2016年02月

.国際  投稿日:2016/2/11

何が北朝鮮を追い詰めるのか~日本人拉致事件と私~


古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)

「古森義久の内外透視」

執筆記事プロフィールBlog



北朝鮮による日本人拉致事件はなお未解決の悲劇として日本の政府や国民に重くのしかかったままである。この拉致事件を解決しようとする努力に私もささやか ながら、かかわってきた。最初は現役の新聞記者という立場だったため、その動きを表に出すことはほとんどなかった。だがここへきて主要な集会で初めてその 経緯を語ることになった。


1月28日、東京都内での拉致被害者を「救う会」全国協議会が主催した緊急集会だった。日本と北朝鮮の外務省の間の「ストックホルム合意」に基づき、北朝鮮が拉致被害者らの「再調査」を始めてから1年半、なんの成果もないことに「家族会」や「救う会」が危機意識を深めての日本政府への要求を高める集会だった。

この集会には政府を代表して拉致問題担当の加藤勝信大臣が最初から最後まで参加していた。同じポストにあった古屋圭司、松原仁、中山恭子各議員も出席していた。


その会合の最終部分で司会役の「救う会」の西岡力会長から私は突然、指名されて挨拶と激励の言葉を簡単に語る次第となった。西岡氏の紹介は「いつも我々をワシントンで助けて下さっている古森義久さん」という表現だった。


ちなみに私は第二次安倍内閣の発足時に拉致問題担当大臣が任命した「有識者懇談会」の一員となっていた。その理由は拉致問題の解決のための日本側の 努力をアメリカ側に伝えるプロセスで手助けをしたことだった。小泉純一郎首相が北朝鮮を訪れ、金正日総書記に日本人拉致の認めさせた2002年9月よりも 前のことである。


私はそんな経緯を踏まえて、今回のスピーチでは以下のようなことを述べた。自分の拉致問題へのかかわりを説明せざるを得なかったのだ。


「私はまだ日本政府が動いていない段階で、たまたまブッシュ政権が非常に前向きに日本人拉致問題について対応してくれた時期に、家族会・救う会の 方々がワシントンにいらっしゃった時に、アメリカ側との橋渡しをさせていただいたことから拉致問題にかかわりました。とくに今でも覚えていますが、ワシン トンのナショナル・プレス・クラブで横田早紀江さんが記者会見をした時に日本人の男性通訳が途中でピタリと声を止めてしまったのです。早紀江さんの言葉を 聞き、英語に翻訳しているうちに、こみあげてくる涙でなにも言えなくなってしまったのです」


「こういう人までが感動する真実というものが拉致問題にはあるんだなと私も感じました。早紀江さんが切々と訴える心です。これほどの真実の悲劇には私にもできることがあれば何かしなければならないと感じたわけです」


2001年2月末のことだった。当時、登場したばかりのブッシュ大統領は年頭教書演説で北朝鮮を「悪の枢軸」と糾弾した。そのことが金正日総書記を 追い詰め、2002年には日本からの援助欲しさに拉致を認めたのだといえる。だがこの横田早紀江さんらが初めて訪米した時は日本では官民ともにまだまだ 「北朝鮮による日本人拉致事件などない」という声が多かった。ところがブッシュ政権内外の関係者は拉致を完全な事実だと認めて、日本の被害者家族らを温か く迎えたのだった。


私は今回のこの短いスピーチでそんなアメリカ側の協力姿勢の価値を語り、最近の米側や国連など国際的な状況を述べた。アメリカならば自国民の拉致に は軍事力をも使ってすぐに断固と対応するだろうが、日本にはそれができないことも米側は知っていて、その点への同情まで示す反応があったことをつけ加え た。


ちょうど15年前、身の凍るように寒いワシントンでの出来事だった。

.国際  投稿日:2016/2/6

【拉致事件初の英語本出版】~その紹介に動かぬ日本政府~



古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)

「古森義久の内外透視」

執筆記事プロフィールBlog

ワシントンにある韓国政府系の研究機関「米国韓国経済研究所」(KEI)で2月3日、「招待所・北朝鮮の拉致計画の真実」と題するセミナーが開 かれた。その題名、つまり「招待所・北朝鮮の拉致計画の真実」というタイトルの新刊書についていろいろと討論する集まりだった。まずはその本の内容を著者 のアメリカ人ジャーナリストのロバート・ボイントン氏が紹介し、アメリカ側の専門家たちが見解を述べるという集いである。


このセミナーは日本にとって特別な意味があった。実はこの書は北朝鮮による日本人拉致事件の内容を英語で詳述した初めての単行本だったからだ。であれば当然、日本の団体、最も自然な例としては日本外務省が大々的に宣伝してしかるべき書である。


