それが摩擦を引き起こしている。靖国問題はその症候なのだ。

一、米国社会では殺人者のような犯罪人までキリスト教などの教えに従い埋葬される。同様に日本でも祖先、とくに戦没者をどう追悼するかは日本自身が決める ことだ。その対象にはA級戦犯も含まれる。死者の価値判断は現世の人間には簡単には下せない。中国は日本の首相に靖国参拝中止の指示や要求をすべきではな い。米国政府も日本の首相に戦没者追悼の方法についてあれこれ求めるべきではない。見解や助言を伝え、協議することはできるだろう。だがとくに日中関係で いえば、民主的に選出された一国の政府の長である日本の首相が中国のような非民主的な国からの圧力に屈し、頭を下げるようなことは決してあってはならな い。

一、小泉首相には中国から靖国参拝を反対されている限り、その要求に従って参拝をやめるという選択はないだろう。中国は日本の現首 相、次期首相の参拝中止が表明されない限り、日本との首脳会談には応じないとして、自らを袋小路に追い込んでしまった。だが次期首相にその条件がそのまま 適用されるかどうか。安倍晋三氏はもし首相になっても靖国に参拝するかどうかはわからないままにしている。米国は日中関係に対しては決して中立者ではな い。日本は同盟国であり、中国はそうではないからだ。だから米国は靖国の論議の段階では中立を保つかもしれないが、日本が本当に小突き回されれば、日本を 支援する。

一、日本の首相の靖国参拝には問題がなくても、靖国境内にある遊就館の一部展示の説明文は米国人や中国人の感情を傷つける。 太平洋戦争の起源などについて日本の一般の歴史認識にも反する記述がある。日本が自国の戦争を記録するための軍事博物館を持つことは大切だが、そこにある 記述があまりに不適切なことは日本側でも再考されるべきだ。

一、日中関係の改善について日本側ではよくそのために日本が何をすべきかと いう問いかけが出るが、まず中国が何をすべきかということをもっと考えるべきだ。ダンスを踊るには2人の人間が必要なのだ。中国自身が長期の利害関係を考 えて、日本を含む隣人諸国ともっと仲よくしようと決めれば、靖国を含め、いろいろな手段がとれる。中国は日本への姿勢を今年3月ごろからいくらか柔軟に し、対決を避けるという方向へ動き始めたかにもみえる。日中外相会談の開催もその一つの兆しだ。

一、中国は民主化の方向へ動く気配もあ るが、なお基本的に一党独裁は変わらず、国内の矛盾や格差も激しくなる一方だ。秘密に包まれたままの軍事体制での軍拡もなお続いている。このまま軍事力を 中心とする国力を強めた末、覇権を求める野心的なパワーとなるのか、それとも既存の国際秩序の保持に加わるステークホルダー(利害保有者)となるのか、自 分たちもまだわからないのではないか。日米両国は同盟パートナーとして、そのどちらのケースにも備えるヘッジ(防御)戦略を協力して構築する必要がある。 (ワシントン 古森義久



【プロフィル】リチャード・アーミテージ

1967年、米海軍兵学校卒、海軍軍人としてベトナム勤務。73年に退役し、国防総省勤務、上院議員補佐官を経て83年にレーガン政権の国防次官補。2001年から04年末まで国務副長官。現在はコンサルタント企業「アーミテージ・アソシエイツ」代表。

 東アジア海域での米中海軍力の比較です。

 

米海軍の優位という長年の基本構図が揺らいできたというのです。

 

日本ビジネスプレス「国際激流と日本」からです。

 

 原文へのリンクは以下です。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39528

国際激流と日本

もはや目の前? 中国海軍が米海軍と肩を並べる日 局地戦ではすでに優位な状況も

 

                                    =======

・米国海軍のうち南シナ海、東シナ海などの東アジア海域を担当するのは第7艦隊で、「恒常的に前方配備」され、横須賀を基地とする。第7艦隊の主力 は空母「ジョージ・ワシントン」を中心とする機動攻撃部隊で、通常はタイコンデロガ級誘導ミサイル巡洋艦2隻とアーレイバーク級誘導ミサイル駆逐艦3隻が 加わる。同機動部隊は最近ではフィリピンの台風被害の救済にあたった。

 

・第7艦隊第70任務部隊は米海軍全体でも戦略的に最重要の水上部隊で、誘導ミサイル駆逐艦7隻、誘導ミサイル巡洋艦2隻、司令官艦1隻から成る。第7艦隊第76任務部隊と第77任務部隊は佐世保を基地として、水陸両用艦3隻と掃海艇2隻などを保有する。

 

・米海軍の潜水艦はロサンゼルス級の攻撃型原潜3隻がグアム島の基地を拠点として恒常的に活動している。ただしロサンゼルス級は米海軍の潜水艦全体でも極めて旧式となり、現在すでに新型のバージニア級攻撃型原潜に交代されつつある。

 

 以上のような第7艦隊の全体図だけを見れば、東アジア海域では米海軍がなお中国海軍を圧倒する能力を保持しているように見える。確かに戦闘能力の質となれば、どう見ても米国海軍がまだまだ数段、上だろう。

実戦配備状況では中国海軍が優位になることも

 ところが現実の東アジア海域での米中海軍戦力バランスとなると、そこに質だけではなく数の要因も大きく入ってくる。艦艇が実際に配備されているかどうかも大きな要因となる。

 

 そんな諸点を「リグネット」報告は以下のように強調していた。

 

・米軍の誘導ミサイル搭載の巡洋艦と駆逐艦は、中国海軍のどの水上艦艇よりも質では優位に立つが、東アジア海域に常時出動している水上戦闘艦は10 隻程度となっている。ちなみに米海軍全体では水上戦闘艦は冷戦時の1990年には合計570隻、ソ連崩壊後の2000年でも合計318隻だったが、現在で は合計の保有は283隻まで減った。しかもその283隻のうち現在、実戦配備中は全世界でわずか80隻となった。

(つづく)

 

↑このページのトップヘ