2016年01月


台湾の政権交代は米国の対中政策をどう変えるのか

「1つの中国」はもうフィクションにすぎない?

3候補が投票=「結果に自信」「投票を期待」-台湾総統選

台湾・新北市内の投票所で総統選挙の投票をする最大野党・民進党の蔡英文主席(2016年1月16日撮影)。(c)AFP/Philippe Lopez〔AFPBB News



 台湾で、独立志向の民進党が総統選と立法院選の両方で圧倒的な勝利を飾った。この出来事は米国の対中政策および対台湾政策をどう変えるのだろうか。

 オバマ政権は従来の姿勢を変える気配をみせない。だが政権周辺では、台湾での選挙結果を中国の攻勢を抑える「圧力」材料とする案や、年来の「1つの中国」政策(台湾は中国の一部であるとする立場に基づいた政策)が変化する可能性を唱える主張が目立ってきた。


 1月16日の台湾の総統選挙では、民進党の蔡英文候補が国民党の朱立倫候補を圧倒的な大差で破った。議会にあたる立法院の選挙でも民進党が多数を 制した。この選挙結果は、台湾住民の台湾人意識の高まりや、国民党の馬英九政権の中国接近政策への反発の強さを示した動きとみられている。


 国際監視団の一員として現地でこの選挙を観察した杏林大学名誉教授の田久保忠衛氏は、「今回の選挙で最も強く示されたのは、台湾の民主主義と台湾人のアイデンティティー(自己認識)だった」と言う。


 同氏によると、今回の選挙は民主主義の原則に徹して行われ、独裁制の中国との対照を改めて鮮烈に印象づけた。しかもそのプロセスでは、台湾住民たちの「自分たちは中国人ではなく台湾人だというアイデンティティー」が明確に示されたという。

(つづく)



カンボジアで謎の死を遂げた2人の北朝鮮医師

垣間見える異様な「外貨稼ぎ」メカニズムの実態

2016.1.20(水) 古森 義久
 
北朝鮮、制裁の動きけん制=党大会前に締め付け警戒

核実験に功績のあった科学者の表彰式典で式辞を述べる金正恩第1書記。平壌で撮影。朝鮮中央通信配信(2016年1月13日配信、資料写真)。(c)AFP/KCNA via KNS〔AFPBB News



 新年早々、北朝鮮の医師2人がカンボジアの首都プノンペンで死んだ。新しい年を祝うパーティーで酒を飲み過ぎて、心臓麻痺を起こしたという診断だった。


 だが、この出来事には不可解な点も残る。経済苦境にあえぐ北朝鮮は、医師などの専門家を強制的に特定の国に送り出し、外貨を獲得させていた。2人 の医師の死は、そういう特殊な出稼ぎの実態を明示していた。北朝鮮の核武装への動きの背後に存在する暗部の実情が垣間見えるといってもよい。

妻たちが緊急処置を施したが・・・

 カンボジアの新聞「プノンペン・ポスト」の報道によると、1月2日、プノンペン市の北朝鮮大使館から地元警察に「北朝鮮国籍の医師2人が死亡し た」という通報があった。警察が同市トオルコルク地区にある北朝鮮医師団のクリニックに行くと、同クリニックで医療業務に携わってきた北朝鮮人のアン・ ヒョン・チャン医師(56)とリ・ムン・チョル医師(50)が死んでいたという。


 警察が調べたところ、両医師は大晦日の12月31日夜から1月1日の深夜まで他の北朝鮮人医師たちと新年を祝うパーティーに出席していた。2人は 複数種類のカクテルなど大量の酒を飲み、半分、意識を失った状態でクリニックに隣接する自宅に帰った。自宅では、同じ北朝鮮国籍の医師である2人の妻たち から、アルコール中毒などを防ぐための緊急処置を受けた。(つづく)