日本人拉致事件は驚くほど諸外国の一般には知られていない。アメリカがまさにその典型だといえる。なんの罪もない日本人の若い男女が日本国内、しか も自宅の近くで北朝鮮政府の工作員に襲われ、身体の自由を奪われ、北朝鮮へと拉致されて、そのまま長い歳月、拘束されたまま、という世にも非道な事件はア メリカではほとんど知られていないのだ。


だからこの事件について英語で解説した本というのは日本側からすれば大歓迎である。事件を日本の外部の人たちに少しでも多く知らせて、日本側の味方につけることが有意義だからだ。そのためには日本語以外の言語での事件の報告がなければならない。


だがこれまで日本人拉致事件を英語で紹介した文献は米側民間の調査委員会の報告書などがあるだけだった。商業ベースでのふつうの英文の単行本はな かったのだ。そんな背景で初めての英語の本というのがこの「招待所・北朝鮮の拉致計画の真実」だったのだ。拉致事件を国際的に知らせる点での意味は大き く、日本側も重視すべき書なのである。


この書は2016年1月中旬にアメリカとカナダで一般向けのノンフィクション作品として発売されたのだ。同じ時期にニューヨーク・タイムズの書評欄でも同書は大きく取り上げられた。出版元はニューヨークの伝統ある「ファラー・ストラウス・ジロー」社だった。


著者のボイントン氏はニューヨーク大学のジャーナリズムの教授でもあるが、日本滞在中に拉致事件を知り、「この重大事件の奇怪さと米国ではほとんど 知られていない事実に駆られて」取材を始めたという。ボイントン氏は数年をかけて日本や韓国で取材を重ね、とくに日本では拉致被害者の蓮池薫氏に何度も 会って、拉致自体の状況や北朝鮮での生活ぶりを細かく引き出していた。また同じ被害者の地村保志、富貴恵夫妻や横田めぐみさんの両親にも接触して、多くの 情報を集めていた。その集大成を平明な文章で生き生きと、わかりやすく書いた同書は迫真のノンフィクションと呼んでも誇張はない。


ただしボイントン氏は拉致事件の背景と称して日本人と朝鮮民族との歴史的なかかわりあいを解説するなかで日本人が朝鮮人に激しい優越感を抱くという ような断定をも述べていた。文化人類学的な両民族の交流の歴史を奇妙にねじって、いまの日朝関係のあり方の説明としているのだ。


しかし同セミナーでの自書の紹介ではボイントン氏はそうした側面には触れず、ビデオを使って、もっぱら日本人被害者とその家族の悲劇に重点をおき、語り進んでいった。


「なんの罪もない若い日本人男女が異様な独裁国家の工作員に連行され、北朝鮮に拘束されて、人生の大半を過ごすことを強いられました。同情すべき被害者たちが救出を自国政府に頼ることもできない悲惨な状況はいまも続いています」


ボイントン氏のこうした解説に対して参加者から同調的な意見や質問が提起された。

ただしパネリストのブルッキングス研究所の研究員で朝鮮問題専門家の韓国系アメリカ人学者のキャサリン・ムン氏が「日本での拉致解決運動が一部の特 殊な勢力に政治利用されてはいないのでしょうか」という疑問を呈したのが異端だった。だが同じパネリストの外交評議会日本担当研究員のシーラ・スミス氏が 「いや拉致解決は日本の国民全体の切望となっています」と否定したのが印象的だった。


だがなお残った疑問は日本にとってこれほど重要な本の紹介をなぜ日本ではなく韓国の政府機関が実行するのか、だった。KEIは韓国政府の資金で運営 される。日本側にもワシントンには大使館以外に日本広報文化センターという立派な機関が存在するのだ。だが同センターの活動はもっぱらアニメや映画の上映 など日本文化の紹介だけなのである。安倍政権の重要施策の対外発信はどうなっているのだろう。

意外と弱かった?トランプとクリントンが大苦戦

アイオワ州の投票で流れが変わった米国大統領選

2016.2.6(土) 古森 義久
 
米大統領選の初戦、共和党はクルーズ氏勝利 アイオワ州党員集会

アイオワ州で開かれた共和党の党員集会でドナルド・トランプ候補を抑えて勝利したテッド・クルーズ上院議員(2016年2月1日撮影)。(c)AFP/TIMOTHY A. CLARY〔AFPBB News



 2016年米国大統領選挙が熱気を増してきた。予備選段階とはいえ、2月1日、アイオワ州の党員集会で初めて実際の有権者たちの票が投じられ、現 実の戦いに入った。これまでは世論調査の数字や政治評論家の分析を基にした仮想現実の戦いだったが、いよいよ現実世界へと移ったわけだ。


