2016年07月

北朝鮮市民の模範的生活、“演出”だったと暴かれる

波紋を呼ぶ映画「太陽の下」、妨害工作はMoMAに対しても

2016.7.20(水) 古森 義久


映画「太陽の下」のワンシーン。「Under The Sun Official Trailer (2015)」(YouTube)より

ロシアの著名な映画監督が、北朝鮮の対外宣伝工作の実態を暴いたドキュメンタリー映画を作り、米国のニューヨーク近代美術館(MoMA)主催の国際映画コンクールに出品した。だが、主催者側の一方的な自粛により参加を拒まれていたことが判明した。

 この映画は、北朝鮮の8歳の少女とその家族の北朝鮮政権への忠誠ぶりを描きながら、同時にその言動がすべて北朝鮮当局による強制である実態を暴いている。


 映画は米国、韓国、日本の一部で公開され、北朝鮮国内での外国メディアの取材活動がいかに政治操作されているかという実情をさらけ出すこととなった。

カメラが暴く「演出」の実態

 ロシアの著名な監督ヴィタリー・マンスキー氏が作った「太陽の下」(Under the Sun)は、約100分のドキュメンタリー映画である。撮影はすべて北朝鮮内部で行われ、“模範的市民”とされるリーさん一家の生活が映し出されていく。 特にカメラが追いかけるのは、一人娘の8歳のジンミさんの言動だ。


 ジンミさんの父は繊維の模範工場の技師、母は豆乳製造の模範工場の労働者で、一家は平壌市内の高級マンションに暮らしている。

(つづく)



.国際  投稿日:2016/7/15

日本から米軍が引き揚げる日



古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)

「古森義久の内外透視」


アメリカ大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏が日米同盟に批判的な主張をぶつけたことが日米両国に衝撃波を広げた。日米同盟の片務性や日本の 防衛負担の不足を非難し、在日米軍の撤退や日本の核武装にまで言及したトランプ氏の激しい言葉は戦後70年も機能してきた日米同盟の根底を揺さぶり、年来 のタブーの領域へと踏み込んだからだ。


トランプ発言は表面的には晴天の霹靂と呼べる唐突な現象のようにみえる。バラク・オバマ大統領と安倍晋三首相との下での両政権間のいまの日米同盟は 近年でも稀なほど堅固に映るからだ。だが過去をさかのぼり、水面下を探ると、トランプ発言はアメリカ国政の場の内外で一貫して流れてきた底流の反映である ことがわかる。

トランプ発言は必ずしも日米同盟破棄論ではない。同盟の欠陥や不公正の指摘であり、その是正がない場合、同盟自体の破棄もありうる、という指摘である。その意味では日米同盟批判だといえる。


アメリカ側での日米同盟批判は決して新しくも珍しくもない。その内容には大別して3種類がある。

第1は最も過激な日米同盟破棄論である。超少数意見ではあるが、アメリカの孤立主義の伝統の反映でもある。


端的な実例ではソ連崩壊直後の1992年の大統領選で現職ブッシュ大統領に挑戦した保守派論客のパット・ブキャナン氏が「アメリカは自国市場を略奪 する日本の防衛を負担する必要はない」と主張した。東西冷戦に勝利したアメリカは「もう本国に帰れ」(カムホーム、アメリカ)というスローガンだった。


1995年10月にはワシントンの大手研究機関の「ケイトー研究所」が「東アジアの有事に日米同盟は機能しないから事前に解消したほうがよい」とい う主張の報告書を公表した。南沙諸島、台湾、朝鮮半島での戦争のいずれでも日本は米軍の戦闘を支援しないから日米同盟の意味はない、という主張だった。


2013年3月にはサンディエゴ州立大学のエリザベス・ホフマン教授がニューヨーク・タイムズへの寄稿論文で在日米軍撤退を訴えた。ソ連の脅威に備 えた在日米軍はもう任務を終え、日本には自国を防衛する能力があるのだとする日米同盟解消論だった。この種の破棄論は国際情勢の変化やアメリカ自体の安全 保障と経済能力の変遷、日本の防衛力の強固さなどを根拠としていた。


第2は日米間の不平等、不公正を衝く同盟批判である。この批判は超党派で広範にわたり、水面下で流れてきた。


東西冷戦中の1980年代、日米貿易摩擦が激しい時期、米側で日本の防衛面での態度を「ただ乗り」とする批判は一貫して存在した。91年1月の第一 次湾岸戦争ではアメリカ主導の約30カ国が多国籍軍を組織してクウェートからイラク軍を撃退した。だが日本はなんの防衛行動もとれず、資金だけを供して 「小切手外交」の汚名を受けた。


1997年8月にはアメリカ最大手の外交研究機関「外交問題評議会」が日米同盟には「危険な崩壊要因」がひそむとして、日本側の集団的自衛権禁止を 指摘し、その解禁により、「同盟をより対等で正常な方向へ」と促す勧告を発表した。日本は有事になんの軍事行動もとれないという批判だった。


2001年1月に登場したブッシュ政権も日米同盟の強化には「双務性が必要」(ハワード・ベーカー駐日大使)だと強調した。日本の憲法に由来する集団的自衛権の行使禁止は同盟をあまりに片務的かつ不公正にするというのだ。