 ›   › 

中国が動かなければ北朝鮮は止められない

米国を睨んでの核実験、当の米国の専門家はどう見るのか

2016.1.12(火) 古森 義久
 
米軍B52爆撃機が韓国で低空飛行、北朝鮮をけん制

韓国の上空を、米軍のF16戦闘機(写真下左の2機)と韓国軍のF15K戦闘機(写真上の2機)と共に飛行する米軍 のB52戦略爆撃機(写真下右)。北朝鮮をけん制する狙いがある。韓国空軍撮影。聯合ニュース配信(2016年1月10日撮影)。 (c)AFP/YONHAP〔AFPBB News



 北朝鮮の今回の核実験は何が狙いなのか。北朝鮮は外交戦略的に米国を対象として核実験を実行したと推察されているが、当の米国側はどうみるのか。


 北朝鮮の核武装の動きと米国の対応をここ20年以上一貫して追ってきた朝鮮半島情勢の専門家、ラリー・ニクシュ氏に見解を聞いた。


 ニクシュ氏は2010年まで米国議会調査局の朝鮮情勢専門官として30年以上活動し、特に北朝鮮の核兵器開発については1990年代前半から米国 の政府と議会でその対策に深く関わってきた。現在は、ワシントンの大手研究機関である戦略国際問題研究所(CSIS)の上級研究員やジョージワシントン大 学教授を務める。


 同氏は、北朝鮮の今回の核実験の技術面での最大の目的は、核弾頭を小型化、軽量化して中・長距離弾道ミサイルに装着可能にすることだという。また、日本や韓国のほぼ全域を射程におさめるノドン・ミサイルへの核弾頭装備はすでに可能になっているという見方を明らかにした。


 加えて、オバマン政権は中国の対応や、北朝鮮とイランの結びつきについて強く批判すべきだとの見解も表明した。同氏との一問一答の内容は以下のとおりである。

(つづく)


.国際  投稿日:2016/1/9

[古森義久]【米大統領選:クリントン候補に逆風】~対北「戦略的忍耐」政策の失敗~



古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)

「古森義久の内外透視」

執筆記事プロフィールBlog


アメリカでは北朝鮮の核爆発実験で大統領選挙の有力候補ヒラリー・クリントン氏への批判がわき起ってきた。同氏がオバマ政権の国務長官として推進した北朝鮮への「戦略的忍耐」政策が失敗したという声が共和党側から激しくぶつけられるようになったのだ。


「戦略的忍耐(strategic patience)」という用語はオバマ政権が登場して間もない2009年前半に北朝鮮に対してとるべきアメリカの政策態度として語られ始めた。オバマ政権の当時の国務長官だったクリントン氏が先頭になって使い出した用語だった。


その意味は北朝鮮の核兵器開発を阻むためには急がず、じっくりと様子をみて忍耐し、事態の好転を望む政策という感じだった。積極的に打って出ることや、果敢に圧力をかけることはせず、とにかく我慢をして待つ、という政策のわけだった。


だが北朝鮮はそのオバマ政権の消極姿勢を逆手にとった形で2009年5月に2回目の核実験、2013年2月に3回目の核実験を重ねてきた。そして今 回の4回目の核実験である。この間、オバマ政権は「忍耐」を保って、北朝鮮の出方を見守ったが、よいことはなにもなく、北はその「忍耐」につけこむように 核兵器開発のための爆発実験や弾道ミサイルの発射実験を続けていった。アメリカ政府の制裁や国連からの非難をものともしない動きだった。


しかし1月6日に北朝鮮の4回目の核爆発が発表され、「水素爆弾の使用」や「核兵器保有国としての宣言」が表明された。北朝鮮の非核化を最高至上の政策目標としてきたオバマ政権の「戦略的忍耐」は効果を生まなかったわけだ。


共和党側では大統領選に名乗りをあげているドナルド・トランプ、マルコ・ルビオ両候補がまず北朝鮮の核実験はオバマ政権の無策こそが最大の原因だと非難し、さらにそのオバマ政権はクリントン国務長官の「戦略的忍耐」策が不毛だったことを鋭く指摘した。


