2016年05月

 

もしもトランプと金正恩の首脳会談が実現したら?

米国にとっていいことは1つもない

米朝首脳会談の意向示す=北朝鮮核問題でトランプ氏

米オレゴン州ユージンで行われた集会で演説するドナルト・トランプ氏(2016年5月6日撮影、資料写真)。(c)AFP/Rob Kerr〔AFPBB News



 米国大統領選挙で共和党側の指名獲得が確実なドナルド・トランプ候補の過激な発言が波紋を広げているが、今度は北朝鮮の金正恩委員長に「首脳会談」を求める用意があると言明した。

 金氏に核武装を思い留まらせるためだというのだが、この提案は即座に米側の専門家たちから猛反対された。先頭に立って反対したのは、日本でもなじみの深い元大統領補佐官で政治学者のマイケル・グリーン氏である。

 トランプ氏のこの新たな提案は、彼が米国大統領候補としていかに型破りであるかを改めて印象づけた。

「北朝鮮の核兵器開発を止めさせる」

 5月17日、トランプ氏はロイター通信記者とのインタビューに応じ、この提案を明らかにした。金正恩氏との会談に関する発言の内容は以下の通りである。

「北朝鮮の核兵器開発を阻むために、私には金正恩氏と直接話をする用意がある。彼と会談をすることになんの問題もない」


’つづく




国際  投稿日:2016/5/20

国連特別報告者、反日の系譜



 古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)

「古森義久の内外透視」

「日本の報道は政府により抑圧されている」――こんな託宣が国連特別報告者によって下された。さてどこにそんな実態があるのだろうか。この「報告者」の動きに光を当てると意外な事実が浮かびあがる。


アメリカのカリフォルニア大学アーバイン校のデービッド・ケイ教授がこの4月、国連特別報告者として「日本の表現の自由」を調べるために来日した。 そして1週間の滞在で「日本の報道の自由は政府の抑圧により脅威にさらされている」という結論を出した。日本政府はこの結論は誤りだとして、いま反論の準 備中だという。


ところが当のケイ氏は5月12日に母校のアーバイン校ですでに「日本の言論の自由への脅威」と題する公開討論を開くことを発表した。しかもその討論 の相手が日本の慰安婦問題を長年、糾弾し、とくに安倍晋三首相への一方的な非難を続けてきたアメリカのコネチカット大学のアレクシス・ダデン教授、さらに 討論会の共催者側には同じように慰安婦問題で日本政府を攻撃してきたジョージタウン大学のジョーダン・サンド教授が位置するのだ。


日本側の反論がまだ出ないうちにアメリカ国内で一方的に日本の「言論弾圧」への断罪を打ち上げるというこの動きに、アメリカの別の日本研究者からは 「アメリカ学界の一部の偏向した安倍叩き、日本叩きの勢力が国連までを利用するという非常に政治的な動きだ」という批判も出ている。


国連特別報告者としてのケイ氏は4月12日から19日まで日本に滞在し、日本での報道の自由の実情を調査するとして、日本側の官民両方の関係者多数 と面談した。その結果を4月19日に東京で記者会見して、「日本の報道の自由は政府の圧力や抑圧により危機に瀕している」という趣旨を総括した。


この結論に対し日本政府の外務省などやニュースメディアの一部は「そんな事実はない」という反論をすぐに公表した。日本政府では近くケイ氏への反論を文書にまとめて公表し、国連本部へも伝達するという。


ところが日本側のそうした公式な対応がまだ出ないうちにケイ氏の母校のカリフォルニア大学アーバイン校では

「アレクシス・ダデン教授とデービッド・ ケイ教授の『日本の言論の自由への脅威』についての対話が5月12日に催される」という通知が流された。


この「対話」はアメリカのアジア研究学会の機関誌 「アジア研究ジャーナル」の共催とされていた。この機関紙の編集長格のジョージタウン大学のジョーダン・サンド教授はダデン教授とともに慰安婦問題で日本 への批判を続けてきた人物である。


ダデン氏は2000年の東京での「女性国際戦犯法廷」という模擬裁判で慰安婦問題を追及し、昭和天皇に有罪判決を出すという活動をはじめとして、日 本の歴代政権を糾弾してきた。日本の北方領土や竹島、尖閣諸島の主権主張も「膨張主義的な野心」の結果として批判した事実もある。ダデン氏はとくに安倍晋 三氏に対して「悪漢」「軍国主義志向」「裸の王様」などというののしりの言葉も浴びせてきた。その一方、韓国とは親密な関係を保ち、韓国政府の対米政策の 相談にも乗ってきた実績がある。