2001年9月のアメリカ中枢への同時テロでは北大西洋条約機構(NATO)加盟諸国やオーストラリアが集団防衛権を宣言し、国際テロ組織との戦いで対米共同行動をとった。だが日本はここでも集団自衛に背を向け、国際テロとの闘争にも協力しないと非難された。


2006年10月、ワシントンの主要研究機関「AEI」が北朝鮮のミサイルに対する日米同盟の機能は日本の集団的自衛権の禁止により大きく妨げられているとする報告書を発表した。


要するにトランプ氏が述べた「アメリカは日本を守るが、日本はアメリカを守らない」と総括する日米同盟不公正論はすでに底流として存在してきたのだ。


日本の集団的自衛権は昨年9月の平和安保法制法の公布によりその行使が一部、容認された。だがまだまだ普通の国家並みの行使は認められていないのだ。


第3は日米同盟の縮小あるいは弱体化である。アメリカ側の事情だけで在日米軍が減り、日本への防衛誓約が弱くなる傾向だといえる。


オバマ政権は財政赤字への対処として2011年8月に予算管理法を成立させ、赤字が一定以上に増せば、まず国防費をその後10年間に最大7500億ドル削減するという方針を打ち出した。米軍部隊も大幅に縮小する方針だ。在日米軍を支える基盤がまず小さくなっているのだ。


そのうえにアメリカ政府は在日米軍の再編について2006年に日本側と合意した「ロードマップ」で沖縄駐在海兵隊の9000人を日本国外に移転させることなどを決めた。縮小への動きである。


さらにオバマ政権は有事の日本防衛の責務を確実に果たすことにも疑いを感じさせる。尖閣諸島の防衛でも「尖閣は日米安保条約の適用対象になる」とは 述べるが、決して「尖閣は有事には米軍が守る」とは言明しない。なにしろエジプト、イスラエル、サウジアラビアなど年来の同盟や緊密なきずなを保ってきた 諸国の政権に冷たくし、不信を高めた軌跡があるのだ。アメリカ自身の利害からの同盟縮小ということだろう。


以上、眺めてくると、トランプ氏の日米同盟についての発言もこれら3種類の流れを混合させていることがわかる。当初の印象とは異なり、短絡でも無知でもない発言だといえよう。


さて日本はどう対応すべきなのか。この問題の複雑さはいまの日米同盟が表面的にはきわめて堅固にみえる点にもある。オバマ、安倍両政権下での日米安保協力は中国や北朝鮮の脅威の増大もあって緊密となっている。

しかしアメリカ側には年来、対日同盟に対して本質的あるいは構造的とも呼べる不満が潜在するのである。その不満がトランプ政権下で現実の政策となることも可能だといえる。


そうした不透明な展望に対して日本はやはり独自の防衛努力の強化しか選択の道はないだろう。自国は自国で防衛するという普遍の哲理の実践とでもいえようか。トランプ氏は期せずして日本にそんな原点への思考の機会を与えたようである。

(この記事は月刊「SAPIO」2016年8月号からの転載です。)


 投稿日:2016/7/13

朝日新聞参院選報道の支離滅裂



古森義久(ジャーナリスト・国際教養大学 客員教授)

                                                      
                                                                   「古森義久の内外透視」



参議院選挙が終わった。結果は周知のとおり与党の自民党の圧勝である。安倍晋三首相の勝利だともいえよう。憲法改正を支持する勢力が参院全議席の3分の2を超えたことも特徴だった。


この結果を報道する朝日新聞の紙面がおもしろい。自民党に反対し、安倍晋三氏を敵視し、憲法改正に反対してきた朝日新聞にとっては最も嫌な結果が出 たということである。「不都合な真実」に直面したともいえよう。


朝日新聞は自分たちが決して許さないとしてきた事態が現実となって、その報道姿勢には困惑 があふれている。支離滅裂ともいえるズレやゆがみもうかがわれる。


選挙結果を正面から報じるニュース報道の部分では「改憲勢力3分の2」(7月11日夕刊)とか「改憲の動き現実味」(7月11日朝刊)という客観的な見出しの記事を載せている。事実の基本を曲げるわけにはいかないだろう。


ところがその一方で、「投票者たちは実は憲法改正を認めてはいない」という主観的な趣旨のゆがんだ見解を紙面に乱発している。その典型は7月11日 夕刊社会面の「『3分の2』知って投票?」という見出しの記事だった。その記事では東京都内の有権者たちの言葉として以下が紹介されていた。


「わからない。憲法なんて読んだことないしねぇ」


「3分の2って、何でしょうね。うーんって感じ。テレビとか見ないんで」


「改憲を最終的に決めるのは国民投票だとは知りませんでした」


以上の3人による3つのコメントはいずれも、今回の参議院選挙の投票にあたっては憲法問題は一切、知らなかったとか、考えなかったという趣旨であ る。だから今回の選挙の結果は国民多数の改憲への意思表明ではない、というのである。朝日新聞全体の主張に合うコメントであり、その解釈である。