今後の選挙戦でも共和党側候補たちは北朝鮮の核実験をオバマ政権=クリントン国務長官への非難の焦点として提起していく構えをはっきりとみせるようになった。


日本は戦後最大の「国難」に直面している

じわじわと日米同盟を突き崩そうとする中国

2016.1.6(水) 古森 義久
中国軍の兵力30万人削減を表明、習国家主席

中国はあの手この手で日米同盟を突き崩そうとしている。天安門広場で抗日戦勝利70周年を祝う式典に備える人民解放軍の兵士たち(2015年9月3日撮影、資料写真)。(c)AFP/JASON LEE〔AFPBB News



 2016年を迎えて日本の国際情勢での立ち位置を点検してみると、「国難」という言葉が浮かんでくる。日本は今、国難に直面するに至ったとどうしても実感してしまうのだ。国家の安全保障は戦後の70年の中で最も危機的な状況にあるといえる。決して誇張ではない。


 私は長年ジャーナリストとして米国の首都ワシントンを拠点に、日本や中国、朝鮮半島という北東アジアの安全保障のうねりを考察してきた。ここ1年ほどは東京で働く時間も増え、北東アジア情勢を米国と日本から立体的に観察する機会も増えた。


 そうした視点で特に日本をめぐる北東アジアの安全保障環境を眺めると、日本の命運を左右するような危機がひたひたと迫る構図が明確となる。

一触即発の危険性を秘める北東アジア情勢

 主権国家にとっての平和や戦争、そして安全保障全般は、その国と外部との関係のあり方で決まる。国内の要因が対外政策を動かすとはいえ、国家の安 全保障は外部との関係および世界情勢に左右されるのだ。この点で、2015年の日本の平和安全法制関連法案審議は異様だった。憲法解釈問題など日本の内側 の課題だけに議論が終始したからだ。


 一方、北東アジア情勢が不安定であり混迷していること、そして一触即発の危険性を秘めていることは明白である。


 北朝鮮は、若くて経験が乏しいカルト的な絶対的独裁者の下で核兵器や各種ミサイルを開発し、好戦的な言動を絶やさない。


 また韓国は中国に奇妙に傾斜し、情緒的な大衆迎合の反日キャンペーンを繰り広げ、日本と共有すべき安全保障の基盤を軽視している。慰安婦問題では日本との合意を成立させて日本叩きを自粛する姿勢を政府レベルで示したが、韓国全体となると年来の反日の態度は変わりない。


 そして中国は大規模な軍拡を加速させ、米国に挑み、日本を叩き、尖閣諸島の主権侵害を続けている。2015年は反日の政治意図をかつてなくあらわにした年だった。


 日本にとって唯一かつ最大の味方は米国である。しかしその米国は国防費を抑制し、中国との間に波風を立てないように努めている。オバマ政権はさらにアジアでの後退をちらつかせ、日本など同盟国への防衛誓約にも疑問符がつく。


 日米同盟の状況は、一見すると好転してきたかにも思える。2015年、安倍晋三首相は訪米して対米関係を重視する姿勢を表明した。また、平和安保 法制関連法の成立による集団的自衛権の一部解禁は、オバマ政権に少なくとも当面は対日同盟の再重視を促す結果となった。オバマ政権も、中国との関係が悪化 したことによって、日米同盟への依存を高めざるをえない状況となっている。


 しかし、力の行使をためらうオバマ政権の本質はなお変わらない。日本側にとっての不確定要因が消えたわけではない。北東アジアの安全保障状況が日本に投げかける重い暗雲が、日米同盟の当面の強化によって晴れてしまうわけではないのだ。