 その結果、民主、共和両党の先頭走者が意外なつまずきをみせ、新しい展望が浮かび上がることとなった。やはり選挙は水ものということか。

両党で先頭走者が思わぬ苦戦

 アイオワ州の党員大会では、民主党の予備選で圧倒的な強さを発揮するとされていたヒラリー・クリントン候補(68)が思わぬ接戦に苦しんだ。


 若者の間での絶対的な人気を保つ対抗馬のバーニー・サンダース上院議員(74)が全体としても予想外の支持を集め、クリントン49.9%、サン ダース49.6%という事実上の引き分けといえる大接戦となった。


 州内の7つの小選挙区では両候補の得票がまったく同じだったため、コインを投げて勝者を 決めねばならないほどの接戦だった。まさかこれほどの接戦になるとは、クリントン陣営は思いもよらなかっただろう。

(つづく)

.国際,.政治,IT/メディア  投稿日:2016/1/26

[古森義久]【NHK、沖縄基地問題で偏向番組】~「シブ5時」日本の安全保障の観点ゼロ~



 

古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)

「古森義久の内外透視」

執筆記事プロフィールBlog

NHKが沖縄の米軍基地問題を日本の高校生に解説し、議論させるという番組をみて、驚いた。米軍基地の基礎となる日本の安全保障という観点がゼ ロ、沖縄の地域住民にとっての環境問題としかみないのだ。その偏向したNHK視点を高校生たちに刷り込むというのは政治的な洗脳工作にもみえた。


この番組は1月25日午後5時から放映された「シブ5時」というニュースがらみの総合番組だった。そのなかで15分ほども費やすセクションに「高校 生が考える沖縄 イチから学ぶ基地問題」という部分があった。東京都の高校生が沖縄に修学旅行するに際して、沖縄の米軍基地について事前に学習をさせ、そのうえで現地の実 態を見学する、という趣旨の番組だった。


その進行役が安達宣正解説委員、そこに芸人の田畑、勝本という人物2人が加わっていた。その安達解説委員の沖縄の米軍基地についての説明はネガティ ブな側面ばかり、地元の住民が騒音に悩んでいる。米軍将兵が地元の女性を暴行した。沖縄県の基地負担が過剰に大きい。こんな点ばかりのあの手この手の紹介 だった。


では沖縄に米軍基地がなぜ必要なのか。この点は安達解説委員は最初から最後まで何一つ述べなかった。日本の安全保障への言及がゼロなのだ。その過程 で東京の男子高校生が「日本は憲法などのために戦うことができないから、米軍の強大な軍事力に国を守ってもらう。そのために米軍基地が沖縄には必要なのだ と思う」と述べた。


この鋭い指摘に対し、先生役の安達解説委員はなにも述べず、また基地の騒音などを語るだけだった。


後半で女子高校生が「日本に戦争をしかけようとするところはどこにもないから、米軍基地は必要ないと思う」と述べた。その結論の適否はともかく、 「戦争」という概念と「米軍基地」とを結びつける発言は少なくとも沖縄の基地を日本の安全という文脈で考えようとする態度をみせていた。だがNHKを代表 する安達解説委員はこれまたこの発言を無視して、「米軍基地問題は国と沖縄県とが同じ歩調で取り組むべきだ」などと、沖縄知事の安保無視の構えを応援する ような言葉を発し、高校生が提起した重要な課題から逃げていた。


日本固有の領土の尖閣諸島は沖縄県である。中国がいま軍事力を使ってでもその尖閣諸島を日本から奪取しようという企図していることは武装艦艇による尖閣至近の日本領海への毎週への侵入をみても明白である。


日本を敵視する北朝鮮が核兵器や弾道ミサイルを開発している。しかも韓国には実際に軍事攻撃をかけるし、日本に対しても好戦的な言辞を頻繁に発し、 日本方向に弾道ミサイルを何度も発射する。中国の軍事脅威、北朝鮮の軍事脅威こそ沖縄の米軍基地の存在理由なのだ。


だがNHKはそんな現実にはツユほどの 関心も示さない。その象徴がこの高校生洗脳番組のように思えた。


NHKが規制される放送法は番組が「政治的に公平である」ことを義務づけている。「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論 点を明らかにする」ことも決めている。


沖縄の米軍基地は日本国が求めた結果、起きた現象だといえる。日本全体でみた場合、沖縄の米軍基地の存在には「対立 する意見」があることは自明である。であれば、NHKは放送法の規定により、「多くの角度からの論点を明らかにする」義務がある。


だが1月25日放映の番組は沖縄の米軍基地への反対論ばかりを宣伝し、放送法に明らかに違反していた。そんな政治偏向番組に高校生を利用するとは、なんとも卑劣にみえた。

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