【朝刊 国際】
■【あめりかノート】ワシントン駐在客員特派員・古森義久
■慰安婦問題 国辱晴らすとき
朝日新聞の慰安婦問題での誤報の訂正と記事取り消しがついに米国側の関係者らに直接のインパクトを及ぼし始めた。
2007年7月の連邦議会下院での慰安 婦問題での日本糾弾決議を推した米側の活動家たちが同決議の作成は吉田清治証言にも朝日新聞報道にもまったく影響されなかった、という苦しい弁明を9月 25日に発表したのだ。
しかもこの弁明は同決議推進側が最大の標的としてきた「日本軍による組織的な女性の強制連行」への非難を後退させ、日本軍の慰安 所への「関与」や「運営」に焦点をシフトしてしまった。
この種のうろたえは日本側の国辱を晴らすための対外発信が効果を上げる展望を示すともいえそうだ。
ワシントンのアジア関連のニュース・評論サイト「ネルソン・リポート」に「毎日新聞記事への共同の対応」と題する声明が載った。
下院の慰安婦決議案の作 成にかかわったアジア関連の民主党系活動家ミンディ・カトラー氏ら4人の連名による、毎日新聞9月11日付の「朝日報道が国際社会に誤解を広める」という 趣旨の長文の検証記事への反論だった。
この記事は下院決議もその審議の最中に「議員説明用の資料にも途中段階で吉田清治氏の著書が出てくる」と記していた。
だが同声明はそれでも吉田証言には 頼らなかったと述べ、最大焦点の強制連行は「日本帝国が軍隊用の性的奴隷システムを組織し、運営したことを示す書類上と口述の証拠はインド・太平洋地域に 多数、存在する」として、直接の言及を避けていた。
この対応は同決議を主唱したマイク・ホンダ議員(民主党)らが当時、日本側の「罪」を「日本軍による強制連行」だけに絞りきっていたのとは、がらりと異なる。
「強制」を朝日新聞のように旗色が悪くなって「狭義」から「広義」へと議論をすり替えるというふうなのだ。
カトラー氏といえば、安倍晋三首相を「危険な右翼の軍国主義者」などと断じ続け、下院の決議案審議の公聴会にインドネシアの「スマラン慰安所事件」の被 害者女性を登場させた張本人だ。
この事件は日本軍の末端の将校が軍の方針に反して女性を強制連行し、2カ月後に上層部に判明して停止され、戦後は死刑に なった戦争犯罪だった。
「日本軍の組織的な強制連行」がなかったことを証する実例なのに正反対の目的に利用されたのだ。
なおカトラー氏周辺では「朝日新聞攻撃はジャーナリズムとは無縁の歴史糊塗(こと)を狙う右翼の策謀」(東洋経済新報社系英文サイトのピーター・エニス記者)という主張も盛んである。
しかし米国側の反応も一枚岩ではない。ブッシュ前政権の高官だった知日派の法律家がこんなことを述べた。
「日本政府の調査結果、吉田証言や朝日報道の虚偽、そしてインドネシアでの事件の意味を対外的に丁寧に説明していけば、『慰安婦の強制連行は日本の国家 犯罪』だとする国際的な日本へのぬれぎぬも晴らせるだろう。そのためには日本側の主張や記録を公正に理解する新たな国際第三者委員会の設置が望ましいかも しれない」
さあ、安倍政権、どうするか。