またダデン氏は昨年、欧米の日本研究学者らの多数の署名を得て日本の国民や政府、安倍首相あてに日本の慰安婦問題への態度が不適切だと非難する書簡のまとめ役となった。その際にサンド氏もダデン氏とともに書簡草案の起草や発信の役を担った。


このように「反日」とか「日本叩き」という描写が当てはまる政治活動家的な人物と国連特別報告者としての日本での調査活動を終えたばかりのケイ教授がすでに日本での「言論の自由への脅威」という結論を打ち出しての公開討論をすることは日本にとってまさに不公正だといえる。


そのうえに共催組織の代表のサンド氏も日本糾弾という政治色の濃い履歴を持つ人物なわけだ。だからケイ氏の今回の日本での調査も、すでに最初に結論ありきの安倍政権非難という政治傾向がにじむのだ。


しかしケイ氏の調査結果は本来、国連への報告が主目的なはずである。その過程では「報道の抑圧」を非難された日本政府側がその非難は事実に反すると して、正規の反論をいま準備中なのだ。であるにもかかわらず、ケイ氏は自分だけの結論をアメリカ国内ですでに一方的に広めようとする構えを明らかにした。 日本にとってまさに不公正な動きである。


アメリカの学界にもこのケイ氏の今回の動きを不適切だとする意見がある。ウィスコンシン大学の日本歴史研究学者のジェーソン・モーガン博士は次のように述べるのだった。


「ダデン氏はアメリカ学界全体でも最も過激な反日派であり、韓国の利益を推進する政治活動家としても知られる。国連特別報告者の肩書きを持つケイ氏 がそのダデン氏との密接な協力を露呈した今回の『対話』はアメリカ学界の安倍叩き、日本叩きの勢力がその政治目的のために国連をも利用している実態を示し たといえる。明らかに日本や日本語を知らないケイ氏がわずか1週間の滞在で日本の報道や政治の全容をつかむというのは不可能であり、この種の日本断罪は不 公正であり、傲慢だ」


さあ日本側がどう対応するか。日本の報道界も無関心ではいられまい。

注目のトランプ「外交政策」、やはり中身はなかった

粗雑な孤立主義を米国の識者が厳しく批判

2016.5.4(水) 古森 義久

トランプ氏、外交政策で「米国第一」を強調 同盟国に負担増要求

米首都ワシントンで、外交政策について演説するドナルド・トランプ氏(2016年4月27日撮影)。(c)AFP/Brendan Smialowski〔AFPBB News


 米大統領選で旋風を巻き起こしている共和党候補、ドナルド・トランプ氏が初めて外交政策について演説をした。

 トランプ氏が予備選挙戦で事前に草稿をきちんと準備して演説したのはこれが初めてである。だが、その外交政策は粗雑な孤立主義であるとして、保守派かもらもリベラル派からも厳しく批判される結果となった。

「アメリカファースト」を掲げオバマ外交を批判

 トランプ氏は4月27日、ワシントン市内のホテルで初めて外交政策について演説した。以下がその内容の骨子である。

 まず、トランプ氏は外交政策全体の最重要点として「アメリカファースト」(米国第一)という標語を強調した。アメリカの利害関係を何よりも優先する姿勢である。

 その姿勢は、オバマ大統領の好きな「国際協調」や「多国主義」へのアンチテーゼとも言うことができる。トランプ氏はオバマ外交を「ビジョンがなく、目的も方向もなく、戦略もない」と断じる。そして以下の5点をオバマ外交の弱点として挙げた。

(つづく)


.国際  投稿日:2016/4/30

「サイゴン陥落の日」ベトナム戦争の教訓とは



古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)

「古森義久の内外透視」

4月30日というのは毎年、私にとって特別な日である。長年の記者活動の中でも最も強い印象の残るベトナム戦争終結の日だからだ。1975年(昭和 50年)4月30日、ベトナム共和国という国名だった南ベトナムの首都サイゴンが北ベトナム人民軍の猛攻で陥落した。サイゴンはいまはホーチミン市と呼ば れる。