だが私が同じ取材にあたる記者だったら、「今回の参議院選挙では憲法改正を支持する候補や政党を意識して選び、投票しました」という感想を述べる有 権者たちを多数、容易に探し出して、そのコメントを報じることができる。朝日新聞のこの記事は明らかに「一般の人は憲法問題を考えないで投票した」という 無根拠の前提に合わせる印象操作の色が濃いのだ。


その種の朝日新聞側の意図がもっと露骨で、ゆがみがもっと顕著なのは7月11日朝刊2面の記事だった。主見出しは「憲法『変える必要ある』49%」 となっていた。


その記事のなかに記者側の解釈として「有権者が投票先を決める際に憲法を重視していなかった」という記述があった。大胆な断定である。だが 論拠が薄弱をきわめる。


同じ記事のなかに朝日新聞自身による出口調査で「今の憲法を変える必要があるかどうかを尋ねたところ、『変える必要がある』は49%」という結果が 出た、という記述があった。同じ出口調査で「変える必要はない」が44%だったとも書かれていた。


つまりこの出口調査で有権者の93%もが憲法の改正に対 して明確な答えを出していたのである。それでもなお改憲の是非は投票先を決める際には重要ではなかった、と推測は述べることができるが、断定はできない。


要するに朝日新聞は今回の参議院選で憲法問題を考えず、知識もなく、票を投じた人が多いのだと強調する一方、票を投じた人の9割以上が憲法問題で自 分の意見を明確に述べているという調査結果を報道しているのである。だからチグハグ、支離滅裂の批判は逃れられないといえよう。


中国が沖縄で展開する日米同盟分断工作

米国議会の政策諮問機関が警告

2016.7.13(水) 古森 義久


「沖縄をレイプするな」名護市のキャンプ・シュワブ前でデモ

沖縄県名護市辺野古にある米海兵隊のキャンプ・シュワブの門前で、米軍基地の存在に対する抗議デモを行う人々(資料写真、2016年6月17日撮影)。(c)AFP/TORU YAMANAKA〔AFPBB News



 中国はアジアでの長期戦略として日米同盟の弱体化を目論み、その一環として沖縄での対米諜報活動や米軍基地反対運動をひそかに推進している――。


 米国議会の中国に関する政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」は、このほどこんな警告を発した。中国はこの目的のために日本と韓国との対立もあおっているという。


 米中経済安保調査委員会は、米中経済関係が米国の安全保障にどんな影響を与えているかを継続的に調査し、米国の政府や議会に対中政策の形成に関し て勧告を行っている。同委員会は、このほど作成した「アジア太平洋での米軍の前方展開を抑える中国の試み」と題する報告書の中で、以上のような中国の戦略 的な動きを指摘し、米国や日本の政府に警戒を促した。


 同報告書によると、中国は、アジアにおける米国の戦略的地位、行動や作戦の自由度を抑え込むため、米国と、日本など同盟国とを離反させ、さらにア ジア太平洋地域での米国主導の安全保障態勢を弱めさせ、軍事衝突が起きた際の米軍の能力を阻害することを目指している、という。

沖縄で日米を離反させる工作活動?

 米中経済安保調査委員会は報告書の中で以下のように指摘する。


・中国人民解放軍幹部が軍科学院の刊行物などに論文を発表し、中国がアジア、西太平洋で「歴史上の正当な傑出した立場」を取り戻すためには、有事の際に米国がアジアの同盟諸国と共に中国の軍事能力を抑えこむ態勢を崩す必要がある、と主張している。

(つづく)



「中国軍はヘリで尖閣を急襲する」と米研究機関

東シナ海制覇を目論む中国の野望

2016.7.6(水) 古森 義久
中国海軍のヘリコプター「Z-8」(資料写真、出所:Wikimedia Commons)



 中国軍が尖閣諸島など日本の領海や領空への侵犯を重ねる中、中国の軍事動向を調査する米国の研究機関が「中国軍部はヘリコプター急襲や洋上基地の利用によって尖閣諸島を奪取する戦略を着実に進めている」とする分析を明らかにした。


 同研究機関は、中国は長期的には東シナ海での覇権を確立するとともに、沖縄を含む琉球諸島全体の制覇を目論んでいると明言している。

尖閣制覇の目的は?

 ワシントンで中国の軍事動向を研究する民間機関「国際評価戦略研究センター」の主任研究員リチャード・フィッシャー氏は、中国人民解放軍の東シナ海戦略についての調査結果を報告書にまとめ、このほど公表した。


 同報告書は、まず中国が南シナ海で人工島建設による軍事化を推進し、同時に東シナ海でも、2013年11月の防空識別圏(ADIZ)の一方的な設 置宣言に象徴されるように、軍事能力を高めていることを指摘する。特に、尖閣を含む琉球諸島の南部を重点的な対象とした(1)レーダー網や電子諜報システ ムの近代化、(2)J-10やJ-11など第4世代戦闘機の配備、(3)新型の早期警戒管制機(AWACS)や電子諜報(ELINT)の配備や強化、 (4)以上のような戦力の演習の頻度増加――などが最近、顕著にみられるという。

(つづく)

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