2015年05月

アメリカの学者たち100数十人が連名で声明を出しました。
主題は慰安婦問題です。
英語と日本語の両方で発表されました。

その内容を読んでびっくりしました。
慰安婦問題でこれまで日本を糾弾してきた具体的な非難をすべて引っ込めて
いたからです。全面撤退、いや白旗を掲げての降伏とも思えました。

おさらいをしましょう。
アレクシス・ダデン女史のような日本叩きのアメリカ人左翼反日学者たちは慰安婦
問題について以下の骨子を長年、主張してきました。

「日本軍は組織的に20万人の女性を強制連行して性奴隷にした」

ところが今回の声明には以下の特徴があります。

・「20万人の女性」という記述がまったくない。20万という人数が出てこない。
 人数はいろいろな説があり、わからない、人数は問題ではない、と書いています。

・「日本軍による強制連行」という記述が皆無である。日本軍は慰安婦に関与した。慰安所の
 経営に関与した。それ以上の関与の度合いはわからない。こんな記述なのです。

・慰安婦問題をゆがめるのは日本のナショナリストだけでなく、中国や韓国でのナショナリストの
 動きもけしから、としている。アメリカの学者が慰安婦問題でこれまで中国や韓国を非難したの
 はこれが初めてです。

・慰安婦についての事実関係はもはや問題ではない。問題は女性が苦しんだということなのだ。
 こう述べるのです。そうなると、世界中の売春婦たちについても同じことが言えますね。

 さて以下が今回、発表された声明の日本語訳です。

                      ===========
日本の歴史家を支持する声明

下記に署名した日本研究者は、日本の多くの勇気ある歴史家が、アジアでの
第二次世界大戦に対する正確で公正な歴史を求めていることに対し、心から
の賛意を表明するものであります。私たちの多くにとって、日本は研究の対
象であるのみならず、第二の故郷でもあります。この声明は、日本と東アジ
アの歴史をいかに研究し、いかに記憶していくべきなのかについて、われわ
れが共有する関心から発せられたものです。

また、この声明は戦後七〇年という重要な記念の年にあたり、日本とその隣
国のあいだに七〇年間守られてきた平和を祝うためのものでもあります。戦
後日本が守ってきた民主主義、自衛隊への文民統制、警察権の節度ある運用
と、政治的な寛容さは、日本が科学に貢献し他国に寛大な援助を行ってきた
ことと合わせ、全てが世界の祝福に値するものです。

しかし、これらの成果が世界から祝福を受けるにあたっては、障害となるも
のがあることを認めざるをえません。それは歴史解釈の問題であります。そ
の中でも、争いごとの原因となっている最も深刻な問題のひとつに、い
わゆる「慰安婦」制度の問題があります。この問題は、日本だけでなく、韓
国と中国の民族主義的な暴言によっても、あまりにゆがめられてきました。
そのために、政治家やジャーナリストのみならず、多くの研究者もまた、歴
史学的な考察の究極の目的であるべき、人間と社会を支える基本的な条件を
理解し、その向上にたえず努めるということを見失ってしまっているかのよ
うです。

元「慰安婦」の被害者としての苦しみがその国の民族主義的な目的のために
利用されるとすれば、それは問題の国際的解決をより難しくするのみならず、
被害者自身の尊厳をさらに侮辱することにもなります。しかし、同時に、彼
女たちの身に起こったことを否定したり、過小なものとして無視したりする
ことも、また受け入れることはできません。二〇世紀に繰り広げられた数々
の戦時における性的暴力と軍隊にまつわる売春のなかでも、「慰安婦」制度
はその規模の大きさと、軍隊による組織的な管理が行われたという点におい
て、そして日本の植民地と占領地から、貧しく弱い立場にいた若い女性を搾
取したという点において、特筆すべきものであります。

「正しい歴史」への簡単な道はありません。日本帝国の軍関係資料のかなり
の部分は破棄されましたし、各地から女性を調達した業者の行動はそもそも
記録されていなかったかもしれません。しかし、女性の移送と「慰安所」の
管理に対する日本軍の関与を明らかにする資料は歴史家によって相当発掘さ
れていますし、被害者の証言にも重要な証拠が含まれています。確かに彼女
たちの証言はさまざまで、記憶もそれ自体は一貫性をもっていません。しか
しその証言は全体として心に訴えるものであり、また元兵士その他の証言だ
けでなく、公的資料によっても裏付けられています。