私は毎日新聞の特派員としてこのサイゴン陥落の日から3年ほど前に南ベトナムに赴任した。当時はまだ米軍部隊が駐留しており、戦火は激しかった。だ がほぼ1年後には米軍は撤退した。その後は南ベトナムと北ベトナムの戦いだった。だが究極の軍事闘争で北ベトナムが大軍を南下させ、南ベトナムの軍も政府 をも粉砕したのだった。


私はその全プロセスを現地で取材し、報道した。その中でも忘れ難いのは北ベトナム軍の大部隊がサイゴンに突入し、南ベトナムの政府機構を消滅させた「サイゴン陥落」の日だったのだ。

私は日本人記者でも南ベトナム駐在は最長となった。いま思えばわずか3年9ヶ月だったが、私の記者歴では最も強烈で最も濃縮された歳月だった。その間に学んだことは多い。


ベトナム戦争に対して日本のニュースメディアや、いわゆる識者の大多数が冒したミスに直面した教訓も貴重だった。頭を叩かれるような教訓だった。私 自身のミスももちろん多々あった。それら日本側での誤認を以下に記しておこう。私自身の「サイゴン陥落41周年」の自戒でもある。

ベトナム戦争は仕掛けた側からすれば民族独立闘争と共産主義革命の両方だったが、日本側では民族独立闘争だけがすべてのように誤認した。

 

闘争の主役は一貫して北ベトナムの共産党政権と人民軍だったが、日本側ではその主役は南ベトナム内部の諸勢力だと誤認した。

 

南ベトナム国民の大多数は留保をつけながらも米軍の介入や南ベトナム政府を支援していたが、日本側ではその大多数が革命勢力を支援していると誤認した。

 

革命側は一貫して南ベトナム政府の完全粉砕を目的とする軍事路線を保持していたが、日本側では両者が交渉を重ねて、譲歩すれば戦争が終わると誤認した。

 

革命側は戦後の国家や社会では共産主義の独裁統治を一貫して目指していたが、日本側では戦争さえ終われば、イデオロギーを超えた民族和解が実現すると誤認した。

以上が私自身で戦火のなかを動き回り、南ベトナムの住民多数と接触し、戦争終結後の新生ベトナムに半年近く住んでみて学んだ教訓だった。2016年のいまもなお貴重な教訓のままである。


殴打に電気ショック、中国はこうして僧侶を拷問した

米国議会の公聴会でチベット僧侶が苛酷な体験を証言

2016.4.27(水) 古森 義久
チベット人歌手「政治的コンサート」で4年の実刑判決、中国

米首都ワシントンのホワイトハウス前で、チベットを支持するデモで掲げられたチベットの旗(資料写真)。(c)AFP/JIM WATSON〔AFPBB News


「私は司法の手続きがないまま中国当局に逮捕され、苛酷な拷問を受けました。『虎のイス』と呼ばれる鉄のイスに手足を縛りつけられ、2カ月近く締めつけられたまま、連日、殴打や電気ショックを受けたのです」


 中国政府から長年弾圧され、現在はスイスに亡命しているチベット仏教の僧侶、ゴログ・ジグメ氏が4月14日、米国議会の公聴会で初めて証言した。


 この証言により、中国政府が国内で少数民族や宗教組織の代表を拘束し、厳しい拷問を行っている現実が改めて明らかにされた。

政治犯や宗教犯に集中的に実施

 「中国の広範な拷問行使」という名のこの公聴会は、米国の立法府と行政府が合同で中国の人権や社会について調べ、米国の対中政策に反映させる「中国に関する議会・政府委員会」が開催した。


 同委員会は、長年中国の人権問題を提起してきたクリス・スミス下院議員(共和党)と今回の大統領選にも立候補したマルコ・ルビオ上院議員(同)が共同議長を務め、行政側からは国務省や大統領府の代表などが加わっている。


 今回の公聴会では、実際に被害にあった関係者や国際人権擁護団体の代表らを証人に招いて、中国当局による拷問の実態や目的などを中心に報告を聞いた。


 冒頭ではルビオ議員が「中国の刑法システムの中で拷問は今も広範に実施されています。その違法性は広く提起されねばなりません」と強調した。中国 の拷問については、米国政府の国務省なども厳しい監視の目を向け、国際的な人権擁護規範に違反するとして証拠を集めてきた。国務省は公聴会の前日の4月 13日に「2015年人権報告」を発表し、その中で中国の拷問について以下のように指摘していた。

(つづく)

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