中国公艦が月に平均9回も尖閣周辺の日本領海に侵入

 こうした北東アジアの情勢のなかで、中国は明らかに日本の安全保障に最大の危険を突きつけているといっても過言ではない。過去25年間、中国が一 貫して軍事力を増強してきたことは周知の事実である。とくに米国や日本を明らかな標的とする海軍力、航空戦力、各種ミサイルの大規模な強化がますます顕著 となってきた。


 そうした軍事力を背景とする中国の南シナ海での海洋攻勢は国際的な懸念を生んだ。日本ではあまり正面から論じられないが、東シナ海でも尖閣諸島への軍事がらみの攻勢で日本の主権や施政権を侵害し、ますます優位に立ってきている。


 米国議会政策諮問機関の「米中経済安保調査委員会」はこの状況を問題視し、2015年11月中旬に日本に対して警鐘を鳴らした。同委員会は年次報 告で「中国はこの1年間に尖閣諸島周辺で、静かなうちにも軍事、非軍事両面で日本への態勢をより強化し、優位に立った」という認識を公表したのである。


 同報告では、2015年に中国の武装公艦が毎月平均9回も尖閣周辺の日本領海に侵入した事実や、中国空軍機が尖閣周辺上空で異常接近を繰り返し、自衛隊機が1日平均1回以上のスクランブル(緊急発進)を行っている事実が指摘されていた。

あの手この手で日米同盟の突き崩しを狙う中国

 中国は、目に見えにくい次元でも日米同盟の絆を弱めることに精力を傾けている。


 中国は慰安婦問題などの歴史案件に関して、米国で日本糾弾を続けている。これは米側の日本不信を広げるという点で日米同盟の浸食につながるといってよい。


 また、国連のような国際的舞台で、習近平国家主席が「第2次大戦で米中は日独など『ファシスト』と共同で戦った」などとあえて持ち出すことにも、米国民の対日感情を悪化させて日米同盟を突き崩す狙いが見て取れる。


 中国には、日本側に対米不信を植えつけようとする意図もある。例えば習近平主席が「アジアの安全保障はアジア人だけで」と公式の場で発言したのはその表れであろう。


 さらに低い次元では、日本のニュースメディアによく登場する中国側のコメンテーターたちが「中国、朝鮮半島、日本の各民族は、やはりアジアの兄弟 のようなものです」などと述べ、中国、韓国、日本が連携を強めるべきだと提唱することも、背後に日米を離反させようという意図がちらつく。


 私自身も、中国でアメリカを研究する専門家から「アジアではやはり中国人や日本人など箸(はし)を使って食事をする民族同士が団結すべきです」と 真顔で言われたことがある。冗談のようにも聞こえるその発言の裏には、「箸を使わない米国人と連帯する必要はないだろう」というメッセージが込められてい るのだ。

効果を発揮している「サラミ戦術」

 中国が、米国のネガティブな側面を日本に説き、米国で日本のネガティブな側面を宣伝するのは、明らかに日米離反策だといえよう。


 オバマ政権を見ていると、この戦術は実際に効果を発揮しているようにも思えてならない。中国の艦艇が尖閣周辺の日本領海に好き勝手に侵入し、オバ マ政権が反対する「尖閣問題の非平和的な解決」を図ろうとしているのに対し、当のオバマ政権からは中国非難の声がまったく発せられない。米国には尖閣防衛 の意思があるのかという疑念がどうしても沸き起こってくるからだ。


 米国の専門家たちはこうした中国の策略を「サラミ戦術」と呼ぶ。日米間の同盟関係やそれを支える相互信頼を、サラミを1枚1枚薄く切るように削い でいくという意味である。米国国務省やCIA(中央情報局)で長年、対中国政策を担当したロバート・サター氏(現ジョージワシントン大学教授)らが使い出 した表現だった。


 日本は今や自国の固有の領海に自由に侵入され、最大の頼りである日米同盟もじわじわと削られつつあるのである。こんな状況は、やはり日本にとっての国難と呼ぶしかないだろう。


↑このページのトップヘ