「慰安婦」の正確な数について、歴史家の意見は分かれていますが、恐らく、
永久に正確な数字が確定されることはないでしょう。確かに、信用できる被
害者数を見積もることも重要です。しかし、最終的に何万人であろうと何十
万人であろうと、いかなる数にその判断が落ち着こうとも、日本帝国とその
戦場となった地域において、女性たちがその尊厳を奪われたという歴史の事
実を変えることはできません。

歴史家の中には、日本軍が直接関与していた度合いについて、女性が「強制
的」に「慰安婦」になったのかどうかという問題について、異論を唱える方
もいます。しかし、大勢の女性が自己の意思に反して拘束され、恐ろしい暴
力にさらされたことは、既に資料と証言が明らかにしている通りです。特定
の用語に焦点をあてて狭い法律的議論を重ねることや、被害者の証言に反論
するためにきわめて限定された資料にこだわることは、被害者が被った残忍
な行為から目を背け、彼女たちを搾取した非人道的制度を取り巻く、より広
い文脈を無視することにほかなりません。

日本の研究者・同僚と同じように、私たちも過去のすべての痕跡を慎重に天
秤に掛けて、歴史的文脈の中でそれに評価を下すことのみが、公正な歴史を
生むと信じています。この種の作業は、民族やジェンダーによる偏見に染め
られてはならず、政府による操作や検閲、そして個人的脅迫からも自由でな
ければなりません。私たちは歴史研究の自由を守ります。そして、すべての
国の政府がそれを尊重するよう呼びかけます。

多くの国にとって、過去の不正義を認めるのは、未だに難しいことです。第
二次世界大戦中に抑留されたアメリカの日系人に対して、アメリカ合衆国政
府が賠償を実行するまでに四〇年以上がかかりました。アフリカ系アメリカ
人への平等が奴隷制廃止によって約束されたにもかかわらず、それが実際の
法律に反映されるまでには、さらに一世紀を待たねばなりませんでした。人
種差別の問題は今もアメリカ社会に深く巣くっています。米国、ヨーロッパ
諸国、日本を含めた、十九・二〇世紀の帝国列強の中で、帝国にまつわる人
種差別、植民地主義と戦争、そしてそれらが世界中の無数の市民に与えた苦
しみに対して、十分に取り組んだといえる国は、まだどこにもありません。

今日の日本は、最も弱い立場の人を含め、あらゆる個人の命と権利を価値あ
るものとして認めています。今の日本政府にとって、海外であれ国内であれ、
第二次世界大戦中の「慰安所」のように、制度として女性を搾取するような
ことは、許容されるはずがないでしょう。その当時においてさえ、政府の役
人の中には、倫理的な理由からこれに抗議した人がいたことも事実です。し
かし、戦時体制のもとにあって、個人は国のために絶対的な犠牲を捧げるこ
とが要求され、他のアジア諸国民のみならず日本人自身も多大な苦しみを被
りました。だれも二度とそのような状況を経験するべきではありません。

今年は、日本政府が言葉と行動において、過去の植民地支配と戦時における
侵略の問題に立ち向かい、その指導力を見せる絶好の機会です。四月のアメ
リカ議会演説において、安倍首相は、人権という普遍的価値、人間の安全保
障の重要性、そして他国に与えた苦しみを直視する必要性について話しまし
た。私たちはこうした気持ちを賞賛し、その一つ一つに基づいて大胆に行動
することを首相に期待してやみません。

過去の過ちを認めるプロセスは民主主義社会を強化し、国と国のあいだの協
力関係を養います。「慰安婦」問題の中核には女性の権利と尊厳があり、そ
の解決は日本、東アジア、そして世界における男女同権に向けた歴史的な一
歩となることでしょう。

私たちの教室では、日本、韓国、中国他の国からの学生が、この難しい問題
について、互いに敬意を払いながら誠実に話し合っています。彼らの世代は、
私たちが残す過去の記録と歩むほかないよう運命づけられています。性暴力
と人身売買のない世界を彼らが築き上げるために、そしてアジアにおける平
和と友好を進めるために、過去の過ちについて可能な限り全体的で、でき得
る限り偏見なき清算を、この時代の成果として共に残そうではありませんか。

ついにアメリカの歴史学者の間で強烈な自己批判が起きました。
日本の慰安婦問題への態度についてです。


【緯度経度】古森義久 慰安婦記述へ批判、米学界に「新風」
2015年05月02日 産経新聞 東京朝刊 国際面

 米国の学問の自由もまだまだ健在のようだ。慰安婦問題での米国の教科書の誤記への日本側の抗議を逆に糾弾した米国側の歴史学者19人の主張に対して、新進の米国人学者から鋭い批判がぶつけられたのだ。

 米国側の学者たちこそ慰安婦問題の事実関係を真剣にみず、日本側からの正当な抗議を「右翼」「修正主義」という意味の不明なののしり言葉で封じ込めている、という批判だった。

  この批判を表明したのは米国ウィスコンシン大学博士課程の日本史研究者ジェイソン・モーガン氏で、米国歴史学会(AHA)の機関誌への投稿という形をとっ た。同氏は学者としては新進とはいえ37歳、アジアへの関与は豊富で中国と韓国に研究のため住んだほか、日本では4年ほど翻訳会社を経営した後、米国のア カデミズムに戻るという異色の経歴である。現在はフルブライト奨学金学者として早稲田大学で日本の法制史を研究している。

 そのモーガン 氏が先輩の米国側歴史学者たちを批判した発端は、米国マグロウヒル社の教科書の慰安婦に関する記述だった。周知のように同教科書は「日本軍が組織的に20 万人の女性を強制連行した」という虚構を前提に、「日本軍は慰安婦を多数殺した」「慰安婦は天皇からの軍隊への贈り物だった」と記していた。

 日本の外務省は昨年11月、出版社と著者に記述の訂正を求めたが、いずれも拒否された。米国側の学者たちはこの動きを受けて今年3月、教科書の記述は正しく、日本側の抗議は学問や言論の自由への侵害だとする声明を発表した。

  同声明は慰安婦問題での長年の日本糾弾で知られるコネティカット大学のアレクシス・ダデン教授が中心となり、コロンビア大学のキャロル・グラック教授や同 教科書の問題記述の筆者のハワイ大学ハーバート・ジーグラー准教授ら合計19人が署名した。その要旨はダデン教授を代表として米国歴史学会の月刊機関誌3 月号に声明の形で掲載された。

 モーガン氏はこの声明への反論を4月下旬にまとめて同誌に投稿するとともに、他のサイトなどで公表した。その反論の骨子は以下のようだった。

 ▽19人の声明は慰安婦に関する日本政府の事実提起の主張を言論弾圧と非難するが、非難の根拠となる事実を明示していない。

 ▽声明は吉見義明氏の研究を「20万強制連行説」などのほぼ唯一の論拠とするが、同氏も強制連行の証拠はないことを認めている。

 ▽声明は米国の研究者も依拠したことが明白な朝日新聞の誤報や吉田清治氏の虚言を一切無視することで、歴史研究者の基本倫理に違反している。

 ▽声明は日本側で慰安婦問題の事実を提起する側を「右翼」「保守」「修正主義」などという侮蔑的なレッテル言葉で片づけ、真剣な議論を拒んでいる。

 ▽声明は日本政府の動きを中国などの独裁国家の言論弾圧と同等に扱い、自分たちが日本政府機関からの資金で研究をしてきた実績を無視している。

  以上の主張を表明したモーガン氏は、「米国の日本歴史学界でこの19人の明白な錯誤の意見に誰も反対しないという状態こそ学問の自由の重大なゆがみだと思 う」と強調した。慰安婦問題では日本側の事実に基づく主張にさえ耳を傾けない米国の日本研究者の間にも新しい風が生まれたと思いたい。(ワシントン駐在客 員特派員)

 オバマ政権下のいまのアメリカがどう変わってきたのか。
 総合的に分析した好著です。

 筆者は毎日新聞、産経新聞での国際報道で活躍した高畑昭男氏です。



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